086 洞窟に潜る-2 ~手~
フェリックスは不意打ちに倒れた。
彼の意思を組むのなら彼を守りながら戦わなければならない。
もしくは彼をかばいながら逃げるか。
…今なら気絶してるし、腕で抱えても大丈夫かな?
大丈夫でしょう。よし、そうしよう。
手が使えないのは不便だと感じていたところだし、いくら頭皮の痛覚が薄くなったうえに慣れたといってもやっぱり髪で引っ張るのは痛いし。
「気絶してるよね」
一応呼び掛けて答えがないことを確認して両手で救い上げるように持ち上げる。
それと同時に背後に髪の毛で障害物を作り、横に逸れる。
直後まじめな法の兵士の攻撃が元々私のいた場所に直撃する。
当然、分かっている。
だから対応は出来る。
時間稼ぎも兼ねて攻撃に転ずる。すべての髪を持ち上げる。
そして拘束と打撃の両方の両方を混ぜて髪の攻撃を繰り出す。
「ほら」
「背後からの攻撃も気づくか」
「情報共有出来てなさすぎじゃない?」
「…」
「関所を抜けたときに背後からの攻撃には対処した気がするけど」
「どういう仕組みだ?」
「仕組みも何もスキルだよ?」
「話を逸らすか」
話だけでなく体も逸らす。直後に今度は背後から気配を消して攻撃を仕掛けてきたまじめじゃない方の兵士の攻撃が外れる。
「気配も消してた。そもそも対応できる速度じゃないはずだ」
「速度で当てに来たところ悪いけど、私に当てるならもっと遅くないと」
少し強がって余裕の笑みを浮かべる。
そして今ので出口に私が一番近くなった。走って抜け出、狭い場所から少し広い洞窟に出る。
その間にも追撃に会う。逃げながら回避するのは難しい。私の反応速度が意外と早い事と背後を探知することが出来るという2点から攻撃するなら今だと思ったのかもしれない。
事実私は何度も攻撃を受けたから間違ってはいないんだと思う。
そのせいで動きが鈍って連鎖的に攻撃を受けてしまった。だめだなあこれ以上は持ちこたえられそうにない。無理して外に出てくるべきじゃなかったのかな?
とん
走っていて気が付かなかった。動いていて気付かなかった。戦闘に集中しすぎていた。
いつの間にかフェリックスは目が覚めていて、今まさに私の手から降りて地に立った。
さっきは足をなるべく使わずに『結剣』で動いていたが、今はすでに再生も終わり、両足で地に立った。
色々と聞きたいことはあったが、最初に口から出てきたのは
「手…分かった?」
「…いや、分からない。形が変だったのと硬いなとは思ったけど何なのかは分からない」
「なら…ギリギリ許す」
「良かった」
「あと、もう戦えなさそうだから残りはお願い」
「いいよ」
「分かった。守っていてくれてありがとう。この先は任せて」
「どういたしまして、お休み」
「はいはい」
抱えて逃げるのも至難の業だし、相手を落とそう。
俺が一度負けた相手だけど止めることくらいならできるだろう。
ほら、人間守る物があると強くなるってよく言うし。
実感したことないけど。
ナナは俺の事を考えていたのか分からないけど壁際で寝てくれた。
だから俺はナナを守るのが簡単だし、死角もない。
壁から来られたらお手上げだけどそれは俺の特権。のはずだ。
そうだ。相手は恐らく近接攻撃しかできないだろうし、前から考えていたけど今までやってなかった奴をやってみるか。
自前命名
「『毒沼』」
自分とナナの周りに毒を撒く。水溜りくらいの深さになるように、堀のような形になるように。
流石に毒の上を走ることは出来ないだろう。
…そういえば相手って毒耐性の装備持ってたっけ?
いやいや、でもまあ防具の耐久が減ったりと防具側の被害があるだろうから毒を与え続ければきっと耐性も途切れるだろう。
それだ!
考えを整理すると弱点の様な物が思いつくものなんだな。
当たり前の事の様な気もするけど。
「かかってこい」
というか来て欲しい。
でもこんな露骨なトラップを踏むことはないだろうな。
そうだ、ジャンプで飛び越えられないように毒霧も散らしておこう。そして再生した左手でナナの口元を覆い、欠けた右手で背後を腐食し、
道を作る。今度こそは、成功させて見せる。
それと念には念を入れて背後の道に毒をひきながら進もう。魔力消費が絶大だが、途中からは掘るだけにすれば外に出るまでには足りるだろう。
逃走は成功しかけている。もう少しでもう一度洞窟に出る。そこまで行けば多分先に…
何でまだいるんだろ?
「今度こそ終わりだ。観念しろ」
「やだね」
地面を腐食する。地面を崩してその欠片を投擲しようと思っている。
そう考えていたけれど、そもそも地面が崩れてしまっては元も子もない。
このことを言うという事はつまり、それが起きたという事だ。
地面の大崩落。
洞窟の床を腐食したせいで地面が崩れ、そこを起点に洞窟の床が盛大に崩れたのだ。この洞窟の床ってそんなに薄かったのか。
違う。そんなこと考えている場合ではなかった。
割れた先に現れた空洞はとても深く、広く、大地の中の裂けめと呼ぶのが正しいだろうか?
