恥ずかしい欠点
「いきなりこんなことになってどうすればいいのですか!?」
突然上空に投げ飛ばされたのですが……私の体が空に浮いています!
そして、上昇が終わると当然のように落ちていきます!
こんな高さから落ちたら、私は間違いなく死んでしまいます。
慌てている思いとは別に体は落ち着いています。
気が付けば私は上空なのに体勢を整えて、まるで少し高い所から飛び降りるような姿勢で落下していきます。
しかし、このまま地上に落ちれば助かったとしても私の足では耐えられずに怪我をするのは確実です。
そんな状況なのに地上にいる皆さんは私を冷静に見ています。
落下地点と思われる場所にいるシャーリーさんは何故かニヤニヤしています。
シアに関しては、いつも通りの目で私を観察しているように見えます。
誰も助けてくれるそぶりはしていないのですが、最悪の場合はシャーリーさんが助けてくれると信じています。
そして、誰の助けもない状態で私は両足で地面に立つことに成功していました。
「やっぱり、この程度の高さなら平気みたいね」
あの高さから落ちたのに私の体はまったくの無傷です。
立っている両足から痛みすらありません。
「いきなり投げ飛ばすなんて危ないと思います!」
着地して安堵すると、まずはシャーリーさんに文句を言いました。
いくらなんでもいきなりあんなことをされたのですから、怒るのは当然かと思います。
「ごめんねー、だけどあのぐらいなら平気かと思って確かめたのよ。シアちゃんだって動こうとしないから、大丈夫だと思っていたわよ」
確かにシアの表情には変化はありません。
以前なら、私の身が危ないと判断すると必ず助けていてくれたのですが、いまの行為が危険ではないと判断されたようです。
能力的にシアに近くなったとは聞かされていましたが、心の準備もできていないのにいきなり投げ飛ばされるのは次からは止めて欲しい所です。
「じゃ、いくわねー」
私が心で思っていると、シャーリーさんの声と同時に私に襲いかかってきます。
とても素早い動きで、シア達に匹敵する速さに見えます。
体術の心得など無い私に躱せる気がしません。
ですが、私の体は先ほどの魔物と戦った時のように最小限の動きで拳を躱したのです。
繰り出される突きや蹴りも全て躱せています。
私は危ないとしか思っていないのですが、体が先に反応して躱してくれるのです。
「エルナちゃんも攻撃してきていいのよ」
シャーリーさんにそう言われても当たったりしたらと考えると手が出せないのです。
私の攻撃が当たる訳が無いと思っているのですが、シャーリーさんに攻撃をするなんて私には無理です。
「無口で躱すだけに専念しているなんて、シアちゃんみたいね。でもそれだと私が詰まらないから、ちょっと本気で行くわよ」
そう宣言すると躱せない攻撃が混じってきて、受け身を取るようになりました。
時折に重い攻撃を受けるのですが、右腕以外で受けると少し痛いです。
そんなことをしばらく続けていると左腕を掴まれて引き寄せられると背後に回られて首にシャーリーさんの腕が回されます。
「攻撃をしても良いと言っているのに防戦一方じゃ私が詰まらないしエルナちゃんの実力が図れないわ」
「そんなことを言われても……シャーリーさんに攻撃するなんて私にはできないのです」
「そこは考えを切り替えて欲しいんだけど……そうだわ。そう言えば、さっき落ちてくる時に見たんだけど、エルナちゃんの下着の趣味って、寝ている間に過激になったわね?」
「違います! あれはフィスさんの趣味です!!!」
先ほど落下地点で、私をニヤニヤして見ていたのは、私が履いている下着を観察していたからなのですか?
捲れないようにスカートを押さえていたつもりでしたが、シャーリーさんにはしっかりと見えていたようです。
そして、私の首に回している腕の力が強まると少し息苦しくなってきます。
拘束をされていない右腕でシャーリーさんの腕を掴んで緩めようとしたのですが、ピクリとも動きません。
私の意識が首に回している腕に集中していると掴まれていた左腕が離されたので、両手で解こうとしても解けません。
そして、シャーリーさんは空いたもう片方の腕で、胸を揉んできたのです!?
