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Eighth Doll  作者: セリカ
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他人のフリをしたかったのですが……


「お前、エルナだよな?」


 近づいてきた人物は、私の姿を確認すると声を掛けて確認をしてきます。


「人違いです。私はルナと申します」


 咄嗟に一文字減らして答えてしまいました。

 これでフィスさんの名前が一文字削っただけというの話題は使えなくなりました。


「エルナ様、名前を変えるなんてどうしたのですか?」


 私の発言に対して、すかさずフィスさんが訂正をしてきました。

 そこは私の雰囲気を感じ取って、シアみたいに黙っているのが正解です。


「もしかして、エルナさんのお知り合いですか?」


 更にアリサさんからも質問が来ました。

 アリサさんも場の雰囲気を読んで合わせて欲しかったです。


「エルナ・アシュレア本人で間違いはないな?」


 更に相手から、家名まで明かされています。


「名前を偽ったのは申し訳ありません。しかし、私は家名など持たない庶民のエルナです」


「兄である私が間違えるわけがないだろう? 姿や声もそうだが、お前は隠し事をする時に目を逸らす癖があるから間違いはない。死んだと聞かされていたのに生きていたのだな」


「……お兄様は私になど無関心と思っていたのですが、意外と私のことを見ていたのですね」


 二年近くの月日が流れて死んだとされていたのに兄は気付いたようです。

 しかし、私にそんな癖があったなんて知りませんでした。

 勘が良いだけと思っていたのですが、たまに私が隠し事をしている時に気付ける理由が分かりました。

 それにしても、私は学園の寮に入っていたし、兄はお父様に付き従って王都にいたので、ここ数年は滅多に会うことは無かったのに私の癖まで覚えていたみたいです。


「母上が問題児といつも言っていたが、仮にも兄だからな」


 追加の言葉が更に酷いです。

 そこは可愛い妹だからなどと言う理由にして欲しかった思います。


「ルーク。エルナ殿は其方の妹で間違いはないのか?」


 私達の会話を見ていた准将のおじさまが兄に話しかけています。

 ルーク・アシュレア……それが私の兄の名前です。


「閣下、そうであります。なので、交渉の件は私にお任せください」


 兄が何か言っていますが、私は兄と話すことなどありません。

 どちらかと言えば、兄はお母様派に近い人です。

 同じ妹でも私の姉の方に肩入れしています。

 はっきり言って血の繋がりが無ければ無視をしたいところです。


「しかし、エルナ殿はここの代表者だ。其方に話などできるのかな?」


「閣下、問題ありません。エルナ、兄である私の言う事なら聞けるよな?」


 なにか勝手なことを言っていますが、聞くわけがありません。

 今回の交渉内容もある程度はシアから聞きましたが、どうせ私に「はい」と言わせようとするだけです。

 現在の私は自由人なのです。

 せっかく自由を手に入れたのに身内と言う理由だけで、言うことなど聞く気はありません。


「お断りいたします。私は本国では死んだはずです。なので、無名のエルナです」


 当時にシアと調べたのですから、私の葬儀もされたと聞いています。

 実家の代々の墓石に私の名も刻んであるみたいなので、アシュレア家のエルナはもういません。


「生存が確認が出来て本人と分かったのなら問題はない。お前が生きているのなら、以前に白紙になった縁談話も再開が可能なので、母上も喜ぶぞ」


 更には縁談話まで復活させるつもりです。

 相手は資産だけはあるエロジジイと聞いています。

 仮に魔物の襲われて助かっても絶対に逃げ出していますので、あり得ない話です。


「閣下にお聞きします。ミッドウェール王国では死亡届が出された者は一族に復帰ができるのですか?」


 私と兄のやり取りを見ている准将のおじさまに尋ねました。

 この方の家柄は公爵家なので、この場にいる人達の中では家柄で考えれば身分が一番高いと思うからです。

 対等に話しかけているのは、私が交渉相手だから堂々と相手をすれば良いとフィスさんから言われているからです。

 そんな様子を兄は不機嫌そうに見ていましたが、上官の言葉を遮るような出しゃばった行動はしなかったみたいです。


