お誘いされました
「エルナ殿。この者のことをどう思うかな?」
食事が終わって飲み物を飲んでいると准将のおじさまが話しかけてきました。
視線の先は隣に座っている方ですが、先ほど紹介されたアヴェルさんのことだと思います。
「礼儀正しくて紳士そうな方と思います」
取り敢えず無難な受け応えをしました。
すると次の質問は予想をしていなかった言葉です。
「そうか。もし良ければアヴェルの嫁にならないか?」
「お嫁さんですか!?」
思わず飲んでいたジュースを吹きそうになってしまいました。
ジュースと言っても中身は高濃度の蜂蜜ジュースです。
普通の人が飲んだら、甘すぎて吐くのが確定です。
このジュースはフィスさんが私の為に精製してくれた特殊な飲み物です。
蜂蜜に関しては、私が死にかけた場所であるゴールデン・ビーの巣から回収した物です。
以前の私なら、甘すぎる物に関しては食事制限が掛けられていたのですが、今の私は食した物が全て魔力に変換されます。
特にこの蜂蜜は濃度が濃いらしく魔力回復には向いているので、あの巣から全て回収してくれていたようです。
私の非常時の魔力回復用に固めた飴にした物も常時携帯もしています。
先ほどの食事ではお腹が満たされてないと判断してくれたフィスさんが用意してくれたのです。
それよりも私に縁談話がきました!
「この者は尽く縁談を断っているので、わしとしても身内に相談されているのだ。どうしてかと聞いても今は仕事の方が優先などと言うばかりでな」
「そうなのですか」
目の前でそんな話をしているのに当人は涼しい顔をしてカップに口を付けて飲み物を飲んでいます。
連れていかれたノルンさんは、シアに色々と教えられているらしくまだこの場にはいません。
「アヴェルよ。お前はどうなんだ」
話を振られてカップを手元に置くと話しかけてきました。
「閣下。休憩中とはいえ任務中です。私的な話はどうかと思います」
「大事な要件は終わった。いまはエルナ殿達との交流を深める場だ、お前も堅苦しい呼び方は止めなさい」
「閣下がそう仰るのであれば、従います。では、改めてお爺様。いきなり見ず知らずの者を紹介されてもエルナさんが困ると思います」
准将のおじさまに答えつつ私の方にも視線を向けました。
改めて正面から見ると美形の部類に入ると思います。
普通に社交界などの催しに出れば、女性が寄ってくるかと思います。
私は特に興味はありませんが、興味があるとすれば、シアに連れていかれたままのノルンさんの方ですね。
「写真だけの縁談話よりも実際に出会っている方がお互いに知れるだろう」
「それはそうですが、私のような仕事人間など面白みに欠けるので興味を持たれないと思います」
真面目な顔をして受け応えをしています。
その手のことよりも仕事を愛している方なのかと思います。
「お前は詰まらない奴だな。わしがお前ぐらいの歳ならエルナ殿にアプローチをしているぞ」
しかし、准将のおじさまは積極的なようです。
自分が若ければ私に声を掛けたいみたいですが、いまも簡単なお話は気軽に話しかけてくれています。
御堅い人物よりは話がしやすいので、お友達にならなっても良いと思います。
「お爺様は亡くなった御婆様を生涯の妻としていたはずです。再婚話も全て断ったと聞いています」
「当たり前だ。それがわしとの縁談を承諾する条件だったからな」
そして、なぜか准将のおじさまの過去話になっています。
浮気をしない方みたいなので、若い時はかなりの優良物件だったと思います。
「お亡くなりになって十年以上も経ったのに律儀にお守りになられているのは素晴らしいと思います。御結婚をする前はかなり遊んでいたと母上から聞いております」
「あいつはそんなことを息子に話しているのか。再婚話を尽く断った嫌がらせか?」
優良物件と思ったのですが、結婚される前は不良物件だったようです。
結婚をなされた奥様に躾けられたのかもしれません。
「私が御爺様に悪い所だけ似てしまったとぼやいていました。仕事に励んでいるだけなのに酷い言われようです」
「あいつも嫁ぐまでは開放的だったのに自分が動けなくなったら、人を縛ることばかりしようとするから始末に負えん」
「そんなことよりもエルナさん達が呆れているので、身内の恥ずかしい話は止めた方が良いと思います」
「お前が言い出したのだが……まあ、良い。それで、エルナ殿。この堅物はどうかな?」
身内の言い合いをしていたのに再び私に矛先が向きました。
ぱっと見の感想は良い方だと思います。
しかし、面白みに掛けそうなのでこういう所がマイナス点なのかと思います。
それ以前に男性には興味がありません。
レンちゃんなら、ちょっと考えても良いと思っている所です。
ミッドウェール王国に於ける公爵家との縁談と聞けば普通なら断る利点がありません。