こんな時ですが、シャーリーさんにフィスさんの病気が移ってしまったのかと思いました。
しかもその手付きは大きさを確かめるような感じで、撫でまわしています。
「そう言うことは止めてください!」
「フィスちゃんに毎日揉まれた成果なのか、いい感じに大きくなったわね。手頃な大きさでちょうどいいから、ちょっと羨ましいかも」
いま、さらっとシャーリーさんの口から、私の胸をフィスさんが毎日揉んでいたことが発覚しました。
後で、フィスさんには罰を与えないといけません。
それよりもシャーリーさんが同性愛に目覚めたのかもしれません。
私としては同志が増えたことには歓迎なのですが、基本的にはお姉様役は私がやりたいのです。
「顔が赤くなってきたんだけど、私と違って感度はそのままなのかよくなっているわね。もしかして気持ちいいのかしら?」
「そんなことはありません!」
そう言って、右腕に力を入れると私の胸を揉むのに集中していた所為なのか拘束が緩んでいたので、そのまま首に回している腕を掴んで投げて飛ばすことに成功しました。
あの体勢から、右腕だけの力で人を1人投げ飛ばせるとは思っていなかったのですが、成功しました。
私の腕力はかなり上がっているようです。
「解く程度かと思ったけど、右腕だけは私達と同じ腕力があるみたいね。もうちょっと揉んであげたかったけど残念だわ」
「シャーリーさんもこちらの方面に目覚めたのですか?」
「んー、私はノーマルなんだけど、エルナちゃんみたいな可愛い子なら悪くないかもしれないわね。それよりも本気にならないと次は剥いて襲うかもしれないわよ?」
私がこのまま防御に徹すると襲うと宣言をされました。
流石に皆さんの見ている前でそんなことはされたくありません。
しかもここは外です。
私とシャーリーさんに邪魔が入らないように、近寄ってきた魔物はトランさんとゲイルさんが倒しています。
横目でたまに見ていたのですが、トランさんは当然としてゲイルさんも難無く魔物を倒しています。
それが例え大型の魔物でも単独で倒しているのです。
先ほど、シャーリーさんの恩恵と言っていましたので、それが関係していると思います。
でも、どんな恩恵があればあれだけ強くなれるのでしょうか?
私が判断に迷っているとワンピースの一部を掴まれて、そのまま引き裂かれると腰の辺りのエッチな紐の部分が露出しました……私がちょっと冷たい目をシャーリーさんに向けると次は胸の辺りを破くと手で素振りを見せています。
不本意ですが、現在の私の全力をもってシャーリーさんの動きを封じるしかありません。
私の力がどこまで通じるのか分かりませんが挑むと決意をすると私の頭にどのように攻めれば良いのかが浮かんできます。
その指示に従いながら行動に移すとシャーリーさんが回避行動を優先しつつ攻撃してくるようになりました。
中々当たらないのですが私にこんな動きができるなんて、いまでも実感が湧きません。
「やっとその気になったみたいだけど、目覚めたばかりなのにいい動きをしているわね」
「でも全然当たりません。当たると思った攻撃も全て受け止められてしまうので、これ以上どうすればいいのか分からないのです」
正確には私の右腕の攻撃に対してだけは、受けざる得ないようです。
左腕や、蹴りなどの攻撃は全て読まれているのか当たりません。
これは右腕以外は、そこまでの速度で攻撃が繰り出せないからです。
どんなに私の体が強化されていても生身の体の限界があるからだと思います。
そして、時間が長引いて攻撃を受け止めたり右腕に力を籠めていると、こんな状況なのに空腹感を感じてくるのです。
疲れの方はそれほどでもないのにお腹が空いて来たのです。
これは、シアが説明してくれたように私の体が魔力を欲しているからなのだと思います。
この空腹感がどこまで大きくなるかなのですが、少しづつ大きくなっています。
このままだと、私はお腹が空きすぎて倒れてしまう可能性が出てきました。
戦闘中に空腹で倒れてしまうなんて考えてみると、恥ずかしい欠点かもしれません。
年頃の娘が戦いの最中で空腹感のあまりに倒れて負けてしまう……かなり情けない気がしてきました。
私の考えている事でも察したのか、シャーリーさんの攻撃が重くなってきました。
強い攻撃を受けるとそれに比例してお腹がどんどん空いていきます。
「エルナちゃん、どうしたのかな?」
シャーリーさんは、楽しそうに私に打撃を与えています。
恐らくは、私の魔力に関する欠点を知っているからと思います。
「疲れてきたので、この辺りで許してもらえませんか?」
空腹で倒れる前に敗北を認めて許してもらうことにしました。
戦いで負けるよりも空腹で倒れるなんてカッコ悪いからと思ったからです。
「そろそろ空腹感に勝てなくなったみたいね」
「やっぱり知っていたのですね。シャーリーさん酷いです!」
私の弱点を知っているのは確実です。
そんな負け方だけはしたくありません!
