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Eighth Doll  作者: セリカ
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帰宅後のお願い?


「それじゃ、私は行くわね」


「ちょっと、シャーリー! どこに行くのよ!」


「労働の対価が手に入ったのよ? 私が行くところは一つしかないわ。ずっと我慢していたんだから、もう止めないでねー」


 アリサさんの制止も空しくシャーリーさんは行ってしまいました。

 周りにいた人達も「止められる奴なんているのか?」と呟いているぐらいです。

 シャーリーさんは良い意味でも悪い意味でもこの町の有名人なのです。

 あれから、もう数日だけ地下迷宮に滞在してから、トリスの町に戻ってきました。

 ギルドに寄るとアリサさんに報告をして魔核の換金だけして分配金をシャーリーさんに渡すといつものことなのですが、エリックさんのお店に行ってしまったのです。

 今回は、取り分も多かったのですから、途中で上物のワインも購入してから向かうと思います。

 私は自分の分を貰ったら、すぐにお家に帰ってまずはお風呂に入りたいです。

 最後に滞在していた五階層には地底湖のような物もなければ、隠し部屋も無かったのです。

 あるにはあったのですが、隠し部屋は入り口が既に破壊されて開きっぱなしの状態で中も荒れ放題でしたので、シアが通路で隔離した空間の方がましだったのです。

 それに地底湖のような存在は上の階層にしかないとのことです。

 あれは、地上部分の一部から流れ落ちて溜まっているだけなのだそうです。

 もしも湧いているとすれば、地下迷宮の水道施設が生きている地点から漏れているだけとのことです。

 仕方がないので、定期的に体を拭く程度だったのです。

 一応は、フィスさんからとても魅力的な提案は合ったのです。

 その提案とは……「エルナ様がお気に入りのシャワー施設の再現を僕が致しますのでどうですか?」と言われました。

 本当はその案を採用したかったのですが、フィスさんの表情がとても嬉しそうだったのです。

 どのようにするのかを聞いてみたのですが……私の隣で頭上から適度な温度の水滴をシャワーの同じ感じで発生させてくれると言う物でした。

 そうなるとずっとフィスさんに見られながら浴びることになるのですが……フィスさんの心は獣さんと同じです。

 手は出さないと約束をしていますが、いつ襲われるのか不安にもなります。

 それに私が浴びた後の水の行方もとても気になります。

 あんな変態的な行動をされては嫌な予感しか思い浮かばないのです。

 なので、惜しみながらも却下させてもらいました。

 フィスさんが変態さんではなかったら、喜んで提案を呑んでいたのにとても残念です。

 そのフィスさんは、先にコレットちゃんのお家に戻っています。

 ここに住むと決めた日から、私達が眠っている二階の隣の部屋を片付けて住んでいるのです。

 レンスリット様も同じ部屋にいるのですが、王女様なのに良いのでしょうか?

 不思議なことにレンスリット様は、フィスさんの指示には必ず従います。

 仮にもレンスリット様はフィスさんの登録者なのですから、逆なのではないのでしょうか?

 私とシアは恋人関係なので対等と思っているのですが、あちらは貴族どころか王族なのにとても不思議です。

 それに地下迷宮でのレンスリット様は、完全に私達の身の回りをしてくれていました。

 コレットちゃんは気にしてないみたいですが、ゲイルさんとシャーリーさんは国のお偉いさんとの認識は有ったので、これでいいのか地味に悩んでいました。

 本人は「僕は戦うことはできませんが、身の回りのお世話ぐらいならできますので、やらせてください」と、お願いされたからなのです。

 王女様が、誰かの為にお世話をするものなのでしょうか?

