帰ってきました!
「空から地上を眺めて思ったんだが、果てしなく広い森だな」
艦橋に来ているゲイルさんが外の景色を見て呟いています。
「それにしてもその森を空から進めるって、本当に魔道船って楽よね」
片手にワインのグラスを持ちながら、朝から飲んでいるシャーリーさんもいます。
既に空の瓶が何本もあるのですが、飲み過ぎなのではないのでしょうか?
「飲むのはいいんだけど、ここでこぼしたらもう飲ませません」
シアに変わって船の操作をしているフィスさんが嫌そうな顔で注意をしています。
ここは船の大事な場所なので本来は飲食は止めて欲しいとフィスさんに言われています。
シャーリーさんがどうしてもワインを手放さないので仕方なくフィスさんが折れたようです。
食べ物は困るけどワインは水を操れるフィスさんになら対処が可能だからと思います。
あれから夜が明けてから、全員を艦橋に集めるといなかったゲイルさん達に昨夜の説明をしたのです。
私も先ほどまでは、フィスさんと一緒に個室に戻って眠っていました。
本当はシアと船の操作を代わってもらうつもりでしたが、フィスさんが今晩だけはどうしても二人で居たいとお願いをするので条件付きで私が折れたのです。
条件とは、ちゃんと寝巻を着て寝ることです。
フィスさんは、過激な服装でしたが、約束を守って私の腕に抱き着いているだけでしたので、私は安心をしたのかぐっすりと眠ってしまいました。
翌朝になって目覚めると脱がされてはいなかったのですが、腕ではなく私の体に抱き着いていました。
フィスさんは眠る必要がないので、眠っている間に何をしていたのか一応確認をしておきました。
私が快適に眠れるように体温調整などをしていた為に私の体と密着をしていたと言っています。
特に体に異常はないし寝汗を掻いてもいないので、意外なことに気持ちよく目覚められたのです。
その為に何をしていたのかは聞きませんが、約束は守っているのでフィスさんを信じることにしました。
シアも私の体調管理をしてくれますが、フィスさんは更に快適さを与えてくれます。
少しだけ便利だと思いましたが、ここでフィスさんを褒めると調子に乗って行動が次の段階に移るかも知りないので余計な発言は控えることにしました。
そして、シアと違って着替えを手伝うのではなく嬉しそうな目で私の着替えを眺めています。
一応は同性と思っていますので、許していますが、本来はシアたちに性別はありません。
なので、私が知らないだけで、男性の容姿をしている方もいるそうです。
ですが……フィスさんの目はどこかのエッチな男性と変わりません。
容姿が女性的でなかったら完全な不審な男性です。
無垢なシアを見ていると、フィスさんだけが個性的すぎると思うぐらいです。
着替えを終えてから、ゲイルさん達に声を掛けて軽く朝食を済ませてからシアの居る艦橋に集まったのです。
「それにしても王国の奴らに逆らっても大丈夫なのか?」
コレットちゃんがフィスさんに問いかけています。
普通に考えると駄目ですよね?
「第二王子派が勝手に動いただけだから、意見が分かれると思うけど前回の家出騒動と多数の魔道船を戦闘不能に追い込んだから、僕の立場は逃亡扱いかレンスリット様を誑かした狂った個体とか言われてるかもね」
「主はそれでよいのか?」
「構いません。どうせ僕の船は戦闘能力を失った補給艦扱いだったし、城に居ても長く存在しているだけの可愛い娘に執着している壊れた個体とか言われていましたしね」
「主が多数のメイドの娘を束ねる筆頭女官の地位にいるとしか聞かされておらんかったのじゃが、わらわがおった頃はそんな話は聞いたことが無かったのじゃがな」
「オーウェル様やラウル様をはじめとする軍部の人達は僕の個としての戦闘能力には問題が無いと言ってくれますが、同じナンバーズの奴らは僕の船の戦闘能力が失われたことで見下し始めたのです。前回の戦いまでは僕の艦隊で優位に戦いを運んでいたのにムカつく奴らです。サリサだけが僕を見下したりはしていなかったんだけど、第二王子のレナード様を登録者と認めてしまった時から、僕の唯一の味方がいなくなったとも言えます」
「まあ、船が無くともお主の戦闘能力なら、わらわたち普通の者など相手にならんからの」
「どちらにしても城の中に押し込められて自由が無かった時に比べれば、いまの選択は間違っていなかったと思います」
今回の行動にフィスさんは後悔はないようです。
私にも関係が無いとは言えませんので、少しだけ安堵したのは内緒です。
「それならば良いのじゃ」
「言って置きますが、コレット様も手配者扱いだと思います」
「なんでじゃ?」
「僕がコレット様の所に身を寄せていたのは知られています。最悪の場合はレンスリット様を攫った主犯はコレット様になっているかもしれません」
今度はコレットちゃんが主犯説が浮上しました。
どうしてなのでしょうか?
