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毒と浄は輝玉に宿る  作者: 狐池
旅の始まり
29/110

029 胃の中の蛙大海を知らず

『毒針』を構えた瞬間、割って入る影があった。

その影は一瞬で黒い十字の大剣を出現させ、どんどん触手を切り払い、防ぐ。

その大剣の一撃と一撃の隙間を縫って『毒針』を叩き込み、今までよりもはるかに効率よく、迫る触手の中に道を切り開く。

「ありがとうマリアナさん」

「持久戦は苦手だから、時間稼ぎにしかならないけど」

「それでも助かる」

マリアナさんの助力のおかげで、2本目を何とかしのぎ切った。

3本目は今よりも速い。

それでも、マリアナさんは剣をまっすぐに突きこみ触手を引き裂いていく。

俺は何本もの『毒針』を射出することで、部分的にでも触手を崩していく。そうして三本目を防ぎ切り、合計三つの触手の切れ端が転がる海の中で、まっすぐに触手を引き裂いていたマリアナさんの大剣が止まった。

「!」

「どうしたんですか」

「硬い」

「え?」

「今までとは比較にならない」

それは…どういう?

「大剣が、通らない」

「…それは、つまり…」

その直後

体が浮き上がる感覚とともに触手の薙ぎ払いに巻き込まれ吹き飛ぶ、だがそこで触手を止めるような優しい相手ではない。マリアナさんもろとも再び立ち上がる前に再び迫ってきた触手によってふたたび吹き飛ばされる。

触手自体は変わっていないはずだ、だからこれはもしかして人間が筋肉に力を入れて硬くできるように、タコも触手に力をかけて硬くすることを覚えたのか?

しかもとても速かった。

三本目も相当だったが、今度はそれを上回っていた。

どうすれば…

その時に、聞こえた。



「そのまま跳んで!」

訳がわからないままに、けれど本能では従うべきだと理解して。

跳び上がるも…

「しまった、体勢が崩れたままで…」

足を踏み外すような感覚、俺が跳び損ねたという事はしっかりと理解できた。

けれど、

「は?」

タコの頭をも上回るような高さまで跳び上がっていた。

とっさに最低限体勢を整えて上手く跳んだマリアナさんに至っては水面近くまで上昇していた。

下を物凄い速度で触手が通過する。

今度こそ、触手は空振りだ。

だが、安心してもいられない。今度は残った触手が海中を這って俺とマリアナさんを追ってくる。

でも、ローシェさんが復活したってことは、

「ウチのリーダーがバフもりもりの一撃を飛ばしてくるぞー」




ぶつぶつぶつぶつ…

復活したとたん跳躍能力強化の魔術をかけさせられ、予定で決まっていた攻撃能力強化魔術をいくつも展開し、その詠唱に追われていたローシェは、いつにも増して口を高速で回す。

目は二人を捉えている、ここで一気に触手を何本も切り落とし、カイの射角を器用に遮っていたものがなくなる。

なぜならこれは放射状に拡散する一撃

これは、そういう一撃だ。

先ほどよりももっと幅を持たせ、広範囲の触手を巻き込む。

触手の再生は即時では行われない、よってカイの追撃が入る。



「リーダーさすがっす」

「腕がなまっていないことは確認済みなんで」

「いくっす」

その一言の後、カイの弓が輝き始める。

「打撃矢で攻撃、『多段流星雨』、射!」

数本の矢が放たれる、ただの屋ではなく、全てが流れ星の様に尾を引いて輝く矢だ。

その矢は順次何段にも放たれ、まるで海の底に突き進む流星群だ。

幾つもの矢がタコに命中する。



通常タコの皮膚を貫くはずの矢はタコの柔らかい皮膚に弾かれて刺さらない。

「あ、違う」

きっと意図的に貫かないようにしているんだ。

この輝きからして恐らくカイさんのあの攻撃は魔力式、だからまた墨が出始めるとカイさんの矢の攻撃が弱まってしまう。

カイさんの矢による猛攻はタコのHPを確実に削っているだろう。そして連続する矢の雨が止んだ時、タコに動きがみられた。

リーダーとカイさんのいる高台に背を向けて進む。

「止めろ!」

リーダーはこの行動をまずいと判断したらしい。

ならば俺も従おう。

何をして…

え?もしかして…方角的に巣穴に向かってる?