 フィスさんに聞くと「レンスリット様は、侍女みたいなことをするのが好きだからねー」などと言うのです。

 偉そうに命令などをしているよりはとても好感が持てるのですが、本当に良いのか私も正直悩んでいます。

 お家でも私と一緒に食事の用意から、身の回りのことまで一緒にしてくれます。

 それに私に接する態度が、なんとなく私を姉のように慕ってくれている気がするのです。

 そう思うと無礼なのは分かっているのですが、とても可愛らしく思うのです。

 ちょっとだけ、私の第三恋人になって欲しいとの考えがよぎることもあります。

 そんな可愛い王女様なのですが、未だに叶わないことがあります。

 同じ屋根の下に住んでいるのに未だに一緒にお風呂に入れないのです。

 この一線を越えれば、私が何故か遠慮をしている気持ちが吹っ切れて積極的にアプローチができるのではと思っているのです。

 私が色々と考えに耽っている内にゲイルさんの報告が終わったようです。

 アリサさんは、今回持ってきた魔核がウォーアントのクィーンの物であることで、とても驚いていましたが同時に喜んでいます。

 自分が担当している冒険者の貢献度が上がるとシャーリーさんの所為で失った物が取り返せるといつも言っています。

 私達のリーダーはゲイルさんですが、アリサさんが期待の目を向けているのはシアです。

 以前にシアが賄賂として渡そうとしていたので、誰の貢献が一番高いかを知っていると思います。

 しかし、敢えて言うのでしたら、今回はフィスさんが一番多く倒しているはずです。

 シアの攻撃範囲に入る前にフィスさんが遠距離もしくは中距離で倒してしまうからです。

 あの階層の魔物は、通常でしたら外殻がとても固いので倒すのは大変なのですが、フィスさんはそんな物は関係ないとばかりに全てを切り裂いてしまうからです。

 活躍はすごいのですが、シアはいつも魔力の無駄遣いと警告をしていました。

 それに対抗するかのようにコレットちゃんまで今回は好き放題に魔法を使っていました。

 しかし、シアやフィスさんと違い途中で魔力切れを起こして度々休んでいました。

 そんなコレットちゃんを見て何も言いませんが、意外なことにシアの目が冷たそうでした。

 きっと、魔力の使い過ぎで倒れているのを呆れていたのだと思います。

 前回までなら、シアに止められるのですが、フィスさんが居るのですから放置しているのだと思います。

 そんなことを思い出しつつお家に到着しました。

 扉を開けると笑顔のフィスさんが迎えてくれます。


「おかえりなさいー! エルナ様が大好きなお風呂の用意はしておきましたので、一緒に入りましょう!」


 お出迎えの言葉に続くのは、私も望んでいる入浴へのお誘いです。

 そのフィスさんは、地下迷宮での戦闘用の服からメイド服に着替えています。

 長椅子に横になって目を閉じているレンスリット様は、起きる気配がありませんので、疲れて眠ってしまったのだと思います。

 更に残念なことに先に入浴を済ましてしまったのか、お風呂上がりのとても良い匂いがします。

 既に可愛らしい寝巻に着替えてしまっているので、可愛い姿を見れただけでも良かったと思います。

 対するフィスさんは、服装を替えているのに何故か少し汚れ気味です。


「ただいま戻りましたが、お風呂には三人で入ります。なのでフィスさんにはご遠慮をお願いします」


「そんな!!! なぜなのですか!?」


 思考が獣さんのフィスさんとご一緒するのは、身の危険を感じるからに決まっています。


「いつも言っていますが、フィスさんは危険だからです」


「僕は、エルナ様との約束を守ってずっと触れていませんよ?」


 確かに私の体には触れないと言う約束は守っています。

 ですが……。


「ここのお風呂は大きめですが、流石に四人で入ると必ず触れてしまいます」


「確かにそうなるかもしれませんが……僕はエルナ様が喜ぶと思って、帰ってすぐに浴槽の掃除をして準備をしました! 更にはエルナ様が好きな温度に調節して体の隅々……じゃなくて、お背中を流して差し上げようと万全の状態で待っていたのですよ!?」

 

 いま少しだけフィスさんの真の目的が漏れていました。

 一緒に入ると言うことは、乙女のピンチと変わらない気がしてきました。


「フィスさんのご厚意はとても嬉しく思いますが、触れずに入るのは無理かと思いますので、諦めてくださいね?」


「うっぅぅ……こんなに尽くしているのに振り向いてくれないなんて、エルナ様は強敵すぎます……仕方がありません。おい、シア」


 私の説得が無理と判断したフィスさんがシアに声を掛けています?

 シアに何か頼むつもりなのでしょうか?