形だけ結婚して、公爵夫人としての権力も得られます。
そうなったら、実家の母と姉に見返せるどころか嫌がらせも可能です。
ですが、その為だけに結婚するのはどうかと思います。
従って、私の答えはこうなります。
「申し訳ないのですが、私には思い人がもういますので、他の方との結婚を考える気はありません」
私がそう答えると隣にいたフィスさんが自分を指さして「僕のことですよね!」とでも言わんばかりの目で私に熱い視線を送っています。
私の愛する恋人はシアとコレットちゃんです。
寝ぼけ様にレンちゃんの唇を奪って、第三恋人と考えていましたが、まだ公言をしていないので未達成です。
しかも、本当の性別が男の子だったという事件まで起きています。
なので、色々と保留中なので、私の恋人は2人だけです。
フィスさんは、友達以上恋人未満ぐらいの位置づけにしたいと思います。
許してしまったとはいえ、毎日のように口づけを交わして来るので私の心が揺らいでいるのはフィスさんには内緒です。
「そうか。それなら無理は言えぬな」
「ご理解をしてくださいありがとうございます」
「ならば、わしの孫にならぬか?」
「孫にですか!?」
「養女にして娘にとも思ったが、年齢的に孫の方が良いかと思ってな」
「えっと……私をですか?」
今度は身内勧誘です。
元は貴族とはいえ、現在は庶民と宣言をしています。
貴族社会はその手の事には厳しいと思ったのですが?
「そうだ。あの詰まらない男よりもわしに対しても気軽に受け応えしてくれるエルナ殿のような娘が欲しいと思ってな……」
「閣下には私ぐらいのお孫さんはいらっしゃらないのですか?」
「いるにはいるがどこかの令嬢のお手本みたいな者ばかりだ。アヴェルもそうだが、堅苦しい奴らばかりで面白みに欠けるのだ」
貴族社会としては良いことだと思います。
私のような者が現れたりすれば、むしろ問題が発生すると思います。
公爵家という上の地位の方なのに考えが柔軟のようです。
ただ……私が面白そうという理由だけにも聞こえなくはないのですが……。
私が困っているとアヴェルさんが助け舟を出してくれました。
「いくら家督を譲った御爺様でも勝手に親族を増やすと現公爵の父上が御困りになられると思います」
「あいつはヘレナに頭が上がらん。この話はヘレナにすれば了承するはずだ。お前達の様な面白みに欠ける子供達よりも気に入るはずだ」
「母上は御爺様と似ていらっしゃいますので、そうかもしれません。その前に御本人の承諾が得られればの話です」
そう告げるとアヴェルさんは、再びカップを手に取り沈黙してしまいました。
どうもアヴェルさんは、准将のおじさまのお孫さんのようです。
私がこの話を承諾するとアヴェルさんが私のお兄様になってしまいます。
あの兄と比べればかなりの優良物件になると思います。
しかも結婚をしないで、公爵令嬢になれる訳です。
悪い話ではないのですが……私を気に入っただけとは思えません。
恐らくはシア達を取り込むのが本命と思います。
フィスさんに視線を送ると察してくれたのですが……正直に発言をしています!
「エルナ様を取り込む気満々の会話ですが、僕はエルナ様に従いますので好きにしても良いと思います」
「フィスさん……いくらなんでも答えが露骨すぎると思います……」
私がフィスさんの発言に驚いていると准将のおじさまも認める発言をしました。
「その者の言っていることは正しいので、気にする必要は無い」
「しかし……」
「過去に同じような話し合いで引き込む工作はいくらでもしていたことをその者は知っているだけだ。そうであろう?」
私に説明をした後にフィスさんに話を振っています。
フィスさんも分かっているのか楽しそうに答えています。
「頭の固いやつらと違って素直に認めるのはいいねー。そうです。僕達の所有権の交渉をするのなら登録者を好待遇で交渉すれば良いのです。しかも今回は、エルナ様を上位貴族に取り込むだけで僕達ユニット個体を数体も取り込めます。しかも戦力が低下をしたとは言え僕の船は使いようによっては十分に脅威です。更にシアの能力を目の当たりにしています。機能停止状態の古代都市を再起動できる可能性があるのはとても有益です。港を有する古代都市には破壊された古代船の復旧と改修が出来る設備が破壊されていなければ存在します。失われた技術力を使用可能になるなんてどの国でも必要としています。この都市の権限を有しているシアを引き込みたいと考えない者などいません。僕はエルナ様がいなければ当てにはなりませんがシアとトランは確実に味方にできます。空賊の始末の時のシアの多彩な戦闘能力を見ているからこそ万能個体を手に入れたいと思うのは当然です」
そこまではっきりと言っても良いのですか!?
