056 北上記三日目-3
魔獣戦闘開始だ。今日であった癖の強い二体の魔物たちと比べるとごく普通の群れの魔獣だ。その姿はネコ科の動物の様で、群れ行動が似合わない見た目をしている。あ、ライオンっぽくはないからってのもあります。
さっさと倒して本隊に合流しよう。
やっぱネコ科、しょせんはネコ科。ネコ科はライオン以外が群れるべきではないという事が証明された。
連携は全然うまく出来てない。いや~いつか戦ったあの蜥蜴の方が連携がうまかったな。今となっては懐かしい思い出だ。
哺乳類のくせに連携の上手さで爬虫類に負けてるぞ、プライドはないのか!
それはともかく。
あのネコ科の習性は群れて個人戦という物だ。凄い非効率。
ただ、爬虫類にすら負ける連携能力も厄介な点はある。それは群れ全体で処理することができないという点だ。まとまりがないのだ、だから単体の魔獣と戦っているような感じで、一対一で何度も戦う必要があった。全員で一体一体倒している…
攻撃的だ。殴り攻撃、かわいらしく肉球パンチと呼ぶことにして、
右手の籠手で受け止めてやり過ごす。速いな、どうにかして攻撃を当てたい。そのためには動きを止めるのが良いだろうか?俺の持ってる追尾攻撃は『病原十蛇』のみで、それは暴走する可能性があるから使えない。
止めるには…例えば、昔戦った蛙のように。動きを限定して捉える方法。
もしくは、攻撃を受けてその瞬間を狙ういわゆるカウンターか。
カウンターの方では相手に遠距離攻撃があったら無理かもしれない、そうなると必然的に動きを限定する奴しかないのだが、あれ結構むずいんだけどなぁ。
しかも何より厄介なのが、あの時よりも速い。眼で追えないのはどうしようもないのだが!?
だったら、一撃食らって受け止めて、毒で動きを封じる。もとよりカウンターをあきらめたのは相手の遠距離攻撃を警戒しての事。無いに賭けるのであれば心構えは出来ている。
相手の体高は低い。だったら攻撃が来る高さも低い。低く構えて待つ。
どこだ?
音は…無い。
気配も…無い。
……痛みが、来た。
背後!ちゃんと頭良いのかよ。
手を後ろに延ばし、毛を掴む。さらに体ごと振り返って掴み、ネコ科との格闘になる。毒で動きを鈍らせる!
掴んだ手の中でネコ科の体が激しく動く。その顔がのし上がってきて首筋に噛みつこうとして、俺は顔をのけぞらせ、回避する。
「あっぶな…い、な」
あ、手の力が!
抜け…て…
手の隙間をすり抜けてネコ科が逃げ出す。
ああ、せっかく捕まえたのに!成果なしかよ!逃がさない。
逃げていくネコ科に手を伸ばす。伸ばして、精一杯捕まえようとして。
結局逃した。
振出しに戻る。
この後何度も戦うことになる敵だ。早急に攻略法を組み上げねばならない。
現状発覚している攻撃は肉球パンチと喉千切り(未遂)そして無音突進。
そして、無音突進はもう対策した。さっき掴んだような気がした無音突進の欠点を。
ガチャガチャガチャガチャ
来た!アラーム発動
無音突進の欠点は、音はないとはいえ音に成れない強い振動は発生すること。それを使って対策するのは簡単だ。先の無い腕に籠手を嵌めて立てておき、そこにもう片方を添える。そうすれば振動によって籠手が揺れてぶつかり合い、音を出す。突進を受け止めるときに振り向いて見えた葉っぱが揺れていたから分かった。理論とか詳しく計算してたわけではないけど、上手くいってよかった。
でも、相手の突進を予知できたとしてその後は俺がなんとかしなければならないことだ。さっきみたいな失敗をしなくなるわけではない。
相手の離脱の対策をする必要は依然としてあるのだ。
相手に絡みつく。決して離れないように…吸盤付きの、触手のように。
素材はもう売った。打開策にはならない、さて、どうすれば?
動きを止めるだけなら麻痺毒で出来るかもしれない、麻痺毒なら作れるはずだ。しかし麻痺毒は恐らく練度が低く、本当に効果があるかどうかは分からない。でも、考えられる中では可能性がありそうなのはこれだけだ。
速度だけを意識して、逃す前に麻痺らせる。
アラームが再度発動、どこにダメージが来ても反応できるように構えを取る。
「ぅぐぅ…」
横!しかも左側。手を伸ばしてネコ科の頭を掴み、
「『麻痺毒』」
ネコ科の動きが止まった。そのすきに畳みかけようとしたが、すぐに動かれ、また脱出されてしまった。でも、動きは鈍っている。これなら俺でも!三度目の突進。俺がかろうじて反応できる速さ、大分落ちたな。
捕え、首に向けて短剣を!
