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毒と浄は輝玉に宿る  作者: 狐池
旅の始まり
83/110

083 夢

未登場キャラの過去編第三弾の二人目です。これで終わりです。

俺は平凡以下だった。

成績不振、運動不得手、態度不良。

つまるところテストの点数だって対してとれないし、運動に関してはもってのほか、その上友人関係や授業態度においても優れた部分を探すことの方が難しかった。その理由は、今振り返ってみればわかる。

まだ幼稚園、小学校に通っていた時は良かった。

多分みんなが夢を持っていたからだと思う。夢を語り合うのが好きだった。憧れているのが好きだった。口に出して言葉にしたり、図で形にしたりすると夢が近づいたように感じて、嬉しかった。


違和感を覚え始めたのは中学に入ってからだ。一気に周りの人たちの夢がなくなった気がした。無くなったというのは正しくないかもしれない。

皆夢を語らなくなった。恥ずかしくなったというのもあるだろうし、夢との距離に気付い諦めたというのもあるのだろう。

でも、それも受験してよく分からない凄いところに行った奴ならきっと夢を持ち続けているんじゃないかと思い続けた。

でも、その考えも打ち砕かれた。

そいつも、すでに夢は持っていなかった。

そこから俺は学校に行くのが嫌になった。

周りが現実に生きていると言わんばかりに夢をあきらめ、そんな中で夢を持ち続け、恥ずかしがらずに公言している俺は陰口の対象にしやすかったのだろう。俺は耳がよかった。自分の席が教室の中央に近かったのもあるだろう。周りの話す俺への悪口はほとんどすべて聞こえた。

けして自分に自信がなくなったわけではない。夢を恥じたわけではない。

ただ、夢を抱かない周りの温度感が嫌になっただけだ。

多分夢を持ち続けてるのも意地だったんだと思う。他の全員が夢をあきらめた殻ってあきらめたら負けな気がした。それで馬鹿にされてるのならなおさらだ。


でも、限界を知った。

夢をあきらめなかったからこそ、限界に気付いた時にはつらかった。

俺の夢はいたって単純だ。未来的な機械を作ることだ。

色々なものを考えた、実用的な物から実際には使わないだろうが、ロマンのあるカッコイイものなど。ひたすらに思いついた案をノートに書きつけて、デザインを決めて、どんな構造にしようか悩んで、

その作業は、工学をはじめとした技術関連のことを学ぶにつれて楽しくなっていった。学校に行かず、独学でひたすらに機械の機構について学び続けた。知れば知るほど中の機構の案が具体化していった。

だけど、それと同時に知れば知るほど今の技術では不可能だという事も確信に近づいていった。

認められなかった。俺の設計はどんどんと完全に近づいていっているのに、周りのせいで、世界のせいで、俺の頭の中にある数々の機会は日の目を浴びることは出来ないのだ。

どうしようもない思いが募った。


そして俺は死んだ。

死因なんてどうでもよかった。

俺は死に際にただ一つだけ祈った。

どうか次生まれ変わる時は俺の夢が叶えられる場所、時代でありますように、と。



祈りが通じたのかは分からない。

だけど、今俺はここにいる。

ここでそんなことが出来るのか分からない。だけど、あの世界よりは断然確率が高い。



この世界に生を受けて最初に知ったことは、自分がもう一人別の世界で生きた人間の後継機だという事だ。

昔の自分は昔の自分、今の自分は今の自分。そう明確に線引きは出来ている。だけど、やはり成し遂げられずに抱えたまま死んだ夢は、形にして偉業として置いて死にたい。

だから俺はこの世界でも夢に見た機械を作ることを夢にする。


俺は前世の記憶があったから、必然的に成長も速い。正しくは、精神の成熟が近所の他の子供よりも速い。


俺は周囲から尊敬のまなざしで見つめられた。そりゃそうだ。

誰よりも早く魔法を使えるようになって、誰よりも早く成長した。

この世界の事をたくさん知ろうとした。特に魔法陣を介した魔法具の制作に関しては俺の夢の答えだったから重点的に学習した。独学の方法なら知っている。本を読んでいるうちに、どうやら魔術と魔法の言葉の使われ方が違う事に気付いた。魔法はいわば蔑称だった。旧時代的な方法で魔法を使えるようになったものたち、即ち魔法使いとそれが使う魔術への。

ただ、そんなのはどうでもいい。だけど常識知らずと思われるのは嫌なので頭の中に入れておこうと思う。

俺の人生はとても順調だった。得意げに子供に魔法…じゃなかった魔術を自慢した。それだけじゃいつか嫌われるのは自明の理なので、苦戦している子、カルロスというが、その子をはじめとした何人かに魔術を教えた。

カルロスの両親、そして俺の両親も俺に感心した。それはそうだろう、カルロスは魔術を使いたがっていた。物心ついて少ししか経っていない少年がそれを教え、導こうとしているのだ。俺の教え方がうまいのか、カルロスに才能があったのか分からないが、カルロスは魔術を使えるようになってからが速かった。最初に教えたのは初級水魔術『フォーリングスプラッシュ』だ。カルロスはそれだけでなく、様々な魔術を覚え、見る見るうちに腕を上げた。それでも俺には及ばない。2年もの差はなかなかに覆らないものなのだ。

腕力をはじめとした運動もなかなかにできた。前の体ではあまり動けずに後悔したこともあった。その反省を生かして早いうちから積極的に体を動かしておくのだ。前の体よりも運動の才能もある気がする。

