残念な食事会
「とても高そうなお店なのですが、私にお支払いが出来るのかが不安です」
「私が御招待をしたのですから、エルナさんは気にする必要はありません」
お昼は私の希望で入ってみたいお店で食事をしました。
その後はハミルさんと一緒に街を散策することになったのです。
何か色々と私に話しかけていましたが、私はまったく興味を惹かれませんでした。
これなら、何としても私をその気にさせようとするフィスさんの相手をしていた方が良いと思ったぐらいです。
「それにこんな高そうなドレスまでお借りしているのですが……汚してしまったら弁償しないといけないと思うと……」
「大丈夫です。この店は正装でないと入れないので着替えてもらいましたが、そのドレスはプレゼント致しますので、もっと気楽にしてください」
「そう言われましても……」
「お気に召されなければ、新しいものを用意させますよ?」
「いえ、これが良いと思いましたので……」
「私もエルナさんにとても似合っていると思います」
「そう言ってもらえると光栄です……」
その後は、暗くなってきたので帰ろうとしたのですが、夜の晩餐に付き合ってほしいと言われたのです。
断りたかったのですが、途中で細かな物を買ってもらったりしていますので、断りにくいのです。
自分で支払おうとしたのですが、ハミルさんが先に会計を済ましてしまうのです。
掛かった金額を払おうとしても受け取ろうとしないのです。
私が断れない口実を積み重ねているのです。
貰うだけ貰ってさようならとは私の性分から言えません。
仕方がないのでお誘いを受けると正装でしか入店できないお店に案内されて、都合よく隣にある洋服店でドレスを購入する羽目になったのです。
これ以上は買ってもらいたくなかったので、自分で払おうとしたのですが、試着をしている間に会計は終わっています。
ならば、掛かった費用だけでも何としても受け取ってもらおうと思ったのですが、私の手持ちのお金で買える範囲を超えていたのです。
どうせ自分で買うつもりでしたので、好きな物を選んだのですが……値札をまったく見ていませんでした。
そして、いつの間にかにシアに先に帰るように私から伝言を頼まれたと言って返してしまったのです。
私の頼もしい騎士様が不在になってしまいました。
逃げたいと思ったのですが、私の手を引いてお店に入ってしまいました。
とても高級そうな物がたくさん置いてある店内です。
あの装飾品だけでも今回の私のお小遣いの半分ほどが消えてしまう気がします。
ドレスなんか着るのですから、立食パーティー形式で軽く食事でもしながらダンスの相手でもさせらると思ったのですが、他の人もいるホールの会場ではなく一番上の階の綺麗な星空が見える部屋で食事をすることになったのです。
そして、久しぶりの堅苦しいテーブルマナーの食事をすることになりました。
私が運ばれてくる食事をマナー通りに食事をしているのにはハミルさんは驚いていました。
貧乏貴族の娘ですが、何が起こるか分からないので作法やマナーなどは叩き込まれています。
しかし、こんな食事の仕方は私には合いません。
食事はとても美味しいのですが、早く終わらないかと私はずっと思っています。
ハミルさんの歯の浮いたような言葉で褒められても全然嬉しくありません。
途中で、軽くワインを頂いていると……いつもよりも酔いが回るのが早い気がします?
シアに毎日のように注意されているので、私は自分が飲んでも良い限界を知っています。
それほど口にしていないのに既に呼吸まで荒くなってきている気がします。
更に体調がおかしいのです。
先ほどから、体の奥から熱くなっている気がするのです……まるでフィスさんに魔力を流されて体が熱くなってきた時に似ています。
もしかすると食事に媚薬の類が混ぜられていたのかもしれません。
そして、私が飲んでいるワインなのですが、口当たりがよく普段の私なら美味しいと言って限界まで飲んでしまいそうなワインなのですが、酔うのはまずいと思って控えていたのにかなり酔いが回っています。
恐らくは後から強烈に酔いが回るタイプのワインかもしれません。
以前にフィスさんにその手のワインを進められて飲んだことがあります。
すごく飲みやすくて全然酔う気がしなかったので、つい飲み過ぎてフィスさんの手厚い抱擁を受け入れそうになったことがあります。
シアが止めてくれたので、その時は何とかなりましたが……今は居ないのです。
私の酔いが回ってきて、ハミルさんが少しだけ席を外して誰かと話しているようですが……このままではお持ち帰りをされてしまいます。
なんとか帰らなくてはいけないと思っているのですが、足にも力が入りません。
このままでは、ハミルさんの思い通りになってしまうと思った時に私の正面にシアがいます!?
