051 異世界転移物語・下
なんとか過去編終了です。
次話からメインストーリーに戻ります。
地面から伝わる振動、馬の蹄が地を蹴る音、複数。鉄がぶつかり合う音、複数。人の話し声。その中でもひときわ際立つ一人の声。
聞こえる様で、聞こえない。俺には何も聞こえない。
諦めがついたのか、安心したのか、俺の意識はいともたやすく落ちた。
次に目が覚めたとき、最初に聞いたのは、二人の人間の話し声だ。
「……ら、……て……しょう、………きっ…………で…」
意識がだんだん覚醒してくる。
ここはどうやらテントの様だ。俺は綺麗な簡易ベッドの上に寝かされている。まるで病人の様だ。
「知ら………、…こに……………たや……んて……いぞ」
その会話に聞き耳を立てる
「……し、さっき我々は確かに見……た、……に倒れて………年がいたのを」俺の事で話しているのか?俺を拘束しに来た奴らかもしれない。
でも、じゃあなんで、もう一人は俺の事をかばっているんだ?
言い争いはしばらく続いたが、やがて訪問者の方が去っていった。
今の言い争いと俺の現状、その二つを考えて、俺は相手がどんな人であろうと彼に従うことを決めた。
ほどなくして現れたのは40~50前後の男性だった。男性の顔はがっちりしていて、しかしその顔に浮かんだ笑みには優しさがにじみ出ている。
「おう、起きたかお前さん」
「——————」
喋ることを忘れたのどから出てきたのはかすれたうめき声だけだった。
「すまんすまん、忘れていた、飲め」
陶器の様な材質のコップに水が注がれている。毒だとしても俺は飲む。
躊躇なく水を飲み干す。
ただの水ではなかった風邪の時に飲んだ温かいスープのように体を癒す効果があるように感じた。その証拠に喉が復活した。
「あなたは」
そう言いかけて失礼だと気づく。
「ありがとうございます。」
それほど失礼でもないのかもしれないが、命の恩人だ、その相手にお礼もなく詮索から入るのは失礼であるように感じられたのだ。
「お礼は入らねえさ、助けたのはこっちの事情でもあるんでな」
「事情?」
「おおっと、話過ぎたかね、この先の話はお前さんがこちらの提案を飲んでからな」
「どんな提案でもお、私はあなたの提案に従います」
「はっは、なんでそんな重い決意の顔をしているのかは知らねえがまあ、そんな気負うな、俺はお前さんに恩を着せるつもりはねえよ」
「それでも、です」
「じゃあ、遠慮なく提案させてもらうぜ」
ごくりと唾をのむ。
「俺の率いる商団に入れ」
「それだけ、ですか…」
「ああ、それだけさ、ただし、契約書は書いてもらうぜ」
契約書?こちらの世界では特殊な意味を持つのか?
「契約書、書くだけ…?」
「あ?契約書の事知らねえのか」
「絶対破れないのですか?」
「まあそんな感じだ」
契約書は契約内容と破った時の代償を描いて血と名前で署名することで効果を発するものらしい。ただ、今回俺の契約書に書かれていた代償はとても簡単なものだった。
それは簡単に言えば行動不能状態になる、というものだった。
契約書に込められた魔力の分だけ持続するらしい。
商団に入ってからの生活はそれ以前と比べるのがおこがましい程に楽だった。商人たちの集まりであるため全員計算能力などはあるものの、俺の計算速度と正確性は群を抜いていた。
これは向こうの世界での教育の賜物だろう。こんな形で役に立つとは思いもしなかったけど。それと、理由ははぐらかされてしまった。
時が来たら教えるとかなんとか…
それと、名前は教えてもらえなかったので、俺は彼の事をオーナーと呼ぶことにした。それについては許してもらっている。
さて、長く話してしまったような気がするが、これが俺のこの世界でのスタート地点だ。元の世界への帰還をゴールとして、当面の間頑張ってみようと思う。
それと、もう一つの出会いがあった。
商団に入った最初の日、初めての事ばかりで疲れていた俺のところに来た者がいるのだ。
四角い影で、残念ながら人ですらなかったし、生物かどうかも分からないが、きっとこの世界にはスライムの様な存在もいるのだろうしこいつが良きものだろ言う事もあり得るのだろう。
その四角い影の持ち主は、立方体の体を持ち、夜の内ではよく目立つ白い体をしていた。
取り敢えずそいつの事を謎生命体、もしくは未確認生物UMAのどちらかとして呼称しようと思うが、謎生命体の方が愛着がわくな。
という事でよろしく、謎生命体【CUBE】。
どこまで話したっけな。
