084 雨宿りを洞窟で
全話を描いているときは頭の中でハルジオンが再生されてました。だから暗いままって事にはならないはずです。少なくとも今の想定では。
「はっはっはっはっ」
俺の息の他に聞こえる荒い息の音。ナナクヨウの息の音だ。
今、俺達は魔獣に追われている。最初は戦っていたのだが、数が多すぎる。文字通り無限に出てくるのだ。
ナナクヨウと比べて俺の方が速度が遅い。
しかし俺の速度に合わせていては逃げきることなど到底できない。なので、ナナの髪で俺を掴み、俺が引っ張られながら少しでも動いてナナの負担を減らしているが、それでもあまり動きなれていない俺と比べてすら、より息が上がっている。そのことからも、ナナの負担が大きいことが分かる。
「また、処理お願い!」
「了解!」
雑魚の処理は俺の役割になっている。ナナの髪は魔獣を拘束する役割しか果たせない。やはり強度が足りないのだろう。それと、俺は黒覆布を装備しているとナナが結んで運びづらいとのことで、今は収納している。
「『毒蛇』」
もうそろそろ左手は治りそうだけど、未だに治ってはいない。
処理速度はそこまで速くないけど一番近い魔獣を倒せば距離を詰めてくるその後の魔獣もまとめて止められるので意外と効率は良い。
その間にもナナクヨウは進んでいく。
俺も引っ張られて進んでいく。
その足が止まる。
「どうしたの?」
「それは見れば分かると思うよ」
「わあ」
囲まれていた。全体的にこの世界の魔獣って賢いよね。
今もこちらの先回りをしていたし
「こういう先回り止めて欲しいな!」
「それは違う、先回りじゃなくて群れにこっちが突っ込んだだけだと思う。動く魔獣の気配はなかったし」
「動く魔獣なら気配が分かるの?」
「周りの形が分かるからその中で他と違う動きをした形のものが魔獣、そういう風にして分かる」
「成る程」
ナナの周囲探知スキルは周囲を形、シルエット情報として収集するスキルなのかもしれない。
飛びついてきた魔獣によって距離が一気に縮み、魔獣に覆いかぶされる。
息が詰まる。
窒息しそうだ。
魔獣の隙間から雫が落ちてきた。
唾?
違う。外からはざあざあという音が響いている。
これは…
雨が降り始めた。雨によって魔獣が弱くなったのか、ナナが強くなったのかは分からない。ただ、魔獣に一瞬隙が生まれ、そのすきをナナが突いた。地面から棘が何本も突き出して来、鞭のように唸る髪は魔獣の行動の妨害と視界の限定の二つの役割を同時にこなす。
瞬間的な火力でしかなかったが、その一瞬は魔獣を一気に崩した。
ただ、ナナも脱力したように倒れ、もう歩けなさそうだ。
背負う事にするか。
「や、めて。手、だけ、は。せめて、根元に」
意味不明なことを言っているが、仕方がない。その通りにしよう。
今脱出できたのはナナのおかげだ。でも、根元って…どうすればいいんだ。よほど手を触られたくないのだろうからその意思は尊重してあげたい。
背負うくらいしか思いつかない。
出来る限り根元を持って背負う。
ナナを背負って歩き続け、途中でやっと洞窟を見つけ、そこにナナとともに入る。ナナに聞いたときに
「…いない」
とぼそっと言ってたので中には魔獣はいないだろう。
「しばらくは雨宿りのために洞窟の中にこもっているか」
「…」
寝ているのだろうか?
