早くも襲撃されました
「だだいま戻りました!」
「おう、エルナか。遅かったな」
港に停泊している魔道船に戻ると、出迎えてくれたのはトランさんです。
時間は遅めでしたが、出迎えてくれたのがトランさんでしたから、元気よく挨拶をしたのです。
「アリサさんは、もうお休みですか」
時間的にはそれほど遅くはないのですが、今日は疲れたので早く休むと言っていたのです。
眠っているのでしたら、早く自室に戻って着替えたいと思います。
ドレス姿でいる事を質問はされたくないし、ハミルさんの件が知られると大変なことになると思います。
私の部屋はアリサさんの隣なので騒がしくすると気付かれてしまう可能性もあるので、気を付けたいと思います。
私の質問に対して、トランさんの答えは予定外でした。
「アリサなら、エルナの後ろにいるぞ」
「私の後ろですか!?」
私が振り向くと背後で腕を組んでいるアリサさんが居ます。
なぜか少し怒っている気もするのですが……。
「エルナさん。こんな時間まで戻ってこない理由を説明してください」
「えっと……」
「それにどうしてドレスなんて着ているのですか? 私はあまり興味は無いのですが、物を見る目だけはあるつもりです。いい生地で仕立ててあるとても高そうなドレスなのはなんとなく分かりますが、エルナさんの手持ちのお金で買えるとは思えません。エルナさんの所持金を何に使うのかはエルナさんの自由ですが、無駄遣いは自重するようにと言った筈です。それなのに渡したその日に給料の全て使ってしまったのですか?」
そして、私の服装を指摘してきました。
確かにお店の中にあったドレスの中でかなり良いものを選びました。
肌触りも良く肌に馴染む感じも気に入ったのですが、値札を見るととても高い値段でした。
でも、支払ったのはハミルさんです。
私は1ギルも支払ってはいません。
「これは、ハミルさんが買ってくれた物なので私のお小遣いは減っていません」
私の答えにアリサさんが逆に慌てています。
「あの人から貰ったのですか!?」
「えっと……ハミルさんが正装でしか入れないお店に私を招待したのです。その時に成り行きで着替えることになったのです」
「まさかとは思いますが……遅くなった理由はハミルさんと夜の営みの相手までしていたのですか!?」
「していません!」
アリサさんの口から、私がハミルさんに抱かれたのではないかと言う疑惑の質問が来ました!
すると……アリサさんはハミルさんの事を知っていたのですか!?
「それなら良いのですが、あの人と遅くまで付き合ってはいけません。顔と家柄が良いだけの女の敵です」
間違ってはいないのですが、アリサさんも言いたい放題です。
もしかすると、アリサさんも被害に遭ったのでしょうか?
「もしやとは思いますが、アリサさんも被害に遭われたのですか?」
私が疑惑の目を向けると至って冷静に返事をされました。
「ありません。私は、事前に商会長のグレッグさんから警告を受けていたのです」
「商会長さんから、聞いていたのですか!?」
「ハミルさんのいる手前では話しませんでしたが、後ほど綿密な打ち合わせをする時に「息子のハミルは仕事は出来るが女癖が非常に悪い。何を言われても私的な事には応じないように」と警告されています」
「それでしたら、私にも教えて欲しかったです」
そんな話を聞いていましたら、初めから貴方のお父様に言われていますと言って断れました。
「少々問題はありますが、エルナさんにはシアさんと言う恋人がいます。そんなエルナさんがいくらお金を持っていても顔だけの男の誘いに乗る訳が無いと思っていたのです」
アリサさんからも、顔だけのお金持ちの息子としか思われていなかったようです。
親からも問題視されていたみたいなのですから、困った人ですね。
「私もそのつもりでした。しかし、仕事上のお付き合いもあるので、食事だけとの話だけでしたから、断れきれなかったのです」
「エルナさんは、そのようなことをする必要はありません。その為に私が代表をしているのです。例えそうでなくてもこんな遅くまで付き合う必要は無かった筈です」
「それなのですが……色々と奢ってもらっていたので……そろそろ帰ると言ってももう少しだけと言われて断りにくかったのです」
「はぁ……エルナさんは貸し借りの押しに弱いみたいですね。エルナさんのようなタイプには有効な手段のようですが、次回からは男性のその手の誘いには乗ってはいけません。エルナさんは、私から見ても可愛らしいと思いますので、もう少し警戒心を持った方が良いと思います。いくらシアさんが付いているとはいえ心配になってきました」
