帰り道の遭遇者
「エルナ様! こちらの服も似合うと思うので試着してみませんか?」
「少し露出が多いと思うのですが?」
「いえいえ、きっと似合うと思います!」
本日は、シアとフィスさんと一緒に買い物に来ています。
食材の買い出しだけなのですが、最近はフィスさんも必ず同行するのです。
登録者のレンスリット様は、フィスさんと離れて行動する時は基本的には船でお留守番をしています。
こないだの一件以来、ついにコレットちゃんの船の探索の許可が出たのです。
レンスリット様が1人で留守番をする時だけに限定されますが一緒に留守番と言う名目の探索をしているようです。
ですが、禁止区域が設定されているらしく行動範囲は少ないので文句を言っています。
「ですが、本日は食材の買い物ついでに見るだけの予定にしていますので、購入する予算を持ってきてはいません」
「別に買わなくても試着するだけならタダなのですから、問題はないと思います」
「何か購入する予定で来店して、最後には買って行くのでしたら良いと思うのですが、何も買わないとなるとお店の方に悪い気がするのです」
ちょくちょく通っているこのお店の方とは多少は知り合いになりましたが、私の気持ちの問題なのです。
「それでしたら、僕が購入してプレゼントをしますので、問題はありません」
それはそれで嬉しいのですが……。
「毎回のようにプレゼントをされるのは私が申し訳ないのです。それに私としては、自分のお小遣いの範囲で購入したいと考えていますので、フィスさんの好意は嬉しいのですがお受けできません」
「他の子たちでしたら、絶対に断らないのに相変わらず遠慮されますね。僕のプレゼント攻撃が通用しないのはエルナ様だけです」
本当は飛びつきたいのですが、フィスさんに何かを貰うと後が怖いからです。
少し前にすごく気に入った物を見つけてしまい予算が足りなかったので、フィスさんに購入してもらってプレゼントをされてしまったのです。
後で、借りた分は返すと話を付けていたのに絶対に受け取らないので仕方がなかったのです。
代わりに別の条件を許してしまい恥ずかしい思いもしました。
私が出した条件である無理はしないことを守っていますので許容しましたが、その一件でフィスさんに絶対にお金を借りてはいけないことを改めて学習させてもらいました。
「では、これならばどうですか?」
私が他の物を見ている間に別の売り場から何かを手にして持ってきました。
手にしている物を見て私は少し欲しいと言う衝動に駆られました。
この短期間で、私の好みを熟知してしまったのか的確な物を選んできます。
ついジッと観察してしまったので、フィスさんが笑顔を浮かべています。
私が気に入ったのを察したようです。
そして、値札を見ると……すごく高いです!
家に置いてある私の予算で買えないことはありませんが、無駄遣いは避けたいので諦めるしかありません。
「先ほども言いましたが本日は目的が違います。購入するのでしたら次回にしたいと思います」
「これも駄目なのですか? 絶対にエルナ様なら仕方ないと言いながら欲しがると予測したのに残念です。僕が買ってあげると言っているのにエルナ様の攻略難易度が高すぎます」
シアが隣にいなかったら、誘惑に負けていたかもしれません。
常に私の隣で私が迷っていると手に触れてくるのです。
シアの存在が、私の判断を正常に戻してくれます。
私にはシアがいるのですから、我慢した分だけシアを抱きしめていれば私の心は満足します。
物欲に勝つ為にはシアの存在は欠かせません。
あまり長くいるとフィスさんの攻撃が激しいので帰路に就くことにしました。
今晩は、フィスさんの船にゲイルさんとシャーリーさんを招いて次の行先のお話を兼ねた食事会を予定しているのです。
フィスさんの魔道船の話もしていますので、一度乗ってみたいと話していましたのでフィスさんにお願いをしてみたのですが、コレットちゃんの時と違ってあっさりと許可が出たのです。
簡単には許可が出ないと思ったのですが、コレットちゃんと違って余計な行動を取らない人物と判断したそうです。
それに私の仲間なのですから、自分の仲間でもあると言ってくれました。
なので、今晩は私の得意料理を頑張って振舞いたいと思っています。
シャーリーさんは、自前でワインを購入してくると言っていたのですが、フィスさんが船に年代物の上物があるので不要とのことです。
それを聞いたシャーリーさんは喜んでいましたが、フィスさんに貸しを作ると大変なことになりますよ?
