091 二度目の道行き
ステータスの数値管理を一話ごとにすることをやめました。
馬車に揺られて旅をする。
海岸へ向かい南下して、嵐に追われて北上し、
もう一度南下したら流されて、
一周したと思ったらまた同じ道を南下してるんだもんなー
今まで俺は2種類の馬車に乗ったことがある。
一つはサーター山に行くまでの最安馬車だ。あの時との違いは
より静かであること。それと、一人じゃない事。
そしてもう一つ、ビルトの馬車との違いは、二人だけの事。
ただ、一人じゃない、とはいってもこんな考え事が出来るぐらいには互いに話してないんだけど。
でもそこも良いところかもしれない、無理に話題を振られるよりはあまり話さなくてもいい方が自分の性格的に快適だ。
景色については省略するとして…
「うわぁ森が黒い!緩衝地帯の森とは違った感じだ!」
何でこうも息が合わないのだろうか?
「確かに緩衝地帯の方は幹の数というより空を覆う葉の密度が濃かった」
「うん、けどこっちは木自体が黒いというか、植物の数が多いよね」
「そうそう、それに下草の方は緩衝地帯の方が茂ってそう、こっちは遠くから見てるだけだしよく分からないけどね」
「景色見てるだけだと退屈だけどこういう風に話しながら見るのは楽しいね」
「そう思っているのなら嬉しい」
でも、ふと思う。果たしてこれでよかったのだろうか?
ビルトのメンバーに追い立てられるようにして出発してしまったし、
何より、ナナの出立の真意を聞かないままに成り行きで着いてきてしまっている。それを聞きたいという気持ちはあるが、かといって簡単に聞けるかというと…聞きづらい。
「そういえば、どうしてついてきたの?」
「それ以前にどうして立ち去ろうとしたのかを聞きたいけど」
「なじめなさそうだなって思ったんだよ」
まあ言われてみれば確かになじめなさそうではあった。
「確かにナナがビルトに交じって旅してるのは想像できない」
「そう、だから何も言わず暗いうちに立ち去ろうと思ったんだけど、食卓に置いてあった小さな椅子に躓いちゃって」
「見えなかったんだ?」
「うん」
「それで気付かれた?」
「そういう事、それで全員集まって来ちゃってあの盛大なお見送りにつながる」
「あれ多分足止めだよ」
「どうして?」
これはどちらの意味だろうか?どうしてそう捉えたのかという意味か、それともどうしてそんなことをしたのかという意味か。
「なんとなくそう感じただけだよ、どうしてそんなことをしたのかは分からないけど」
「なんだ、じゃあ考えるだけ無駄って事?」
「そうなる」
「じゃあなんでついてきたの?」
最初の話題に戻った。
「流れに身を任せてたら何となくって感じだけど」
「今からでも遅くないよ、戻らなくていいの?」
「いやもう遅いよ、それに後悔はしてない」
「そうなの?」
少し驚いている風だ。
「そうだよ、じゃなかったら着いていかないよ」
「それもそうだね」
「じゃあさ、次はナナの過去を聞かせてよ」
「フェリックスと出会うまでの事?」
「そうそう」
「最初は家族と暮らしていたよ」
「平和だね、…それが普通か」
「平和かどうかは分からないけど家族は優しかったよ」
分からない、とか家族はとか雲行きが怪しい。
「えー、つまり?」
「その後紆余曲折合って兄弟姉妹に逃がしてもらって」
「なんで!?」
「そこが紆余曲折なんだってば」
複雑な家庭環境だったんだな…
「でも、その後いい友人に出会えたよ」
「良かったじゃん」
「うん、とても楽しかったよ」
でも確かに考えてみれば今一人だもんな
「でも今は一人じゃん、どうして?」
「巨大な鳥に連れていかれた」
「え?」
「でも多分あの子がし…そもそも死ぬのかな?多分どこかで振り払って落ちたりしてるんじゃないかな」
「巨大な鳥、落ちる、う…頭が」
「何があったの?」
「頭が三つある鳥と山で戦ってたんだよ」
「その途中で落ちたことがあると」
「うん、それも二段階」
「大変だったね」
「そっちは別にいいんだよ、それよりナナの話が気になる」
「その後巨大な鳥が飛んで行った方向に向かってひたすら歩いていったら川に落ちて」
「なんで?」
「だって蔦で移動してたら唐突に木がなくなったんだもん」
「どんだけ大きな川なんだ」
「ジェリュールを東と西に分ける巨大な川だから、流石に届かなかった」
「それなら仕方ないけどこれからは気を付けてね」
「もちろん、もう大丈夫だよ」
「ところで話を聞く限りその友達を探した方がよさそうだけど、ナナは今何をしてるの?」
「…えー、適当に旅してます」
「それでいいのかナナクヨウ」
「あの時は方角も分からなかったし、探して見つかる物じゃないと思うんだ」
「少なくとも北に向かって旅すれば見つかるかもしれないよ」
「じゃあこの旅の次は北へ向かいたい」
「そうしよう。でも次でいいの?」
「いいよ、多分あっちも移動してるだろうし」
話しているうちに馬車が止まった。朝に出発したはずだけどもう夜か。
実際窓の外は夜だったがどうやら思っていたのとは違う様だ、なぜなら都市ではない。馬車を雇って進む場合は途中でどこかの都市によって行くというから野営になることはほとんどないらしい。
どうしたのか分からなかったので降りてみると
「どうしたんだろうね」
ナナも降りてきた。
「左!」
「『発光石』」
ナナの声に反応して咄嗟に盾を作る。
案の定諸磯の盾は一撃で壊されたが、残骸の放った最後の光のおかげで敵は見えた。
「人」
「だね」
全身が黒い装備で固められた人間だった。顔の下半分を覆面の様なもので覆っていることからも恐らく盗人の類だろうとは思う。
「よく分かったね」
「忘れてた?私の『動物識別』」
「詳細を知りたい」
「動いているものが分かる。光の有無に関係なく」
「強くね?」
「それで見たところ二人は確認できたよ」
「でも逆に言えば二人以上いそうって事だよね」
「そうだよ」
ドダン
「ひいえええぇえ――――」
御者の人の悲鳴!