俺は地元で評判の天才児だ。



こんな、はずじゃなかった。もうすぐ俺は9歳になる。

今、俺はカルロスをかばって倒れてる。喧嘩だって強かった。

相手の攻撃をよけて自分の攻撃を当てる。それを何回か繰り返せば、相手は勝手に倒れる。今回だってそのはずだった。

相手が三人がかりで来ている?関係ない。

相手の方が体格がいい?関係ない。

カルロスを守りながらの戦いだから?関係ない。

関係ない関係ない関係ない関係ない関係ない関係ない関係ない関係ない関係ない関係ない関係ない関係ない関係ない関係ない関係ない関係ない関係ない関係ない関係ない関係ない関係ない関係ない関係ない関係ない。

関係ない。筈だった。

気付けば俺は倒れてて、上から見下ろす三人が俺の上に影を落とす。

生まれて初めて恐怖を感じた。こいつらが怖いだけじゃない。

もしかしたらもうボーナスタイムは終わって、もう現実に引き戻される時間なんじゃないか。しょせん俺がちやほやされた時間は刹那の夢なのではないか。


後ろから飛び出してくる人影があった。足が震えていた。通った後が濡れていた。鼻水をすする音も聞こえた。

きっととても怖いのだ。それでも、カルロスは飛び出した。

「『フォーリングスプラッシュ』」

水しぶきを発生させ、落とすというシンプルな魔術だ。

威力も高くないし、殺傷性もない。せいぜいが遊びのための魔術だ。

それを、カルロスはしっかり磨いていた。

しぶきに撃たれた三人は逃げかえっていった。

凄い、と思ってしまった。

「君に教えてもらったもの、ここまで身に着いたんだ。君に恩を返せてよかったよ」

心から純粋な笑顔でそう言った。

何もかもが、いやになった。

素直にカルロスの成長を喜べない自分が、いつの間にか自分の事を超えて自分を助ける側に回ったカルロスが、あの純粋な笑顔が、自分のやさしさは、単なる偽善の傲慢だったことが、カルロスノアの魔術を、凄いと思ってしまったことが。

「うるさい!」

「え、どうしたの?待ってよ」

足早に歩きだす。

「ごめんね、怒らせちゃったの?ごめんね、行かないで」

嫌だ。何もかもが。

俺は何処までも身勝手で、こんな純粋な子供を悲しませる。

行き場のない自分への怒りで満たされた心で思う。

いいや、何もかも。どうでも、いいや。


その日から、俺の人生は少しずつ落ちていった。

前世の平凡で、何もできなかった自分が追ってくるような感覚に眩暈がした。追いつかれたくなかった。せっかく新しい人生を手に入れたのに。


自分に才能がないと知った。

9歳の誕生日、親が、少し雑だけど、自分の能力、つまり適性などを測ってくれる魔道具を買ってくれた。使い切りの様だが、両親は凄いにこにこしていた。二人が俺に向けてくれている気体が重かった。

俺は怖かった。きっと期待にはこたえられない。


案の定、俺には才能がなかった。魔術適正はどれも低水準で少しずつ持っている。劣化した万能が器用貧乏なら、俺は器用貧乏にすら及ばない。

それ以外の能力値も同様だ。数値化された能力値は残酷だった。やっと現実を見た。だけど、逃げた。

きっと何かの間違いだ。俺が見たものは気のせいだ。この魔道具の精度はそこまでよくない。12歳になったらもっと正確な検査を受ける。その時にちゃんとした能力が分かる。そう言い聞かせて現実を未来に送った。

でも、俺の性根はもっとひどい。いつか向き合わなければいけないいつかすらも来ないようにするために、俺は家出した。

子供の逃げれる距離なんてたかが知れてる。それでも必死に歩いて、何もない平原で地下に落ちた。穴から転げ落ちたとかではなく、その空間に吸い込まれたのだと思う。

そこで俺は力を得た。特別な力だ。

その力があれば想像したものを創造できる。

必死になって忘れかけてた夢がかなう。そう思ったとたんに高揚感が襲ってきた。取り敢えずその力で移動用の装甲を作った。

空も飛べるジェット式だ。いろいろと向こうの世界と原理は違うが。

さらに、俺の体も見る見るうちに成長した。きっとこれが俺の成長した姿なのだろう。

その機会装甲で西の方にあるという大陸を目指した。未開の大陸で、原住民が棲んでいるが、それ以外には何もない土地だ。原住民の抵抗が激しく、中央大陸にすむ人々は調査すらできない。でも、俺にはこの力がある。


さあ、ここからが俺の逆転劇だ。



俺の人生は二度目の好調を見せる。西の大陸への逃亡は成功。

この土地で原住民を何度か返り討ちにし、血かを掘って拠点を作り、蟻の巣のように少しずつ部屋を増やし、規模を拡大する。

何もかも順調だ。



俺はこの西の大陸に来て正解だったと判断する。

道の兵器は原住民の不安をあおり、渋々ながらも従うようになってくれる部族が増えてきた。彼等の集落には監視の目的も兼ねて、眷属を配置しておく。

日課の監視網の確認を済ませた後、俺は軍備拡大作業に向かう。

開発室(ラボ)に引きこもり、マシンケースを前にして、設計図を思い出し、兵器として使えそうなものをいくつか選んで製造する。

製造が完成するまでには時間がある。

少し席を立ち、伸びをする。肩を回すと肩が凝っていることに気付く。

あちこちをマッサージしていくうちに気付いた。

自分の体はずいぶんと疲れている。だけど、達成感や成果への喜びは不思議と湧かなかった。どうしてだろうと考える。

プシュ―

蒸気を出すような音を立ててマシンケースが開く。中から新しい兵器がのぞく。遠距離への牽制の意味を持たせるための大砲だ。ただし、様々なギミックを搭載した。

その大砲をしばらく見つめてやっと違和感に気付く。

高揚感がなくなっていた。

その意味を考え、心を整理して一つの疑問にたどり着く。


あれ、俺ってなんでこんな事し始めたんだっけ。


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