お披露目
「エルナ様! 僕の活躍を見ていてくれますか!」
「はい、見ていますよ」
とても固そうな虫さんが次々と現れるのですが、こちらに到達する前にフィスさんが全て切り裂いてしまうので、とても楽ができています。
「フィスに警告をします。先ほどから、派手に魔法を使い過ぎです。効率よく魔力を運用して相手を倒すことを進言します」
背後から現れる虫さんに対してはシアを主軸として私達で対応をしています。
シアはいつも通りの肉弾戦で倒していますが、フィスさんは広範囲に展開している水を刃物のように相手を切断して複数の虫さんを倒しまくっているのです。
「数が多いんだから、この方が早く倒せるし効率的だよ。それに肉弾戦で戦うなんて美しくないから、僕は良いんだよ」
そう反論しつつ攻撃をすり抜けて近づく相手は水の刃を纏った手刀で切り裂いています。
「それにしてもあの派手な嬢ちゃんは恐ろしいぐらいに強いな」
シアと一緒に虫さんを倒しているゲイルさんも納得する強さです。
そして、ゲイルさんが派手な嬢ちゃんと呼んでいるのにはフィスさんの姿に問題があるのです。
最初は素性が分からないようにフード付きのマントを羽織っていたのですが、地下迷宮に入ると直ぐに脱いだのです。
その下の姿は、全身ぴったりの服装だったのです。
なんでも、フィスさん専用の戦闘服らしいのですが、体のラインがはっきりとわかるので、私でしたら恥ずかしくて着れません。
唯一腰の後ろにある大きなリボンのような長い帯は可愛らしいと思いましたが、戦闘時にフィスさんの動きに合わせて水の刃の延長となって近づくものを切り裂く恐ろしい武器なのです。
基本的には範囲魔法による遠距離から中距離攻撃がメインですが、近接戦闘も完璧だと思います。
「わらわにもあれぐらいの魔力があれば楽しめるのじゃが……シアのクソまずい薬をわらわも飲むべきが悩むの……」
コレットちゃんも頑張っていましたが、現在は魔力切れでお休み中です。
あんなことを言っていますが、コレットちゃんも私が毎日飲んでいる液体を一度だけ飲んだのですが、即座に吐き出して水を求めて苦しんでいました。
私は、シアに対する愛を貫き飲み干したのですが、コレットちゃんには厳しい課題のようです。
効果の薄い錠剤を呑むと……しばらくすると腹痛を訴える始末です。
これは、私と違って愛の差だと思います。
そして、一緒に同行しているレンスリット様に飲み物をついでもらっているのですが、王女様にそんなことをさせても良いのかと思いました。
本人は何もできずに付いてきているだけなので何かがしたいとのご要望を言われたので、食事時は私のお手伝いまでしてもらっています。
王女様にそんなことをさせるわけにはいかないと思っていたのですが、意外と器用に雑務をこなしてしまうので驚いたぐらいです。
「それにしてもこれだけ甲殻系の魔物を倒したのに全部持って帰れないのは残念だわ」
確かにシャーリーさんの言う通り倒した虫さんの素材を全て持って帰る事ができればかなりの財産になります。
しかもフィスさんが倒した虫さんは鋭利に切断されていますので、査定額は高いと思います。
現在私達は、地下迷宮の五階に来ています。
最初は三階層から始めたのですが、直ぐにゲート・ガーディアンの部屋を見つけるとシアとフィスさんで即座に倒してしまったのです。
四階層も同じです。
今回は運が良かったのか、部屋も近くにあったばかりかゲート・ガーディアンも存在していたのでこちらも即座に倒して今に至ります。
前回に初めて三階層に降りたのに次に来たら、五階層にまで降りているなんて驚きです。
この階層は虫さんばかりなので、硬い甲殻を持つ魔物ばかりなのです。
ですが、フィスさんは固い相手でも簡単に切り裂いてしまいます。
シアも相変わらずの打撃力で吹き飛ばしてしまうか、どんなに固かろうと拳で貫いてしまうのです。
私達は戦えないレンスリット様を守りつつ適度に流れてくる相手を倒すにとどまっています。
フィスさんは酔っているのか問答無用で相手を倒しまくっていますが、シアは適度にこちらに流しつつ敵を殲滅しています。
この階層には、シアが好んで狩っていたアリさんが混じっていますので、そのアリさんが呼び水となって中々魔物が尽きない状況なのです。
ですが、私に疲労しているような様子が現れるとシアも全力で駆逐するので休むことはできています。
問題は舞うように戦って虫さんを倒しまくっているフィスさんの方です。
声を掛けないとシアと同じで、仲間をどんどん呼ばせてずっと倒し続けているのです。
「そろそろ休みたいので、この辺りで止めませんか?」
私がフィスさんに声を掛けるとシアが呼応するようにフィスさんの前方に大きな壁を作り出します。
