049 異世界転移物語・上
元々一話の予定でしたけど長くなりそうなので分けます。
未登場キャラの過去編第2弾です
俺は、本当に普通の人生を歩んでいた。
それは本当だ。今は恐らく独身の人の方が多いだろう、
だったら俺は普通の人生を歩んでいる。
独身の方が多いよな?そうであってくれ、そうじゃないと俺はつらい。
でも、何故だか急に、普通の人生っていうレールから、足を踏み外して、
転落したみたいなんだ。
全く知らない規則と道の法則が運営する場所、それも国規模で、いやそもそも世界規模で。
どうやったって帰れなくて、どうやったって適わなくて、どうにかして還したくて、どうなったか辿り着いて、どうしてか、
今ここにいて。
あの時、俺は、じゃない、俺の普通の人生というものが、今にも崩れそうな橋の上に引かれたものだったって気づいたんだ。
何事もない、いつも通りの帰り道。
一つも異常はなく、異常しかない明るい闇夜。
月が出ていないっていうのに、町は隅から隅まではっきり見える。
手に持つべきものを持ち、横にかざすと門が閉じて、道が開く。
上には光る看板、いくつかの矢印とカラフルな記号が道を指す。
そんな道案内などに多くの人々は眼もくれない。
それはここに縁がない人のための物であり、ここに毎日のように通う俺達に宛てられたものではない。
階段を上った先に見えた者は黄色い凹凸のついたタイルが両側に並び、白い壁と透明なガラスがフェンスの様に続く太い道。所々に入ってきた数には見合わない申し訳程度の椅子が並び、上へ向けてひたすら回り続ける階段のために時々道の中心に道を塞ぐ箱が立つ。
適当な場所で立ち止まり、いつもと同じ高さの目線で、いつもと同じ姿勢で待つ。
異常など存在しえない真っ暗な地底、いじょうでしかない昼のように明るい地底。
白い壁で道と隔絶された横穴をその目を黄色に光らせて細長い鉄の体の蛇が走ってくる。白いフェンスの様な壁のガラス部分が白い壁に飲み込まれて行き、そいつの横腹が開く。中へと人が入っていき、その横腹に着いた窓から外を眺める。内部に声が響き、何人かが出る。それが何度か繰り返され、遂に自分の番がやってくる。
そいつの横腹に空いた穴から外へと出て、先ほど歩いた道よりも人の少ない道を歩く。
世界がひっくり返ったのは、もう一度、ゲートをくぐった後ぐらいだっただろうか。
手をかざし、ゲートが開き、止まらずに歩く。
異常しかない光に照らされた闇夜、異常など何一つないようにふるまう、人々と世界。果たして俺は、俺にとってはそれが異常ではないと、断言できるのだろうか。今はまだ分からない。けれど、その世界にはもう帰れない俺は、いつかその世界こそが異常だったと言えるようになるんだと思う。つまりそれは、俺が、真の意味でこちらの世界の住人になった時だ。
突如として、眩暈がし始める。
足がふらつき、体が熱を発する。それとは反対に、手の先や足の先が凍えたように冷たい。心臓を、何者かがちぎっては新しい物を張り付けて組み替えていくような感じがする。痛みに耐えかねて、倒れる。周囲から向けられた、奇異の目。
そこには一人もいなかった。街中で突如倒れてもだえ苦しみだした俺を警戒するように避ける人はいても、俺のために何かをしようとし助けてくれる人は、一人もいなかった。
苦しみに閉じていた眼を開くと、その目は異常を捉える。
指が、無い。それだけではない。視線を下すと俺の体は腹から太ももにかけてもうなくなっていたのだ。不思議と痛みはしなかった。
それとも、俺は壊れていたのか。
考える間もなく、足の先も消えていく。防ごうと必死に足を動かすも、容赦なく足は消えた。なぜか、体がないのに足が動かせた。
もうすでに異常だ。
ああ、もう首がなくなっていく。口も、あごから少しずつ消えていって、
頭の上からも消えていって、最後に残った目と鼻も、この世界から消え去った。
ここは、どこだろう。
明るさに慣れた目は、真のなに一つ異常の無い闇夜の中では何も見えない
俺は、石畳の上に倒れていた様だ。
一部もかけず、どこもいたまず、持っていた荷物と、来ていたスーツのみで、何も分からない場所へと放り投げられたのだ。
何も分からない。自分の姿っている場所なのか、知らない場所なのかすら分からない。それを知るには、俺の持っている情報は少なすぎた。
はるか道の奥から光が道に円を落としている
人だ。
明らかにあれは人の物だ。そちらに向かって歩く。
まるで、誘蛾灯に誘われる蛾のように…
「おい!変な奴がいるぞ!」
「あの服…見たことない!異国の間者かもしれない!気をつけろ」
良かった言葉が分かる。日本であるようだ。
でもおかしいな…
二本にこんなつくりの町はなかった気がするんだ。日本昔ながらの伝統的な建物というわけでもない、建築には詳しくないので、どの地域のどの時代の建築様式化など、たとえ今が昼でもわからなかっただろう。
「巡回騎士だ、貴様は何者だ!名を名乗れ」
「お、」
違う!
