失態
「おい、サリサ!」
「なんでしょうか。ツヴァイ様」
「どうして私の船の攻撃があの変態に完全に防がれているんだ! いまのあいつの同調率なら、登録者の差で私の方が完全に上のはずだぞ!」
「確かにその通りです」
通常の魔道船の攻撃ならともかく、今のフィス様には例えツヴァイ様の母艦の砲撃を防げたとしても防御型のガーディアンを犠牲にしなければ防げないはずです。
それが本来の力を発揮してツヴァイ様の母艦の攻撃を完全に防いでいます。
「あいつを痛い目に遭わせられると思ってお前の誘いに乗ったのにこれじゃ意味がないだろ!」
前方に配置した艦隊にも大した損害は与えられないのは承知で攻撃の指示はしてありますが、その攻撃も完全に防がれています。
更に前方に展開させている艦隊は攻撃を受けています。
現在のフィス様の船に攻撃能力はありません。
攻撃をするのなら、強力な魔法が使える者が砲台代わりになるしかありません。
状況報告によると水弾系の攻撃を受けているとの報告が来ています。
艦橋などは攻撃を受けていないそうですが、砲台の破壊と船体に複数の穴を空けられているそうです。
フィス様ならそのぐらいのことはやってのけると考えますが、そのような行動を取れば船が動かせません。
現状では、船は起動しているのです。
フィス様以外に魔道船に被害が出せる魔導士がいることになりますが、出している偵察型のガーディアンの映像では、甲板にフィス様を確認しています。
そのことから、フィス様の母艦『フィフス・エンジェル』を動かしている者は別の個体になります。
しかし、フィス様が誰かに船を権限を渡すのでしょうか?
過去に護衛艦の個体に一時的に貸し与えたことがありますが、あの者たちはフィス様に完全に従うように調整された個体です。
その者たちも過去の戦いで、フィス様を庇って全滅しているので最早いません。
やはり地下施設で一瞬だけ捉えた反応の個体が動かしているとしか考えられません。
何番の個体か分かりませんが、フィス様の母艦を操作できるのであれば、かなり能力も高いと考えられます。
フィス様が王宮を抜け出してコレット様と接触された時に未確認の個体と遭遇したと考えられます。
そう判断すると登録者はコレット様と考えられます。
あの方は、イシュトゥール人の事を調べていました。
その過程で、私達が未発見の個体を発見して目覚めさせたのかもしれません。
しかし、調整体であるエルフにイシュトゥール人の血は流れてはいないはずです。
考えられるとすれば、偶然にも目覚めてその場に居合わせたコレット様を主と認めてしまったのかになります。
イシュトゥール人の血を持たない存在に反応するなど、その個体は欠陥があるのかもしれません。
もしくは、フィス様に気に入られているあの娘なのかもしれません。
あれほど執着しているのですから、それ以上の価値があるとも考えられます。
まずは可能性がある2人を捕えてみるしかありません。
しかし、フィス様に近く諜報型の私に察知されない個体。
そのような個体が存在していれるとすれば、未発見の個体以外にありません。
しかも前期のナンバーになるはずなので、強力なユニークな個体とも考えられます。
能力次第では、レナード殿下の力にもなります。
どちらにしても確認をする必要があります。
「おい、サリサ! このまま無駄な攻撃を私にさせるつもりか!」
「いま確認をしていますので、もう少しだけお待ちください」
「マスターに内緒で行動しているんだから、失敗なんて許されないんだぞ! 早くしないと私の好きに動くからな!」
「分かっております」
ツヴァイ様はフィス様と違い忍耐力がありません。
最初の登録者の方に近い性格らしいのですが、失礼ながらもう少し状況判断能力があると良かったと考えます。
先ほどから『フィフス・エンジェル』に通信を送っているのですが、まったく応えないのです。
何度目かの通信にようやく反応がありました。
しかし、反応が有っただけで、映像は繋がりません。
仕方なくこちらの質問だけを伝えているのですが、応答もありません。
そして、回線が切られました。
代わりにメッセージが送られてきたのですが、その内容は「諜報型なら自分で調べてください」と言う内容です。
