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Eighth Doll  作者: セリカ
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「この船の代表は誰だ」


 あちらの船の一隻が真横に停泊するとあちらからの通信の映像がアリサさんが座っている座席の正面に映し出されました。

 その様子を横から見たところ、表情は厳しそうですが、なんとなく話が通じそうなおじさまです。


「私で御座います」


「見たところ商業船のように見えるが、所属とこの国に来た目的を答えてもらおう」


「どの国にも属していない独立商会です。目的は、積み荷をそちらの国の商会に卸す予定です」


「紹介状の類はあるのか?」


「ありません。今回は、販売ルート拡張の為にこちらに新規開拓の為に参ったのです」


「そうか。積み荷の見分と船の内部の調査をさせてもらうが問題はないか?」


「構いません。ミッドウェール王国の通行許可書なども新規で申請する予定でしたので、疑わしい所がなければそちらの手続きもさせていただきたいのです」


「よかろう。こちらから何人か向かわせるので受け入れをするように」


 そこまでで、会話が途切れると通信が終了しました。

 真横にいる船から、何か伸びてきているのですが、アリサさんがトランさんに指示を出すとそれがこちらの船に繋がりました。

 その場所の映像が映し出されると、先ほどのおじさまと兵士らしき方達が船内に入ってきました。

 それを見てアリサさんがそこに向かうと言いましたので、私とシアも同伴することにしました。

 出ていく前にトランさんに船内にいるゲイルさん達に今からこの国の人達が船の調査をするので、大人しく従うように伝えて欲しいと指示を出しています。

 頼まれたトランさんは、直ぐに他のみんなのいる室内に言葉を送っていました。

 去り際に「俺の船に侵入者が……」と呟いていました。

 アリサさんに止められていなかったら、強硬手段に出そうです。

 ようやく手に入れた自分の船に部外者が入るのが嫌そうです。

 少し心配になりましたが、アリサさんに危害さえ加えられなければきっと我慢してくれるはずです。

 不安を残しつつも船が接続した場所に向かうと、先ほどのおじさまと数人の部下が待機しています。

 アリサさんが頭を下げて挨拶をしてから、書類のような物を渡しています。

 何を渡したのかは分かりませんが、入国管理などの手続きの書類かと思います。

 難しいことは全てアリサさんにお願いをしているので、私にはさっぱりわかりません。

 私とシアの服装は、一応作った船内の乗組員らしく見える服です。

 この制服はフィスさんが作ってくれました。

 初めて知ったのですが、フィスさんは洋裁も得意なのです。

 普段はメイド姿が多いのですが、実は家事全般は殆どこなせます。

 一緒に乗っているみんなの分も作ってくれましたし、アリサさんだけは代表に相応しい衣装を作ってくれました。

 あの性格さえなければ、優秀な方なのですが……とても残念でなりません。

 司令官のおじさまがを書類を確認している途中で、アリサさんが直ぐ近くの扉を開いて室内に招きました。

 記載しなければいけない物もあるからと思います。

 そこで、相手から渡された書類にアリサさんがサインをしています。

 ちらっと見るといつの間にか、私達の商会名が「トラン商会」になっています。

 さっきまで、思いつかなかったといっていましたが、もうこの船はトランさんの物なので、そのまま名付けたのだと思います。

 しばらくするとメイド姿をしたレンスリット様が飲み物を運んできました。

 この船では、レンスリット様の役割は食事係になっています。

 アリサさんとトランさんは、レンスリット様の正体を知りません。

 フィスさんが知らない人が多い方が良いと判断したからです。

 私もそのことから、普段はレンちゃんと呼ぶことにしました。

 他の人はみんな呼び捨てにしています。

 下手に敬称は付けない方が素性も知らされていないので、気付けないとからとのことです。

 私もゲイルさんに呼び捨てで呼んでもらうことにしました。

 いまは、この商会の同じ仲間なのですから、その方が自然だからです。

 

「食料品など以外は、魔道船の資材が多めだな。どこに卸すつもりなのだ?」


 積み荷の大半は、古代都市周辺で狩った魔物の素材が大半を占めています。

 この船には物資が収納できる『ストレージ・リング』がいくつもあったのです。

 大型の重い素材はそこに入れてあります。

 残りの素材などは、普通に搬入をしました。

 元々内部に広いスペースがありましたので、この船の積載制限限界まで積んできました。


「宜しければ、王国の軍事関係の造船所への紹介をしてもらえたら、そちらに卸したいと考えています」


「そうか。近年、魔道船の増強が推し進められているのを見込んでのことか?」


「そう判断してもらっても良いと思います」


 前回のバートランド王国とミッドウェール王国との戦争で、バートランド王国はフィスさんの古代魔道船の艦隊を失いましたが、ミッドウェール王国側はかなりの魔道船を失っています。

 あれから八十年以上の歳月が流れていますが、大国であるバートランド王国の侵攻に備えて軍備強化は最優先事項です。

 なので、フィスさんの提案で魔道船の資材を持って行った方が国が必ず買い取ると踏んだのです。

 

