053 北上記二日目夜
『魔力剣』の獲得は俺に直接的なスキルという即戦力だけではなく、魔力の移動や扱い方といったより他にも応用の利きやすい基礎的な部分の経験ももたらした。
試しに色々と長くしたり件の幅を広げたりと色々試してみたが、いずれにしろ毒々しい紫色の刃が広がる。
何とかしたいものだ。これ出した張本人の俺ですら見ていて気分がよくない、むしろ自分が出したものだから気分がよくないのかもしれないが。
でもこれ以外となると浄属性になって、攻撃能力が下がりそうなんだよなぁ
「んーー、どうすればいいのか…」
「抑える感覚は難しいの?」
「難しいよ」
「まあそんな一朝一夕にできるようなものじゃないから、『結剣』の方もそうだけど」
そうだ、気分転換に『結剣』の練習をしよう。
魔力の糸を形作る。
これは毒針を作る時とイメージを重ね、総合的には長めの毒針って感じかな?
何とこっちの方はイメージが簡単だ。これは速成功するんじゃないか?
と思ったんだが…
「何だこの太いの」
「わっ!指より太いの凄いね~」
「おかしいな…毒針と同じように作ったんだけど…」
「それ多分半分物質のようになるまで圧縮されてるからおんなじ感覚でやってると魔力過多ででかくなるよ」
「そうなんですね」
それなら無理だ、諦めよう。予定通りまた別の機会に…
日が沈みゆく
今日の目標地点よりも少し先まで来れているようなので少し早めだが野営準備に取り掛かる様だ。
俺も俺で雑用としての役割を果たすべく、火をたいたりなんなりの準備をする。その時、物音と共に奇怪な生物が現れた。人型で、人間の体の三倍ぐらいはあるだろうか?大きい。
「魔物だ~」
「ついに出番っすか?」
今回の襲撃は後ろからだ。他のパーティたちは無視して野営の準備をしている。これは完全に任されているな。
「さあ、戦うか」
「とっくに退屈してたんすよ、全力で暴れるっす!」
「よ~うし、やっちゃお~」
皆テンション高くなってる。
ま、俺は良いかな、さっきの悪戦苦闘でもう疲れてるんだ。雑用のために体力温存しておきたいからね、もう戦闘に割ける体力はないんだよ。
「頑張れー」
「フェリックスは戦わないのか?」
「もう疲れてるので」
「そうか、そちらもそちらで頑張れよ」
「もちろんです」
背後から激戦の音が鳴り響く中、この前新しく習った料理を作る。
気が散る。
だけど集中しなきゃ、さすがに戦闘後にまずい食事を出すわけにはいかない。せめて普通ランクの味は出さなきゃ。
戦闘開始だ。特にいつもと変わることはない。いつも通りやっていつも通り倒すだけだ。
「私、戦闘に参加しなくても良いですか?」
ああ、エステルの事か。確かに戦闘や解体を怖がっているようなところはあった。しかし相手を見たところ装甲が固そうで、大剣の重い一撃はかなり重要になると思われる。そのためここでマリアナが抜けるという事態は避けたい。ならば…
「いや、マリアナは戦った方が良いっす」
「え、でも」
「大丈夫っす、弓の力を生かしにくい敵っすから俺がエステルの事はなんとかするっす」
「じゃあ、お願いします」
馬車に戻る。
「目を閉じるっす、耳は塞ぐから」
「気を遣って頂きありがとうございます」
「大丈夫っす」
後ろに回りエステルの耳を塞ぎ、リーダーたちの戦いを見守る。
「『黒曜の堅牢』」
今度は自身の体を覆うようにではなく、自身の眼前に盾のような形で出現させている。
直後硬い装甲に覆われた腕がマリアナに向けて振り下ろされた。
黒い盾はその腕の攻撃を受け止め更に押し返していく。
余裕をもって振り下ろしに対応したことや純粋な膂力も含めてやはりマリアナの近接戦闘能力はかなり高いことが窺える。
「やっぱり凄いな」
「ん?」
「…何でもないっす」
その後のリーダーの指示も適切だ。
「マリアナ、下がれ。お前には攻撃を任せる」
「了解です」
「『凝固・解除』」
無手になったことで身軽になり、マリアナは素早く下がる。その後退に上手くタイミングを合わせてリーダーは前に出る。
このあたりの連携もかなり上達している。やっぱり彼等の才能なのだろうか?慣れが速い。俺にはとても真似できそうにない。
リーダーは回避を基本にして魔物の気を引き続ける。そしてリーダー一人に気を取られ続けた魔物は上空から迫るマリアナに気付かない。
ローシェさんの魔術による跳躍能力の上昇効果を利用して跳び上がったのだろう。その威力は絶大で、魔物の首から上を真っ二つにしていた。
捕まった?いや、大丈夫、落ち着いて。
大剣の『凝固』を解除、そして魔物の体を蹴って後ろへ飛び下がる。
ダメージは与えた。それが致命傷ではなかっただけだ。
「頭を下げて!」
反応する。
頭の上を爆風が突き抜ける。魔物の体がのけぞり、後ろ向きに倒れそうになる。踏みとどまろうとして魔物は足を出す。させない。おとなしく倒れて。前に出そうとした足の反対の足を横向きに回転する大剣を投げて攻撃を加えることでバランスを崩し、魔物の体を倒す。
「流石だ、マリアナ。どうやら首だけでは死なない様だが後は任せろ」
リーダーが倒れた魔物を上から袈裟斬りにする。今度こそ、きっと倒れてくれるだろう。
まだ、動こうとしていた。その意思に反して体は動かない。やがて力尽きるのも時間の問題だろう。久しぶりの戦闘はここに完結した。
食後の談笑の時間はとても楽しく、同時に
波乱に富んでいた。
「ここが最後のパーティか」
なんかよく知らない女性が歩いてきた。
誰?