巣穴にまっしぐらに進むタコに向かって泳ぎ進む。

巣穴に潜られてもあまり関係ないと思うけどな。最初だってすぐに引きずり出せたし。

ああ、そうだ、あの時とは状況が違うんだ。

あの時は俺たちがタコの安眠を妨害したけど今回はタコの意思で潜っていくから俺達も入らなきゃいけなくなるのか。

それは阻止しないと!

ローシェさんは遠距離からの攻撃で動きを止めようと試み、リーダーは技の反動で魔力が減少し、元からタコから離れた位置にいた上に運悪くタコの巣穴は反対の方向だ。

魔力を使用してスキルで加速しようにも不安が残るだろう、リーダーは恐らく間に合わない。カイさんの弓による援護射撃が途切れているのはさっきの攻撃の反動だろうか、だとするとカイさんも間に合わない可能性が高い。

ローシェさんの遠距離攻撃と俺とマリアナさんが戦力だ。

「『毒針』『毒針』『毒針』!」

今回の毒は薬痛毒、うまくいけばタコを痛みで止められる。

案の定逃げるだけのタコに毒針は命中し、毒が流し込まれるが…

量が足りないのか?

あの巨体なら相対的にたくさんの毒が無いと効き目が薄いのだろうがそこまでの毒を出すのも難しい。

それにおれの<俊敏>では巨大なタコの速度に追いつけない、俺も間に合わないのか?



「う~~ん、止まる様子無いね」

「そもそも魔術が届いていないぞ」

「なんでさ!」

「今もうっすらと墨を吐き続けている、口から墨が吐き出されているのが見える」

「リーダー相変わらず目が良いなあ」

「てかリーダーもここからの魔術なら打てるでしょ、私より劣りはするだろうけどね」

「あの斬撃、とてつもなく魔力を使うんだよ、拡散していくから遠くでもそれなりの威力維持しようとすると一気に魔力が空になる」

「もしかしなくても今リーダー魔力無い?」

「ああ」

「どっちにしろ無理な状況だったね☆」

「明るいな」

「フェリックス君はこれ間に合わないね、マリアナちゃんに託すしかないかな」

「マリアナが止めてくれれば楽だが、これは止まらないかもな」

「うん、止まらなかった時のことを考えた作戦を立てた方が良いかもしれないね」

「じゃあ一度戻ってくるように伝えるべきだな」

「おーーーい!」

「!」

その声が届くことはなかった。



間に合わない、間に合わないけど諦めるべきではない、最後まで足搔くべきだ。

そうして進んでいるといつの間にか距離が縮まっている。

「何故?」

引き付けようとしている?でもそんな知性があるわけない…

いやもしかしてあるのか?さっきだってみようによっては常にカイさんの射撃の射線を触手で防いでいたし。

これは一度タコに対する評価を改めないといけないかも…

「おーーーい!」

引き込まれる、何がどうなっているのか全然わからない、海の中に渦のような流れが出来てる。

それだけしか分からない。

流され、集められる先には…

「タコの口!」

喰われるっ!!—————




流されていく感覚だけがある。

此処は何処なんだろう。

暗い、海上からさす日の光すらない。

でも

「普通に考えて口の中、胃に向かってるんだろうなー」

正直喰われたという事への絶望感はなかった、毒耐性であわよくば消化液の酸性を防げないかなとか思っていた。

ん?上がっている?