注意をされている最中なのですが、アリサさんから可愛いと言われるのは嬉しく思います。
私もアリサさんは頼れる大人の女性ですと付け加えたいのですが、そのような事を言える雰囲気ではありません。
「すみません……次からは、異性からのその手のお誘いには勇気をもって断る事にします。私にはシアがいるのですから」
「その考えにも問題は残るのですが……そのままでも良いのですが取り敢えず着替えてから応接室に来てください」
実は少し食べ過ぎてしまいましたので、お腹の辺りがきつく感じていました。
ゆったりとした服装に着替えたいと思っていました。
「応接室にですか」
「私は、そこで明日の事務手続きをしています。エルナさんにもう少しお聞きしたいことがありますので、お待ちしています」
そう告げると立ち去ろうとしています。
私としては、疲れたのでシャワーだけ浴びて眠りたいと思っていたのです。
この船には浴室とシャワーが使える部屋が存在しているのです。
一応は、男女別で二部屋存在しているので、現在はゲイルさんだけは独占状態です。
私はシアと一緒に使っていますが、せめてシャワーだけでも浴びてきても良いかと言おうと思ったのですが、シアがいません!?
「その前に済みませんが、シアがいつの間にかに居ないのですが知りませんか?」
「シアさんなら、トラン君と一緒に先に応接室に向かいましたよ」
なんということでしょうか。
シアが私を置いて別行動をしています!
いつも私の傍を殆ど離れないシアが私に何も告げずにいなくなるなんて、これは事件です!
「どうしてトランさんと一緒に応接室に向かったのですか」
別れる前にこれだけは聞いておかなければいけません。
「トラン君が何かを承諾すると言っていましたが、知りたければ本人から聞いてください」
「わかりました。すぐに着替えて向かいますので待っていてください」
アリサさんに告げると急いで自分の部屋に戻ってドレスを脱ぎ捨てると船内の普段着に着替えました。
いつもならシアが着替えを手伝ってくれるのですが、とても久しぶりに一人で着替えたことになります。
従業員用の制服に着替えて応接室に向かうとシアがいます。
何をしているのかと様子を見ると、トランさんの体に手の一部を同化させています。
以前にトランさんに船の操作方法を教える時に直接トランさんのコアに干渉した方が早いと言ってやっていた事と同じです。
またシアに何かを教えてもらっているのでしょうか?
あの方法で教えると直ぐに実践できるらしいので、私達と違ってとても便利だと思います。
私にもあれに近い方法で、武器の扱いなどが伝授が出来るとしたらとても楽になると思います。
その様子を見ているとアリサさんが咳をして私の方を見ています。
正面の椅子に座りなさいと目が物語っています。
声を掛けてから席に着くとアリサさんのお話が始まります。
「エルナさんが戻る少し前にバルザック商会の会長から、息子が殺されたとの知らせを受けたのです。プライベートはあのような方なので、いつ誰かに刺されてもおかしくないとは思っていました。そして、今晩最後に会っていたのはエルナさんで間違いはありませんね?」
既にハミルさんが殺されたことが伝わっています。
もしかすると私に容疑が掛かっているのかもしれません。
「そうかもしれませんが、どうしてそうだと思ったのですか?」
可能でしたら、無関係を貫きたいと思います。
ですが、アリサさんの表情から、色々と知っているような感じがするので無理かと思います。
「ハミルさんがいつも使っている馬車の御者が目撃をしているのです。エルナさんと口論になった後に馬車を降りてから銃声がするとハミルさんが頭から血を流して死んでいたそうです。エルナさんにはシアさんと言う最強の護衛がいますので、殺されるのなら殴り殺されていると推測しているのです」
目撃者がいたようです。
考えてみれば、当然なのですが、第三者の事にそこまで注意をしていませんでした。
「私もシアもハミルさんを殺したりはしていません。もしかして、私がハミルさんを殺したことになっているのですか?」
「確定はされていません。その御者は、ハミルさんが殺されたことには驚いたのですが、その場をひっそりと逃げ出して近くの軍の詰め所に駆け込んだのです」
だから、警備の為に駐留していた軍の人達が来たのですね。
殺人事件と言え、あんなに大勢の人達が来るのでしょうか?
