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Eighth Doll  作者: セリカ
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空の旅


「おーい。ミッドウェール王国の空域に入るぞ」


 船内にトランさんの言葉が響きます。

 昨日は、遅くまで起きていたので、もう少し眠りたいところです。

 しかし、私が目覚めたことで、一緒のベッドで添い寝をしていたシアが行動を開始します。

 ベッドから降りると自分の着替えをしてから、私の服を用意してくれます。

 穢れの無い無垢な瞳で、私が行動するのを待っています。

 もう少し寝かせて欲しいと言いたいところですが、この目に見つめられると起きない訳には行けません。

 こうして、私の健康的な目覚めが確定してしまうのです。

 着替える為に起き上がろうとしているのですが、私の腰にはフィスさんが手を回しています。

 こちらは逆にまだ起きなくても良いので、一緒に寝転がっていたいと主張しています。

 本音としては、その誘惑に負けたいところですが、シアの好意を最優先にしたいのです。

 毎朝の事ですが、その手を軽く叩くと諦めて放してくれます。

 代わりに私の寝巻を脱がせてきます。

 最初の頃は、そんな行動はさせなかったのですが、フィスさんがどうしても「着替えの手伝いだけでもしたい!」と、言って聞かないので私が折れてしまったのです。

 そして、いつものようにシアに冷たい目で見られているのですが、そんなことは気にも留めないで実行しています。

 誰かに着替えを手伝ってもらうなんて、お姫様にでもなった気分です。

 長年の成果なのか分かりませんが、フィスさんの手際は完璧です。

 女性の服を脱がすのは得意と豪語していましたが……フィスさんには不要な技能と思うのは私だけなのでしょうか?

 いまも涎でも垂らしそうな表情で私を脱がしているのです。

 こんな変態さんなのに、戦闘能力はシアと互角もしくは上なのです。

 フィスさんを見ていると、見た目で判断をしてはいけない事例かと思います。

 怪しい着替えを済ませて、私とシアは先に行きます。

 フィスさんは、もう少ししてから行くと言って、ベッドに潜り込んでしまいます。

 1人で残って何をしているのかは、もう知っています。

 シアが室内を監視していた映像を見せてくれたのです。

 まさか、あんなことをしているなんて……正直フィスさんの性癖には呆れてしまいました。

 最初の頃は抵抗がありましたが、いまは気にしないことにしています。

 本人が幸せなら、私はその人の趣味をとやかく言う気はありません。

 私自身が、シアを恋人として見ているからです。

 ゲイルさん達は何も言いませんが、アリサさんからは「いまは宜しいのですが、いずれは現実を見据えて健全な目と思考を持った方が良いと思います」と、言われています。

 要するにこのままですと、婚期を逃してしまうと言っているのだと思います。

 私は別に一生このままでも良いと考えています。

 仮に私のお相手になる男性の方がいるとすれば……見た目はとても可愛い子で、背も低く女の子と間違えてしまう子でしたら考えても良いと思います。

 出来れば、心も乙女の方が望ましいです。

 そんな可愛い子でしたら、私も受け入れても良いかと思います。

 今の世の中では、そんな男性は存在するはずがありません。

 現時点では、私が男性と結婚をする可能性は限りなく低いと思います。

 そんなことを考えながら、操船室に着くと扉が開いて、みんなが改造した室内のテーブルに座って朝食を取っています。


「フィスの奴は、いつもの病気か」


 トランさんが話しかけてきましたが、もうフィスさんの性癖を知らない人はいません。

 