あちらは私の情報を持っています。
フィス様が王国所有のナンバーズの情報を漏らしたとなれば責任追及は免れません。
最悪の場合は裏切りの可能性まで考えなければいけないと判断します。
我が主であるレナード殿下からは、レンスリット様を確保してくるようにしか命じられていません。
上の判断を仰ぎたいと考えているとツヴァイ様が耐えきれなくなりました。
「通常の砲撃が通じないのなら、集約砲を使って落としてやる!」
ツヴァイ様の母艦『セカンド・エンジェル』の特殊攻撃の一つです。
通常の砲撃を一つに集約して撃ち出す砲撃です。
私達が操る同型艦と言えど耐久力の無い船なら一撃で沈みます。
例え一桁台の母艦と言えど被弾すればただで済みません。
威力はあるのですが、一度撃つと少しの間だけ行動不能に陥ってしまうので、連続で使用ができない欠点があります。
艦隊戦で使う場合は行動不能になった時に護衛をする船が必要になります。
相手が同型艦でない限りは、装甲自体も強力なので大した損害は受けませんが、問題が起こらないとは限りません。
前方の主砲が砲撃を止めると同時に正面に大型の魔法陣が現れます。
魔力の流れが見える者には各主砲から不可視の魔力が正面の魔法陣に注がれているのが分かります。
チャージに時間を掛けているので、最初の攻撃よりも威力を高めているのが分かります。
射線上の計算をすると『フィフス・エンジェル』の後方に直撃コースと判断します。
まさかとは思いますが、船ごとフィス様を始末するつもりなのですか?
母艦を破壊してしまっては、レンスリット様の生存も危険視されます。
「ツヴァイ様。威力は良いとして、『フィフス・エンジェル』に直撃させるコースは外してください」
「なんでだよ!」
「フィス様は仕方がないとして、レンスリット様に危険が及ぶ可能性が高いからです」
「ムカつくが、あの旗艦防御型のガーディアンの防御力はフィスが目覚めた時はほぼ変わらん。この攻撃でガーディアンのシールドを撃破して奴の母艦にそこそこのダメージを与える程度になると判断したから、登録者がいると思われる居住区は無事と思うぞ」
「それは正確な計算上なのですか?」
「多分だ! 可能なら、このまま奴の船も沈めてあいつを始末してやるよ! こんなことでもないと味方扱いのあいつを破壊するチャンスなんて無いからな! だから、マスターに黙ってお前に協力してやったんだよ!」
単なる蓄積された私怨のようです。
私が目覚めた時には、フィス様とツヴァイ様は会えば口論をする間柄でした。
前回のミッドウェール王国との戦いが無ければ、フィス様の艦隊能力の方が高く評価されていました。
数に限りはありますが、随伴艦登録をすれば広範囲に艦隊の姿を消せる能力まであるのですから、現在でも直接戦闘はできなくてもかなりの使い道があります。
その船をここで破壊してしまうなど王国の損失以外なんでもありません。
「申し訳ありませんが、そこまでされると軍事面での損失が大きいので、威嚇に抑えてください」
「戦闘能力を失って輸送艦扱いの船なんてどうでもいいだろう!」
「そう仰っているのはツヴァイ様と一部の者たちだけです。あの船には軍事的に利用価値があります」
「煩いんだよ! もう可能なだけの魔力を籠めたから、無事な事でも祈ってろ!」
その言葉と同時に集められた魔力の塊が『フィフス・エンジェルに』に撃ち出されました。
その威力は私が算出した計算では、通常の魔道船なら直線状に全て消滅させられる威力です。
例え対となる母艦と言えど防御能力が足りなければ致命傷を受ける威力と判断します。
このままでは対象を全て消失させて任務失敗です。
なんとかあちらの船が全力で回避行動を取れば致命傷を避けられると考えたのですが、あちらの行動はガーディアンを更に追加したのか、防御シールドの厚みが増したように見えます。
まさかあれを耐えるつもりなのですか?
いくら何でも不可能だと判断したのですが『セカンド・エンジェル』の集約砲が直撃したにも拘わらず堪えています!?
仮に私の船が防御シールドを展開していたも直撃を受けていたら確実に消滅する威力なのです。
いったい『フィフス・エンジェル』を操作しているのはどの個体なのですか?
