思惑
「一桁台の魔道船の艦橋の設備は他の艦とは違うな」
フィスさんの船であるフィフス・エンジェルに乗艦したおじさまが感想を言いました。
「言っておきますが、エルナ様が許したから特別に乗せたのです。爺さんは特別にサブシートに座るのを許可しますが、お連れの奴は立っていろよ」
そう声を掛けたのはフィスさんです。
これから、ワグナー公爵家の領地に向かうことになったのですが、おじさまは私達の船に乗ってみたいと言うことで、私がフィスさんにお願いをしたのです。
フィスさんとしては、私達以外は乗せる気がないのです。
しかし、私のお願いなので、本人ともう1人までと言う条件を付けたのです。
部下の方達は当然のようにおじさまの護衛が少なすぎると反論をしていましたが「余計な奴らが付いてきてもいいけど、途中で捨てるから飛べない奴は死ぬ覚悟をしろよ?」と言われて険悪そうな雰囲気になりましたが、おじさまが強く命じたのでそれ以上のことにはなっていません。
おじさまに同伴したのは、カスパー少佐と言う副官の方です
少し厳しそうな感じのする方ですが、礼儀正しい軍人さんのようです。
アヴェルさんは、ノルンさんと一緒に隣に浮上している巡航空母の方に乗っています。
必要最低限のクルーを同乗させているみたいです。
残りの方達は、数隻の通常の魔道船を古代都市に駐留させてお留守番のようです。
本国には連絡をしたらしく、王家の直轄の部隊が到着したら引継ぎをさせてから来るそうです。
古代都市アズラエルガードは、おじさまの家であるワグナー公爵家のものとはせずに王家に引き渡すことにしたそうです。
おじいさまもフィスさんと同じことを考えているのか、バートランド王国に近すぎるので自身の直轄地にするには危険度が高いと判断したようです。
しかし、基地の有用性は説明したそうなので、王家としても欲したので高く売りつけたとのことです。
都市機能については、生体登録ができるようにしてくれたらしいので、現在お留守番をしている方が王家の代表の人に譲渡すれば管理権限が移せるそうです。
「ところで、他の船の随伴艦登録はした方がいいのですか?」
「いや、このままわしの旗艦を先頭に領地に向かう方が良いだろう。姿を消して敵を奇襲するわけではないからな」
「あっそ。じゃ、爺さんの船の左舷に並ぶことにするよ」
不愛想にフィスさんが答えるとおじさまが乗ってきた大型艦の左隣に並んでいます。
右側には、アヴェルさんが乗っている改修した巡航空母が並んでいます。
その後方に他の魔道船が続く形になっています。
「それにしても古代の魔道船と言う物は乗り心地も快適だな」
おじさまは、私の席の隣のサブシートと呼ばれる席を少し倒して楽な姿勢で座っています。
私は、本来でしたらフィスさんの登録者になった人物が座る艦長席に座っています。
他にある席で良いと言ったのですが「僕達のリーダーになったエルナ様が座るのが相応しいので座ってください!」と、フィスさんに言われて座っています。
シアは私の近くを譲らないので背後に立っています。
一緒に座ることを提案したのですが「エルナの膝に座って負担を掛けるわけにはいきません」と言われてしまいました。
たまにはシアを抱き抱えるのも良いと思ったのですが、非常時に即座に行動が出来ずに私に何かあってはいけないから立っている方が良いと言って聞かないのです。
おじさまの背後にも副官のカスパーさんが同じように立っています。
他の人達は、コアに触れて操船をしているフィスさんは中央にいます。
それ以外の皆さんは、船内のどこかにいると思います。
コレットちゃんは最初から居たのですが……艦長席に座っていて出航を命じたりしたので、フィスさんにつまみ出されてしまったのです。
動き出すまでは指令室の扉の向こうで騒いでいましたが、しばらくすると諦めたのか声がしなくなりましたのでどこかに行ったみたいです。
その後は何事もなく空の旅が始まりました。
しかし、目的地までどのくらいの距離と時間があるのか聞かされていませんが、暇です。
私もおじさまのように少しだけ席を倒して流れる景色を眺めていたのですが……飽きてきました。