この船が建造された時の時代の物もあるそうですが、そんなに古い物を飲んでも大丈夫なのでしょうか?
私には分かりませんが適切な環境で、寝かせた物はとても美味しくなるそうです。
以前に私が水代わりに飲んでいた物の空瓶を見せたのですが、それもあるそうです。
飲み過ぎはいけないと思いますが、あるのでしたら私も、もう一度だけ適度に飲みたいと思います。
初めてのワインでしたが、とても美味しかったので……少しだけ飲んでも良いですよね?
帰路についてお家に近づくとシアが足を止めました?
どうしたのかと思って目を合わせるとシアが警告をしてきました。
「前方に数人の反応と複数の魔道人形の反応があります。更に前回遭遇した『シックスティー フィフス』の反応があります」
「前回遭遇した人たちなのですか? それにその方は誰なのですか?」
私が疑問に思っているとフィスさんが答えてくれました。
「そいつは地下施設で僕と遭遇したサリサの数字です。僕にはまだ感知できていないんだけど、この先にいると言うことですね」
この先にはコレットちゃんのお家とまばらですが別のお家もあります。
いわゆる少し裕福な土地持ちの方の住宅街なのです。
「私は良いとしてフィスさんとシアは遭遇するとまずいですよね?」
私の質問にシアが答えました。
「フィスは既に捕捉されています。私はエルナと同調していますので、まだ識別はされていません」
「僕は既に見つかっているのかよ! それよりもなんでお前だけ認識されないんだよ!」
いつものことですが、シアが何か言い出すとフィスさんはシアの肩を掴んで質問をしています。
なんだかんだで、私には2人が仲良しさんに見えるのは気のせいでしょうか?
「説明をしている間にこちらに接近していますので、上手くやり過ごしてください。私はこのまま姿を消しますが、エルナの敵と判断した場合はすべて排除します」
そう告げるとシアの姿が消えてしまいました!?
ですが、私の左腕にはシアの手の感触が残っています?
これは姿が見えないだけで、シアは私の横にいると言うことで良いのでしょうか?
自身の姿まで消せるなんてすごすぎます。
フィスさんも驚いていますが、この能力がフィスさんに有った場合は恐ろしい脅威になります。
使う用途が覗きなどに限定される気がするのですが……フィスさんのことですから、ずっと姿を消して観察していそうです。
「お前凄すぎるよ……船の能力である光学迷彩まで使えるとかどんだけ万能な個体なんだ。お互いの識別コードを了承していなかったら、そこにいるなんて僕だって気付けないよ」
フィスさんが感心をしているとシアが居た場所から声が発せられました。
「存在感的にはエルナと同調して光学迷彩を展開しているだけになりますので、触れられると何かが存在していることが知られてしまいます。生物的に気配を感じる存在には気付かれる可能性が高いのですが、私達と同じくセンサー感知をしている存在はやり過ごせるはずですが、用心の為にエルナの左側に誰も近づけさせないようにしてください」
「なるほど……生体反応的にはエルナ様と一つに見せかけて単に見えないようにしているだけなんだけど、ヤバい能力だな。おまけに諜報系の探知にも引っかからないとかサリサと同タイプの奴らは涙目だが、まともに鍛錬をしている者には感じ取れるかもしれないと言うことだな。すごい能力だと思ったけど、勘のいいエルナ様に通じなさそうなので、いまいちな気がしてきたよ」
それ以降はシアが反応しなくなりました。
フィスさんは驚いていましたが、原理を納得すると興味を失ってしまいました。
要するにシアたちの目だけしか誤魔化せないと言うことです。
勘の良い人や気配が鋭い方にはバレてしまう可能性が高いみたいです。
やはりフィスさんが使えた場合の使用目的は私の予想通りだったのも分かりました。
取り敢えずは避けるのは怪しまれると思うので、そのまま進むことにしました。
しばらくするとフィスさんにも分かったのか私の左側に立ちつつシアの正面にいる立ち位置に移動しました。
そのまま進むと区画分けの壁越しになんとなく見えていたサリサと言う女性が歩いてきます。
その背後には複数の方がいますが、魔人形がいません?
