079 出会いは運命再開は使命
髪の束を伸ばして枝に絡みつけて半分立体の軌道を実現する。
いつもの事なのでもう髪の痛みには慣れた。というよりずいぶん昔から何も感じない。
ついこの前に会ったあの少年の知り合いらしい人に逃がしてもらってから適当な方向へと進んでいる。特に目指す物もない。
じゃあこれから何をして生きていこうか…
取り敢えず逃げ続けるのは確定として、生きるだけなら別に何も心配はない。だけどただ生きているだけじゃつまらないし、植物と何も変わらない。そうお姉ちゃんに言われている。だから何かしらの目標を持って生きていかないと何だけど…
「目標なんてないんだけどなー」
どさ
落ちちゃった。
おかしいな?慣れてるから失敗することなんてないと思うんだけど
む?後ろからただならぬ気配を感じる。
振り向く
「…私は植物私は植物」
今に限っては植物でもいいやって思う。
目の前にいる大きな熊に見つからなければどうでもいい。
バシ
体を横からはたかれた。そのせいで私の体がころころと転がる。
万が一のために攻撃手段を残しておいてよかった。
「ガ、グルウ」
「これでも動ける?」
私の髪は草によく隠れる。
だから、草の中に隠して熊の所に這わせる。
そしてちょうどいいタイミングで一斉に熊にまとわりつかせる。
「グ、ルウウウ」
引きちぎろうとしてるけど難しいだろう。
意外と私の髪は丈夫だから。
ブチ
そう、だけど限界もある。
そしてその限界は思ったよりも速かった。
その上、中途半端に邪魔したせいで余計怒らせたようだ。
そうか、私は攻撃に使えるスキルがそこまで多くないのが問題なのか。
仕方ないからあれを使おう。
手を熊に向けてかざす。
「どぉぉぅいてええぇぇ―――」
「奇声?」
取り敢えず跳び退く。
直後縄が熊に結び付けられて、何かが熊に衝突した。
ライベに向けて歩くが、道はまだまだ遠そうだ。この前レイヴンからエインに向けて旅した時の道よりも東側にいるのだ。
そうやすやすとは帰れない。
魔獣との戦闘は最低限に、出来るだけ強そうなのとの戦いは避けている。
だけど、
大きな熊に人がはたき飛ばされているのが見えた。
俺なんかで助けになるか分からないけど、助けに行こう。
「『結剣』」
縄の様な太さの特別版だ。自分の体を運ぶにはこれくらいの太さがないと。ギリギリ短剣の絵の太さを超えていない。
これ以上太くするとバランスが悪くなって見た目が悪くなりそうだ。
見た目が何だって話だとは思うけど。
熊に短剣を打ち込み、巻き戻す。
改良された短剣の効果のおかげで熊から短剣が外れることなく俺の体が熊へと引き付けられていく。
蹴りの体勢を整えようとして気付く。
あれ?これむずくね?
考えてみれば当たり前だ、綱によって高速で引き寄せられてる状態で体勢を整えようとしているのだ。
俺の体が軽すぎるせいか体も浮いてしまうし、
そう思考がそれていく間にも熊はどんどん大きくなっていく。あくまで俺の視点での話だが。
少女が手を下げる、見たことのある光景だ。
知られたくない事があるのかな?それくらいだれでもあるかな?
「ぶつかる」
え?
あ、熊が目の前
足を上げる。
間に合わない。足払いみたいになりそう
くう…
「はあ…」
ため息つかれた!
足が押し上げられる。すごい、間に合う!
下を見てみると、地面から棘が生えてきていた。
少女の方を見てみると、手を地面につけたまま、目だけはこっちを見上げていた。
目が合った。
蹴りが入った。
熊の体が揺らいだ。
反動が俺の体に伝わった。
「『溶毒』」
熊の皮を溶かす
そして体の内側に
「『薬死毒』」
強制注入式の薬死毒。最近ますます凶悪になってきている。
「これでそのうち死にます」
「どうしてですか?」
「毒を注ぎ込んだので、それが回れば多分死にます」
耐えられたらもっと注ぎ込むだけだし、動きも多少は鈍るだろうし、
時間をかければ多分勝てるだろう。
現に、熊の動きがもうすでに鈍ってきている。
あー熊だから体温下げるような毒使えば眠らせられたかも…
まあ持ってないしそんなものないだろうし、今すでに勝てるかもしれないから考えるのはよそう。
「さっきは手伝いありがとうございます」
「どうも」
「あの棘って」
「そう、私の能力」
「あれで熊殺せたんじゃないんですか?」
「そこまで貫通力は高くない」
「そうなんですね」
「あと、敬語じゃなくて大丈夫。あなたの方が年下って訳でもないんでしょ?」
「年下ではあると思いますけど」
「そうなんだ」
でもこの人に何かを見抜かれてるっぽいぞ。
どうしてだろ
「熊が動いた」
「え?」
「グウルウァアアア」
「でも、毒は効いてる、目が充血してるし」
「そこだけじゃ判断できない」
「それもそうだ」
「他にないの?」
「動きは鈍ってる」
「元から鈍い」
「そういえばそうだった」
「他に!」
「えーーー、ちょっと狂暴になってる」
「それはもうただのこじつけ!」
「まあそうなんだけどさ」
「私が縛る。あなたはまた別の時間稼ぎを考えて」
一番いいのは麻痺毒だろう
でもさっきのやり取りで毒が本当に効くのかどうかという疑問が出来てしまった。でも、俺にできるのはこれだけだ。
「『魔力剣』」
いつもの結剣を利用した投擲で熊に短剣を刺そうとする。
カン
熊の爪が伸び、硬くなって短剣をはじく。
強い!