軽く欠伸をしてしまったのを背後を振り向いて見ていたフィスさんが声を掛けてきました。
「指定された目的地までは、距離がありますので座っているだけだとお暇かと思いますので、自室で休むなり食堂で寛いでいても良いですよ」
「着くまでにどのくらいかかるのですか?」
「最低でも八日は掛かります。僕の船だけなら最大速度を常に維持ができますので五日ぐらいかと思います。通常の魔道船の動力では出力不足ですからね」
要するにフィスさんの船とノルンさんの船になった巡航空母だけなら、時間短縮が可能みたいです。
性能の差を教えてもらいましたが、お暇なのには変わりがありません。
なので、他の場所に行くことにします。
「では、お言葉に甘えて自分の部屋に行くことにします」
「爺さん達がいなければ、僕も自動航行に切り替えてエルナ様といちゃいちゃしたいのですが、ごゆっくりしてください」
「そのようなことはする予定はありません。おじさま、申し訳ありませんが私は失礼を致します」
「うむ。それでは後ほど相手をしてもらうとするよ」
フィスさんの予定は無視しつつ、おじさまに挨拶をして退出することにしました。
おじさまがいなければ、あのままあそこで眠ってしまう可能性もありましたので、自室に戻った方が安心が出来ます。
いくら私を引き取ることになったとはいえ、正式に手続きをした訳ではありません。
あまり変な所を見せるわけにはいきません。
自室に向かっているとなんとなく眠くなってきました。
最近は訓練ばかりでしたので、たまにはシアを抱き枕にしてベッドで転がっているのも悪くないかと思います。
「ところで爺さんに聞きたいのですが、反乱でも考えているのですか?」
エルナ様が自室に戻ったことで、ここには僕と爺さんとその副官しかいません。
質問をするにはいい機会です。
「どうしてそう思ったのだ?」
「爺さんがワグナー家の人間だからです」
「わしの家は、古くから王家に仕えてきた一族だ。其方は我が一族のことをどこまで知っておるのだ?」
僕が良く知る奴の関係者なら、よく聞かされましたので覚えています。
現在となっては、知る者は限られていますが。
「爺さんは、カリス……いえ、サードの最初の登録者であるレオン・ワグナーの子孫と思いますが違いますか?」
「我が家の始祖たる人物だな。其方とは交流でもあったのだろうか?」
「どちらとも知り合いだったとだけ言っておきます。それよりも現在の情勢で一つの家門が僕を含めて上位個体を持つには多すぎます。バートランド王国でも派閥は無理でも一つ家門に上位個体が集中しないようにしています。同じようにミッドウェール王国も対策をしているはずです」
例え発見しても秘匿している家門もいるけどね。
下位の個体は知られてしまったら仕方なく公表しているぐらいです。
特にトランのような標準型は同じ番号が重複している量産型です。
だから、実際に公表している数よりも秘匿している個体の方が多いはずです。
自ら公表するとすれば、中堅以下の貴族が新たに見つけた個体と同時に古代の魔道船を手に入れた時です。
国からも優遇されるし自分の家には確実な戦力があると自慢したいからです。
「今回の件を独断で進めた代わりに古代都市の譲渡を要求された。承諾したことで、この歳で少将に昇進させてもらったが、軍における発言権が増えたわけではないので大して嬉しくもない。其方の言う通り我が国でも上位個体の集中は避けている」
「なら、よくエルナ様を身内に取り込む案がよく許可されましたね? 僕はてっきり違う奴らを連れてきて、エルナ様を唆すと思っていました。どうせあんたらのことだから、エルナ様の身内が名乗り出た時にエルナ様の身辺調査も全てしているはずです。詳しい事情は聞いていませんが、エルナ様の反応からして身内を嫌っていたのは明白です。年頃の若い娘なのですから、上手く言いくるめられれば安易に引き込めるとも考えたはず。しかも女性なのですから、最悪強硬手段の案もあったのではないのですか?」
「そこはわしが直接話す条件になっていると言い切っただけだ。それに本国の奴らには上位個体の情報は其方のことしか伝えておらぬ。しかし、こちらの考えがほぼ予想通りとは、わしらよりも余程人間らしい思考まで持っているとは対処を間違えるとここで殺されそうだな」