そうだ、その謎生命体は立方体で、金属質の白色の物体だ。普通に考えたら生命体とは考えづらいのだろうが、どうしても俺はこいつの行動に感情を感じてしまう。こいつは俺のいい話し相手になってくれた。相手は言葉を話すことはないが、俺の話に合わせて相槌を打つかのように揺れるのだ。その姿がとてもかわいい。
商団での日々は少しずつ楽しい物になってきた。
なんか、前の世界で段々面倒になってきていた人間関係がリセットされたことで自分も生まれ変わったように感じられるのだ。
恐らく服装の関係もあるのだろう。前の世界出来ていたシャツも今や使っていない、前の世界から持ってきたものはすべて、ぼろぼろのカバンの中に入っている。俺の住まいも移動された。俺がこの前に目覚めたときにいたのは応急処置用のテントだったようで、今住んでいるのはこの商団の本拠点だ。
服はこの世界に合わせたものを着ているが、これがなかなか着やすい。
まだまだ慣れないことも多いが、疲れた日には夜外で夜風を浴びているとCUBEが来てくれて、話を聞いてくれるのだ。
そのおかげで疲れがたまることはない。
CUBEの感触はぷにぷにとしていて気持ちがいい。立方体の角や縁は若干丸くなっていて、多分踏んでしまっても痛くはない。
俺は基本的に利益の集計や在庫の管理などの裏方の事を行っているが、それはオーナーが指名手配のような状況になっている俺に配慮してくれたかららしい。なぜそこまでしてくれるのかは分からない。
そうこうして働いていたある日、一日の仕事が終わり、CUBEに話をしていると、オーナーが現れた。
「お前さんここにいたのか」
「どうしたんですか?何か話が?」
「ああ、ちょっと話したいことがあってな」
「お前さんを助けた理由の話だ」
遂にその話が…
「お、そいつと仲良くなってんのか?それとも偶然会っただけか?」
あれ?またはぐらかされてる?おかしいな…
「いえ、最初の日の夜からずっと、ですがこいつは何なんですか?」
「お前さんを助けた理由だ、感謝しろよ」
「話が全く読めないのですが」
「そうだろうな、じゃ、腰を落ち着けて」
「少し話してやるよ」
「ありがとうございます、お願いします」
「ああ、お前さんを見つけたときは、そいつがお前さんの方向に反応してたんだよ。そうだな…さながら霧の源に反応する荒雉のようにな」
「すいません、ちょっと何言ってるかよく分からないです」
「そうかぁ、お前さん本当に何も知らないんだな」
「すいません」
「謝るようなことじゃねえさ、こっちも教える甲斐があるってもんだ」
「それで、こいつはいったい何者なんですか?」
CUBEをなでながら訪ねる。
「そいつか、そいつは…」
「まあまずは由来から明かすとするか。そいつはうちの祖先が代々持ち運んでいたもんだ、いつかそいつの持ち主になるやつを見つけるためにな」
「そんなに重要なものだったのですね」
「ああ、なんで先祖がそんなものを持っていたのかは知らない、だがそのために顔が広がる商人とかやってたんだ。相当に大事な物なんだろうな」
「そんな大事なものを私なんかが勝手にしてしまい、ごめんなさい」
「いいや、逆さ」
「逆?」
「言っただろう、お前さんを助けた理由がそいつだって」
「つまり?」
「お前さんがそいつの所有者だ。それは数多無数の神器の一つ、その実その中でも頭一つ抜きんでた性能の物だ。その名も【記録方体/メタルキューブ】」
「神器?所有者?…あの、情報が多すぎて整理できません」
「解説するのは神器でいいか?」
「はい、お願いします」
「神器は、神が作った物の事だ。武器だったり、道具だったり、よく分からない物体だったり果ては概念そのものだったり、その形は様々だ極論でいえば、この星自体も神器だ」
星が神器ってどういう事なんだ?よく分からないが、今は話を聞こう。
「そんな様々な形を持つ神器だが一つ共通点がある。それは一匹の生物を所有者に定め、そいつとその神器自体の運命を共にする」
つまり、俺だけのものになるという事か。
「そんで、そいつはお前さんに向けて反応した。あとはお前さんがそいつの所有者になれるまで成長するだけだ」
「とはいっても具体的にどれほどまで?」
「俺の持ってるスキルでお前さんのステータス、実力が見える。逐一報告してやるよ」
「分かりました。頑張ります」
仕事の合間に都市の外で魔獣を狩ったりすることが多くなった。
この世界にはレベルの概念があるらしく、あいつの所有者になるにはレベル上げをしなければならないそうだ。
こいつについてはこれからいろいろ知っていかないといけないのだろうがとりあえず今はもっと近いゴールが定まった。今の俺のゴールはこいつの所有者になること。その達成に向けて、頑張っていくことにしよう。