「エルナのことで、私に協力を求めるのは不可能です。仲間とは認識をしましたが、エルナが許可しないことは私は認めません」


「そう言うのは分かっているが、あいつらの情報開示をする条件でエルナ様に仕方なく触れてしまうことぐらいは許可してくれるように相談してくれないか?」


「どんな理由が合ってもエルナが許可しないことには同意しません」


「ちぇ……船の行動アクセス権の時は添い寝させてくれたのに……エルナ様が目の前にいる時は無理か……」


 情報とは何なのでしょうか?

 あいつらと言っていますが誰のことなのでしょうか?

 そう言えば……王国の人達が去った後にフィスさんを中に入れてからシアに詰め寄っていた時にシアがフィスさんに何か質問をしていました。

 もしかすると遭遇した方達の情報をシアが求めているのでしょうか?

 どうしてシアが知ろうとしているのか分かりませんが、シアの行動は私を基本としてくれています。

 シアがその情報を得ることで私にとって良いことなのかもしれません。

 私が考えても分からないことは、シアに直接聞いた方が良いかと思います。


「シアに聞きたいのですが、その情報を得るとどうなるのですか?」


「今後の対応策が取れます。特に私を一瞬だけ感知した個体がいますので、注意が必要と判断しました。以前に遭遇した『トウェンティ ナインス』のような事例を考えるとエルナに対する危険度も考慮しなければいけません」


 やっぱりシアは私が危険な状況になるかもしれないと判断して、先に相手の情報を得ようとしたのです。

 現時点でシアを手に入れる為には私を従わせるしかありません。

 以前にフィスさんは、一桁の数字持ちは特に強力な存在と言っていました。

 国の戦力とするのでしたら、おそらくは見逃してもらえないかと思います。

 最悪の場合は、フィスさんに保護してもらえば良いかと思いますが、私の大事な物を捧げないといけない気がします。

 基本的にフィスさんには借りを作ってはいけません。

 頼りすぎると今回の探索の時に約束した物を渡した程度では済まなくなると思います。


「やっぱりあのライラとか言う戦闘補助の奴と遭遇していたんだな。あいつの拘束力は地味に強力だから、僕も逃げられたのはショックだったんだよー」


 確かにライラさんの拘束する能力はすごいと思います。

 ですが、フィスさんが相手でしたら無理だと思いますよ?


「フィスさんの遠距離攻撃でしたら、逃げられるとは思えませんよ?」


「何十年前か忘れたけど、こっちは部隊で囲んだのに半数が動きを止められて参っちゃったんだよねー。僕もその中の1人だったんだけど、戦闘能力が無い代わりに僕を含めた数人のナンバーズが行動不能とか情けない限りだよ。そして、そのまま船で逃げられたんだよ」


 ライラさんにそこまでの力はなかったはずですよね?

 あの時はシアを拘束するのでいっぱいだったはずです。

 それに王国の部隊が何人いたのかは知りませんが、その半数を足止めしたのですか?

 例え足止めができても、そこまでの距離が維持できなければ動けるようになればすぐに追いつかれてしまうと思います。


「ライラさんはお話のような規模は無理だったと思うのですが?」


「ほほー。すると今の登録者とは完全な意思の疎通ができていないから、弱体化しているみたいだねー。いまなら僕一人でも余裕で捕縛できそうです」


「ライラさんはもうこの国にいないと思います。何か不都合なことが合ったらしく他国に行ってしまったそうです」


「そうか。まあ、今の僕には関係ないからどうでも良いんだよねー」


 フィスさんのお話が本当でしたら、真の力を発揮したライラさんは強敵です。

 そこに戦闘能力が高い存在がいれば圧倒的な戦いができていたはずです。

 現時点でもそこまでの力があるのでしたら、戦闘型の魔人形がいれば十分な筈です。

 例え居なくても相手が動けないのですから、私でも簡単に相手を倒せると思います。


「思ったのですが、フィスさん達を行動不能にできているのでしたら、どうして倒さなかったのですか?」


「確かに強力な束縛能力なんだけど、人数制限があるのです。あいつは、僕たち数字持ちと戦闘型の魔人形を優先的に動きを止めていたにすぎません。だから拘束され切れていない魔人形と他の兵士たちは動けたんだけど、あいつらが所持していた戦闘型の魔人形にしっかりと足止めされてしまったのです。しかも途中でお偉いさんが人質にもとられて手が出せなくなったのです。僕たちの行動が可能になった時には距離が稼がれていたから諦めたのです。代わりにあいつらの戦力はかなり削ったので、そのうちに捕まえられると思っていたのに時間だけが経過して今に至ります。エルナ様の話から察するに一介の冒険者程度に落ちぶれてしまったみたいですね」