「エルナ様が好意的な間は始末なんてしませんから安心をしてください。ここでいきなり殺してしまったら、室内は汚れるしエルナ様に言い訳するのが大変なので余計なことをしないでくれると助かります。あと、トランはよいとしてシアのことをどう説明したのかな? 大勢の前で長距離砲持ちの古代船を単騎で沈めているのは見られているので確実に隠蔽など不可能です。どんなに低く評価しても三十番以内なのは確実です」
上位個体のラインは三十番までになります。
そして、対となる母艦持ちは、十九番までになります。
「ナンバー不明の個体としか報告しておらん。詳細が分かり次第報告するとは言ってあるが、不明なままでは報告はいつになるのだろうな」
爺さんはとぼけていますが、目星は付けている感じがします。
あれだけの戦闘能力持ちで、現時点でナンバーが判明していない個体は限られています。
特に一桁代で確認されていないのは、ナンバー・シックススとナンバー・エイスのみです。
ナンバー・エイスであるシアが目覚めたことで、残りの不明個体は一体だけになります。
この爺さんは、どちらかの個体ユニットと考えていると思います。
残っているのか分かりませんが、シアの対となる母艦の性能次第では、無視できない戦力が追加されます。
無傷の遺跡にそのまま残っているとしたら、当時の兵装を全て備えていると考えます。
現在残っている僕達の母艦は多かれ少なかれ初期の兵装を失っています。
あのツヴァイの船だって、オプション艦を失っていますので、本来の最大火力を失っています。
あいつの船が万全だったら、まともに正面から戦ったら勝てる気がしません。
未発見の上位個体を手に入れると言うことは、過去の力を無傷のまま手に入れられると言うことになります。
もう一つ僕の知る限りでは、ナンバー・フォーティーンが現在までに現れた情報がありません。
その場合は無傷の要塞艦が存在する可能性があります。
属性次第では、現在残っている古代の魔道船の数が少ないと負ける可能性が大いにあります。
通常の魔道船に対して脅威になる僕達の船でも目覚めたばかりの奴の方が優勢なのです。
いくら僕達が時間と言う経験値を得ていても船だけは戦って初期兵装を失えば補充がきかなくなり性能の差で勝てません。
更に僕達は経験値を得て応用は利くようになっても相性次第では弱体化してしまう存在です。
目覚めたばかりの奴の方が有利とかズルい気がするんですが、それが後々に作用する制限とか嫌な仕組みです。
「爺さんの思惑は知らないけど、エルナ様が味方をするのなら、現在の僕も加勢をします。物資の件は助かったので、一回ぐらいなら協力します。それ以上はエルナ様と親しくなってなければ知りません」
「それは心強いな」
「だけど、護衛艦がいない空母なので強力な兵装が残っている奴と戦うと不利と思います。要塞艦の相手とか絶対に嫌なのでその時は辞退します」
「要塞艦か……あんな化け物みたいな船が残っているのが間違いだな」
僕が知る限りでは、残っている要塞艦は各国が一隻づつ所持したままのはずです。
逆にこれが沈められると国の戦力低下が避けられません。
八十年前にトウェルヴの要塞艦を自爆させてバートランド王国の艦隊を壊滅に追い込んだトウェルヴの登録者は考えの浅い愚か者です。
ミッドウェール王国が脅威だったのは少し前までは要塞艦を二隻も所有していたからです。
僕の護衛艦と現在でも建造可能な魔道船の大艦隊と引き換えにするには惜しい船です。
悔しいのですが、正面から戦ったら、例え護衛艦が健在でも僕の船が負ける確率の方が上なのです。
それでも僕達の船も現在の水準から見たら規格外ですけどね。
「それを言うのでしたら、僕達が存在していること自体が問題かと思います」
「自身の存在を否定するとは、変った思考を持っているのだな」
「否定はしません。ただ、僕の最初の登録者の方がそう考えていただけです。それよりもカリスとは数百年ぶりに再会することになりますが、あいつはこのことに納得しているのですか?」
カリスは、ナンバー・サードの地属性です。
ダンジョンなどの地下のような場所で戦うと恐ろしい相手です。