見れば今まさに御者席で御者が襲われている所だった。
「『結t」
「うわぁぁあああ」
「!?」
盗人の方に攻撃しようと結剣を発動しようとしたところ
火事場の馬鹿力というのだろうか、ものすごい力で凶器を持った盗人を押しのけてそれどころか御者席から突き落としてわき目も振らず逃げて行ってしまった。というかあっちは多分最寄りの町の方向じゃない。
突き落とされた盗人の方は茫然としている。起きたことに理解が追い付かないのだろう。そしてナナはちゃんとそのすきを見逃さなかった。
いつもの手段で縛り上げる。
そして縛り上げようとするナナに対して奇襲をしようとした敵を『結剣』
で牽制し、1対1の状況を作る。持久戦なら自信がある。ナナの『動物識別』を用いて敵の全体を暴くまで俺が耐久すればいい。
「来い」
「ふん」
消えた。
咄嗟に後ろに盾を張る。
その読みは外れ、左からの攻撃によってバランスを崩す。
また左?
「後ろ!」
もう一人の方か!でも後ろなら
パキン
発光石が砕ける音がする。嫌な予感がして短剣を振る。
後ろから来たもう一人の二撃目と振った短剣がぶつかる。
「頼んだ!」
ナナの髪が敵の背後へのびる。
いける!
シャッ
横から割り込んだ影がその髪を切り裂く。
双剣使いが一気に後退し、再び闇に紛れる。
発光石をばら撒けば闇を照らせるか?いや、しかし発光石の綱領はそこまで強くない。具体的に数値で分かってるわけじゃないけど。
それよりはナナの動物識別を頼ろう。
ナナと合流する。
「さっきの二人は?」
「分からない、動いてないのかそれとも気配を消すようなスキルなのか」
「気配を消すスキルで誤魔化されるの?」
「分からない、経験がない」
「ならいいや、とにかく防御に関しては任せて。あと少しでも動きを止められれば自分が毒を当てるから」
「分かった」
背中を合わせて待ち受ける。
後ろのナナがきょろきょろしてるのが分かる。
「来た」
少しの間の後にナナが呟く。
「どっちか分かる?」
「最初に来た方」
なら、読める。
音が一切しない、けれどナナが手で合図をくれた。
「『発光石』」
最初の方なら剣は一つ!
発光石の盾は瞬時に砕かれ短剣がそこから飛び出す。敵の短剣を受け止めることに成功した。
ナナの髪の毛が伸びて敵の足をからめとる
体勢を崩した瞬間を狙って、
「『魔力剣』」
麻痺毒を込めた剣で斬りつける。
敵の動きは次第に鈍くなり、そこをナナが縛る。
相方が捕まり焦ったのか茂みから音が出る。暗い夜に音はよく響く。
もう片方は一瞬だった。
慌てて冷静さを欠いた相手を押し切り捕縛する。
「馬車、いなくなったね」
「仕方ないよ」
「ひとまず野営しようか?」
「そうしたい、疲れたー」
ナナはそう言って寝転ぶ
ガサッ
振り向いた俺の頭上を影が通り過ぎる。その影は転がっていた三人を拾い上げて物凄い速度で去っていった。
「馬車にも盗人にも逃げられた」
「…」
二人して沈黙する。
ひとまず俺は野営の準備を落ち込んだ気分で進める。
まあゆっくり行こうか。