静かになっている。
そういえば黒覆布を丁度しまっていた気がする。
収納袋から取り出して横たわるナナにかぶせる。
取り敢えずナナが目覚めるまではここにいることにしよう。
そうだ、温めてあげたいな。俺もプラウズ家の皆のように炎系の魔術が使えればよかったんだけど生憎俺が使えるのは焚火もどきこと『発光石』のみだ。相変わらずのスキルの幅の狭さに驚く。
でも、何もできないならせめてゆっくり寝られるよう暗いままにしておこう。料理系の道具がないから料理もできないし。
暇だなあ。
「暇?」
「暇」
「ごめん」
「さっきはありがとう」
「逆に遅くなっちゃったよね」
「ナナのおかげで何とか生き延びた」
「会話をして」
「俺の中では成り立ってる」
「?よく分からないけど」
「ナクが落ち込んでたから励ました。ね、成り立ってるでしょ?」
ナナが寒そうに黒覆布を頭まで被ってうずまる。
「確かに呼び名何でもいいとは言ったけど」
「会話をして」
「…」
黙っちゃった。
すぅーーー
と思ったら寝ている様だ。顔を近づけるとわずかに寝息が聞こえた。
「凄い寝つきがいいね」
起きてたらと仮定して嫌味を言う。
本当に起きていたのかは分からないが、ナナが寝返りを打った。
もし本当に起きてるなら多分相当照れてるか怒ってる。
俺もだんだんうとうととしてきた頃、ナナが向くりと上半身を起こした。
「最悪な夢を見た」
「どんな?」
「会話する気のない人に会話しろって言われる夢」
「多分それって現」
「のんびりしてる暇はない。歩こう」
「はいはい」
遮られたね、確実に。
洞窟から出て、空を見上げると、
「虹だ」
密林の葉と葉の間のわずかな隙間から虹が見えた。
「ナクさんナクさん」
「…はあ、何」
「どっち?」
「…どっちだろ」
「ナ、ナウさん!?」
「名前の呼び方調子に乗ってるでしょ」
「せっかくいいって言われたから」
「良い、であってして、ではないのに」
「分かってるって」
少しだけナナと話すときの距離が縮まってきた。
まあ今回ので縮まったって見方もできそうだけどね。
「隠れて」
しばらく歩いた後の事だ、ナナが急に体を翻して木の陰に隠れてしまった。俺もつられて近くに体を隠す。木の陰から顔を少しだけ出して先を覗くと、兵士が待ち構えていた。
会話の内容を聞くと、「あいつら、ここを通るのか?」
とか「分からない、だがこれほど広範囲に兵を配置すればどこかは捕らえられるだろう」だのまあまあ大声で会話をしている。
そんな声量で会話してると魔獣が寄ってくるんじゃ、と思ったが
「アアアアオオオオ!!」
巨大な魔獣が陣地を襲ったときも、手馴れた動きで処理してしまった。
その時に取り出した武器を見るに、ナナの拘束への対策も、俺の毒への対策もしている様だ。つまるところ、
「「逃げよう」」
考えることは一緒だった様だ。
「でも別の脱出ルートの心当たりある?」
「ある」
「どこ?」
「あの洞窟」
「でも行き止まりだったよ」
「落盤か何かで道が閉じただけでその奥に道が続いてる」
「いつの間に探知したの?」
「それは、確か昨日寝たふりしてた時」
「やっぱ起きてたんだ」
「……あ」
「さあ、行こう」
「……」
かなり険悪な雰囲気になっている。おかしいな、勝手に漏らしてたはずなんだけど。
「そういえば、なんで朝言わなかったの?」
「話しかけられるような気分じゃなかった」
「でも、ナナの方から話しかけてきた気がするけど」
「いちいち細かいことを指摘してると嫌われるよ」
睨まれた。今までになく強い怒りをはらんだ眼差しだ。
「ごもっともです」
としか言えなかった。
洞窟に戻ってくるまで黙って歩いて、洞窟に着いた時にはやっと少し空気が和らいだ。
「じゃあ、潜ろうか」
「そうする」
洞窟の奥に歩いていく。最初は光が届くからいいけど、だんだんと光が届かなくなって暗くなっていく。洞窟は下り坂で、深く深く潜っていくことになりそうだ。
「所で明かりはある?」
「あるよ、『発光石』」
「どうして昨日それを使わなかったの?」
「ナナが寝るのに邪魔だと思ったからだよ」
「フェリックスにそんな気遣いが出来るとは思わなかった」
「ナナの中で俺はどんなイメージなんだ!?」
「たまに良いこと言った風に得意げな顔してる、大抵人の嫌なところを指摘する人」
「二つ目はそうなのかもしれないけど一つ目の得意げな顔、に関しては納得できないんですけど!」
「まあそうかっかしないで」
「んーなんか納得できないけど、まあいいか、進もう」
「それがいい」
ナナと共に洞窟を下っていく。脱出の見通しは立っていない。なにせナナの探知にも限界はある。回数ではなく範囲の限界が。
なので取り敢えずその先を探知して危険じゃなさそうなら進むのだが
「なんか深くない」
「だね、上に上がる気配がない」
「それは探知した先でもって事?」
「そう、直線ではあるけど。それと、魔獣も魔物もいなさそうだよ」
「じゃあ、奥には相当強力な魔獣か魔物が待ち構えてるって事かな?」
「どうして?」
「だってここの主が強いからほかのが住み着かないんでしょ?」
「むしろ、そいつが小さな虫けらを気にしないようなタイプかもしれないからまだ確定はしてないよ」
「確かに、でも進まないと分からない、よね?」
もう把握してるかもしれないから一応確認。
「勿論」
ナナは何が嬉しいのか満面の笑みで答えた。
……本当に、不思議だ。
名前・種・Lv
フェリックス・人・72
攻113/30 防228+45 魔167 精192+20 俊121 器121
HP281 MP276
スキル 鑑定 解析 毒魔術 浄魔術 毒耐性 発光石 浄風破裂 調理 解体 騎乗 調合 装備装着 十頭蛇 病原十蛇 魔力剣 結剣
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装備スキル 開放 閉鎖 武装 定鋲 投擲補助