「どうして、わらわが主犯なのじゃ!」
「いくら僕が個性的な人格を持っているとしても登録者であるレンスリット様に忠実だとしたいからです。なので、コレット様がレンスリット様を唆したのか人質にして僕に言うことを聞かせているとした方が都合が良いと思います。主よりも自分の意思を尊重する個体とか公にできないと思います」
「そんなことをする理由がわらわにはないのじゃ! そんな話になったとすれば、冤罪なのじゃ!」
「サリサからの報告を元にして、そう言う話にするんじゃないかと僕が予想しただけです」
「酷い予想なのじゃ……」
フィスさんの話を聞いてコレットちゃんが落ち込んでしまいました。
落ち込んでいるコレットちゃんを励まそうとして手を取ると「まあ、わらわにはエルナとシアがおるのじゃから、この際は王国の内部の事情など問題は無いのー」と、言っています。
更に追加で、「わらわはエルナの第二恋人なのじゃから、見捨てるでないぞ?」と言われました。
コレットちゃんの頭を抱き寄せて、「当然ですよ?」と声を掛けると「これに耐えれば良いだけだからのー」などと言っています。
耐えるってなんですか?
私の抱擁に耐えるなんて言うなんて失礼ですよ?
少しムッとした私はコレットちゃんの頬を軽くつねっているともう片方の頬をシアが摘まんで、私と同じぐらいの感じで頬をつねり始めました。
両方からつねられたことで、私に謝りましたので離してあげるとシアも同じ行動をしました。
私は本当に軽くしかつねっていませんが、シアにつねられた方は赤くなっています。
コレットちゃんが涙目で「頬がちぎられると思ったのじゃ……まったく、エルナと違ってシアは加減と言うものを知らぬのか!」とシアに怒っていますがシアは当然のように無視をしています。
「それにしても俺達が寝ている間にそんなことになっているとはな」
話がひと段落した所で、ゲイルさんが呟きました。
シャーリーさんは完全に酔いつぶれていましたので、最初の大きな衝撃でも目が覚めていなかったみたいです。
一緒の部屋で眠っていたゲイルさんも今回は珍しい物が飲めると言うことで、そこそこ飲んでいました。
ですが、私よりも飲んでいたはずなのですが、まったく酔っているように見えませんでした。
流石は大人の男性なのか、アルコールに強いのか加減を分かっているのだと思います。
完全に酔いつぶれたシャーリーさんを抱き抱えて指定された部屋に行くときも足元がふらついているなんてことはありませんでした。
ただ、衝撃があったのはゲイルさんにも分かったのですが、部屋の鍵が閉められていて移動が不可能だっただけなのです。
最初に攻撃された時にシアの行動権限で、ゲイルさん達の部屋の鍵を閉めたそうです。
下手に動かれるよりもその部屋に居た方が安全とシアが判断したそうです。
この船の区域的には一番安全な場所だったからと聞いています。
「問題は、トリスの町に戻れるかだと思います。フィスさんがコレットちゃんのお家に身を寄せていたことを知っていますので、お家の方は確実に捜索対象になっていると思います。私もフィスさんと一緒に居る時に話しかけられていますので、町に戻るのは難しいと考えています」
フィスさんの目当てが私だと言うことは知られています。
今頃はコレットちゃんのお家を捜索されて不在だと判明すればフィスさんの船に居たと思われていると思います。
それ以前に町で私の事を捜索している可能性が高いと思います。
せっかく住み慣れてきたのですが、トリスの町に戻るのは難しいと思います。
当分は古代都市の私とシアのお家に戻ったと思えばいいのですが、エリックさんに何も告げずに出てきてしまったので、迷惑が掛かっていないのかが心配です。
ウェイトレスをしていたのですから、私の顔は町の人にそこそこ知られていると思います。
そこからシアの存在やゲイルさん達とパーティーを組んで地下迷宮に行っていたことも調べられると思います。
ライラさんのような人でもいなければシアの正体が知られることはないと思いますが、用心に越したことはありません。
恐らく冒険者組合にも行けませんので、アリサさんにも迷惑が掛かるかもしれません。
今後の事をどうするかが別に意味で難しくなりました。
かと言ってフィスさんを責めるわけにはいけません。
シアが提示した選択肢を選んだのはフィスさんです。
最善の方法は、投降してあちらの言う通りにした方が穏便に済んだはずです。
ですが、その選択肢を作り出したのは私の考えを汲み取ったシアですが、結果的には私の意思が尊重されたのです。
説明をした後に御迷惑をかけたことを謝罪しました。
気にしなくても良いと言われましたが、どこかで何かを返せないかと考えています。
そして、1つだけ悔やまれるとすれば……コレットちゃんのお家に残してきた私の荷物です!
