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Eighth Doll  作者: セリカ
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家に帰りましょう


「警告します。直ぐにエルナから離れてください」


 シアが最初に声を掛けたのはトランさんです。

 そして、トランさんを見るその目は、私がサリサさんに拘束された時と同じ目をしています。


「嫌だね」


 シアの警告に対して、トランさんは直ぐに返答をしました。


「では、排除します」


 その言葉と同時にシアの姿が消えたと思ったら、既にトランさんに襲いかかっています。

 対するトランさんは攻撃には転じずに防御優先で受け身に回っています。


「待ってください、シア!」


 受け身のトランさんに対して攻撃を続けているシアを止めようとしたのですが、私の言葉が聞こえていないのか、攻撃の手を止めません。


「いきなり攻撃してくるとか、さっきとえらい違いだな」


 トランさんの質問に対して、シアが即座に答えました。


「優先順位が変更された為です。現在の最優先行動は、エルナの生命を脅かした存在の消去です。この基地内に残っている排除すべき存在は、フィフティー セブンスだけになります」


「存在の消去とか、過激な奴だな。その通りなら、他の奴らはどうなったんだ?」


「この基地内におけるエルナの敵と認識した生命体の活動は、全て停止させました」


 どのくらいの方がいたのかは分かりませんが、その全てをシアが殺してしまったのですか!?

 シアがそんな大量殺人をするなんて、私には信じられません。


「要するに殺したのか。お前を連れて行ったサリサはどうした? お前に比べたら相手にならないと思うが、逃げにでも徹すればあいつには潜伏能力があったはずだ」


「シックスティー フィフスは、最初に消去しました。復活の可能性はありません」


「意外としぶとく生き抜いてきたのにあっさりとやられやがったな」


「後は、フィフティー セブンスを排除すれば、この基地内におけるエルナの脅威は消えます」


「そうかよ。だけど、今度は簡単にいかないぞ!」


 そう宣言したトランさんですが、シアの攻撃に対して防戦一方です。

 シアの攻撃の手数の方が多く、攻撃に転ずることもできていないのです。

 しかし、その全ての攻撃を受けきっているトランさんもすごいと思います。

 あれが魔物でしたら、例え大型の魔物でも確実に即死コースです。

 それだけ、シアの繰り出す一撃は強力なのです。


「現在攻撃に耐えられていることから、フィフティー セブンスの能力に上昇が見られます。いまは私の攻撃に耐えられていますが、魔力が尽きた時が最後です」


「また、俺の解析かよ。お前は、戦闘型なのに解析能力も持っているとか嫌な奴だな。それ以前にお前、能力が多すぎだろ!」


「一時的に私に追いついていますが、所詮は標準型ユニットです」


「標準型で、悪かったな!!! だが、打撃力は俺の方が上なんだろ!」


「それは先ほどまでの話です。今の私には、例え大きな攻撃を受けても十分に耐えることができます。どちらにしても防御に回す魔力を攻撃に回すことは敗北を早める結果になります」


「お前の言う通りなら、俺は完全に負けるのが確定じゃねーかー!」


「このまま防御に徹していても、フィフティー セブンスにできることは、私の魔力を少しばかり消耗させるだけです」


「なんだそれは! だったら、お前に最大の一撃でも喰らわせた方がマシだ!」


 狭い通路の至近距離で、シアの攻撃を受け続けていたトランさんの右手に光のような輝きが纏い始めると同時にシアの蹴りがトランさんの横腹に入って、誰も入っていない部屋の方に扉ごと吹き飛ばされて行きました。