「よかろう。魔道船の資材関係は、こちらに卸すがよい。わしの紹介状を渡せば融通をしてくれるだろう」


「ありがとうございます。それとこの国で初めてお会いした方にこれを差し上げようと考えていましたが、いかがでしょうか」


 そう言って、レンちゃんが抱えていた一つの木箱を受け取りテーブルの上に出しました。

 開封すると、私もよく知っている物が入っています。


「これをどこで手に入れたのだ?」


「そこは企業秘密なので教えられませんが、お気に召しましたでしょうか」


「久しぶりに見たが、この銘柄は「ムーン・ドロップス」と呼ばれた現在は製法が不明な古代人の遺産とも呼ばれているワインだ。これは本物なのか?」


「見たことがあると仰いましたので、お飲みになったことはあると思っても良いのでしょうか?」


「昔に一度だけ飲んだことがある。味も素晴らしいが、高額で取引されるのだが、その存在も希少だ」


「味を知っていらっしゃるのでしたら、ここでお飲みになれば本物か分かると思います」


 中身を取り出すと、グラスに少し注いでおじさまにの前に差し出しました。

 私やシャーリーさんとは違って、匂いを嗅いだりグラスを傾けて目利きみたいなことをしてから口を付けています。

 

「本物だ……まさか生きている内にもう一度飲めるとは思わなかった」


「これは開封してしまったので、背後にいる部下の方達とお飲みください。これとは別に新しい物を進呈いたします」


「好意は嬉しいのだが、このような物を貰う訳にはいかん」


 司令官のおじさまが考えていると副官らしき人物が、受けましょうと小声で耳打ちをしています。

 背後の部下の人達も目が受け取って欲しいと言っています。

 私は気にしたことが無かったのですが、あのワインはとても高額で取引されているそうです。

 古代都市に初めて来たときに水代わりに飲みまくっていたのですが……あれ一本で、私のお小遣いを軽く超えています。

 空瓶しか無かったのですが、水に関することならフィスさんが再現ができたのです。

 成分に関しては、細かい数値をシアが説明をしていました。

 元にした果実などは、樹海の森に存在していたのです。

 シアが私の為に取ってきてくれた果実がそうだったのですが、いま思うと町の商店で売られているのを見たことがない果実でもあります。

 そして、熟成期間に関してもフィスさんの調整で再現したのです。

 後は、古代都市の設備で、瓶とラベルを再現して作り出したのです。

 このワインを採用したのはフィスさんの提案です。

 これは賄賂に使えるから再現した方が色々と有効だと言い出したのです。

 賄賂と言えば、シアも同じような行動をします。

 シアたちには直接戦わない場合は、賄賂の力で相手を懐柔する行動をする癖でもあるのでしょうか?