「おや、何やら楽しそうだな。混ぜてくれないか?」
だめだ、全く分からない。
「あなたは誰だ?」
「私は…そう、君たちの依頼主だよ」
依頼主…たしか大音楽家様だっけ
「ではあなたが例の大音楽家さんなんすね」
「その通りだ」
マジか!絶対護衛に厳重に守られた場所の奥にいる貴族的な行動する人だと思ってた。めっちゃ奔放じゃん。
絶対苦手なタイプだと思ってたけどそれなら意外と大丈夫そうかもしれない。一安心。
「それにしても、馬車には厳重な護衛もついてると聞いたがこんなところにいて大丈夫なのか?」
「大丈夫でしょ、あの人たちが勝手にやってることだし」
「歓迎しているわけではないんですね」
「あたりまえじゃない、彼らは私という美しい花の蜜を吸いに来た虫の様なものだもの」
それ自分でいうんだ!?しかもだいぶナチュラルに毒を吐いてるんだけど。もしかしたらこの人苦手なタイプかもしれない。なんか高飛車とは少し違うかもしれないけどそんな感じっぽい性格とか毒吐くところとか。
「辛辣っすね」
「そう、かもしれないわね」
自覚があるのか?
「では彼等の名誉のために少しだけ擁護しておきましょう、彼等のおかげで私は単なる趣味の活動であり、自己満足のためだけの物だった私の演奏会が利益の入る仕事になったのよ。だ、だから、か、彼等は別に、いやなものたちではないわ」
あれ?
少しだけかもしれないけどツンデレっぽい要素も入ってるのか?
「まあどちらにせよ、「利益が出るようにする」その一点どまりだから大した功績はないけどね」
お?なんかこっちの方が本音っぽいな。だとするとさっきのは擁護しようとしたら若干ツンデレっぽくなっただけ?
だめだ、分からない。
この人の人柄がつかめない。あってからのイメージですら二転三転してる。それにそれすらも会う前のイメージから変わってるし…
今日は話すのはやめておこう。
彼女が出現してからエステルが極度の緊張状態に陥った。
誰にも気づかれないように目を輝かせながらもとても緊張している様だ。
これは恐らく悪い事ではない。が、緊張によって固まりかけてるのは事実なのでどうにかしたい。しかし本当にエステルは彼女と話したいのだろうか?もしかしたら憧れの存在と会うだけでも十分かもしれない。むしろエステルと彼女を話させるとエステルが倒れそうな勢いだ。このままの方が良い気がしてきた。
もしかしたらこの出会いの後にエステルに変化が起きるかもしれないが、それはまだ分からないことだ。だから今は、彼女の行動に任せよう。
誰かのお膳立てのもとに話しかけるよりは自分から話しかけた方が後に残る影響も良いものになると思うのだ。
それにしても、例の大音楽家様の使う楽器は何なのだろう。とても気になる。聞けばよかったとも思うが、話さなくてよかったとも思う。
話しかけたらかけたで相手のペースに引き込まれそうだったから仕方ない。にしても色々とあったけど二日目も終わりか。
何日で目的地にたどり着くのだろう?
また早く新しい町に行ってみたいものだ。
名前・種・Lv
フェリックス・人・70
攻110/50 防222+45 魔163 精186+25 俊118+2 器118-10
HP273 MP269
スキル 鑑定 解析 毒魔術 浄魔術 毒耐性 発光石 浄風破裂 調理 解体 騎乗 装備装着 十頭蛇 病原十蛇 魔力剣
装備 黒覆布 聖銀長籠手 国亜竜鞘+鱗鉄短剣
耐40 80 40(35) 重+17
装備スキル 開放 閉鎖 武装
皆が寝静まった夜に見張りをしながら思う。
「だめだ、なんか素が出てしまう」
恐らく彼女と話すとこうなるんだろう。
やっぱり、だめだな。何のために弓を取ったんだか。
方言のキャラクターも出してみたい、しかし方言を正確に知らない。
だからしばらくは我慢せねば




