シアの得意技
「こまでは意外と順調だったな」
樹海の森の範囲を抜けて街道に近づいたところでゲイルさんが呟きました。
「お二人に御迷惑をかけて申し訳ありません」
「いいのよ。私達も話をしておく人がいるのだから気にする必要はないわ」
私が済まなそうにしていると、シャーリーさんが話しかけてきました。
「いくらシア嬢ちゃんが強いからとはいえ、二人だけで行かせるわけにはいかないからな。それに俺達の知り合いを使った方が早く用が済ませられるだろう」
「はい! ありがとうございます!」
私たちは現在トリスの町の近くまで来ています。
地下迷宮の方は捜索隊らしき人がいるようなので、地上の森を抜けてきたのです。
普通に考えれば、地下迷宮を通るよりは森を抜けた方が安全と思われますが、森の中心部に深入りすると帰るのが困難な森なのです。
魔物の強さはかなり偏りがあり突然とんでもなく強い魔物と遭遇する可能性もあると言われています。
実際に私達では倒せない大型の魔物とも遭遇をしていますが、そこはシアが倒してしまうので、私達には問題になっていません。
最大の問題は気付かないうちに方角を見失ってしまうと言われているのです。
その経験はシアと出会うきっかけとなった魔物に襲われた時に感じています。
あの時の私は、逃げる時に街道の方角を選んでいるつもりでした。
一時的とはいえ少し樹海の森の範囲に足を踏み入れただけなのに気付けば奥地に進んでいたのです。
そのお陰でシアと出会うことができたので助かったことは幸運でした。
今の私達にはシアがいるのですから、迷う心配もありません。
シアにはこの大陸のどの地点に居るのかを把握できているそうです。
古代都市から、この大陸の過去の地図の情報を引き出しているそうです。
そして、どうして樹海の森に足を踏み入れると方向感覚が麻痺してしまうかも分かりました。
大陸の中央に存在する樹海の森全域に方向感覚を狂わせる物が大量に敷設されているそうです。
なぜそんなことをする必要があるのかを聞くとシアが古代都市から得た情報によると大陸の中央部は、実験場だったそうです。
何の実験をしていたのかを聞くとフィスさんが代わりに答えてくれました。
生体兵器と自分達の実験場だったと言いました。
フィスさんのような戦闘に特化している方は、単独でこの森に深入りすると出るのに一苦労したそうです。
迷わないのは探査に特化した方でその敷設した物が通じないらしいのです。
今のところはシアにも影響を及ぼさないらしいので、森の地図を把握しているシアには正確な道が分かっています。
地下迷宮の道も一度通れば全て覚えてしまうので、シアがとても賢いのでとても助かっています。
私の恋人はすごく頼りになりますので、私にはありがたい存在でもあります。
続けてフィスさんが言うには浮遊島に住む古代人にとっては地上の大陸はどんな被害が出ても構わないと言う認識だったそうです。
「それにしてもこの数日で思ったんだが、エルナ嬢ちゃんの剣の腕が上がったな」
もう少しで街道に出れそうなところでゲイルさんが私の方を向いて声を掛けてきました。
「そう言ってもらえるのは嬉しいのですが、まだまだだと思っています」
「最初の頃に比べたら、良い動きをするようになったぞ。たまに俺よりも魔物に対する反応が早いのはエルナ嬢ちゃんのセンスがいいんだろうな」
「ありがとうございます! でも、反応が良いと言ってもらえるのは、私がなんとなく気配に敏感だからだと思います」
昔から、姉やお母様の目を盗んで色々としていたので、なんとなく人の気配に気付けるようになったのです。
あの2人が近くにいると隠れるか避ける行動を極力していたのが原因かと思います。
要するに私に意地悪なことをする人に気付ける能力とかでしょうか?