初めから地形的に水がない場所では戦いたくないのが本音です。
あいつはと立場上の関係で敵対関係になっていましたが、知らない奴ではありません。
レオン様とルナティア様が仲違いをしなければ今でも同じ陣営にいたはずです。
「残念だが、カリスは三百年ぐらい前に当時の登録者と共に樹海の森の地下迷宮にて消息不明となっておる」
「えっ!? あいつがあんなところで消息不明なのですか?」
地下迷宮とかあいつが最も有利な場所です。
そんな所で消息不明とか絶対に有り得ないと思うのですが……。
「なので、我が家が所持している個体はノルン1人だけだ。一桁台の個体を失ったことで、我が家の発言力は下降気味なのが現状だ」
「そうですか。数少ないまともに話せる奴が消えてしまいましたね」
長い時をえて同じ陣営になれたと思ったのですが、残念です。
仮に敵対したままだったら、いなくなっていたのなら脅威がなくなっていたことになります。
カリスが居たのなら、ワグナー家には一桁台が三体の居たことになります。
せっかく一国並みの戦力が揃ったのですから、シアの母艦次第では国家転覆もできたのにね。
シアの能力を考えれば、時間を掛ければ戦力強化も可能な筈です。
その前にエルナ様にその野心が無ければ意味がありません。
「一つ聞きたいのだが、一年前にわしがエルナ殿を見た時は、意識を失い瀕死の重傷だった。更には右腕を失っておったはずだ。だが、今回会ってみればそんなことがあったとは思えん。失った右腕もそうだが、あの若さで其方達に近い動きまでしておる。できれば理由が知りたいのだ」
「よく見ていますね」
「たった一年であそこまで完全に回復する医療など存在せぬ。エルナ殿の兄であるルークは、そこそこの実力はある。そのルークがまるで子ども扱いだ。話を聞く限りはエルナ殿は短期間で強くなり過ぎだ。何か施されていると考えるのが妥当ではないのか?」
確かにエルナ様の兄と言う者の動きは人間にしては良かったと思います。
あの年齢でなら十分な練度がありますが、僕たちからみたら雑魚程度です。
エルナ様には相手の攻撃を紙一重で躱す訓練を施したのですが、この爺さんは意外と見る目があるようです。
だけど、そんな事を教える必要はありません。
「僕はプライベートなことは答えませんので、本人に聞いてみてください。教えてくれるかは知りませんけど、エルナ様の体についても本国にも伝えているのですか?」
「当時のエルナ殿の状況を知る者はわしと数名の側近のみだ。その時に本国には交渉可能な人物が目覚めるまでは待つことになるとしか報告はしておらん」
「それなら良いのです。それに例え知ったとしても同じことなんて出来ないよ」
助けるには代わりに僕達のコアが必要なのですから、存在が入れ替わるだけです。
エルナ様は半分は人と言えますが、もう一つの例であるシャーリーは完全に僕達側です。
なまじに一部だけ人としての記憶があることで、身体的には人よりは優れていても魔法を行使する為の演算能力的には僕から見ればダウンした状態です。
利点としては、僕達に掛けられている制限がないことです。
これはある意味でとても有効です。
「そうか。ならば知っても仕方のないことかもしれんな」
それに今のところはシアにしか出来ない技術です。
しかも本人がその気にならないと施すことが出来ないのですから、当てにされても困ります。
「納得いただけたところで、そろそろ昼食の時間みたいです。爺さん達が食堂に行くのでしたら、案内をしますがどうしますか?」
このまま爺さん達をここから退出させたいと思います。
爺さん達がいるままでは、自動航行に切り替えて僕が離れることができません。
エルナ様といちゃつく時間が減ってしまうので、追い出したいのです。
「もうそんな時間か。では、食事の世話になるとするかな」
そう告げて立ち上がるので、爺さんの船を追尾対象にして自動航行に切り替えると案内をすることにした。
この爺さんの思惑がどうなのか分からないけど、久しぶりに時代が流れそうな予感がしてきたね。
僕としては、立てた予定後の方が力を取り戻せる予定なんだけど、しばらくは様子見かな。




