044 女王バチ
無音の足音と共に人型の何かが出てきた。
それは何かとしか言いようがなく、人ではなく、蜂でもなく。
人の様な容姿を蜂が侵食しているような、直立する蜂が人になりかけているかのような。
そんな生き物だった。
「人ではないか」
蜂の顎のついた口を頬まで開いて獰猛に笑う。
「人は伝えろと言ったはずだ、まだ生きているから良いものの」
誰に対してだ?もしかしてあのハチもどきに?
「我の命令に逆らうな」
蜂に対して指、いや指の先から伸びる針を突き刺す。
すると瞬く間に蜂は紫色に変色し、のどが泡立つように膨らみ、地面に落ちた。刺された蜂を起点に周りのハチに感染していくかのようにどんどんと墜落する蜂が増えていく。こいつ家族を何とも思っていないんじゃないか?だとするとあの爆弾蜂作ったのもこいつか。
この糞外道女がもしかして女王蜂的存在?
「人だ人だ。久しぶりだなあ」
「美味しくないよ」
「美味しかろうとまずかろうと関係ない、どちらにせよ貴様の体は【ミツバチ】にするからな」
ミツバチってあの爆弾か?あの蜂って別の生き物からつくられていたのか!こいつ重度のサイコパスな気がしてきた。
「つまりあの蜂は同じ種族ですらなく、他の生物を改造したものだと?外道蜂」
「クイーンと呼ぶがいい、もしくは女王様だ」
「やだね、外道蜂」
「…不快である、死ぬべきである、この人間!」
「優雅さ無くなってるよ、もしかしてそれが本性?」
4枚の翅が霞み、見えなくなる。直後、外道蜂の姿も消えた。
ず
痛みに気が付いた。
右鎖骨下、そこを恐る恐る見ると、白く硬い何かが突き刺さっていた。
本当は分かっている。あれはさっき見たものだ。つまり、
蜂の指先の針。
「口はよく動くのに、体は固まっているなあ」
無言で短剣で顔を斬りつける。
カン
硬い物にぶつかる音がした。
みれば、顔が硬質化し、短剣で傷をつけれていなかった。
「うわかt・・・ァ」
へ?
血?傷口の変色?
どうなってる?
「毒、効いているなあ」
は?嘘だろ?
俺よりも毒が強い…?
勝てないじゃん。
嘘だろ。
無理だ。
短剣も頼みの毒も、全てが無意味になっている。
どうすればいいんだ。
勝てない。万策が尽きた。
高く放り投げられ、着地する。
即座に横から殴り倒され、蹴り飛ばされる。
立ち上がる。
「楽しい楽しい、その絶望の顔をなぶるのが楽しいなあ」
「うるさいなぁ、今模索している途中なんだ。邪魔しないでくれ」
「無駄だ無駄だ、そのまま抵抗せずにいれば一生生きながらえるぞ、そうするがいい」
打撃はどうだろうか?籠手の打撃なら通用する可能性は…
蹴り上げられ、吹き飛び倒れる。
だめだな、捉えられない。
広範囲の攻撃じゃないと。
「無視か、我の話を、存在を拒絶するな!人間!」
あ
顔面を思い切り殴られた。
いってぇ
顔を抑える。血が出ている。さっきの吐血は毒によるものだったけど今のは確実に物理的なダメージによるものだ。
「さっきから定期的に素が出ていますよ、外道蜂」
「素ではない、貴様が我の怒りに触れているだけだ、人間」
それは知ってる。
「生命はすべて我の機嫌を取っておればいいのだ」
「機嫌を取れっていう奴初めて見た」
ご機嫌取りって嫌いそうなものだけど。
「うるさい、逆らうな、無礼であろう」
再び殴り倒される。
こいつが遊んでるうちに打開策を見つけないと…
幸い俺の高めの防御力のおかげでダメージ自体はそこまで深刻ではない、しばらく耐久出来そうだ。
もう一度現在の俺の状況を整理してみる。
まず物理攻撃について、短剣の攻撃は異常な反応速度で防がれる。
籠手の殴りは同じ理由とあの速度のせいで当たらない。
なので範囲攻撃をする必要がある。
しかし、現在の範囲攻撃スキルは『浄風破裂』と毒系統の技のいくつかのみであり、そもそも『浄風破裂』は死霊以外には攻撃能力を持たないので攻撃スキルとカウントするのもおかしいかもしれないが、
しかもさらに酷いことに、こいつの毒の力は俺の毒耐性を上回っていて、そこから俺の毒の力をこいつの毒が上回っていることも分かる。
何故なら毒耐性は自身の毒が強力になるのに合わせて強まっていくからだ。
つまり、俺の攻撃でこいつに通用するものはない今のところは(…)。
とはいっても、今から短剣や格闘術の範囲攻撃スキルをあるかもわからないのに獲得しようとするのは難しすぎる。そもそも俺に才能があるのかってところから始まるしな。
よって残された手段は毒を強化するという事。