「よし、一匹!」
他の人たちはどうだろうと周りを見渡すと、
どうだろう、なんていうだっけ…こういうの。
死屍累々、とかだっけ?
俺が一匹倒す間に、もう戦闘は終了していた。
改めて自分の弱さを実感するなぁ。
元から分かっていたことを再確認した戦闘も過ぎ去り、渡された地図通りに道を走っているのだが…
「迷った?」
「いや、方向はこっちで合っているはずだ」
「距離が足りないだけじゃないですか?」
「そうなんすかね?」
「もうしばらく探してみよう」
「了解っす」
見つからない。
本格的に迷ったか?どうしよう…何かいい方法は…
「エステル?」
「は、はい」
「出来る?」
「た、多分…やって、見せます」
何をするんだろう?
「映れ、閉じた瞼の裏に。映せ、その先の景色を。『遠方投影』」
目を閉じている。瞼の奥の瞳が目まぐるしく動いているのが分かる。見ている景色を変えるのに合わせて動いているのだろうか?
段々息が上がってきている。大丈夫だろうか?
顔を汗が伝う。開いている手は心臓の位置を強く握っている。マリアナさんが背中をさすっている。少しでも落ち着かせようとしているらしい。
「!」
急に眼を開く。
「大丈夫」
マリアナさんが申し訳なさそうに問いかける。自分が頼んだことだからか負い目を感じているのだろう。
「…ぁ…の…み、見つ…かり、ませ…でした…」
喋るのも難しそうだ。それほどに体が緊張状態になっているのだろう。かなり無理をしたのではないだろうか?
「大丈夫だよ、休んで」
「ご…ご、ごめ」
「しゃべらなくても良いからね」
エステルさんがうなずく。
「道からそれることはないだろうから道沿いにもう少し進んでみるか?」
「逆方向だったりして」
「無いと思うが、考慮しておこう」
だんだんと日が傾いてきた。エステルさんはもう落ち着いたみたいだ。
一向に見つからない。
「も、もう一度…」
「や、辞めておいた方が良いと思うよ」
「でも、きっと、見つかりますから」
マリアナさんが猛烈に悩んでいる。
もし、やるとするなら…
「もしやるなら馬車を全力で走らせながら探しましょう」
「分かったっす」
「も、もっと、範囲、を、広げます」
それは大丈夫なのか?体に負担がかかりすぎるんじゃ。
「映れ、閉じた瞼の裏に。映せ、その先の景色を。もっと、もっと遠くを『遠方投影』」
それと同時に馬車が全力で走り出す。道以外も通って、出来る限り探索範囲を広げるために
「み、み、見えました」
「どっち?」
「あっちです」
エステルさんが指をさす。
「分かった、もう終わりにして」
「は、はい…」
エステルさんの刺した方向へと向かうと、全く別の道に出てきた。あの煙舞蝶の群れに囲まれたとき、別の道まで来ていたのかもしれない。
それはともかく、道を通っていくと本隊と合流することが出来た。
ひとまずよかった。
もうほとんど日は沈んでおり、それぞれのパーティが夕食の準備を進めている。今日の合流する過程でだいぶ無理をしたエステルさんは、今マリアナさんが休めている。夕食が出来たら起こすそうだ。
リーダーは教の事件についての報告に行っている。魔物と共闘したパーティも合流していたらしい。めでたしめでたし。
かなり長く護衛を離れたから説明に行かないといけないらしい。
思えば長く感じていたが一日も経っていない。とても長い一日だった。
そうだ、俺は夕食を作らないと。最初の魔物との戦闘から今まで全く役に立てていないからこれくらいはしないと。俺のやることだし。
名前・種・Lv
フェリックス・人・70
攻110/50 防222+45 魔163 精186+25 俊118+2 器118-10
HP273 MP269
スキル 鑑定 解析 毒魔術 浄魔術 毒耐性 発光石 浄風破裂 調理 解体 騎乗 装備装着 十頭蛇 病原十蛇 魔力剣 調合
装備 黒覆布 聖銀長籠手 国亜竜鞘+鱗鉄短剣
耐40 80 40(35) 重+17
装備スキル 開放 閉鎖 武装
「今日一日の報告は以上だ。魔物との2連戦に魔獣との戦い一度。それだけだ」
「ずいぶんと長かったように思えますが、それはどう説明するおつもりですか?」
「どうもこうも我々の行動はすべて話した」
「言わなければ分かりませんか?長いんですよ、いない時間が」
「道が分からなくなっていただけだ、よく似た別の道に出ていた」
「それにしてはちゃんと戻ってきているではないですか、何故戻ってこれたのです?」
「仲間に現魔術の使い手がいた。それだけだ」
「ずいぶんと優秀な使い手のようじゃない」
「そのようだ」
「どんな子なのかしら?」
「その質問の意図は」
「特に?」
「そうですか、なら答えなくても構いませんね」
「ええ、さようなら」
「ああ」