「逃げる時に手配されている空賊のリーダーを目撃していたそうです。そのリーダーが呟いた声も聞いていたので、ハミルさんを殺したのは空賊のリーダーで間違いはないと思われているのですが、その場から居なくなったエルナさんの所在を確認するようにと連絡が来ているのです」
私の冤罪は免れましたが、ブラッドさんの事で事情聴取でもしたいと言う流れのようです。
空賊のリーダーがいたから、軍が動いたようです。
「率直に聞きます。その場で何があったのか話してもらえますか?」
アリサさんが真面目な目で私の目を見ています。
隠すことではないので、その時の事を正直に話すことにしました。
聞いているアリサさんは困った表情をしています。
「話は分かりました。バルザック商会の会長には、ハミルさんが空賊のリーダーの妹に手を出した為に殺されたのだと話して置きますが、それ以外の事はなんとか誤魔化します。それよりもシアさんの存在を知られていることの方が問題になりそうです。あの地区に謎の隔壁が出来てしまったと問題にもなっています」
「もしかして、軍の方にシアの存在を気付かれてしまったのですか?」
壁を作り出して相手を撹乱するのはシアの得意技です。
基本的には、魔物の侵攻の妨げに使っています。
「聞いた話では、あの場に古代の魔人形の反応が二つあったそうです。一つは空賊のリーダーを登録者にしている者と、もう一つは不明の存在との事です。シアさんは存在を消すことができたはずなのですが、何かしらの状況で勘づかれたのかと思ったのです」
私達を取り囲んでいた人達の中に、シアと同じ存在の者がいたようです。
軍の人達は、ブラッドさんの相方がソーニャさんと分かっているはずです。
ブラッドさんが居るとなれば、ソーニャさんに対抗する為に連れてくるのは当然です。
私が何と答えようかと迷っているとシアが代わりに答えてくれました。
シアは私が強く思った事や考えた事を感じ取って行動してくれるので、とても助かります。
「ブラッドと言う個体を登録者にしていたのは、「トウェルヴ」です。あの個体相手に能力を抑えていては不利になりますので、隠蔽能力は解除しました。私達を囲んでいた者の中に二体の個体反応がありました。戦闘中の私の反応を感知したと思われます」
シアが簡潔に答えると今度はトランさんがシアに聞いています。
「トウェルヴって、重力属性の十二番の奴だよな?」
「そうです」
「あいつは母艦と一緒に自爆したはずなのに生きていたのかよ。そんで空賊の親玉を登録者にしているのか……あいつと戦うの嫌なんだよな」
トランさんはソーニャさんの事を知っているみたいです。
国同士の戦争をしていればいずれは戦うこともあるのであり得る話ですが、相手をするのは苦手なようです。
「トランさんは戦ったことがあるのですか?」
気になったので、私も質問をしてみました。
「あると言うよりも一方的に負けた。あいつは常に重力シールドみたいなのを纏っているらしくて、俺の攻撃が半減するか当たらないんだよ。当たればそこそこはダメージを与えられるはずなんだがな。しかも俺の事を「標準型のパワー押しの馬鹿」とか言いやがったんだ! 言い返したいけど、その通りだからムカつくぞ!」
「それは残念ですが、トランさんは無事なので完全に負けてはいませんよね?」
「まあ、俺は時間稼ぎの相手をしていただけだからな。初めから勝てるとは思ってない」
「勝てないと思っている相手に立ち向かうだけでもすごいと思います」
「そんなことを言う奴はエルナとごく一部だけだぞ。登録者に命じられれば選択肢なんてないぜ」