「じゃ、これで終わりにしてあげるわね。グラビティ・プレス!」
シャーリーさんが私に対して言葉を紡ぐと恐ろしい負荷が体に掛かって、私は立っている事しか出来なくなりました。
そして、負荷に耐えていることで魔力がどんどん消耗しているのか、空腹感が限界です。
私が膝をつくと魔法が解除されたのか、体は軽くなりましたが……もう動きたい気がしません。
なんでも良いのでお腹に何かを入れないと動きたくないと感じているのです。
強くなった代償の長所と比べたら、大したことのない欠点と思っていたのですが、実際にここまでされると恐ろしい欠点と思いました。
勝負が付いたと判断したシアが近くに来てコップを差し出してきました。
中身はいつもの不味い飲み物です。
ですが、今の私にはとても飲みたくてたまらない衝動が襲ってきます。
なんとかコップを受け取り一気に飲み干すと少しだけ空腹感が収まりましたが……まさかこれを自分から飲みたいと思う日が来るなんて予想外でした。
「エルナに警告します。いまの状態になる前に必ず魔力を回復させてください」
続いてシアからの警告を受けました。
私も二度と経験したくないと思いましたので、次からはお腹が空いてきたら逃げる事を優先したいと思います。
「私達と違って、可愛らしい弱点になったわねー。しかも私とは相性が悪いから普段ならここまではならないと思うわよ」
シャーリーさんからも話しかけられましたが、相性が悪かったのですか?
「それはどういうことなのでしょうか」
「これはエルナちゃんだけじゃないんだけど、私の属性はコアに誤認識を与えるそうよ」
「誤認識ですか?」
「そそ、私の属性である重力攻撃は常に相手の体に負荷を与えるから、コアが防御を優先するらしいのよ。その所為で過剰に魔力を防御に回すので消耗が早いそうよ。だから、私と戦う時は直接戦闘は避けて遠距離で戦うのが正解ね」
「そうだったのですか……でも、最後の魔法以外は普通に戦っていましたよね?」
途中までの戦いは、普通に打撃を防御していましたが、強い攻撃以外は変化はなかったと思います。
なので、最後の魔法で一気に止めを刺されたと思っていました。
「実はね……私の攻撃には常に重力負荷が追加されているの。だから私の攻撃を肉体を使って防いだりするとじわじわと魔力を削れるのよ。強い打撃は特に削れるのよ。あのトラン君だって、私には勝てないわよ」
「トラン君よりもシャーリーさんの方が強いのですか!?」
「能力を完全に把握する前は勝てなかったけど、いまならほぼ勝つのは私よ」
「俺の打撃がほぼ通れば勝つのは俺だけどな」
いつの間にか近くに来ていたトラン君が声を掛けてきましたが、ちょっとムッとしています。
「まともに当たればね」
「大体、能力がおかしいんだよ。俺にも体に重力場を纏えれば、相殺されて負荷が掛からないんだけどな」
そう言いながら、シアの方を見ています。
確か、トラン君はシアが使える下位の魔法は使えたはずですよね?
「使いたければ、魔核をもっと集めてください。一定量に達すれば私の魔法レベルが解放されます。重力魔法は中級からしか存在しません。その為に私が次の段階にならなければ、トランの使える魔法レベルが上昇しない為に使えません」
視線を向けられたシアがトラン君に答えています。
要するにシアが強くなればトラン君にも使える魔法が増えるみたいです。
すると今のシアは、以前よりも強い魔法が使えるのでしょうか?
「もしかして、シアは強力な魔法が使えたりするのですか?」
私が質問をするとシアが答えてくれました。
「今の私は、中級魔法までなら制限はありません。上級魔法だけ一定時間のクールタイムが必要になります」
確か以前は中級魔法を再使用するのに一定の時間を必要としていたはずです。
いつの間にか、シアの魔法を使う能力もランクアップされていたようです。
トラン君がシアの使える下位の魔法が使える時点で強化されていたのかもしれません。
このまま質問でもしようかと思ったのですが、それよりもお腹がとても空いています。
私がお腹を押さえていることに気付いたシャーリーさんの提案で、取り敢えずは食事にすることになりました。
この都市で一軒だけ開業しているお店があるそうなのでそこに行こうかとの話になりました。
その前に衣服が破れているので何か羽織る物が欲しいと考えているとシアがもう一枚色違いのワンピースを出してくれたので、シアに仕切りを作ってもらい着替える事にしました。
それにしてもこんな服で格闘戦をするなんて、周りに知らない人がいたらきっと色々と見られていたと思います。
私も年頃の女の子なのですから、もう少し考えて欲しいと思いましたが、それよりも今の私には食欲に対する衝動の方が強いので早くお腹を満たしたいと思います。




