078 花と名誉は少女に残る
緑色の鞭の様な細長い物が飛んできて、魔獣を縛り上げた。
それはうまく木の枝に引っかかって吊るされていた。
「彼等の尊い犠牲のおかげで今日も私は追い出されない」
後ろ姿から分かる物はごく少ない。
だからよく観察する。
その人はフードをかぶっていて、そのフードは肩から体にかぶせるタイプの上着に直接つながっている。上着は多分二の腕あたりまでの丈だ。
多分というのは腕の部分がどうなってるのかよく分からないのだ。
腕はその服の形のせいで分からない。どういう形かというと長袖であり、幅には余裕があり、袖がない。
袖がないとはどういうことかというと、閉じているのだ。袖を蓋するような形に布がつながっていて、手が見えないのだ。
これでどうやって物を掴むんだろう。布越しに掴むのだろうか?
そしてもう一つ特殊なものがある。そちらはそこまで特殊ではないのかもしれないが、フードの背中側の一番下が抜けていて、そこから髪が出せるようになっているのだ。そしてその髪の色は緑色だ。そういえば髪が長い。あとなんでわざわざ髪を出しているんだろう。まあそれはいいとして、
「助けて頂きありがとうございます」
その人はちょうど袖に包まれた手を魔獣に向けている所で、俺が声をかけるとぴくっと反応した。
そしてその人が振り向いた。
その顔は若干目が見開かれていた。驚いているのだろうが、あまり顔に出ていない。そして少女だった。
その少女は
「人が、いた」
そして手はいつの間にか下ろされていた。
「私は拘束までしかできないので止めを刺してください」
「え、でもさっきてをかざ」
「あーあー、どうぞ速く」
「…分かった」
『結剣』で短剣を持ち上げて何度か魔獣に突き刺して殺す。
さっきの少女のつぶやきからこれはどこかに渡されて少女の生活の基盤になるようなので、出来るだけきれいなままにしておく。
で、その後はもう立ち去った方が良いのかな?
「立ち去りましょうか?」
「……」
無言になった。
まあいいや、取り敢えず先へ進もう。
早く帰りたい。
…行っちゃった。
あの人からは同類の匂いを感じたから少し興味があったんだけど、まあ仕方ない。単なる勘だし気のせいの可能性も高いだろうし…まあまた会ったらその時は少し訪ねてみよう。どんな人なのか、興味もあるし。
でも、今は行っちゃったしいいや。
で、ええとそうだ、この魔獣の死体を回収しなきゃ。
それで、あの人たちのところに売って今日も滞在の許可を得よう。
はあ、あそこの人達は何でよそ者に厳しいのか!
あそこの人達だって、言ってしまえばこのシューラッドの土地から一部を自分たちの自治区だって言い張って住み着いてる敗者だ。
そう、敗者だ。聞いたところによるとあそこの人達は多くがシューラッド地域が統一される際に淘汰された国の住民の中でも新しい国を受け入れられなかったわがままな人たちが団結してシューラッドにたてついた結果生まれた国だ。シューラッドがその気になればいつでも滅ぼせる。多少シューラッド側の損失も大きくなりそうだから放置しているだけだ。
少しでもシューラッドに損失が出ればすぐにでも滅ぼされるだろう。
放っておいても害にならないから生かされているだけだ。
と、シューラッドからあの地域に秘密裏に派遣されているらしい戦士が
言っていた。あの人の方がきっと自治区の人達よりも私の事を信用している。あの人たちが言うには魔獣の死体を献上させるのは私を信用するためだそうだけど、実際問題信用してないじゃないか!と言いたい。
あれ?もう着いちゃった。
今日の寝床は何処だろう。もう少し優遇してくれてもいいのに。
こんなにも魔獣を狩ってきているのにさあ!
あ、今日は見知らぬ人の手を借りてしまったけどね、あれは仕方がないでしょう。だって人に見られてるところであれは使えない。同類かもしれないならなおさら。だって、同族では絶対にないのだし。
改めて自分の手を眺める。
左手に関してはもうほとんど治っている。
ただし外側は。
内側に関しては全然再生が進んでいない。これからに期待するか。
もう少し再生してくれないと手の感覚がないから肘から下はブランブランするしかない。右手に関しては全然だ。
肘よりも下が少しとはいえ残っているが、それでも喪失したのが最近だから再生が進んでいない。これは帰ったら〔部位欠損治療薬〕を使わなきゃだな。そしてこれからは手を失わないようにしなきゃ。もちろん足も。
よし、休息も終わり。
先へ歩こう。
魔獣を倒しながら、
そういえば俺料理用の道具持ってきてないな。火を起こすことすらもできないから多分しばらく生肉生活復活だろうなぁ。
最近食事がだんだんおいしくなってきたから生肉生活嫌だなあ。
でも仕方がないから。
そういえばあの少女にもう少し情報聞いておけばよかったな。
この自治区の事とか教えてもらえたと思うんだけど。
いやでもそんな親切とは限らない。
まああのままだと迷惑かける可能性もあったからこれでよかったかな?
「お前はもういい、ミドリ、いや、それ偽名か?」
「え、あの、どういうことですか?私は魔獣の死体を出しましたよ!」
「そこが問題なんだよ、お前がシューラッドの少年と接触していると情報があった」
上の立場からの冷徹なまなざしが向けられる。
「だから、なんです?」
強気に睨み返す。
「あれを我々は歓迎していない。あれは信用できない。そもそもシューラッドから子供が一人で来ている時点で怪しいんだよ」
あの人の手助けを得たことが返ってきたらしい。あの人のことを恨みそうだ。その気持ちを何とか抑える。
見られてないはずなんだけどどうしてみられてたんだろう?