いくら何でも、自身の対となる母艦でもない一時的に譲渡された船の性能をここまで引き出せる個体の存在など私の情報にはありません。
強烈な光と熱が収まるとそこには無傷の『フィフス・エンジェル』が存在しています。
私の予想では、旗艦防御型のガーディアンの大半を失って母艦にかなりの被害が出ると判断したのです。
それが予想を大きく外し無傷です。
「馬鹿な! あれで無傷なんてあり得ないぞ! 私は現在の登録者との同調率が低いフィスに劣るって言うのかよ!!!」
フィス様は、前方の艦隊を攻撃しているとお知らせしているのですが、ツヴァイ様はフィス様が操作していると思っているようです。
申し訳ないのですが、この辺りの判断能力は私もフィス様の意見に同意してしまいそうです。
フィス様のあの性格と性癖さえなければ、軍部の重要役職に付けられていたはずなのに残念で仕方がありません。
過剰な攻撃をした『セカンド・エンジェル』は一時的に機能が停止してしまい沈黙してしまいました。
こうなってしまってはもう当てにはできません。
状況は、前方に展開していた艦隊は戦闘不能もしくは被害甚大の為に正面の包囲網が崩れている状況です。
一方『フィフス・エンジェル』は、そのまま旗艦防御型のガーディアンで船体全体を包んで正面突破をしています。
踏みとどまっている魔道船の攻撃はシールドに阻まれて何の役にも立っていません。
例え攻撃能力が無くても攻撃を一切受け付けない船が突っ込んでくるのですから、船の性能が違い過ぎます。
ツヴァイ様の船を置いて私の船で全力で追いかけると正面から何かが来ます?
何かと思えば、ツヴァイ様の最初の攻撃を受けた『フィフス・エンジェル』第二甲板がある左舷の船の一部です。
損傷をしているとは言えフィス様が船の一部を切り離すなんて考えられません。
真っすぐにこちらに向かってくるので、私の船の砲撃で破壊しようと判断した時にそれが自爆したのです!
フィス様の船には失った攻撃型のガーディアンの代わりに各艦の補給物資が搭載されていたはずですが、それも誘爆して大きな爆発となっています。
仕方なくツヴァイ様の母艦の盾になるように防御シールドと足りない隙間をガーディアンで埋めることで被害を抑えたつもりです。
結果としては、出した飛行型のガーディアンは全滅。
私の母艦も少なくない被害を出してしまいました。
ツヴァイ様の『セカンド・エンジェル』も少しばかりですが被害が出たので、怒りの通信が絶え間なく聞こえてきます。
機関が停止している状態なので、防御シールドも張れないのですから本艦の物理防御のみとなります。
ご自慢の美しい真っ赤な船体が汚れと傷で見た目が変わったことに激怒しているようです。
そのツヴァイ様は「次に出会ったら、必ず殺す!」と叫んでおられます。
そんなことよりもこの始末をどうするかです。
自爆と同時に辺り一帯に強力な電波障害が発生して船の機能が回復した時には、『フィフス・エンジェル』をロストしてしまったのです。
フィス様の素性と母艦は他国に知られていますので、国内のどこかに潜伏すると考えられます。
しかし、バートランド王国は四か国の中で一番多くの領土を有しています。
その全てを探索するには時間が掛かります。
その前にこの失態の責任問題をどうするかになります。
ツヴァイ様はラウル様からおしかりを受けるだけで済みますが、こちらの損害は甚大です。
包囲する為に正面に展開した魔道船は落とされはしなかったものの半数が被害を受けていると報告が来ています。
更に私の船の飛行型のガーディアンを全て失ってしまいました。
補充は可能ですが、生産課の者達から許可が下りるかです。
フィス様の王宮からの逃亡時の被害に続いてこれだけの損失を出してしまったことは第二王子側の陣営に取って痛手になります。
レンスリット様を確保する為にフィス様の船を監視していたのは第二王子側の陣営に属する派閥の者です。
第一王子側は、フィス様の行動に対しては放置しておくのが望ましいと判断していたのですが、それが正解だったようです。
更に帰還すれば、『セカンド・エンジェル』の戦闘記録をラウル様が必ず閲覧するはずです。
そうなれば、軍部が正体不明の個体の存在も知るはずです。
この状況を打破する為にもフィス様を納得させて正体不明の個体をこちらの陣営に取り込むのが良いと判断します。
我が主には進言をしますが、聞き入れられるかは不明です。
その前に軍部の者たちも必ず動くはずです。
今回の件でこの国の風向きが変わるかもしれません。