「本人はお楽しみの時間と言っています」


「俺は詳しくは知らんが、あれを変態って、言うんだろ?」


「個人の趣味なので、私からは何とも言えません」


 本国の王宮でも、フィスさんの性癖は有名とのことです。

 この手の事に興味が無いトランさんでも、流石にフィスさんの行動については知っているようです。


「だけど、エルナは気にならないのか? アリサにその様子を見せたら、「絶対に真似をしてはいけません」と力説されたぞ」


「使用後は、とても丁寧に洗濯をしてくれていますので、気にしないことにしているのです」


 フィスさんに洗濯をしてもらった方が、仕上がりがとても良いのです。

 あの性癖に目を瞑れば、最強の洗濯係の称号を贈りたいところです。


「まあ、俺はどうでも良いんだけどな」


 トランさんとの会話が終わり、私が席に着くとアリサさんが温かい飲み物と柔らかいパンを出してくれました。


「おはようございますエルナさん」


「アリサさん、おはようございます」


「エルナさんが納得されているのでしたら、私は特に言うつもりは無いのですが、あのようなことは止めさせた方が良いと思います。私でしたら、とても耐えられません」


「あまり拒否をすると暴発してしまうので、あのぐらいでしたら許容範囲と思っています」


「あの子もシアさんと同じぐらい強い方と言うことは分かりましたが、少しばかり……いえ、かなり性癖に問題があると思います」


 古代都市に滞在している間にアリサさんもフィスさんの強さを知っています。

 たまに私達と一緒に外で狩りをしていたこともあるので、その時に私達では倒せない大型の魔物をあっさりと倒しているのを見ています。

 自分の船の改修が終わってからは、フィスさんにしか出来ない仕事をお願いしていたのですが、地味な仕事なのでたまに憂さ晴らしに魔物を狩っていたのです。


「それよりも商会の名前は決まりましたか?」


「まだ思いつきません。それよりも私がその代表と言うのも……」


「私達の中で、事務関係に強いのはアリサさんなので、問題は無いと思います。それにこの船はトランさんの物ですから、その相方であるアリサさんが代表なのは間違っていないと思います」