私が疑問に思ったことが顔に出たのか、フィスさんが説明をしてくれました。
サリサさんの背後にいる二人だけは魔人形の使い手で、残りの者達は諜報系の魔人形だそうです。
見た目が私達とほとんど変わらないので気付けませんでしたが、よく見ると目に温かみを感じない気がします。
なんとなく冷たい感じがするので、次からは目を見て判断したいと思います。
「ここにいると言うことは、コレット様の所に身を寄せているのは間違いないようですね」
サリサさんと言う方がフィスさんに話しかけています。
地下迷宮の透けている壁越しにで見た時は少しぼやけて見えていたのですが、こうして正面から見ると知的な大人の女性と言った感じです。
体系的にはフィスさんと変わらない感じです。
綺麗な方なのですが、なんとなく人間味に欠けているのか黙って動かないでいたら人形と勘違いしそうな雰囲気です。
開放的なフィスさんとは真逆な感じがします。
「どうでもいいだろう? そんなことよりも僕の身辺を調べるのはいいが、隠れているのを見つけたら、迷わずに始末するからな?」
「フィス様の性格は理解しています。なので、こうして堂々と正面から会うことにしたのです」
「そのまま潜んでいたら、始末してやったのに残念だよ」
「それは何よりです。それで、その者がフィス様の新しい遊び相手ですか?」
「おい……そんな言い方をすると僕は黙っていないぞ?」
フィスさんが珍しく怒り気味で発言すると左手を縦に振るったと思うと水の刃が現れてその直線上に居た魔人形が真っ二つにされてしまいました!?
「これは失礼を致しました。ですが、王国の財産を破壊するのは止めてください。姿が人に限りなく近いタイプは生産が難しいので貴重な存在です」
「お前が詰まらないことを言うからだ」
「それで、貴女はフィス様に付いて来るのですか?」
「おい、勝手にエルナ様に話しかけるな!」
今度は私に質問をしてきました。
無視をされた形のフィスさんは機嫌が悪そうです。
ですが、私の答えは……。
「今のところはフィスさんとは、お友達として接しています」
「そうですか。それでしたら、フィス様の要望に応えて城に来てください」
「フィスさんが王宮関係者の方とは聞いていますが、私はただの庶民です。お城に行くなど恐れ多い話です」
「そうですか。それでは私も貴女を招き入れるように手配をします」
「いえ、私は普通の暮らしを望んでいますので辞退をさせてもらいます」
お城行きが確定してしまったら、シアの存在がバレてしまいます。
いまでもシアがバレていないかと気になっているぐらいです。
それにフィスさんの話からすると窮屈な生活が待っている気がしますので、増々辞退したいと思います。
「そうですか。では、国の命令として登城するようにしても良いのですよ?」
流石にお国の偉いさんの命令となってしまうと逆らうなんてことはできません。
私が答えに困って黙っているとフィスさんがいつの間にか動いて右手の手刀に水の刃を纏わせてサリサさんの首に突き立てています。
「黙って聞いていれば勝手なことを言うなよな。もしもそんな手段を取ったりしたら、お前のコアを破壊してやるからな?」
「そうですか。フィス様が望まれる方向に持って行こうとしただけなのですが、相変わらず気に入った娘には甘いのですね。フィス様の実力と権限を使えばこの国で従わない者など一部の者だけになるのに私には理解ができません」
「お前は命令に忠実なだけで、面白みのない奴だな。そんな強制的に従わせるなんて僕の美学に反するんだよ」
「そうですか。ひとまずはフィス様の所在地が判明いたしましたので、良しとします。ですが、あまり時間を掛け過ぎると、どうなっても知りませんよ」
「好きにしろ。それにしてもお前と話しているよりも馬鹿なツヴァイと言い合っている方がましだな」
「そうですか。それでは次はツヴァイ様と口論なさってください。それでは失礼を致します」
そう告げるとフィスさんに破壊された魔人形も回収して去っていきました。
別れ際に私の方を見ていたのですが、なんとなく嫌な予感がします。
人ではないとしてもなんとなく不満と言うか何かしそうな目をしていたのです。
フィスさんは、うざい奴が居なくなったと呟いていますが、今後は注意が必要な気がします。
何も起こらなければいいのですが……。