 なんにしても自分達の特技を生かした方法なので、負担が殆どありません。

 ただ……このワインを作るにはフィスさんの協力が不可欠です。

 作ってもらうには、フィスさんの機嫌を取らなければいけません。

 普通にお願いしても無理なのですが、私がフィスさんの要望を受け入れれば喜んで作ってくれます。

 シアが冷たい目でフィスさんを見る事と私が納得するだけで良いだけです。

 気付けばフィスさんの要望をどんどん受け入れています。

 ここまで来ると、フィスさんの私に対する想いというよりは執念がすごいと思います。

 同じような物で却下された案もあります。

 それは、フィスさんの船にあった銘柄のワインでも良かったのです。

 あれも高価なワインなのですが、製作者がまずいのです。

 ワインの銘柄が「ティア・フィフス」と明記されています。

 そして、絵柄もフィスさんがメイド姿スカートの裾を掴んで御辞儀をしている感じなのです。

 これを使うとバートランド王国で、フィスさんが製作したのがバレてしまうそうです。

 滅多に出回らないのですが、交渉の場でたまに出されていたそうです。

 これが生産できると言うことは、フィスさんがそこにいると存在を発信しているようなものです。

 シャーリーさんが飲みまくっていましたが、フィスさんの船に在庫はまだまだ沢山あります。


「一つ聞くが、こんな高価な物を我々国境警備の者に渡してどんな得があるのだ」


「今後とも末永くお付き合いができるように便宜を図ってもらう為です。こういうことは、最初が肝心かと思います」


 本当は、国境警備に就いている人物が政治面でも顔が利くと言う情報を得ていたからです。

 マクガイル准将と言う方で、人望も厚く穏健派で知られているそうです。

 理由は分かりませんが、ここ数年は国境付近の浮遊島に配属を希望して受理されたとのことです。

 この人物が現れたら便宜を図る事は計画済みです。

 可能な限り友好的にしておけば、何かの時に見逃してくれるかもしれないと淡い期待をしています。

 会えるかどうかは運でしたが、最初に会えたのは幸いでした。


「まあ、良かろう。リストの内容から、我々にできる便宜は図ろう」


「ありがとうございます」


 話がひと段落した所で、別の方が室内に入ってくると、司令官のおじさまに報告をしています。

 特に問題は無いと報告をしていたので一安心です。

 気になった点があるとすれば、室内がアルコールの匂いで充満していた部屋で飲んだくれていた女性とシーツを被って怪しげに悶えていた女性が発見されたことぐらいです。

 怪しい人物と思われましたが、アリサさんがちょっと困った従業員と説明をしていました。

 1人はアル中で、もう1人は行動から察してくださいと……。

 飲んだくれていたシャーリーさんはともかく、フィスさんはいい加減にベッドから出ていてほしかったです。

 トランさんからの指示があったはずなのに、まだベッドの中にいるとは思いませんでした。

 もう1人本に囲まれていた者が居たと報告をしていましたが、それはコレットちゃんです。

 可能な限りの書物を与えられた部屋に運び込んで、読書しかしていません。

 一応は従業員扱いなのですが、いつになったら動くのでしょうか。

 現状では、代表のアリサさんは別として、まともに従業員らしくしているのは、私達とゲイルさんだけです。

 トランさんは船を操船する以外は、アリサさんがお願いをすれば一応は動いてくれます。

 見分が終わると、三隻の魔道船の誘導で、まずは国境付近の浮遊島に向かうことになりました。

 そこからは、制限がありますが通行書を発行してもらって、行動が可能となります。

 まずは、本国に魔道船の資材を搬入してからになりますが、ある程度の自由を得ました。

 本国に行くのは、私が適性検査をおこなって以来です。

 もしかしたら、姉と遭遇するかもしれませんが、どこかの学院にでもいるはずなので会わないと思います。

 それに私はきっと死んだことになっているので大丈夫だと考えています。

 久しぶりの故郷ですが、自分がどうなっているのかだけは調べたいと思います。

 

 





 ~ミッドウェール王国の魔道船内にて~



「閣下、宜しいのですか」


「何がだ」


「あの船はバートランド王国方面から来ています」


「それがどうした。現在は停戦協定を結んでおるし、民間船にそう警戒する必要はないだろう」


「あの船は民間船を装っていますが、古代の魔道船に近い構造をしています。偽装している可能性が高いと思われます」


「あの国では、少し前に魔道船同士でやりあったとの情報が入っておる。王位継承争いと関係があるのやもしれんな」


 我が国に交渉を持ち掛けておる第二王子か、その動きを牽制する第一王子の手の者かもしれん。

 バートランド王国の国境付近の都市に潜ませている者達からの報告では、あの国にとっては面白くない状況らしい。

 前回の戦いで南方の国土を奪われたこともあるが、お互いに取り戻せない戦力を失っている状況で、あの国の戦力が削れるのは良いことだ。

 不確定な情報だが、この者達が関係している可能性が高い。

 わしの機嫌を取ろうとするのだから、敵対する気は無いのだろう。

 目的は知らぬが、しばらくは様子を見た方が良い気がする。

 そして、あの船に乗った時に上空で停船しているのに揺れを全く感じない程安定しておった。

 現在の技術で建造した魔道船にそこまでの安定性は難しい。

 古代の魔道船か、バートランド王国の技術力が上がったのかもしれんが、前者の方が有力だな。

 

「そんな者達を入国させても宜しいのですか?」


「構わんよ。これはわしの勘なのだが、もしもいま戦えば撃沈されるのはこちらだ」


「閣下がそう仰るのですから、あの船は古代の魔道船と考えていらっしゃるのですね」


「まあ、年寄りの勘なので当てにはならないがな」


 なんとなくあの船には勝てない気がするのだ。

 この考えが正しければ、あちらは無傷で、こちらは全滅だな。


「それにあの者は、わしの正体に気付いておったぞ。せっかくそなた達が地方の警備隊の隊長とその部下を演じておったが無駄になったな」


「そんな素振りは感じなかったのですが……」


「おまけにわしの好みまで熟知しておる。まさかこんな物をくれるとは予想外ではあったがな」


 こんな物を数本とはいえ簡単に渡して来るとはな。


「私は、存じませんが希少な物らしいですね」


「古代人が作った上質なワインだ。現在ではその製法方法も失われてしまい未発見の浮遊島でたまに発見されるが、状態が良い物も滅多に手に入らぬ。わしも昔に一度だけ飲ませてもらう機会があっただけの代物だ」


「ワイン通で知られる閣下がそこまで仰るのでしたら、後ほどいただけるのを楽しみにしております。それよりもそこまで考えていらっしゃるのでしたら、本国に報告をしておきますか?」


「確証もないのに報告はしなくてもよいだろう。一応、しばらくは監視だけ付けておくに留めよ。他には今回の資料を元に報告書だけは作っておくように」


「かしこまりました」


 わしの話に納得したのか、一礼をすると部屋から出て行った。

 本国で年寄り扱いをされて、詰まらん余生を過ごすよりは国境付近に居た方が退屈しないで済むと考えていたが、わしが死ぬ前に何か動きがありそうだな。

 このまま平和な余生を過ごすよりは、面白い物が見れそうな予感がするな。

 

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