さらに熊はこちらまで迫ってくる。少女は紙を枝に結び付けて跳んだ。
でも機動力に優れない俺はそんな逃げ方は出来ない。
さっきの『結剣』直線移動は二度とやりたくない。怖いし酔いそう。
でもそんな贅沢言ってられないかもしれない。
なら!
判断した時にはもう、選択権はなかった。
熊の爪が振りかぶられ、振り下ろされる。
とっさに結剣を巻き戻し、短剣を手元に戻す。
熊と刺し違えるようにして短剣を突き刺す。振り上げられた手の側の腹に向かって刺す。これなら攻撃をやめるか攻撃を受けるかでしか対応できない。
果たして結果は熊の爪が届き俺の短剣が届かないという結果で終わった。
でも、まだ粘りたい。
短剣を『結剣』で飛ばし、熊に無理矢理突き刺す。
俺の体は飛ばされ、転がり、木の根元に空いた穴に落ちた。
穴は結構深く、俺の背丈だと手をついて体を持ち上げることで出ないといけないから今の俺では出る事が出来ない。いや、考えてみよう。もしかしたら何かあるかもしれない。
もう一人の方が落ちた。戦力は実質一人。
毒が効いてなければ元から一人…
可哀そうだから言わないであげよう。
でも彼が見ていないなら私は使える。
でもなあ、後の対処が難しい。袖が破れてしまうからその後の袖の修復もしなければいけない。何も言わずに消えればいいんだろうけど
それでは私の事を助けてくれた彼が浮かばれない。
まあ袖の修復はどうにかしよう。あれなら止めが刺せる。
蔦による軌道で攪乱、蔦で動きを拘束、手で刺し貫く。
これだ。
熊の周りを高速で周回。
熊の目線の動きが私から外れたところを狙って、
木の枝から飛び降り、地面で跳ねる。空中で髪の毛を伸ばし、熊を縛り付ける。木の幹に引っ掛けて固定する。
熊は引きちぎろうとするが、そちらに意識を割いてくれれば
「止めを刺させてもらうよ」
手を熊の腹に当てる。
直後、熊の背中から何本もの棘が生えてくる。
傷口から血がしたたる。
心臓は貫いた。多分死んでいる。
やはり貫通力は大事だ。
それだけで攻撃手段になるかどうかが決まる。
考えながら穴の入り口を見上げていると、フードをかぶった少女の顔が出てくる。例の少女だ。
「出られないので手を掴んでもらえると」
「…」
自分の手の袖をみつめている。
やがて
「手を貸す気はない。自力で上がってきて」
「そう、ですか」
やっぱり人付き合いは苦手だ。人との距離感を捉えづらいし、相手の発言の真意を捉えにくい。
「さっきの溶かす奴使わないの?」
「それがあったか!」
簡単すぎて見落としていた。
無事、外に出てこれた。
少女はなぜか待っていてくれた。さっきのアドバイスと言いよく分からない。
「次は何処を目指す?」
「あっち」
「分かった。行こう」
「でもさっき手は貸さないって」
「え?」
もしかして本当に文字通り手は貸さないという意味だったのか?
でもなんでついてきてくれるんだろう。
旅は道連れ世は情けっていうし、一緒に旅できる人がいるのはありがたいんだけど
「なんで一緒に来てくれるの?」
「あなたは私の同類、だと思うから」
「同類?」
「勘だけど」
「同類って言っても俺は人間だし、特に特別な点も…」
「私と同じ人は一人もいない。たぶんあなたもそう」
「それはどういう意味で?」
「種族的に」
「だから俺は人間だって」
「本当に?」
言われてみれば確かに…
この少女の勘があっているのかもこれから調べる必要がありそうだ。
あ、そうだ
「名前はなんていうんですか?」
少し考えるそぶりを見せてから
「取り敢えずそっちの名前を」
「そうだね、俺の名前はフェリックス」
「私の正式名称は四百擬だけど私の名前はナナクヨウ、略してナナ、それが私がお姉ちゃんから受け継いだ名前、ナクでもナヨでもナウでもはたまたその逆でも好きなように呼んで」
そこで一度止めて
「よろしく」
その声で二人の旅が始まった。
名前・種・Lv
フェリックス・人・72
攻113/30 防228+45 魔167 精192+20 俊121 器121
HP281 MP276
スキル 鑑定 解析 毒魔術 浄魔術 毒耐性 発光石 浄風破裂 調理 解体 騎乗 調合 装備装着 十頭蛇 病原十蛇 魔力剣 結剣
装備 黒覆布 聖銀長籠手 国亜竜鞘+鱗鉄短剣
耐40 80 40(35) 重+17
装備スキル 開放 閉鎖 武装 定鋲 投擲補助
私と同じはいないから、私の同類はいないけど、あなたは私の同族だから、いましばらく、もう少し、私の事を、隠させて。




