久しぶりの母国
「王都に来るのは二度目ですが、変わっていませんね」
あれから、紹介された造船所に物資を卸して買い取ってもらった後に他にもそれぞれの分野の紹介状を貰ったところを回っています。
アリサさんに付き添ったのは、私とシアとゲイルさんです。
私は、一応はアリサさんの助手的な役割です。
事務仕事的な事は何もできませんが、書類などのカバンを持っているだけです。
ゲイルさんは、役割的には従業員兼護衛役になっています。
本当は、シャーリーさんもその役割のはずなのですが、まだ酔っているので船に置いて来たのです。
明日は、仕事で色々と回る所があるから程々にするように言われていたのに駄目でした。
結局のところは、酔いつぶれるまで飲んでいたらしく、アリサさんは呆れていました。
残りは船の居残り組です。
フィスさんやトランさんは、同じ仲間がいると感知されてしまうので不用意には出れません。
それでしたら、船に残っていても誰かに近づかれたりすれば知られてしまうのでは?と、私は思ったのですが、古代の魔道船にはその認識をさせない構造になっているそうです。
なので、船内に居れば例え諜報型の者でも発見はできないそうです。
唯一自身の存在を認識させないのはサリサさんのような諜報型と呼ばれている存在です。
以前にトランさんが潜伏能力があると言っていたのはこれの事のようです。
そして、シアが私と同伴しているのは、その能力をサリサさんを倒した時に習得してしまったからです。
なので、私に触れていなくても完全に存在を秘匿できるようになったのです。
それを知ったフィスさんはとても羨ましがっていました。
自分にその能力があれば私と一緒に行動ができたと泣いていました。
トランさんは、アリサさんに言われれば大人しくお留守番をしています。
レンスリット様は、人が多い所は苦手なのと余り他の人と接触はしない方が良いとの判断でお留守番です。
私と同じで、甘い物が好きなのでお土産は買って帰りたいと思います。
最後にコレットちゃんは、結局自室に引き籠って本を読んでいます。
不健康なので、一緒に行こうと誘ったのですが、書物の解読の方が良いと言って聞きません。
次に仕事以外の時は、シアに頼んで強制的に連れ出したいと思っています。
「まずは、紹介状を頂いた商会を回りたいと思います。その後の事は、船が停泊している港に戻ってから考えることにしたいと思います」
「アリサさんが、代表なのですから、方針はお任せいたします」
「実質的な代表はフィスさんです。表にさえ出てこれれば、私の役割は事務員のようなものです」
正直なところ今後の目的などを私たちは考えていませんでした。
別の国で同じように冒険者組合に登録して活動しようと考えていたのですが、1つ問題があったのです。
私達が持っているカードは一度登録すると、どこの国でも共通なのです。
新たに発行すれば良いかと思っていたのですが、再登録をすると登録した個人の魔力を識別してしまうのです。
その結果、バートランド王国の組合が私達を探索するのに協力してしまうと、私達の所在が知られてしまいます。
私達は、あちらの国ではお尋ね者扱いになっているのですから、宜しくありません。
敵対している国とはいえ、こちらの情報が流れてしまうとこちらでも経緯などを追及されて問題が起こる可能性が高くなります。
要するに冒険者稼業は失業したも同然です。
仮に続けても正規の扱いを受けずに足元を見られるか、素材などを手に入れても買いたたかれてしまうかもしれません。
そんなことをする人が全てではないと思うのですが、こちらの身元が知られるような行動は避けた方が良いと判断したのです。
なので、今度は商売でもしようかと考えたのです。
今の私達には、魔道船があります。
手に入れた物資や依頼された商品を運搬するだけでも十分に商売になります。
それでしたら、その国での運行許可書を手に入れるだけで済みます。
空の通行許可書は、大陸共通ではありませんので各国で発行してもらわなければいけませんので、私達の情報が売られない限りはバートランド王国には知られることはありません。
最初は西方のガリア共和国に行こうとしたのですが、バートランド王国とは正式な同盟を結んでいます。
要請があれは、私達の探索に協力する可能性があるので、フィスさんが反対したのです。
それに個人的に会いたくない方がいるらしく、見つかると宜しくないそうです。
理由は教えてくれませんでしたが、「あいつには恨まれているからな……」と答えてくれました。