もしくはあの人が喋った?
…考えても分からない。
それなら今は目の前の問題に対処する。
「それなら私はどうなるんですか?」
言い返す。弱く見られないために。
「お前をこの町、およびこの国においておくことは出来ない」
「国?シューラッドの国土に住み着いた寄生虫が何を言ってるんですか」
正直怖い。向こうは結構大きな集団だ。だけど理不尽に追い出されたからには抵抗する。
「生意気だな」
この町の管理を任された領主が目を細める。
「それならどうします?」
「さっきの通告は嘘だ。たった今嘘になった。お前はここで殺そう」
「本当にできるんですか?」
「この町の兵力をなめるなよ」
気付けば部屋の周りをこの町の兵が取り囲んでいた。
この数がいればできてしまいそうだ。むしろ逃げる方が難しいかもしれない。
「ずいぶんな騒ぎだなあ」
「竜斬り様、どうかご退室を」
「どういう騒ぎだ?これ」
「これは外部の者と接触したものがいたため追放しているのです」
「この数で追放は無理があるぞー。これ、抹消だろ?」
「!い、いえ、そのような事は…」
「ところでその外部の者ってのは?」
「は!子供の冒険者のようです、一人でいると聞きました」
「どこ辺りで見られたんだ?」
「そ、それは」
「どこだ?」
「ここから少し離れた場所です」
「距離は?そこまで行くのにかかる時間は?」
「半日もかからないかと」
「そうか、じゃああいつか」
「そこの女が逃げようとしてるぞ」
「!なんで見つかるんだろう?」
「加勢するぜ」
「え?」
この竜斬りって人が加勢するんだったらいよいよ私は逃げられない。
きっとここで殺されてしまうんだ。
悲しい。何でこんな事に…
「おいおい、首を傾けてどうした…諦めてないで逃げろ、足止めは俺がやるから」
「え?」
「だから、俺はこっちに加勢してるんだ」
「本当ですか!」
「ああ」
「それなら私は逃げていいんですね」
「ああ」
「でもあなたはどうするんですか?」
「ん?俺は適当に逃げるさ、どうせこの町に長くいるつもりもなかったしな」
「分かりました、本日はありがとうございます」
「ああ、じゃあな」
「逃がすか!」
「逃げます」
「ひっ捕らえろ!!」
「それなら空まで追いかけてこないとですね」
おおー、すげえ。
髪を伸ばして障害物に巻き付けて飛んでいる。木から木へと飛び移る猿みたいだ。だんだん高度も上がってる。
お?弓で落とそうとしているな。
「俺を忘れるなよ」
弓を弾き落とす。なんであの少女の脱出を手伝っているんだ?
自問する。
「ああ、そうか」
「大臣様!やはり我々ではかないません!」
「クソォ!なぜ、何故だ!何故貴様がそっちにいる。散々よくしてやったではないか!」
「へえ、そういう事だったのか?そういう意味のあの待遇だったのか?」
「あ、ち、違う。我々は貴様を歓迎していただけだ!」
「この慌てよう、そうだったのか…まあ納得は行ったよ」
「大臣様…」
「ええい、分かっておるわ!私の失言だ。取り囲め!遠慮はいらん。どうせあいつもシューラッドの国民だ!」
「え、違うけど」
「うるさい!」
「うわあ、化けの皮はがれた…残念、いい人達だと思ったのに」
「そもそも、あの少年と一緒に居た上にあの少女の手助けをした時点で我々の敵だ!」
「何でですか!なんであっち側になったんですか!」
下まで全部が腐っているというわけではなさそうだ。今相対している兵士は本当に自分の事を慕っている様だ。
「なんでだろうなあ…」
「あなたの中では答えが出てるんでしょう?」
「ばれたか」
「教えてください!僕たちが間違えたんですか!」
「お前は間違えてないよ、俺はあの少女とあいつを合わせたら面白そうだなって思っただけだ」
「そ、そんな理由で…」
「すまんな、冒険者ってのは結構自由で、俺もその例に洩れない」
「そこだ!やれー!」
「「うわああああーーー」」
周りから一斉に兵士が襲ってくる。
さっさと切り抜けるか?でも俺がここで戦っている間はこいつらは追ってにならない。
「あの人がその少年に出会うとは限らないんですよ!」
「それでも、あの少女を野に放ったら絶対面白くなる。俺の勘がそう囁いている」
「何をぐずぐずしている!さっさとあの少女を追わんか!」
「は、はい!」
「やっぱそう来るよな」
もう一振りの両手剣を出す。
「すまんな、貫くぞ」
兵士を剣の腹で薙ぎ払って突破する。剣の腹だから死んでいないはずだ。
「待て!」
「お、追いつかれる!」
「大剣2本であの速度って、どんな化け物だよ!」
「竜っていう化け物を狩るには自分も化け物になんなきゃな!」
「ふう、終わったか」
「な、な、強すぎるだろ!」
「これで、兵士は運び込み終わりました」
「…」
「では、俺はこれで。これ以上長居しても迷惑だと思うので」
名前・種・Lv
フェリックス・人・72
攻113/30 防228+45 魔167 精192+20 俊121 器121
HP281 MP276
スキル 鑑定 解析 毒魔術 浄魔術 毒耐性 発光石 浄風破裂 調理 解体 騎乗 調合 装備装着 十頭蛇 病原十蛇 魔力剣 結剣
装備 黒覆布 聖銀長籠手 国亜竜鞘+鱗鉄短剣
耐40 80 40(35) 重+17
装備スキル 開放 閉鎖 武装 定鋲 投擲補助
遂にヒロインが!