「身元証明と本人であると確証が得られれば可能だ。だが、エルナ殿は望んでいないのであろう?」


 私に軽く目で合図をしながら答えてくれました。

 准将のおじさまは、私の意図を理解してくれているようです。

 軍人は堅物なのだと思っていたのですが、この方は思考が柔軟のようです。

 実の身内よりも他人の方が好感が持てると思います。


「では、そのように取り計らってください。なので、その方と私は無関係と思ってくだされば幸いです」


 丁度良いので、絶縁宣言もさせてもらいます。

 下らない縁談話もそうですが、今の私の状況を知れば私達が持つ資産に目を付けてくるはずです。

 私の物ではありませんが、必ず何か言ってくるのは明白です。

 弟だけなら引き取っても良いのですが、味方をしてくれないお父様や私を物としか見てないお母様たちになにかを進呈するとか絶対にしたくありません。


「お前は、アシュレア家と決別する気なのか!」


 兄が何か怒っていますが、最初からそうだと言っています。

 日頃から可愛がってくれたり助けてくれていたら話は変わってきます。

 

「そう捉えてもらって構いません」


 私が冷たく言い放つと私に近づいてきたのですが、シアとフィスさんが即座に動きます。

 私が直ぐに止めたので兄は殺されずに済んでいますが、あのまま黙っていれば確実に死んでいたはずです。


「エルナ、なぜ止めるのですか? この個体はエルナに対して不快な行動をしようとしました。始末するのが最善と判断します」


「お前運が良いなー。エルナ様の声があと少し遅れていたら首が刎ねれたのに残念だよ」


 シアとフィスさんが同時に説明をしています。

 状況は、シアの拳が兄の腹部に触れる寸前とフィスさんの手刀が首に触れて血が流れている所です。

 戦闘時のフィスさんの手刀には水の薄い膜が形成されるので、触れた時点で斬り込みが入ってしまいます。

 当然のように二人とも相手を確実に殺そうとしています。

 敵対する者に対しては容赦が無いので直ぐに判断をしないと状況によっては取り返しのつかない事態になると思います。

 そして、兄はその場で尻もちをついて首筋の血を確認すると青ざめています。

 もしかすると兄も空賊討伐の現場に居合わせて、シア達の強さを確認しているのかもしれません。

 

「私の部下が失礼な行動を取って済まないね。本人も勘違いと判断したようなので、その辺りで許してくれるかな」


 准将のおじさまが私に話しかけてきたことで、二人が警戒を解いて両隣に戻りました。

 しかし、二人の兄を見る目は冷え切った眼差しのままです。


「私は特に気にしていませんが、今後はその方と御一緒するのは遠慮をしたいと思います」


「そうすることにしよう。この者がエルナ殿が自分の身内だと言い張るので連れてきたのだが、大目に見てくれると助かる」


「では、いまことはなかったものとして、話す場を移したいと思います」


「エルナ殿は若いのに話が分かって助かる」


 そう告げて笑顔を向けてきました。

 良い感じのおじさまだと思ったのですが、もしも私が兄の言う事を素直に聞いた場合はこれから話し合う内容を有利に進められると考えたからではないのでしょうか?

 いまの私は周りの気配にも敏感になっているのです。

 あの時に兄が私に近づこうとした時に兄の背後にいた数人は腰の銃もしくは剣に手を掛けていました。

 その人たちの視線の先は兄の後ろ姿でした。

 もしも私に何かしようとして問題を起こしたと判断したら、射殺もしくは斬り付けて部下の無礼を訂正するつもりだったような気がします。

 以前の私なら絶対に気付けなかったのですが、そんな考えにまで至ったのです。

 この体になってからは、私に少しでも危機的な雰囲気を感じ取ると最善の行動をしよう考えるのです。

 恐らくですが、私に埋め込まれているコアが即座に判断して私に第六感的な警告をしているのかと思います。

 しかし、このまま恥をかかされた兄が大人しく引き下がるとは思いません。

 実家には私の生存が伝えられて何かしらの干渉をされるかもしれません。

 そして、兄は准将のおじさまに命じられて船に戻るように言い渡されています。

 私に対してお怒りの目で睨みつけていますが、少しだけスッキリした気分です。

 ふと思ったのですが、このままついでに以前にされた仕返しを今なら出来ますので実行をしてみましょうか?