「私の名前は神田宏輝です」
「カンダ?そんな名前あるか?」
「無いな…もうすでに門は閉じている、今日通った冒険者や商人の名簿にはカンダという名前も、コウキという姓の冒険者もいないな。」
気になったことがある。
それは、神田という苗字が名前として認識されているのだ。それに発音もどこか違和感があり、海外なのではないかと思われる。
でも、なんで言葉が通じているんだろう。確かに俺はかなり多くの海外の言葉を学んでいる。でも、今俺が話しているのは日本語だ。
それなのにどうして…
「おい、お前をどうするか決める。そこの奇妙ないでたちの男、我らについて来い!」
「ついていったら、どうなるんですか」
「少し拘束するだけだ。お前の身元などが確認できればすぐに開放する」
「できなかったら、…どうなるんですか」
「すまないが、信用が置けるまでは拘束させてもらう。お前のその身に魔術などが刻まれていないかどうかを確かめなければならないのでな」
魔術という言葉ではっきりした。ここは俺の知っている世界じゃない。
彼等の手に持っているランタンからも分かる。ここは平気で魔術が存在している世界なんだ。
どうして、俺だったんだろう。どうして、ここだったんだろう。どうして、あのタイミングだったんだろう。
疑問は尽きない。
でも!
逃げた。
巡回騎士を名乗る二人の男から逃げた。スーツは決して走りやすいとは言えなかったけど、俺の足は、決して速いとは言えなかったけど。
「な、待て!待つんだ!」
「おい、不審者が逃げたぞ!」
「報告しに行く。お前は追え!」
「分かった門は閉じているはずだが、念のため確認して回ろう」
「何か企んでいるようには見えなかったが、彼はいったい何者なのだろう?」
「しかし、あの闇夜に紛れるかのような黒い服は安心できない。追おう!」
「それは、当然だ!」
逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて、道の果てにたどり着いて、
「閉まった門…」
行き止まりだ。後ろを振り向くと光が見えた。
とっさに道をはずれ、路地の方へと入っていく。
自然と狭く、家と家の隙間のようなところのさらにくぼんでいる所に体を埋める。
この先、どうすればいいのだろう。俺は多分顔を覚えられた。
門を出るにしても恐らく開くのは朝、そこで確実に見つかる。
そこを何とか出られたとしてもその後もきっと彼等は追いかけてくる。
それを、何とか振り切れるだろうか?
少しだけ、戻って拘束されることも考えた。けど、俺はもうすでに一度逃げている。きっともう一度戻ったとしても疑われたままだろう。
もう、後には引けないのだ。絶望的な気分で空を見上げる。
丁度、雲の隙間から細い月が出てきたところだった。
そして、星がとても綺麗だった。
眠くなってきた。そうだ、こちらに飛ばされた時点でもうすでに深夜だった。それからまた走って、今日は帰るのが普段よりもさらに遅かった。ただでさえ体が疲れているのにさらに体が疲れるような運動をして…
明日又走れるように、今日はもう寝よう。
むしろ、このままこれが夢で終わってくれれば…
朝だ。
くぼみから体を出すと、体のあちこちが痛む。狭い中に体を入れ込んで無理な体勢で寝たのだから当然だ。朝まで見つからなかったのは俺が昔からかくれんぼが得意だったからだろう。いつも、ずっと見つからなくて、それが、小さい頃は自慢だった。周りも褒めてくれて…だけど学年が上がり、年齢を重ねるごとに馬鹿にされるようになった。それで、いつしかやらなくなって。疲れも全然とれていない。それでも、俺は歩く。それしかないのだ。調査が進んだらきっとここもいつかは見つかる。この家の人が見つける可能性もある。だから、今は、逃げないと。
それで、どこか落ち着ける場所を見つけて。
門の場所まで戻ってくる。正面からではなく、路地の裏から門を見る。
開いている。まだ、人通りはあまり多くない。
今、駆け出して。そのまま門を突破しよう。それしかないんだ。
呼吸を整えて、覚悟を決めて。
走り出す。「お、おい何者だ!止まれ!」
スーツを脱ぐ。下のシャツは脱がず、スーツを投げて門番の目を塞ぐ。
スーツを脱いで少し走りやすくなった。一石二鳥だ。
このまま逃げてどこかに隠れよう、それで少しずつここから離れるんだ。
そして、どこかで、ゆっくりできる場所を見つけて。
それからだ。それから俺は変える方法を探すんだ。そしていつか、また日本に帰るんだ。