魔物のなどは敵意などを持って襲ってきますので、近い感覚なのかもしれません。
そう考えると私の中では、あの2人は悪意のある人物と認識されているのかもしれません。
実の母親と姉に対していけないことを考えている自覚はありますが、相手も嫌っていますので、仕方のないことだと思っています。
「それに俺達よりも剣に流せる魔力が大きいから、大抵の魔物を倒せるようになったのは大きいな」
「それはこの剣とシアのお陰です」
剣についてはゲイルさんと条件は同じです。
魔力に関してはシアが傍にいる事が条件です。
私とシアには心の繋がりがあります。
シアが言うには「エルナの想いが強ければ強いほど私との同調率が上がります」と言いました。
同時に「私とエルナの同調率が高ければ、扱える魔力が私に近くなります」とも言いました。
近くにいると言う条件がありますが、私はシアの傍に居れば強くなれるのです。
いずれはシアと一緒に戦える日が来るのかもしれません。
そうなったら、私の剣で大型の魔物すら切り裂けるのかもしれません。
いくらなんでもそこまでは無理としても自分の身は自分で守れるぐらいにはなりたいと思っています。
「そろそろ街道に出ます。地下施設の方角から数人が近づいてきますがどうしますか?」
先頭を進んでいたシアが声を掛けてきました。
街道に出られる範囲と言うことは、いつの間にかに樹海の範囲を出ていたようです。
地下迷宮の方角から来ると言うことは、探索の帰りの方と思います。
ひとまず茂みに入り大きな木の後ろに身を隠しているとゲイルさんが近づいて来る方達を知っていると言いました。
少し話をしてみると言いますので、お任せすることにしました。
「よう、セレック。いまダンジョンの帰りか?」
「なんだ、ゲイルか。その通りだが、いきなり茂みから現れるから、はぐれの魔物かと思ったぞ」
相手の方達が近づくと茂みからゲイルさんが現れたので、最初は全員身構えました。
突然現れたのですから、当然の対応かと思います。
「驚かせて悪かったな。ちょっと頼みがあるんだが聞いてくれるか?」
「内容によるな」
「今回の探索に俺達が加わっていたことにしてくれないか?」
ゲイルさんがそう告げると私達に手招きをしたので、出ていくことにしました。
「飲んだくれとエリックの店の看板娘の2人もいたのか」
私とシアは看板娘と言うのは嬉しく思うのですが、シャーリーさんの例えが弁護ができない表現になっています。
「ちょっと、飲んだくれとは私の事を言っているのかしら?」
「お前以外に誰がいるんだ。見た目はいい女なのに残念な女だと知らない奴はいないぞ。本来ならゲイルの野郎には勿体ないとみんな思っているんだが、酔っぱらいの後始末と支払いの尻拭いをしているから、逆に皆が同情しているのが事実だろ?」
相手のリーダーさんがそう告げると残りの皆さんも頷いています。
「私に飲み比べで負けたからって、酷い理由ね」
「お陰で、自分の限界が分かったのだけは感謝してるぞ」
お店で色んな方を見ましたが、シャーリーさん程飲める方は見たことがありません。
1つだけ不思議なことは……あれだけ飲んでいるのにシャーリーさんのスタイルはとても綺麗です。
あの量の水分はどこに行ったのかがとても不思議です。
「それで、どうなんだ?」
ゲイルさんが再び話しかけると相手の方は少し考えています。
「一つ聞きたいんだが、自爆エルフはどうしたんだ?」
「コレットなら、今回は留守番だ。何か調べものがあるとか言っていたから意見を尊重したぞ」
「そうか……なら、少し前にトリスの町の上空で魔道船がやり合っていたのに関係しているんじゃないだろうな?」
「俺は関係していないぞ」
ゲイルさんは船内の部屋に閉じ込められていただけなので、間違ってはいません。
「まあ、そう言うことにしておいてやるよ。ただし、報酬は貰うぞ。口合わせ料としてな」
「お前が無償で引き受けてくれるとは思っていないが、いまは持ち合わせがないから後日でいいか?」
「後日か……俺としては先払いが良いんだがな……ん?」
報酬の話をしているとシアが相手の方の前に出ました?
一体どうしたのでしょうか?
「これで宜しいでしょうか」
シアがどこかで見た事のある袋を差し出しています。
私の記憶が正しければあれは……。
「これはなんだ? 無口の嬢ちゃんが話しかけてくるなんて初めて見たぞ」
確かに私達以外にはシアは無言を貫いています。
ウェイトレスとしてのオーダーを取りに行っても相手が注文を言うまではじっと待機をしています。
そして、皆さんはその無垢な目で見つめられて注文をします。
中にはシアに見つめられるのが目的で通う方もいたぐらいです。
「先ほど、ゲイルに要求をしていた対価です」
「最近のゲイルの野郎はハーレム状態だから、タダとか面白くないだけなんだがな。だから、無口の嬢ちゃんに請求するつもりはないん……おい! この袋の中身は魔核じゃねーかー! しかもこんなでかいのが一つだけ入っているとか初めて見たぞ!」
やはりそうでした。
そして、相手の方の話を聞いて他の方も袋の中身を覗き込んでいます。
あの大きさはアリサさんの時と同じ物と思います。
それにしてもシアは賄賂が得意なのでしょうか?