私が相手側の表情を窺うと何事もなかったようにカップに口を付けているアヴェルさんと准将のおじさま以外は目を逸らしています。
「その通りだ。国としては確実に押さえたい案件でもあるが、わしの相手をしてくれる孫娘が欲しいのも本音だ。こちらが得をする内容だが、エルナ殿はどう思うかな? 希望があればそちらからの条件は可能な限りは了承するつもりだ」
私の答え待ちになってしまいました。
隣にいるフィスさんは、「エルナ様は欲が無さすぎます。見方によっては美点とも捉えられますが、欠点とも言えます。現在の情勢とエルナ様の付加価値を考えれば無視できない存在です」と告げると、いくらでも好きなだけ追加条件を言えば良いと言っています。
しかし、実際のところは、私が所有している物など何もありません。
この都市に関しては、シアが全てを管理しています。
改修した魔道船に関してもシアが譲渡した物です。
フィスさんに関しても私と一緒にいると言うだけなので、フィスさんが心変わりをしてしまえば離れてしまう可能性もあります。
ですが、フィスさんには私とレンちゃんとの将来計画が出来上がっているようなので、余程のことが無い限りは共にいると思います。
アリサさんも私が決めることなので好きにすればよいと言っていますが、有利な条件で話を付けるようにだけ言われました。
交渉内容がこちらの方が有利と判断したのか、相手がいる前ではっきりと私に助言をしています。
コレットちゃんは、「お主はドレスを着てダンスなどをするのが好きなのであろう? 貴族に復帰して社交界などに顔を出すようにすればよかろう」などと言っています。
以前にコレットちゃんには私がどこかの貴族の出だと判断されています。
私と兄との勝負が付いた後に「やはり、お主は貴族の娘じゃったんじゃな」と言われています
古代の調べ物ばかりしているのに他の国の作法なども知っているみたいです。
どうしようか迷いましたが、皆さんの安全を確保する為にも承諾してしまおうと思います。
その為にいくつかの条件を付けたいと思います。
1つは、私達を国の方針などで縛らないことです。
私達の扱いはあくまでも准将のおじさまの家であるワグナー公爵家の客人とすることです。
次に例え戦争が起こっても協力はしません。
軍事利用はしないことが条件です。
状況によってはお手伝いをする必要性は出てくると思いますが、基本的には争いには関与はしないことです。
最後にミッドウェール王国に於ける自由を保障してくれることです。
もしかするとワグナー公爵家の領地内だけに限定されてしまって、その地に束縛されてしまわないかと心配したからです。
私がその三つを提示すると准将のおじさまは簡単に承諾してしまいます。
フィスさんからは「それだけでいいのですか?」と言われましたが、そのぐらいしか思いつかなかったのです。
話が纏まったところで、准将のおじさまから早速依頼が来ました。
自分のことを閣下などと呼ばずに祖父のように呼んで欲しいとお願いされました。
アヴェルさんは御爺様と呼んでいましたので、私も心の中でおじさまと思っていたので、おじさまと呼んでみるとこにしました。
普通に呼んだだけなのですが、准将のおじさまは満足そうです。
貧乏貴族の娘から庶民になったのですが、公爵家と言う上位の貴族になってしまいました。
シアと出会ってからは、庶民として生きるつもりでしたが……取り敢えずは大貴族の体験生活でもするつもりでいるつもりです。
もしも窮屈と感じた時は、おじさまには悪いのですが逃げるつもりでいます。
フィスさんの船があれば簡単に逃亡ができると考えているのです。
話が終わるとシアが丁度戻ってきたので、説明をしておきたいと思います。