そう言えば、サーニャさんも命じられたから、船を自爆させたと言っていました。
どんな船だったのかは分かりませんが、古代の魔道船を破壊するなんて勿体ないと思ってしまいました。
「話はここまでとします。朝一番にバルザック商会の会長に話を伝えたら、早急に出航したいと思います。シアさんが立ち去る為に色々としてしまったことを勘繰られる前にここを離れる方が得策です」
アリサさんがそう言うと話はそこでお終いです。
その後は私に部屋に戻って眠るように言われました。
シアも連れて行こうとしたのですが、まだトランさんと繋がったままです。
もう少ししたら部屋に戻ると言われたので、先に戻る事にしました。
疲れていたので、私はいつの間にか眠っていたのですが、朝になって目覚めるといつも通りシアが隣にいます。
挨拶を交わしてから、朝食をみんなと取ると直ぐに出航しました。
頼まれていた荷物の運搬を終えて私達の本拠地である古代都市に向かう途中でトランさんが前方に複数の魔道船を発見しました。
数は五隻ほどいるようですが、軍の船ではないみたいです。
映像で捉えられる距離に近づくと魔道船には空賊「バルバロス」のシンボルマークが付けられています。
つい先日の事なのに早くも私達の航路が知られています。
普段遭遇する魔道船の数よりも多いので、初めから私達を襲うつもりだったのかもしれません。
同時にトランさんは空賊なので砲撃しても良いと判断して砲撃したのですが、命中する前に全ての攻撃が何かに触れて逸れてしまいました!?
そのことで、シアも船の宝玉に触れて何かを確認していたのかと思うと一つの映像に甲板の上にいるソーニャさんが映っています。
「トウェルヴの重力シールドで砲撃が逸らされたと判断します」
するとあの魔道船にはブラッドさんが居ると思われます。
早くも私達を見つけるなんて、あちらも行動が早いと感心をしていると大きな衝撃音が響くと船が大きく揺れています!?
「おい、後方から砲撃を受けたぞ! 後方には魔道船の反応なんてないのにどうなっているんだ!」
船体の後方の映像を出すとかなり大きなダメージを受けているようです。
その事でトランさんはお怒りです。
「おそらく長距離射程が可能な狙撃艦からの攻撃と判断します。更に今の一撃で、この船の機関部分の近くに直撃されています」
シアが説明をすると続いて大きな爆発音が聞こえると更に大きく揺れて船が墜落してきます。
「待てよ! このままだと俺の船はどうなるんだよ!」
トランさんは、せっかく手に入れた船の安否の方が重要のようです。
「他の部屋にいるゲイル達には、操船室に来るように指示はしました。ここの区画が一番強固に作らられているからです。船を着陸させたら、この船は廃棄します」
「俺の船を堕としやがって……そう言えば、狙撃艦とか言っていたが、この船の装甲を簡単に撃ち抜けるんだから、同じ系統の船なんだろ?」
「私の情報が正しければ、後期型の狙撃艦のはずです。長距離射程とステルス能力を備えた特殊艦と判断します」
「よし、あいつらを倒したらその船を奪って俺の船にしてやる!」
船の高度が下がってどんどん落ちていくのですが、トランさんは次の目的が出来たようです。
それよりもここは樹海の森の真上です。
空賊からの追撃もあると思いますが、同時に魔物の相手もしなければいけません。
古代都市まではまだ距離がありますので、無事に戻れるかが心配です。
それよりも今は、このまま船が墜落して大丈夫なのかがとても心配です。