 トランさんの魔力が大きく振りかぶった右腕に集まった僅かな隙を見逃さずにシアの一撃が決まったようです。

 部屋の中に目を向けると壁にめり込んでいるトランさんにシアの視線が向きます。

 いきなりのことで、見ているだけでしたが、このままではシアにトランさんが殺されてしまいます。

 トランんさんが私達の味方になったことを知らないシアにはトランさんを敵として認識されているのです。

 私は、歩き出すシアに急いで抱き着いて声を掛けました。


「シア、待ってください! トランさんは、私達の味方になったのですから、戦うのを止めて欲しいのです」


 私の声が届いたのかシアが動きを止めました。

 そして……。


「フィフティー セブンスは、エルナの生命を脅かした者達に加担していました。排除すべき存在と判断しています」


「それは少し前の事で、いまはアリサさんの相方になって、私達の味方になってくれました。私のお願いを聞いてもらえるのでしたら、過去の事は忘れて欲しいのです」


 私の説得が通じたのか、シアの目がいつもの雰囲気に戻りました。

 

「わかりました。それがエルナの願いなのでしたら、私は従います」


「私達は、主従関係ではなく、恋人関係です。そのような堅苦しい言い方も止めて欲しいのです」


「わかりました。エルナが望むままにします」


 シアが大人しくなると、アリサさんがトランさんの方に行きました。

 様子を覗うと、めり込んでいた壁から這い出てアリサさんの後を付いてこちらにきました。

 さっきまで、シアに襲われていたのに特に気にしていない様子です。

 蹴り飛ばされたのにシアの傍に来ると普通に質問をしてきました。


「お前強すぎだぞ。絶対にフィスやツヴァイと同じ上位型だよな?」


 トランさんがシアに質問をしましたが、シアは当然のように無視をしています。


「おい、無視かよ……」


 そう言えば、シアは私がお願いをしないと相手に反応を示さない傾向にあります。


「シア。トランさんとアリサさんは仲間になったのですから、話には応じてあげてくださいね」


「わかりました。フィフティー セブンスとアリサには対応をすることにします」


「それと、トランさんの事は数字ではなく、名前で呼んであげてください」


「わかりました。フィフティー セブンスの事は、名付けられている名称であるトランと呼ぶことにします」


 私とシアのやり取りを見ていたトランさんが再び話しかけてきました。


「それで、さっきの質問は合っているのか?」


「合っています」


「じゃ、お前の数字は何番なんだよ?」


「教える必要性がありません。知りたければ自分で調べてください」


「お前ケチだな。どちらにしてもこれだけ差があると二十番以内なのは確実だ」


 まったく気にしていなかったのですが、一桁台以外には二十番以内だと強い方がいるようです。

 シアのような強い方が、他にも沢山いるようです。

 そんなことを考えていると、シアが私の首輪に触れてきました。

 そして、何か言葉を発すると首輪が外れました!?


「これはサリサさんにしか外せなかったのではなかったのですか?」


 私の質問にシアが答えてくれました。


「シックスティー フィフスから情報を抜き取りましたので、私にも解除が可能になりました」


 先ほど、サリサさんを消去したと言っていました。

 その時に自白でもさせたのでしょうか?