私の妄想が最後の力を振り絞ってシアの幻を見せているのだと思ったのですが、そのシアが私の頬に手を添えて口づけをしてきました。
酔っているとは言えシアが積極的に私を襲ってくれるなんてとても嬉しいと思いました。
ハミルさんに襲われる前にシアに襲われて私の初めての人になってくれるのなら……などと訳の分からない妄想をしていると我に返った事で気付いたのですが、目の前のシアは本物です!
ついでに体調も元に戻っていますので、酔いも醒めています。
シアが私に濃厚な口づけをしてくれると私が体に取り込んだ不純物を吸収してくれるのを思い出しました。
このまま続けていたいと考えているのにシアの口が離れていきます。
私が物欲しそうな表情をしているのにシアの質問はいつも通りです。
「いつも言っていますが、不純物を取り込み過ぎです。今回は特に体調を狂わす成分が含まれています。この成分を取り込むと思考能力が低下しますので、次からは摂取をしてはいけません」
確かに食事は美味しいと思ったので、しっかりと食べてしまいました。
ワインに関しては飲みやすかったので、もっと飲みたかったのですが、我慢した方だと思います。
どちらにしても不可抗力なので、好きで取り込んだわけではありません。
「私は知らなかったのですから、好きで摂取したわけではないのですが……」
その点を踏まえて言い訳をして置きました。
「食事に関しては仕方がありませんが、アルコールに関しては警告して置いた摂取量を超えています」
食事に関しては認めてもらいましたが、気付かないうちにワインの摂取量は多かったようです。
これに関しては、言い訳を認めてもらえませんでした。
美味しくて飲みやすいのがいけないのです。
「ハミルと言う個体が戻ってきますので、私は隠れます」
私の次なる言い訳を言う前にシアは姿を消してしまいました。
どこに消えたのかと思ったのですが、私の足に何かが触れている感触があります。
しかし、どこに隠れるのかと思ったら、私のドレスのロングスカートの中です。
小柄なシアなら隠れる事は可能と思いますが、私の両足にシアの手が触れている事で違う興奮をしてしまいそうです。
これがフィスさんなら、怪しげな行動を取ると思うのですが、シアは静かにしています。
そこへハミルさんが戻ってきて、体調が優れないみたいなので部屋を用意してあるから休む為に移動をしましょうと進めてきたのですが、私は至って正常です。
私は普通にお断りをすると驚いた表情をしています。
私の表情が元に戻っていることに気付いて「先ほどまでは酔いが回って薬が効いていたはずなのに……」などと口走っています。
酔ったのはともかく私に何かの薬を盛ったことを自ら口にしています。
要するにこのお店は初めからハミルさんとグルだったのです。
私以外の女性もこのお店に招待をして酔わせるだけでなく、念入りに媚薬などの類を食事に混ぜてその気にさせていたと思います。
そんなことをしなくても女性に好かれそうなのに変な人です。
なにわともあれ私を介抱する理由が無くなりましたので、このまま帰らせてもらいたいと思います。
「食事も終わりましたので、そろそろ帰らさせてもらいたいと思います」
「いや……良かったら、部屋を取ってあるので、そこで飲み直さないかな? エルナさんは、いける口みたいなのでもう少し付き合ってほしいんだよ」
今度は部屋に連れ込んで酔いつぶれるまで飲まそうとするのですか?
受けて立っても良いのですが、シアがいる限り私は絶対に呑み比べでは負けません。
ある程度飲んだところで、お花でも摘みに行くフリでもしてシアに酔いを醒ましてもらえば良いのです。
そうすれば、シアに何度でも口づけをしてもらえるので私としても嬉しいのですが、ハミルさんの下心満載の部屋で二人っきりになるなんて絶対に有り得ません。
まだ、ここなら他のお客さんもいますので強硬手段は取れないはずですが、いい加減に帰りたいのが本音です。
お仕事上のお付き合いとしては十分に務めを果たしているはずです。
「申し訳ないのですが、これ以上遅くなると船で待っている皆に迷惑をかけてしまいますので、本日はここでお開きにさせてください」
「そうだよね……仕方ないな。遅くまで付き合わせてしまったのだから、港までは送るよ」
そして、そのまま送り狼にでもなるつもりでしょうか?
ハミルさんも諦めの悪い人ですね。
取り敢えず店の外までは一緒に出ることにして、店から出たらシアが現れれば否応なく三人になります。
それでも諦めずに私達を襲おうとしてもシアの手加減制裁でもしてもらえば良いのです。
シアの事を私の妹的な存在と勘違いしているのでしたら、痛い目に遭うのはハミルさんです。
「わかりました。では、お言葉に甘えたいと思います」
私の返事に満足したのか、まだ勝機でもあるような表情をしています。
そして、私の席の近くに来て手を差し出しています。
まさかとは思いますが、この手を取らないといけないのですか?