「この船はトラン君の物であって私の物ではないのですが……」


 トランさんの物なのですから、同時にアリサさんの物で問題は無いと思います。

 いつでもシアが操船することは可能ですが、それ以外はトランさんしか動かせません。


「アリサ、エルナの言う通りだぞ。俺の物はお前の物と言う認識で間違ってないぞ」


 悩んでいるアリサさんにトランさんが声を掛けました。

 トランさんは、自分の物は全てアリサさんの物と宣言しています。

 私もシアにみんなの前で宣言をしてもらえたら、とても嬉しいと思います。

 基本的にシアは、無口で余分な行動をしません。

 でも、いつか積極的なシアに……。


「エルナ、どうした? 遠い目をしながら口元から涎が垂れているぞ」


 トランさんに指摘されて現実に戻ってきました。

 つい、幸せな妄想に耽ってしまったようです。


「ちょっと、考え事をしていただけですから、気にしないでください」


 口元を拭おうとしたのですが、シアが直ぐに布で口元を拭いてくれました。

 私の恋人はのフォローは完璧です。

 物足りない事があるとすれば、もう少し表情を変えて私に微笑んでくれたら最高なのですが、まだ先のようです。


「お前、たまに他ごとをいきなり考え出したりするよな? 確か、シャーリーがエルナは妄想癖があると言っていたが、いまのがそうなんだろ?」


「えっと……否定はできませんね……」


 シャーリーさん……間違ってはいないのですが、トランさんに余計な知識を与えないでくれると助かります。

 意外なことにトランさんは長く活動しているそうなのですが、戦闘以外の知識は意外と疎いのです。

 なので、私達と日常生活を送るようになって、ちょっとした変化に疑問を持つと質問をしてきます。

 船の改修に数十日を掛けたのですが、その間にみんなと仲良くなって今では普通に私達の中に溶け込んでいます。

 最初は冷たい態度のシアも自分に対して素直なのを認めたのか、普通に接しています。

 ほぼ無表情で無口なのは変わりませんが、少なくとも私の敵と言う認識は完全になくなっていると思います。


「アリサも言っていたが、俺達以外の前では止めた方が良いそうだぞ」


「心に留めておきます……」


 この件に関しては、アリサさんもシャーリーさんと同意見なのだと思います。

 分かって入るのですが、考え出すと止まらないので仕方がないのです。

 現実で叶わないのでしたら、せめて夢の中ででも進展がしたいのです。


「前方から、魔道船が三隻来るがどうするんだ?」


 私には、まだ見えないのですが、トランさんには分かったみたいです。

 外の様子を私とアリサさんが見ていたので、前方の映像の一つに捉えたであろう映像を見せてくれました。

 その船には見覚えがあります。

 私の母国であるミッドウェール王国の軍艦です。

 本国に一度だけ行った時に飛んでいるのを見たからです。


「おそらく、警戒範囲内に未登録の船が侵入してきたので、偵察もしくは検問に来たと思われます」


 その映像を見てアリサさんが答えました。


「敵対行動をするのなら、撃ち落すのか?」


 いきなり撃ち落すなどの攻撃なんてしてしまったら、いきなり敵認定をされてしまいます。

 初めて手に入れた魔道船で戦いたいのか、トランさんは好戦的です。


「いけません。私達は商船として入国するのです。こちらからは決して手出しをしてはいけません」


「ダメなのか……だけど、あれはミッドウェール王国の軍艦だぞ? それにただの魔道船だから、この船の火力なら、あんな船は一撃だ」


 トランさんは、あの船が軍艦と知っていたようです。

 長きにわたって戦争もしているのですから、知らないはずはありません。

 いまこの船は、最低限の武装以外は外見的には見えていません。

 元々この船は艦載機のガーディアンを半搭載した準戦艦タイプとのことです。

 私は、魔道船については詳しくはないので聞いただけで意味は分からなかったのですが、軽空母と軽巡洋艦を組み合わせた船だったと言っていました。

 現在は、その面影はあまりありません。

 ガーディアンを収納していた格納庫は、商売の為の物資が積み込まれています。

 外装も大陸間で共通している軽武装の商船仕様にしてあります。

 主砲の威力などもトランさんに通常の魔道船並みの出力で極力使うように言ってあります。

 たまに空賊などがいますので、武装無しとはできません。

 護衛艦がいる大型の輸送艦の場合は武装が無いそうですが、私たちは一隻なので、この仕様が一番良いとのことです。


「トラン君が戦いたいのは分かりましたが、この国の軍隊と争うことはいけません。魔道船で移動をしていれば、いつか空賊の類に狙われる可能性がありますので、その時は思う存分に戦ってください」


「わかった。なら、早く空賊とやらが襲って来るのを待っているぜ」


 アリサさんに注意されて、戦うべき相手が定まりましたようです。

 空の旅などしたことがありませんので、空賊の規模がどれくらいなのか分かりません。

 その辺りについては、アリサさんが少なからず知っていました。

 トリスの町に定期的に来ていた商船がたまに襲われているので、少なくない被害が出ているそうです。

 地上での輸送よりも魔道船を使った方が船の規模にもよりますが、物資も多く積めます。

 空の上なので、地形に左右されませんので、日数も短縮できます。

 空賊に襲われなければ、護衛も少なくて済みます。

 飛行型の魔物もいますが、大群で襲われるか大型の魔物と遭遇しない限りは通常の武装で対処が可能です。

 私は見たことが無いのですが、とても大型の龍種と遭遇してしまった場合は、通常の魔道船一隻ではなすすべが無いそうです。

 その話を聞いていた時にシアが龍種の魔核が欲しいので見つけたら狩りたいと言っていました。

 アリサさんはいくらなんでも単独で倒すのは無理と言いましたが、シアが言うには完成された龍種の魔核は大きな力が得られるからと言っています。

 その言葉を聞いて、フィスさんとトランさんは何が得られるのか理解できませんでした。

 魔物の魔核の力を吸収しているのはシアだけです。

 他の方は、そんなことはしないそうです。

 成長するシアに比べて、フィスさん達は既に完成しているからとのことです。

 欠点があるとすれば、登録者との同調率だけです。

 この問題さえ解決すれば、フィスさん達は全力が出せるのです。

 シアは、私が初めてなので最初から全力なのですが、いまも少しづつ強くなっています。

 もしかすると、シアだけは私の次の人に出会っても強さを維持したままでいられるかもしれません。

 仮定の話ですが、一度だけシアに質問を仕掛けたら、指を口元に近づけて言葉を遮られました。

 そして、「そのようなことは考えてはいけません」とだけ、注意をされました。

 つい余計なことを考えてしまいましたが、私の次のことなど考える必要はありませんでした。

 私は、ずっとシアと一緒に居られればいいのです。

 先の事は、次の世代が考えればよいのです。

 そんなことを思い出していると、正面から三つの物体がこちらに近づいて来るのが私にも確認ができました。

 しばらくするとその近づく物が、魔道船の姿だと分かります。


「あっちの船から、停船しろとか言ってきたぞ」


 トランさんには相手からの通信が届いたようです。


「船を止めてこのまま待機状態にしてください。あちらの船が隣接してきたら受け入れてください」


「俺の船にあいつらを招くのか?」


 トランさんは少し不満そうですが、アリサさんの言葉なので、指示どおりに船の動きを止めました。


「まずはこちらの身元を調べるはずなので、バートランド王国経由で来た商船であることを説明したいと思います。船内を少し調べられると思いますが、決して排除しようなどと考えないでください」


「わかった。だけど、変な真似をしたら保証はできないぞ」


「その時は、こちらも考えます。相手の方達がまともな人達と祈るばかりです」


 なんとかトランさんに手を出さないようにお願いをしているアリサさんは何となくお疲れ気味です。

 トランさんは素直なのですが、注意をしないと行動をしかねないのです。

 例え相手が自分よりも強くても戦闘を回避するような考えは持っていません。

 私も何も問題が無いことを祈るばかりです。

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