幕間-1 創世神話 其の一
短めです。
世界には何もなかった。
世界には卵があった。
世界を作り、無と有の狭間にある、神聖なる卵だった。
全てはその卵だけから始まった。
一秒すら経たず、空間すらもないその「0」の地点が世界の全てであり、体積を持たない卵だった頃、もし、その卵を観測で来ていたものがいるならば、きっと長い時間が経過したように感じただろう。しかし、始まる前の世界には時間が流れない。
やがて長い長い0秒が経過して卵が割れた。
割れると中から二つが出てきた、殻は無を漂った。
二つ生まれたそれらは世界で一番基本になる物を創った。
それが、時間と空間だった。
一つ、時間を創った【時】
二つ、空間を創った【空】
その二人の誕生がその二つの概念を生んだ。
空の意識は万里に満ちて、無の世界の遥か彼方までが果てしない速度で空間に置き換わっていった。
時の目と耳はフィルムを見ているかのように緩慢な時間をはるかに凌駕する速度で観測していった。
かくて空間と時間は読み込まれた。
この時から空間座標は揺るがず、未来は定められた物語になった。
しかし、世界には星が足りなかった。光が足りなかった。暗闇が足りなかった。命の息吹が足りなかった。
時と空は世界を創るには自分たちは足りないと考えた。
故に彼らは神を創った。
先ず、命を大地を昼と夜とあらゆるものを守護し、癒し、正しく導く偉大なる神を、けれど、それは時と空に反旗を翻した、生まれながらに、無いものを癒し導くという矛盾した役目を負う彼は、次に生まれる世界を悪とし、何もない世界を自分の守る物だと規定した。故に、その神は新しく生まれる星を、命を、果ては時と空を滅ぼそうとした。
それを邪神として封じた時と空は、別の神を創ることを試みた。
一柱、光を創り、世に時の流れに移ろう輝きを示した偉大なる神、光神
二柱、闇を創り、世に空間の先に漂う暗がりを示した偉大なる神、闇神
邪神の半分の力を持った二柱の神が生まれた。彼の二柱と差別化するため、時と空は最高神となった。
三柱、陸を創り、母たる大地を定めた偉大なる神、地神
四柱、海を創り、恵みと命の源流を生んだ偉大なる神、水神
五柱、空を創り、青き広がりをもたらした偉大なる神、風神
六柱、核を創り、大地の底に力を宿した偉大なる神、火神
其の四柱は一つの星の神が、分けられて成立した神である、
そして、世界に在る存在間に優劣が生じた。故にそれらには異なる呼称が与えられた。【時】と【空】から分け隔たれた神々を精霊神、【時】と【空】を最高神と呼ぶようになった。
六柱の精霊神の創りし星を主星とし、その周りにそれぞれの力を宿す六つの「月」を作り出して、主星の周りを回らせた。
これが星と天の創世である。
時と空が最高神となった時、同じく同格の存在として、最高神の権限を持った神がいた。
それが無をただよう殻である。
その殻は本来時と空の上位に位置するはずだった卵の残滓、外側だけの中身が欠けた殻は、劣化最高神になった。
この殻はすべてを内包していたが、もう何もなかった、故にそれは虚
という名で最高神となった。
ここに三柱目の最高神【虚】が誕生し、最高神と精霊神と世界の基礎、そして世界を、正確には主星を滅ぼさんとする邪霊神とが揃った。
そして最初に作られた大地は平らな陸地とそれを覆う平たい海だった。
そこに6柱の精霊神は降り立ち、さらに自分たちよりも下位の神々を作ろうとした。
それを邪魔したのは邪神だった。
封じられ、空間の中を流されていた邪神は創世時に一時的に最高神の力が弱まったことを好機に拘束を抜け出し、精霊神との戦いを始めた。
この時すでに最高神は空間を広げ置き換え、時間を流し観測するためだけの装置の様な在り方になっていたため最高神を除いた6柱の精霊神が邪神と戦った。この時【虚】にはまだ意識が存在しなかった。