 どのような方法かは分かりませんが、私の身の安全が確保されたのは幸いです。


「お前、そんな事もできるのか」


 シアが私の首輪を外したのを見ていたトランさんが質問をしてきましたが……。


「標準型のトランにはできないだけです」


「そうかよ。標準型で悪かったな」


 なんというか……トランさんに対するシアの態度が冷たいです。

 フィスさんに対する態度よりも温度が低めです。


「シアさん。私が口を挟める立場ではないと思うのですが、そのような言い方は良くないと思います」


 2人の様子を見ていたアリサさんがトランさんの加勢をしています。

 見た目的には2人は恋人と言うよりも姉弟に見えます。

 シアとトランさんの身長も同じぐらいなので、同年代と言われても不思議はありません。

 ここは、お姉さんとして、いじめられている?弟を助けてあげているのかと思います。


「アリサには、関係がありません」


 残念なことにアリサさんの忠告は通じませんでした。


「関係はあります。私はこの子の保護者になったのです」


 アリサさんの感覚では、姉弟ではなく保護対象の子供扱いのようです。


「俺は保護されるような弱者じゃないんだけどな。そんなことよりも外に出ようぜ」


 それを聞いていたトランさん自体は気にしていないようです。

 それにトランさんの言う通り首輪も外れたのですから、ここにいる必要はありません。

 シアが私の方を見ていたので、頷くと「付いてきてください」と一言告げると壊れた扉の方に向かいました。

 みんなで付いていくと最初に目に入ったのは、見張りをしていたと思われる方が倒れていました。

 その周りの床に大量の血だまりができています。

 どことは言いませんが、倒れている体の一部がありません。

 代わりに壁の一部に何かがぶつけられた血の跡と肉片が散らばっています。

 通路に出て、その惨状を目にしたアリサさんは、口元を押さえて目を逸らしています。

 私も驚きましたが、そこまではなりませんでした。

 ゲイルさんやシャーリーさんも同じです。

 普段から、魔物を狩っていることもあるので、大抵の事には慣れているのだと思います。

 ただ……その対象が人になってしまっている為に気まずい雰囲気です。

 私の為とは言え、これをシアがやってしまったと思うと心苦しくなりました。

 進むにつれ同じように何人も倒れている方がいるのですが、動く気配すら感じませんので亡くなっているのは間違いないようです。

 事情はどうあれ、私が原因なのですから申し訳ない気持ちでいっぱいです。

 建物の外に出ると更に酷い惨状です。

 多くの方が倒れていますが、動く方は一人もいません。

 中には、最初の方と同じで体の一部が見当たらない方も何人かいるのですが……考えないようにしました。

 魔道人形も何体かいましたが、全て破壊されて転がっています。

 争った形跡が見られますが、誰一人としてシアを止めることができなかったようです。

 その光景に驚いていると、魔道船が見えていた場所にシアが進んでいきます。

 付いていくと一隻の魔道船の前で立ち止まります。

 一隻だけ別の形をしている巡航空母と呼ばれていた魔道船です。

 シアが船体の一部に手を翳すとその部分が開かれました。

 そのまま内部に入ると動く者がいたと思ったのですが、それは古代都市で見かけたのと同じ作業用の魔道人形でした。

 シアが近づくと動きを止めて私達の通行に邪魔にならないように待機をしています。

 そのことから、この船の主導権をシアが握っているのだと推測しました。

 私の記憶が正しければ、この船の持ち主はサリサさんだったはずです。


「おい、この船の主導権を手に入れたのか?」


 その様子を見ていたトランさんが、シアに質問をしています。


「シックスティー フィフスの権限をそのまま奪いました。船を掌握しているのはそれが理由です」


「倒した相手の船を直接奪えるなんて聞いたことがないぞ」


「他の個体の事は知りませんが、私には可能だっただけです」


「お前、本当にすごすぎるぞ。これだけ万能型の個体が存在していたなんて初めて知ったぞ」


 トランさんが驚いている間も進むと、操船室に辿り着きました。

 そして、中央にある宝玉にシアが触れると船内が明るくなり周りの景色も見えるようになりました。


「船体損傷率が4割。艦載ガーディアンがゼロ。一応は航行可能な状態と判断しました」


「なんでも、ツヴァイの船を庇った事で、損傷をしたとか言っていたな」


「余計なことをしなければ、多少の被害で済んだのに誤った判断をしています。セカンド・エンジェルの防御力なら、魔力防御が減少していても装甲の損傷程度で済んだ可能性がありました」


「なんだ、お前がやったのか? ツヴァイの奴がフィスにやられたとか騒いでいたから、フィスの奴やるなーと思っていたんだけどな」


「フィフス・エンジェルをフィスが操っていた場合だと、七割の確率でフィフス・エンジェルは大きな損害を受けていたと判断します」


「今の話を聞いていると、フィスじゃなくてお前が操船していたのかよ」


「そうです」


「自分の船を他の奴に操船させるとか思い切ったことをするな」


 トランさんの質問に答えながらも船は上昇して動き出しています。

 