きっとフィスさんと同じ強さを持った方なのかと思います。
いま会うと負ける可能性が高いとも言っていたからです。
誰の事なのか気になって、トランさんにも聞いたのですが、知らないそうです。
トランさん曰く「あいつは趣味の為なら好き放題だから、その手の事でやらかしたんだろ」と言っています。
もしかすると誰かの彼女をフィスさんの怪しげなテクニックで寝取ったのかもしれません。
私もシアがいなければあの攻撃の前には落ちていたかもしれません。
あんなことを毎日されていたら、耐える自信がありません。
しかも怪しげな魔力を流すなどのインチキ行為までしていたのですから、無理かと思います。
水を操るというのはフィスさんにとって都合が良すぎる能力かと思います。
次に北方のアストリア王国の案もあったのですが、あそこは基本的には軍事国家です。
いまも領土的に面しているミッドウェール王国とガリア共和国に対して小競り合いをしているそうです。
そんな国に他国の船が入れば、攻撃を受けるか厳しい入国審査が確実とのことです。
そうなると残っている国は私の母国であるミッドウェール王国のみになります。
こちらは比較的に安全な国と判断されています。
他国からの受け入れもそこまで厳しくありません。
私も自分の母国なので、ある程度は知っているつもりです。
問題があるとすれば、私の身元がバレてしまわないかです。
故郷の知り合いに出会わなければ大丈夫かと思いますが、身内に見つかると連れ戻される可能性があります。
実は、学園で問題をやらかして実家に戻った後は、私には縁談が決まっていたのです。
どんな方かは教えられていませんが、私が嫁ぐことで資金面を援助してもらう話になっていたのです。
要するに私は身売りが確定していたのです。
実家に戻ったら、隙を見て逃げるつもりでしたが、不幸にも魔物に襲われて帰れなくなってしまいました。
シアに助けられたお陰で、私は自由と幸せを手に入れたので、運が良かったとも言えます。
一応は、貴族なんて肩書がありますが、貧乏貴族なので未練はありません。
母や姉は論外として、私の縁談に同意してしまったお父様や何の意見も出さなかった兄も知りません。
唯一私の事を心配してくれた弟だけが気がかりなだけです。
仮に見つかった場合は、いくらの援助を約束していたのか知りませんが、こちらもお金で解決するつもりです。
今の私にはそれだけの資金を工面する方法があります。
私個人にはありませんが、私達の中で一番財政力のあるフィスさんに借りればいいのです。
今回、搬入した物資に関しては、殆どフィスさんの取り分となっています。
魔物の素材関係は倒した分で分ける約束をしていますが、戦闘能力の差でフィスさんが大部分を占めています。
シアも劣らないのですが、全ての素材を放棄する代わりに全ての魔核の力を回収しているのです。
本当は、魔核の方がコスト的には良いのですが、シアがそれで強化されるのなら、優先的にすべきとの話になったのです。
そして、ワインなどのアルコール関係は、フィスさんしか作れません。
なので、全ての権利はフィスさんの物です。
特に高額の種類に関しては、フィスさんの機嫌次第なので簡単には作ってくれません。
富裕層向けから、庶民向けまで複数の種類を製作しました。
アルコール類は、どこでも需要があるのでこちらをメインに販売した方が楽だし、フィスさんが頑張るだけでお金になります。
普通でしたら、時間を掛けて作り出す物をフィスさんの能力だけで作れるのは強力な強みです。
更にフィスさんは、資金管理も優れています。
長い時間を過ごすうちにお金の使い方も熟知しているので、しっかりと貯め込んでもいるそうです。
使い道の大半は趣味に回していたそうなのですが、どおりで最初に会った時からも私になんでも買ってくれると言っていたのです。
いまは、私が中々なびいてくれないので、お財布の紐が固めです。
私の性格を理解したからこそ、必ず条件を前提に緩むぐらいです。
「ここで最後になります」
紹介状を頂いた最後の商会の前に来ました。
本国の大通りにある一番大きなお店です。
古風な感じで、大きい建物です。
扉を開けて受付の方にアリサさんが紹介状を渡すと少し待ってから奥に通されました。
向かった先の部屋には、感じの良いおじさまと男女が1人ずついます。
アリサさんとおじさまがテーブルに着いて会話をしています。
待っている私とシアとゲイルさんは、少し離れた背後で立っています。
あちらのおじさまの背後にも二人の方が同じようにしているのですが、男性の方は何故か私の方を見ています?