 私が剣の練習を始めたばかりの時に見習い程度の私に散々稽古と言う名のいじめをしてもらった経験があります。

 何度でも立ち上がる私を女だからと言う理由で打ち据えられたのを私は忘れていません。

 

「このままでは、お兄様が気の毒なのでチャンスを差し上げたいと思います」


「チャンスだと?」


 去ろうとする兄に声を掛けると私の言葉を聞いて妹の癖に生意気なことを言っていると言った感じの目を向けてきます。

 あまり私に敵意を剝き出しにするとシアが過剰反応をしてしまうので控えた方が良いと思います。

 現にシアの視線の先は私の兄に向けられています。

 相手を視線だけで殺してしまいそうな目付きをしていますので、私がいなくなったらこっそり殺してしまうかもしれません。

 

「今ここで私とお兄様自慢の剣の腕で勝負をして勝てたら、お兄様の提案を聞いても良いです。ですが、逆に負けた時は私の存在を決して口外しないと誓ってください」


「お前が私に勝てると思っているのか? そいつらには勝てないがお前の未熟な腕が私に通用すると考えるとは思い上がりも甚だしいな」


 私が以前までの剣の腕だと思っている兄の方にこそふさわしい言葉だと思います。

 実際のところの兄の剣の腕はかなり優秀です。

 学園に通っていた時は、大会で優勝するほどの腕前と聞いています。

 普通でしたら、我流の私が勝てる可能性は低いと思います。

 ですが、体の強化がされる前の生きる為に剣を振るっていた時は守られていたとはいえ魔物とは命がけの戦いをしています。

 試合と実戦は違うのですから、一年前でもいい勝負が出来ていたと思っています。

 ですが、今の私はそれを超えて強くなっています。

 ネタをばらしてしまえば卑怯などと言われるかもしれませんが、半分は人のままなので気にしないことにしました。

 なので、シア達の動きにまったく反応が出来なかった兄など私の敵ではありません。

 ついでに妹に負けたと言う恥を軍の人達の前でも掻かせてあげたいと思います。

 過去に私に対する対応を間違えなければそんなことをする気はなかったのですが、された方は忘れられないのです。


「フィスさん。木剣ぐらいの強度の水の剣を二本作ってくれますか?」


「んー、要するに殺傷能力の無い水の塊の棒ですね。こんな感じでいいですか?」


 私がお願いをすると両手に同じぐらいの長さの剣の形をした水の塊を作り出してくれました。

 受け取ると水なのに普通に握れます。

 強度の方も注文通りの木剣程度になっています。

 水を操ると言う能力だけはシアも模倣ができません。

 フィスさんが居れば水に関してはとても便利だと思います。

 そして、もう一振りの水の剣を兄に手渡すと、とても驚いています。

 受け取って不思議そうに構えて軽く振っています。

 重さの方も同じぐらいで作り出しているので、青く透き通った剣にしか見えないのです。

 他の人達や准将のおじさまも感心をしているのか面白いものを見ているようです。


「それでは、お兄様。準備が調いましたら昔のように好きなだけ打ち込んできてください」


 私が小馬鹿にしたように声を掛けると目の色が変わって私を睨みつけてきます。


「生意気は妹にはしっかりと躾けてやらないとな」


 そう告げると殺気でも籠ったような一撃を私に振り降ろしてきました。

 いきなり全力で斬りかかってくるなんて、大人げない人です。

 しかも実の妹に対してです。

 では、今の私の実力でしっかりと対応したいと思います。


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