「このまま防衛都市アズラエルガードに向かいます」


「あの廃墟はまだあったのかよ。最近の調査だと森に埋もれて消えたとか誰かが報告していたな」


「あそこは私とエルナの家と認識しています。埋もれていたのではなく、都市の機能を起動させて森の一部としてカモフラージュをしていただけです」


「そうだったのか。昔に調査をした個体が都市の機能を再起動させられなかったとか言っていたんだが……あれは嘘だったんだな」


「その個体の能力が足りなかっただけと判断します」


「ここでも能力の差かよ。まあ、いいんだけど。一つぐらい俺にも追加能力が欲しい所だぜ」


 新たなシアの凄さを聞いたトランさんが、その場で寝転んで新たな能力が欲しいと呟いています。

 トランさんは、純粋なパワータイプです。

 なのにその分野でもシアに負けてしまっているのですから、何か特殊能力が欲しいと思うのは分かる気がします。

 私も自分だけの特技が欲しいと思ったことはあります。


「情報が足りませんが、標準型を強化する方法はあります」


「それは本当か!?」


 シアの言葉を聞いて、トランさんが立ち上がってシアに詰め寄っています。


「私の失われた情報が復元できれば、可能だったと言う情報が残されています」


「それが本当なら、俺を雑魚扱いしていた奴らを見返せるぞ!」


「私の情報が復元できれば可能性があります」


「よし、可能な限りはお前に付いていくことに決めたぞ。アリサの気が変わらないようにしっかりと説得してくるぜ!」


 そう言うとトランさんは出て行ってしまいました。

 この場には、私とシアだけになってしまいました。

 船が動き出してからは、アリサさんは気分がすぐれなかったので、作業用の魔人形の案内で休める部屋に行きました。

 シャーリーさんは当然のようにワインを求めて食糧庫に行ってしまったのです。

 その付き添いで、ゲイルさんも付いて行ったのです。

 2人っきりになったことで、背後からシアに抱き着いて流れる夜空の景色を見ています。

 シアの表情は変わりませんが、こうしているだけで私は安心ができます。

 このまま何もないことを祈りつつ無事に家に帰れることを思っています。

 







 ~某所にて~



「六十五番とのリンクが切れたな」


「サリサの事でございますか?」


「そんな名前の人形だったな。レンスリットの件を任せておいたが、使えない人形だ」


 話をしていた者に六十五番からの報告書を渡してやった。


「拝見いたします。これは……少々面白くない内容で御座いますな」


 五番との交渉に失敗して、余計な損害を出したと言う内容だ。

 権限は与えたが、使えない人形だ。


「魔道船の損害よりも軍部の者達が介入してくることは、好ましくないかと思います」


 軍部は独自の体制を取っている為に王族と言えど手出しがしにくい。

 上層部の者達は、血筋を辿れば継承権を放棄しているだけだからだ。


「この不明の個体の件はどうするおつもりですか?」


「連れてこいとは言ったが、リンクが切れたことから失敗したのだろう」


 レンスリットの件を優先するように命じてあったのだが、地方都市の大規模な捜索までしてしまうとはな。

 与えた権限の範囲で、軍部の介入までさせる程の価値があるのか?


「下位の個体なら、気にする必要はありませんが、不明の個体は、上位個体の可能性が高そうです」


「気になるのなら、お前に任せる」


「登録者は若い娘のようなので、どうとでもなるかと思います」


「好きにしろ。それよりも次の人形を手配してくれ。同じ型の方が、今は都合が良いな」


「現在待機中の人形に殿下と相性の合う人形は居ないと思われます。六十五番のように強制をして、契約を結ぶと性能が落ちます。それに今回は国から二体も失ったことになりますので、了承が得られるかです」


「それを何とかするのがお前の仕事だ」


 現在までに残っている古代の魔人形は多くない。

 母艦持ちなら、なおさらだ。

 どの国も同じ状態だが、我が国はましな方だ。


「少しお時間を頂きます事をご了承してください」


 そう答えると部屋から出て行った。

 どうする気かは知らんが、あの人形よりは良い結果が聞きたいものだ。

 

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