「そうだったのですね。ヴァイスさんが簡単にいなくなるとは思えませんので、当分はライラさんがそこまでの脅威にならないと思います。一つ聞きたいのですが、人質にされてしまった方はどうなったのですか?」


「殺されはしなかったので、解放されて戻ってきたんだけど、自身の保身の為に重要人物を逃がした罪で降格されたはずです。命は助かったけど、権力的な力をほぼ失ったことで事実上は没落に追い込まれたはずです」


 それは、不幸な目に遭いましたね。

 権力と命をどちらを優先するのかに寄りますが、その方は後者を選んだことで身内も全て道連れ状態になってしまったようです。

 そして、ヴァイスさんのような悪い人は簡単には死んだりしないと思います。

 なので、今の世代は安心をしても良いかもしれません。

 それにライラさんとは話し合えば仲良くなれる気がしますので、次の方次第と思います。

 フィスさんの話を聞いているとヴァイスさんの家系はこの国の貴族か何かだったのでしょうか?


「もう一つだけ聞きたいのですが、当時のライラさんの登録者さんは国の偉い人だったのですか?」


「んー。単に権力闘争に敗れた家門です。軍部の者たちは『トウェンティ ナインス 』のライラを失った方が痛かったみたいです。あの能力のお陰で僕達も優位に戦えましたので敵対するのなら始末しないと危険極まりない奴です。登録者との同調率がかなりシビアな個体でもあるので弱体化している今が倒すチャンスですね」


「ライラさん自身はなんとなく良い方だと私は感じているのですが……」


「なんにしても僕たちは登録者次第です。そんなことよりも先ほどの提案で僕とのスキンシップを許可してくれませんか?」


 もう少し聞きたかったのですが、フィスさんにとっては私との関係の方が優先みたいです。

 いつの間にかに一緒に入るだけと言っていたのにスキンシップに変わっています。

 私の返事を待っている姿は、おあずけをされている子犬のようにも見えています。

 今回は、シアの為にも色々と協力もしてくれましたし、家出中とは言え王国の軍事情報まで提供しようとしています。

 どうしてそこまで私に拘るのか分かりませんが、シアやコレットちゃんを恋人にしている自分に近い感じもしますので、理解できないことは無いのです。

 仕方ありませんね。


「私の嫌がることをしないという約束をするのでしたら、普通の触れ合いまでは許したいと思います」


「本当ですか!!!」


「フィスさんの気持ちも分からないこともありません。ですが、友達の範囲内迄ですよ?」


「十分なご褒美です! エルナ様に触れられるのでしたら、あいつらの情報なんていくらでも教えます!」


「過度な行動はダメですからね?」


「勿論分かっています。それ以上の関係は時間を掛けてゆっくりと進めることにします。エルナ様の方から、僕を求めてくれるように頑張りたいと思います!」


 少し許したら、話が即座に飛躍しています。

 例えそのような願望が有っても口にしない方が良いと思うのですが、フィスさんは自分にとても正直なようです。

 話が纏まると、直ぐにお風呂に案内をされました。

 私達の話を聞いていたコレットちゃんは「わらわは後で入るが故に先にお前達で入るがよい」と言って自分の書斎に行ってしまいました。

 どうせ四人もいたら狭いので、寛げないと呟いていました。

 フィスさんは、そんなコレットちゃんの配慮に喜んでいるようです。

 その後は私が嫌がらない程度の距離感で接するようになりました。

 もしかしたら、我慢ができなくて獣さんになるかと思っていたのですが、行動の切り替えは完璧なようです。

 初めからこうでしたら、私も警戒しなかったのです。

 最初の強引な印象がフィスさんの失敗かと思います。


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