下ではなく上に向かって流されていくように流れの向きが変わった。

直後、薄明るく、何もない部屋に打ち上げられた。

ここは部屋というより、

「ぅ、あ」

思わず振り向くとマリアナさんが打ち上げられた所だった。

マリアナさんは俺よりももっとタコに近づいていたはずだ。

そうだ、状況整理をせねば。

確か、俺はタコが周囲の水もろとも俺たちを吸い込んだことによって食われた。

そして流されて行った先にはこのだだっ広い部屋があった。

でも部屋というには壁も床も生々しすぎる。

全体的に丸みを帯びた形状からも人工的に作られた部屋でないのは確定だろう。

まあ、こんな深く考えずともここはタコの胃の中だと思うが。

そもそも広い。

俺は生物学に詳しくないので分からないが、タコの胃はこんなに広い物なのか?全体の半分ぐらいは胃という事になるぞ。

ちょんちょん


あ、そういえば、マリアナさんが起きたみたいですね。

「おはようございます」

「此処は何処か分かる?」

「多分胃の中」

「なんで胃の中で生きてるの?」

「分からない、胃液が出てこないのは確かにおかしいけど」

そもそもタコって胃液出すのだろうか。

まあ十中八九出すだろうが。

でもなぜ出さないのだろう。


ゲロ

もしかしたらもう胃液を出せないもしくは出す必要がなくなっているのかもしれない、それがどんな状況かは分からないし、そもそもそんな状況になったとして体の仕組みが変わるのかどうかも不明だが。

ゲロ

「なんかいるな」

「蛙だね」

「なんでタコの中に蛙がいるんだよ新手のマトリョーシカかよ」

「よく分からないけど敵意を向けてきているから倒すべきだと思う」

「そうですね」

じゃあまず手始めに

ベシャ

「……何あの毒々しい液体」

「試しに『溶毒』効くか試そうかなって」

「無言で惨いことしないで」

「胃の中に住んでるから耐えるだろうなって思ったから最初に試したんですよ」

溶毒も胃酸も似たようなものだから、おそらくずっと井の中に住んでいたであろうこの買えるなら余裕で耐えるのではないか考えた。

結果は予想通り、蛙は『溶毒』をかけられても平然といる。


ピクッ

ザンッ

おお~

「出会い頭に斬りかかるのはひどいに入らないんですか」

「向こうが動こうとしていたから、動かれるならば先手を取りたかった」

わずかに跳び上がる予備動作を見せた蛙に斬りかかり、空振りしたが、特に思う様子もなく戻ってきたマリアナさんに尋ねる。

「それに敵意はあった」

「へえ~」

俺には敵意とか感じる力ないから分からない。

でもだとしたら、倒す方法を探さねば。

相手はかなりの高機動、強いて言うなら跳び上がって空中にいる間が狙い目という事ぐらいか。

いつのまにかマリアナさんは陸上用の装備に変わっている。

「マリアナさんどうやって装備変えたの?」

まさか装備品全てが大剣の様に消したりできるわけでもないだろうし。

それに対しマリアナさんは訝しむ様子を見せながらも

「『装備装着』結構簡単に取得出来て使い勝手が良いからほとんどの冒険者が使うスキルだけど」

「知らなかった」

「かなり有名だよ」

常識ないのがばれる。

ザンッ

再びマリアナさんの大剣が振られる。

マリアナさんの大剣に弾かれて蛙の舌が宙で踊る。切断は出来ていないため、すぐに引き戻されて行った。

「戦おう」

「はい」

こちらも臨戦態勢になる。



飲まれた!!

周囲の水ごと吸い込んで飲み込まれた。

こちらは二人失った。対して向こうは守りの体勢を固めている。

何とかして助け体が助けるためにはどうすればいい?

その間にもタコの行動は続く。今度は飲み込んだもののうち水の身を噴出した。

間一髪でそれを回避する。

「口を破るか…!」

それしかないと判断する。そのため巣穴の入り口から口を破壊し、こじ開けようとして。

海中に墨が充満した。

「ローシェ!」

「魔力拡散するから届かないし、視界を開けそうな魔術無い!多分全部あんま意味ない!」

「そうか」

もう一度、作戦を立て直さねば。

焦りが募る



名前・種・Lv

フェリックス・人・57

攻93/50 防183+45 魔137 精152+25 俊101+2 器101-10

HP226 MP226

スキル 鑑定 解析 毒魔術 浄魔術 毒耐性 発光石 浄風破裂 調理 解体 騎乗

装備 戦闘用水着 水中呼吸器 水かき 聖銀長籠手 黒亜竜鞘+鱗鉄短剣

耐70 40 60 80 40(35) 重+35

装備スキル 開放 閉鎖 武装 呼気排出 吸気吸入


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