買ったばかりの衣類などは全て置いてあるのです。
私の全財産のお小遣いも全て置いてきてしまいました。
今までにコツコツと増やしてきた私の持ち物がほぼ失われたと言っても過言ではありません。
落ち込まないで済んでいるのは、私の大切な恋人であるシアが私と一緒に居てくれるのが救いです。
シアの便利な空間に私の剣と探索用の服を数着だけ常に持ってもらっていますので全てを無くしたわけではないのですが……お気に入りの服が失われたことがとても悲しいです。
地下迷宮を抜けて町に戻ったとしてもコレットちゃんのお家に取りに行くなんて捕まえてくださいと言っているようなものです。
こんなことでしたら、お気に入りの物はシアに預かってもらうべきでしたと後悔をしています。
しかし、重量制限があるので全てを預けてしまうと地下迷宮の探索時に荷物が持てなくなってしまいます。
こんなことでしたら、前回の収入時に私もストレージ・リングを購入すべきでした。
武器屋のおやじさんの伝手で買える話が有ったのです。
ゲイルさんはその時に手に入れてシャーリーさんにプレゼントをしています。
自分の指には入らないし、お金以外はシャーリーさんに預けておけば良いと判断したようです。
お金を渡す度全部飲み代に代わってしまうので、以前に苦労したとぼやいていました。
もしも次に手に入れるチャンスがあるのでしたら、自分の私物が入る程度の物を購入したいと思います。
ですが、あの指輪に全てを常にしまっておくと奪われたり盗まれた時に全てを失ってしまう可能性があるので便利なのですが一番最初に取られてしまうのが問題と聞いています。
恐らくですが、市場に出回っているのはそうした経緯で盗まれたりした物が多いらしいのです。
そう考えると私が所持していて盗まれたりした時は私物を全て失って更には私の衣服の趣味も知られてしまう事になります。
一応は一番安くて最低限の物を目標にして、大事な物だけはシアに預かってもらうのが正解かと思います。
シアに何かができる者は限られていますし、そのシアから奪うなんて不可能だと思います。
そんなことを考えつつゲイルさんと会話をしているとフィスさんが何か困っているようです?
「おかしいな……座標は合っているのにあの廃墟が見当たらない。以前にこの辺りを通った時には廃墟が在った筈なのですが……」
フィスさんの言葉を聞いてシアがフィスさんの近くに行きます。
「操船を代わってください」
「まだ紋章の時間内だし別にいいけど、僕を自由にするとエルナ様に抱き着いてしまうぞ?」
「エルナに嫌がられない範囲なら許容します」
「あっそ。じゃ代わるよ」
そう言うとシアと入れ替わってフィスさんが私の隣に来ます。
「シアの許可も出ましたので、このぐらいは良いですよね?」
そう言って私の左腕に腕を絡ませてきました。
この程度でしたら、私も気になりません。
いつもこのぐらいにしてくれるのでしたら、私も安心ができると思います。
「都市の光学迷彩を解除。ドックへのゲートを開きます」
シアがそう告げると森の一部が変化して廃墟が姿を現しました!
大きな都市だと思ってはいましたが、上空から見るとかなり大きな範囲です。
「都市の機能は死んでいると思っていたのに生きていたのか」
フィスさんが呟くと同時に都市の一部の地面に動きが見られると地面が大きく開いて中に空洞が見えます。
私は知らなかったのですが、あんな場所があったのですね。
その開かれた場所に移動すると船が下降していきます。
船がその中に入ると上の扉?らしきものが封鎖されたのか周りの景色は真っ暗になりました。
同時に何かにぶつかったのか大きな音がして軽い振動がありました。
「船体の固定完了。船の動力を繋いでドックの機能を再起動します」
シアの言葉で、周りの景色が明るくなりました。
周りが見えるようになると無機質な壁で覆われています。
何はともあれ無事に私とシアのお家に着いたようですね!