目を合わせないようにしているのですが、視線が気になります。
私が見た感じでは、いかにも女性にモテそうな方です。
少しだけ視線を合わすとなんとなく好意的な表情になりました。
これはもしかすると私に気があるのでしょうか?
もしそうだとしても私には興味がありません。
私が視線をずらすと少しだけ残念そうな表情をしましたが、その後も私の方を見ています。
そして、隣にいるシアが私の手を掴むと少しだけ面白くなさそうな目をしています。
もしかすると私が心の中で、相手の男性に対して興味が無いのに視線を向けられているのが迷惑だと感じてしまって、シアが私の心を感じ取って面白くないと表現しているのかもしれません。
私がフィスさんの行動に呆れていると、シアは冷めた目をします。
そのことから、シアは私の心の動きに敏感なのだと思っています。
アリサさんの話が終わるとおじさまから、男性を紹介されました。
この方が、今後は業務連絡などは彼がするそうです。
最後にゲイルさんが手にしていた木箱を渡しました。
ここの商会とは、友好的にしておいた方が良いと司令官のおじさまから助言を受けていたので、例のワインの賄賂を進呈することにしたのです。
このワインは賄賂用なので、販売目的では作ってはいない為に元々数はありません。
大量に作ってしまうと希少価値が薄れてしまうので作らない方が良いとフィスさんからも言われています。
それに……これを沢山作るとなると私が差し出す対価が大変なことになります。
要望の対価に関しては、嫌いではないのですが……私自身の問題になります。
こちらの商会に卸す積み荷の運搬先を聞いてから、退出すると私を見ていた男性も一緒に来ることになりました。
道中で、アリサさんと仕事の会話をしながらも当たり障りのない会話を渡しにも振ってきます。
無視するわけにもいかないのですが……正直、迷惑です。
たまにさり気なく私に触れようとするのですが、シアが間に入っているので自然に手を回そうとしてもシアが遮ってくれます。
男性から守ってくれる私の騎士様の行動は完璧です。
シアの行動も自然に相手の行動を遮るので、配慮も完璧なのです。
相手の方は笑顔ですが、僅かに面白くなさそうです。
シアを見る目が邪魔だから、どいて欲しいと言っている気がします。
関心の無い私は殆ど聞き流していたのですが、諦める様子がありません。
後ろを振り向けば背後を歩いているゲイルさんは、その様子を面白そうに見ています。
港に着くまで、ずっとこの調子なのです。
要件が終わって別れ際に「またお会いしましょう」と言われました。
私としては、なるべく会いたくありません。
今回はアリサさんの御供をしましたが、次からは船でお留守番をするか自由行動をしても良いのでしたら、町に行きたいと思います。
本来は、ゲイルさんとシャーリーさんが護衛を兼ねた御供をする予定だったのです。
男性が去っていくことを確認すると私も着替えて町に行くことにしました。
積み荷の降ろす作業は港の方にお任せなので、その間は自由時間にしても良いと言われたからです。
船内で着替えている間はフィスさんにずっと引き留められましたが、久しぶりの町なので買い物がしたいのです。
大抵の生活物資はフィスさんの船にありますが、個人の買い物は別です。
一緒に出掛けたいと騒いでいましたが、シアが複数の反応を感知しています。
察知されない対策をしていないフィスさんとトランさんは、絶対に船から出れません。
嘘泣きをしているフィスさんを置いて、シアとお出かけをします。
久しぶりに恋人と二人きりのお買い物デートです。
シアはいつもの表情ですが、私は一緒に行動ができるだけで十分です。
今回の件で、収入もありましたので色々と買い物をしたいと思います。