それが意識を手に入れるのは、それが自身を最高神が劣化したものと規定し、精霊神と同格まで器を弱化させるときである。
しかしそれは当分先の事だ。
精霊神と邪神との原始の大地の上での戦い。
この影響は後世(正確に記載するのであれば新暦2000年前後)にはほとんど残っていない。というのも、この時の大地は未だ小さく、その後拡大していった大地にほぼ埋もれるような形になってしまっているのだ。
しかし、この戦いの規模はその後起きるあらゆる戦争、災害を凌駕する。
何故ならばそこには六霊神のすべてに加え、邪神までもが参戦している。
結果から言えば邪神は敗北した。いくら単体としての能力があらゆる精霊神を凌駕していようが、相手が六体ではどうしようもない。六霊神は、邪神がこの先世界を荒らすことが無いように何重にも封印することにした。
一重、火霊神による純粋な内へと向かう力による束縛。
二重、地霊神による、巨大な層、即ち地表による物理的な拘束。
三重、水霊神の海による力の吸収。
四重、風霊神の大気による力の拡散。
五・六重、周期的に繰り返す昼夜による攻撃
これら神の力を帯びたものは邪霊神の弱点である。そのために今まで邪霊神は目覚めることなく封印され続けている。
世代は一つ下る。
精霊神は天上のその上へ留まり、地上とのかかわりを絶った。
世界を託されたのは創世神に連なる神々。
最初の神は二柱、男神と女神である。
生物の上、紙には一つ段階が上がるごとに生物にはある物がなくなる。創世神からは寿命がなく、精霊神からは性別がなく、最高神には自我が無い。閑話休題
創世神とはいっても彼等には”権能”がない。いわば繁殖することが権能なのだ。創世神に連なる神々はすべて彼等が生んだ。例えば人の神、例えば猫の神、犬の神、鉄の神、剣の神、槍の神等々、初めは大きな権能を以て紙が、次第に権能は細かく細分化されて行き、あらゆるものの神が揃った。そしてさいごに生まれた神が、井戸の神である。この神の権能はそのままである。それを最後に、神が生まれる時代は終わった。
それと同時に邪霊神も己の力を地上にも伝播させるすべを模索していた。
その果てにたどり着いたのは精霊神と同じ手段だった。即ち、邪霊神の格落ちしたもの、邪神と呼ばれる神を使う物だった。邪神の力は世界から拒絶されている。逆に言えば世界の理に反する事象すらも発生させることが出来る。この力は創世神陣営からしても厄介だ。なので当然創世神は邪神を排除しようとする。その二陣営はたびたび地上を舞台に戦争をした。
そのほとんどが小競り合い程度で終わったがその中で一度、巨大な戦いが巻き起こった。それがのちに第二大戦と呼ばれる戦争だ。
とはいってもそれは一度の戦いではなく、邪神による本格的な侵攻が開始してから両神々が完全に撤退する最後の戦いまでの一連の戦いを第二大戦と総称する。
第二大戦終了と共に、両神々による敵陣営の侵入を妨害する結界が張られた。そうして真に地上には生物の時代が到来した。
人は文明を築き、獣は森の中で縄張りを広げ、魔物は生物を攻撃する。
以来、神による地上への干渉は主に神器を介して行われるようになった。
それから何百年何千年もの時間が流れ、紙が闊歩する時代は伝承の中蚤の物となり、当時の英傑の一族の多くは途絶え、もしくは市井の中に溶け込んでいき、数少ない残った血筋も、伝承できたのは技のみ。
そして極極一部の血筋はあらゆる手段を用いてその力を現代へと残そうとした。たとえそれが禁忌と呼ばれる類の物であり、継承者に深刻な汚染をもたらすものであったとしても。
以上が世界の成り立ちと神代の終わりだ。
次回から本編再開です。