つまるところ着地を考えなければいけないのだ。
まあ、いつもの事だよね。例の落下。
でも今回はいつものようにはいかない。なぜならナナがいる。
ナナは一向に目を覚ます様子はない。一応今は左手と書けた右手で下から支えるように抱えている。だからもしかしたら俺が下敷きになるだけで解決するのかもしれない。俺の方のダメージが大きいが、それでもやるしかないか。
「ナナにも衝撃が行っちゃうかもしれないけど、ごめんね」
どすん
今までになく痛い着地だ。
なんせ背中から行った。腕がふさがってるからろくに受け身も取れない。
自己流というか我流の受け身だったけど、それでもやっぱりとても効果が大きかったんだなと実感する瞬間だ。
「この程度の…落下で…終わると…思うなよ!」
「違います違います!これ作戦じゃないんですよ」
「…」
だめだ、警戒してる。という過去の反応からしてもしかするとこの人、
俺の事をある程度の実力者として認めている?買い被りと言ってもいいほど警戒してるような気がする。
本当にまじめな人だ。
ガラガラガラ
岩が崩れる音。まだ崩れる物があったことに驚きだ。
現れたのは
…もしかして、また竜?
4足歩行で足が横から出てるのでどちらかというと蜥蜴に近いかもしれないけど、あのサイズで、あの顔をしていたら多分竜に分類されると思うので、あれは竜だろう。
そしてここが肝心なのだが、この竜は俺達に対して敵意を向けている。
縄張りに侵入したからかな?
どうすればいいんだろうか?
捜索は難航。少なくとも川沿いはすべて探したけど彼は見つからず、見つけるためにはさらに範囲を広げなければならない。しかしかといって調査の当てがあるわけでもない。情報収集も手分けしてかなりの効率で行っている。しかしそれでも見つからない。
どこまで遠くに行ったのだろうか?見つけることは出来るのだろうか。
不安は積もっていっても、時は流れて消えていく。
手がかりすら見つけられないままにもう何日経っただろうか?
「今日も何も分かりませんでした」
「まあ、仕方ない。もうここまでやって分からないのなら情報得られると期待してやらない方が良いと思うよ、気楽にいこう気楽に」
「ですが」
「大丈夫、大丈夫」
「ローシェさんの言う事に説得力はないっすけどその通りっすよ、あまり気にしすぎずに」
「そうですか?」
「ああ、気に病みすぎて体調崩したりしたら元も子もない無理しすぎるなよ」
「はい」
ぎいい
ドアの開く音だ。
「ここで合ってるかい?ビルトの家ってのは」
「合ってるっすよー、宿泊っすか?」
「いや、情報提供したくてね」
「?」
「一人の少年を探しているそうじゃないか」
「「……」」
全員の沈黙が流れる。
「えー、これは続きを促されているのか?」
頭を描きながら独り言をつぶやく。
「じゃあ心して聞きな」
全員口を挟まない
「待っていろ、いつか来る」
「は?」
「え?」
「うん?」
「君らはお祝いの準備でもしていたらいいんじゃないか?」
そういって青年は去っていった。
「誰?」
「誰なんすかね」
「そうか、【竜斬り】か」
「確かに言われてみれば…でもそんな大物がフェリックス君の情報を持ってくることなんてある?」
「でもあれほどの人の情報なら信頼できるんじゃないすか?」
「でもフェリックスなんかのことを伝えるためにわざわざっていうのは考えづらい」
「そうだな…」
「まあでも、待とう。疲れてるでしょ」
「そういえばマリアナの誕生日はもうすぐじゃなかったか?」
「はい三日後です」
「じゃあその時はその時で祝おうか。意味は多分変わってそうだけど、お祝いの準備だよ!」
「はい」
一人欠けた状態でのお祝いというのも変な感じがするけれど
足音で地が揺れる。スケールが違いすぎる。やっぱり竜って勝ち目ないよね?なんで【竜斬り】はこのレベルのをサクサク狩っていくんだろうか?
そんなことは置いておいて、
「一時的に、手、組みません?」
「そうするしかないな」
「良かったー、まじめでも頑固じゃないんですね」
「貴様は今から手を組むつもりがあるのか?同盟相手を馬鹿にして」
「あ、ごめんなさい」
「考えてみろ、お前を捕まえて竜を倒すのは無理でも竜を倒してお前を捕まえるのは出来るかもしれないだろ」
「作戦は口に出す人なんですね」
「余計なお世話だ!」
がん
石が足元に落ちてきた。天井が暴れる振動でさらに崩れてきているからだろう。人の頭と同じくらいの大きさの意思がたくさん落ちてくるのは困るのですが。
「無駄話が過ぎたな」
「ですね、さあ、戦いましょう!」
一人は武器を構えて
もう一人は少女を抱えて
名前・種・Lv
フェリックス・人・72
攻113/30 防228+45 魔167 精192+20 俊121 器121
HP281 MP276
スキル 鑑定 解析 毒魔術 浄魔術 毒耐性 発光石 浄風破裂 調理 解体 騎乗 調合 装備装着 十頭蛇 病原十蛇 魔力剣 結剣
装備 黒覆布 聖銀長籠手 国亜竜鞘+鱗鉄短剣
耐40 80 40(35) 重+17
装備スキル 開放 閉鎖 武装 定鋲 投擲補助
動物識別
ナナクヨウの使う全方位認識能力の正体。詳細はまだ出さないが、動きを認識するとだけは明言する。本編のセリフから頑張れば推測できるだろうから。