今まではシアの妨害があったので、手すら触れたことが無かったのですが、ここに来て初めて触れる事を許してしまう状態になってしまいました。
とても嫌なのですが差し出された手を取りましたが……なんとなく私の手を掴む手が気持ち悪く感じます。
多分なのですが、生理的に私がハミルさんを拒否しているのだと思います。
私が立ち上がるとスカートの中のシアも器用に移動しています。
私は普通に歩いているのですが、スカートの中に誰かがいるなんて周りの人は誰も気づいていません。
そのままお店の外に向かうのですが、問題はどうやってシアを呼ぶかです。
心の中で会話ができるわけではありませんので、伝える方法がありません。
素直にシアを呼んだ場合は、私のスカートを捲り上げて現れることになりますが……シアの事ですから、正面から現れる気がします。
いつもハミルさんと会話をする時は、私の正面に必ずいるからです。
お店の外に通行人が居た場合に見られてしまうとどんな風に見えるのでしょうか?
スカートの中から人が現れるシチュエーションが似合うのは、そちら方面に全振りをしているフィスさんしかいません。
私の大事な恋人であるシアにそんなことはさせたくないのです。
くだらないことかもしれませんが、とても悩ましい問題です。
そして、悩んだ結果そのまま帰る事にしました。
誰にも気づかれていないのですから、このままでも問題はないと判断したのです。
次の問題は、私の姿です。
いくら暗くなっているとはいえ、通行人はいます。
どこかのパーティーに行くようなドレス姿で、歩いて帰るのはかなり目立ちます。
元の私服に着替えたいのですが、シアに渡してあるので設定上は帰ったことになっているシアから受け取ることもできません。
なので、着替えると言う選択肢が無かったのです。
私が悩んでいるといつの間にかハミルさんが手配をした馬車が待機していました。
帰ると言うことに安心をしていた私は、疑わずに乗り込んだのです。
座席に座ったのですが、シアは器用に私の足の間に体を入れて目立たないようにしています。
スカートが膨らんでいるとはいえ、私の両足を掴んでピッタリとくっついています。
こんな時ですが、変な癖が付きそうな私がいます。
その後は、ハミルさんの詰まらない話を聞きながら、どのくらい時間が経ったのか分かりませんが段々と明かりが少ない地域に向かっているのに気付きました。
適当に返事をしていたので外の景色に気付いていなかったのです。
窓の外を見ると宿泊施設が多い地域に来ています。
その一つの豪華そうな建物の前で馬車が止まります。
「さあ、着いたよ」
「あの……ここは港ではないと思うのですが?」
「ここは私と君の港になる所だよ」
「はぁ?」
自信満々の表情で意味の分からないことを言っています。
この人は頭が壊れてしまったのでしょうか?
目的は理解しているつもりですが、もう少し気のきいたセリフが言えないのかと思ってしまいました。
「ここまで来たんだから、いい加減に私の気持ちに応えてくれないかな?」
私が呆れていると、そんな事を言いながら私に迫ってきます。
その気がないのに応える訳がありません。
「その様なお話でしたら、お断りいたします!」
「私の何が気に入らないんだ? ここまでお膳立てして、私を受け入れなかった女性は居ないと言うのに君は変わっているよ」
「単に私がハミルさんの事が好みではないからです。それに毎回のように違う女性と一緒にいる所を見ていますので、もっと好きになれないのです!」
私がそう言い返すと私の両腕を掴んできたのですが、意外と力があるのか痛いです。
「なんだ、私が色んな女と付き合っているのを知っているのか。なら、話は早い。君もその一人になるんだよ」
ようやく本性を出してきましたので、こちらもそれなりの対応をしたいと思います。
「遠慮させてもらいます!」
「めんどくさいな。このままここで……」
「シア! お願い!」
私の言葉で、器用にスカートの中にいたシアがスカートを捲り上げると同時にハミルさんの両腕を私から叩き離すと、ハミルさんの股の間に蹴りを入れています。
蹴り上げられたのに吹き飛んでいないのですから、シアが手加減をしてくれたのに奇声を上げてハミルさんは股の間を両手で押さえながら、その場に倒れ込んでしまいました。
気の所為かと思いますが、何か潰れた音が聞こえた気がします。
そして、痛みと苦悶の表情をして心なしか青ざめています。
私に対して殺そうとしたわけではないので、シアのスイッチが入っていないので死なずに済んだのですからマシな方と思います。
シアが本気の排除モードになっていたら、ハミルさんは即死をしているはずです。
一応は、生きていらっしゃるのですが……この後をどうするのかが問題です。




