あのね、聖女様っているんだよ
この教会に集うのは大抵が悲しい子どもだ。捨てられたり、殴られたり、色んな理由で行き場を無くし、人に言えない過去を抱えた孤児が辿り着く場所。けれど悲しい子供はいつの日か笑顔になれる。だって私達にはシスターがいるから。私達の面倒を見てくれるシスターは慈愛に満ちていて、まるで聖女さまだ。何処かで声を殺して泣いている悲しい子供を見つけ出し、地獄のような日々から救い出してくれる。他の大人は信じられない。シスターだけが心の拠り所だ。
「また殺人だとよ」
「これで18人目か」
「殺人鬼が彷徨いてちゃ、おちおち外も出歩けねぇ」
買い出しの途中、大人達の立ち話を小耳に挟んだ。夫婦が滅多刺しにされたとかで、街はその話で持ち切りだった。おっかないなぁ。フードを目深く被り直して急いで帰路につく。
「あら、お帰りなさい」
教会に戻るとシスターが笑顔で出迎えてくれた。朝から姿が見えなかったけれど、出先から戻っていたようだ。シスターは木桶に張った水で手を洗っている。木桶のなかでは汚れた赤が揺蕩っていた。
「シスター、その子は?」
彼女の傍らに怯えた目をした子供が立っていた。殴られた顔は腫れ上がり、襤褸のような服から覗く手足の至る所に痣が目立つ。日常的に暴力をふるわれていたことが一目で分かった。
「この子はジャック。新しい家族よ、仲良くしてあげてね」
「はい」
シスターはいつものように優しく微笑む。足元には見慣れた包丁が転がっている。
小さな手を引いて廊下を歩く。ジャックはまだ怯えた様子で、ずっと俯いたままだ。
「私も、キミと同じだったの」
私の言葉にジャックが顔を上げた。
「毎日酒浸りの両親に殴られて、潰れた右目からは涙も出なくなって………だけどシスターが助けてくれた。あの両親が二度と私に酷いこと出来ないようにしてくれた。救ってくれた。誰もが見てみぬフリをするなかで、シスターだけが手を差し伸べてくれた。あのね、聖女様っているんだよ。私達みたいな子供を愛してくれる優しい人もいるの。シスターと一緒にいれば大丈夫。今は無理でも、いつかジャックも笑顔になれるよ」
「…………うん」
笑い掛けると、ジャックは涙を流しながら何度も頷いた。
「随分辛い思いをしたのね………でも教会ならもう安全よ。大丈夫、怖いもの全部から守ってあげる」
そう言ってシスターは、いつも優しく微笑んだ。
自分を助けてくれる人が必ずしも善人だとは限らないけど、自分の味方をしてくれる人は自分にとって善い人に違わない
っていう話を書きたかったけど、難しいです
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