しかしこれも問題がある。もちろんそれは、毒魔術が一朝一夕でそんなに大幅に強くなることはありえない、という事だ。
つまり、現在の力から進歩することなく相手の毒耐性を突破するような強力な毒を獲得しなければいけないわけだ。
一見矛盾していて不可能に思えるが、耐性のシステムによっては可能なのではないかとも思える。
例えばタコの胃の中で戦ったあの蛙。
あいつは『溶毒』は効かなかったが、普通の毒は効いて、動きが鈍った。そんな風に、毒も毒のタイプによって体制に違いがあったりするのではないだろうか。そして、個々人によってどういう毒が強いのかなども違うのではないだろうか。ちょうど、俺の浄魔術は『再生』特化であるように。
だとすると俺は何の毒が強いのだろうか。
それを確認する手段として、使う毒のパラメータをいじれる技の出番だと思う。いくつかの技では出す毒の方向性を調節できる。それを今までは感覚で操作していたが、詳細まで使って確認しようと思う。
出来ればあの蜂の使っていたものと思われる薬毒系ではないと嬉しい。
より詳細に操作しようと意識した段階で、頭の中にあり得ざる情報が流れ込み、その結果『鑑定』や『解析』の時と同じように視界に幻覚の様な文字列が映る。
慣れていなくて見にくいので目を閉じて文字列を見やすくする。
書く毒の方向性ごとにどれくらいの範囲操作可能かが異なっている。
そしてその中でも頭一つ抜けているのが…
「はは、皮肉なもんだ」
俺の一番強い毒がこれかよ
「黙ったまま反応がなくなったと思えば、独り言か。我の存在を無視するなああ!人間!」
外道蜂の姿が消える。
手を目の前に伸ばし、開く。
開いた右手の一歩先に外道蜂の顔が現れる。
「『開放』」
《新種毒獲得∴新毒最適使用媒介スキル獲得》
「『毒霧噴射』《》
『病毒』」
名前・種・Lv
フェリックス・人・68
攻107/50 防216+45 魔159 精181+25 俊115+2 器115-10
HP266 MP262
スキル 鑑定 解析 毒魔術 浄魔術 毒耐性 発光石 浄風破裂 調理 解体 騎乗 装備装着 十頭蛇
装備 黒覆布 聖銀長籠手 黒亜竜鞘+鱗鉄短剣
耐40 80 40(35) 重+17
装備スキル 開放 閉鎖 武装
雨のように蜂の爆弾が降り注ぐ、岩の盾で作った砦ももうすでにいくつもの盾が破壊され、幾つも新しく形成している。
永遠に続くかと思われるその猛攻のさなかで
「ローシェさん…大丈夫なんですか?ぼ、僕、もう駄目だと」
「なぁ~に怯えてんのさ、私は君の先達だよもっと信頼しなさいよ」
「でも、この状況を切り抜けられないんじゃ」
「まあ見てなって、私の力を示してあげようじゃないか」
「でも、さっきも一人連絡が通じなかったって…急がないとまずいんじゃ…」
「だから私を信じろってば、これでも詠唱さえ重ねれば魔術師としてできることはほとんどできるんだから」
「で、でも…」
「何度も言うけど、まあ見てなって」
連絡をする手段がスキルのような方法で助かった。主導だったら連絡を返せなくて心配をかけたかもしれない。
全員の生存確認が出来ただろうか?その情報を獲得することすらできない。私は動けない。外は見えず。爆発の衝撃だけが響く。
どうしよう。何とかしないとこの爆撃が無限に続く恐れがある。
どうにかしないと、いけないんだけど…
幸い、この防御は破壊されない。だから特殊なスキルでも使われない限り今は絶対安全だ。
だから考える時間はいくらでもある。
さて、急いで考えないと。
こちらはこちらで生き残るのに必死だ。
何とかしてこの爆撃を突破し、フェリックスの安否を確認し、場合によっては救出しないといけないにもかかわらず。
最悪の場合状況はどんどんと悪化している。
フェリックスの状況が危険だった場合、おそらく彼は刻一刻と死に近づいている。せめて安否を確認し、状況を共有したい。
そのためには防御だけではだめだ。
どこかで攻撃に転じる必要がある。
しかしこの爆撃は絶え間ない。それに障壁の毛ずれ具合からしても装備が一瞬で破壊されそうだ。
どうにかして流れを止め、そのすきに攻撃に転じて殲滅。そしてほかの応援に向かう。
だから、絶対に攻撃に転じることは必須なのに…
「こいつら!」
早く、しないと、いけないのに!
現状考えている中では三大ヤバいというか狂ったというか、な女性キャラだと思います。
フェリックスが長い考え事をしている間も一人お手玉みたいな事されたり殴られたり転がされたりしていました。
だとすると結構集中力凄いってことになるのかな?