私は、お金があると直ぐに使ってしまいますが、シアは堅実的なのか使いません。
使う時があれば、今のように誰かを買収するような時しか見ていません。
とても有効的な使い方だとは思いますが……私とお金の価値観が反対のような気がします。
「足りなければもう一つ進呈します」
そう告げるともう一つ同じ袋を差し出しました。
アリサさんの時と同じように追加のダメ押しも忘れていないようです。
「いや、流石に貰い過ぎだ。これ一つで今回の俺達の稼ぎを越えちまっているぞ。それを更に追加とか後が怖いぞ……」
「働きに対する正当な対価となると判断しました」
「……噂程度には聞いていたが、お前の羽振りが良くなった理由が納得できたぞ」
再びゲイルさんの方を向いて話しかけています。
「どこまでの噂を知っているのか知らんが、シア嬢ちゃん様様だ」
「無口の嬢ちゃんが、ダンジョンで大型の魔物を殴り殺していると聞いた時は信じられなかったが、こんな物をほいほいとくれるんだから、無口の嬢ちゃんにとっては大したものじゃないんだろうな」
「改めて聞くがどうする?」
「いいだろう。自爆エルフがいたら断っていたんだが、お前達だけならなんとかなるだろう」
「コレットが居たらまずいのか?」
「ああ、その事件の重要人物として捕らえるように国からのお達しが来ているんだよ。次にお前達の姿が見えないから、普段からパーティーを組んでいることから関わっているのかと疑われているな」
どうもコレットちゃんが主犯扱いになっているようです。
コレットちゃんは、どちらにしても動かないと思いますが、置いてきたのは正解でした。
「じゃ、今も町で捜索とかしているのか?」
「ちょい前に俺達と入れ違いにダンジョンに入った奴らから聞いた話によると最小限の人員を残して本国に戻ったらしい。その残っている奴が偉そうな嫌な奴らしく殆どの奴らがダンジョンに出払っているそうだ。俺たちはたまたま魔道船のドンパチの次の日に向かう予定だったからそのまま向かっただけだ」
「そうか。なんとか上手く話を合わせないとそいつの前にしょっ引かれそうだな」
「まあ、町の奴らにかなり嫌われているらしいので、大半はお前達の味方をすると思うぜ?」
「そうだと良いんだがな」
「まあ、話は合わせてやるよ。こんな物を二つも貰ったら、俺達も当分は懐が温かいからな」
この方達はアリサさんと違って両方とも貰うことにしたようです。
その様子を見ていたシアが警告をしました。
「受け取ったのですから、上手く立ち回ってください。もしも私達を売るようなことをした時はこうなる覚悟だけはしてください」
そう告げると先ほど私達が隠れていた大木を殴りつけると大木の真ん中に大きな穴が空いています!?
更に蹴り飛ばして薙ぎ倒すと大きな大木が周りの木々を巻き込んで樹海の方に転がっていきました。
「まじか……半分くらいは信じたつもりだったが、確信に変わったぞ……無口の嬢ちゃんに殴られたり蹴られたら即死は確実だな……」
相手の方達は改めてシアの実力を知ることになりました。
裏切ったりすればこうなると脅しまでするなんて、シアは用心深いのかと思います。
「俺はお前の体に風穴が空いてどこかの壁に叩きつけられて死んでいたら、裏切ったと判断するぞ」
ゲイルさんがダメ押しの言葉を告げています。
出来る事でしたら、そうならないことを祈りたいと思います。
「腐ってもお前をあんな連中に売るところまでは落ちたりしないから安心しろ。だが、町の中には国に逆らえない奴らもいるから、必要な奴以外はなるべく接触は避けた方が良いだろう」
「俺達はエリックにちょっと話をしてくるだけだ。それが済んだら別の町に行く予定になっている」
「そうか。どこに行くかは聞かないが、次に会った時にお互いに生きていれば話でも聞かせてくれ」
「悪いな」
「まあ、お前とは付き合いが長いからな」
その後も軽い会話をしながら歩き出しました。
シアは、自身の存在を感知されないように常に私と手を繋いで歩いています。
姿は消していませんが、自分と同じ存在には感知されないそうです。
しばらく歩くとトリスの町が見えてきます。
数日しか離れていないのになんとなく懐かしく思えてきました。
恐らくですが、もう来ることはないと私が感じているからだと思います。
せっかく馴染んできたのですが、起こってしまったこととシアの事を考えれば仕方のないことだと思います。