フィスさんも理解していますので、退路を断たれた虫さんだけを始末するとようやく戦闘終了です。
「結構な数を倒しましたが、僕も強いでしょ?」
正直に言いますと、とんでもなく強い方です。
肉弾戦に於いて無敵のシアですが、数が多いと後手に回る事があります。
それでも倒す順番を考えて私達が対処できる魔物だけ通すように動きます。
逆に私達に対処ができない相手は、絶対に通しません。
そして、フィスさんは前方から現れる魔物を絶対に自分より後ろに通しません。
シアと違い広範囲の魔法を常に使っていますので、撃ち漏れなども無いのです。
至近距離の相手も舞うように手刀で全て斬り倒してしまうのです。
もしもフィスさんと正面から戦うことになれば、勝つのは難しいと思います。
「フィスさんがとても強いことは分かりました。ですが、一介の冒険者の私達に協力して地下迷宮に来ても宜しいのですか?」
「久しぶりに来ましたが、ここにいる奴らは雑魚ばかりなので問題はありません。それにエルナ様にカッコいい所を見せて僕のことを見直してもらう為なのですから、良いのです!」
「それで良いのでしたら、私達としても問題はありません」
シアが通路に壁を起こしたことで、いまいる場所は隔離された空間となっています。
見渡す限り虫さんの死体でいっぱいなのですが……そして、シアはフィスさんが倒した虫さんの魔核から力を吸収しています。
シアが魔核を必要としている話を聞いて、自分が倒した魔物の魔核は吸い取っても構わないと言い出したのです。
どうしてかは分からないのですが、シアの強化に協力してくれているのです。
本人が言うには「面白そうだから、どこまで強くなれるか見て見たいねー」とのことです。
フィスさんは、シアが自分が全く知らないタイプなので面白そうだからと言うだけの理由みたいです。
私達の戦果の方は、コレットちゃんの指輪に大型の魔核を貯め込んで他のものは全てシアに力を吸収してもらうことになりました。
正直、倒した魔物の数が多くなってきたので、なるべく高い物だけを持ち帰る方針に切り替えたのです。
お陰で、今回の私のお小遣いはとても魅力的になりそうです!
「それとは別に2人だけで約束したことは守ってくださいね?」
「勿論分かっていますが……本当にフィスさんはどうしようも無い方なのですね……」
「でも、きっかけはエルナ様から申し出てくれたのですよね?」
「それはそうなのですが……まさかそんな要求をするなんて思ってもみなかったのです」
「約束は約束です。エルナ様は自分にできるお礼がしたいと言ったのですから、僕はエルナ様が容認する可能な限りのお願いをしたのです。それにこれでシアの強化に繋がるのでしたら安い買い物と思いますよ?」
「分かっています。私も約束をしたのですから、必ず守りますので安心をしてください」
「うんうん。僕もやる気が出るので頑張りたいと思います!」
いまのお話は、私とフィスさんだけで約束したことです。
最初はフィスさんが魔核を無償で提供してくれるのが申し訳なくて代わりに何か欲しい物はないのですかと聞いたのです。
すると、1つだけ欲しい物があると言って、私に耳打ちをしてきたのです。
正直に言いますと引いてしまう内容でしたが、それで良いのならと……私は了承してしまったのです。
こんなにすごい方なのに、それで全てを台無しにしてしまっている残念な方です。
それにしても地下迷宮に付いて来るとは予想していませんでした。
フィスさんとレンスリット様が、コレットちゃんのお家に滞在をしてしまい数日後に私達は地下迷宮に探索に行くと告げたのです。
留守の間は好きなだけ滞在しても良いとも伝えたのですが、私が行くのなら一緒に行くと言い出したのです。
一応はギルドに登録などはしているのかと尋ねましたら、当然していないと答えました。
なので、表向きは私達はいつものメンバーとなっています。
ゲイルさんにも相談すると戦力が多いに越したことはないので了承してくれました。
ましてや、その実力はシアと変わらないのですから頼もしいと考えてくれました。
どのような人物かについては、コレットちゃんの知り合いとだけ話してあります。
ですが、フィスさんの実力を目の当たりにして、大体のことは察してくれたようです。
それに以前にコレットちゃんが、フィスさんの話をみんなの前でしていましたので気付いていると思います。
案の定なのですが、途中でゲイルさんが私に「王家の者と関わり合いになっても良いのか?」と質問してきました。
いまは家出中とだけ答えておきました。
少し悩んでいましたが、気にしないことにしておくと言いました。
取り敢えずは、知らないフリをするのが正解だと判断したようです。
その後は破竹の勢いで倒していくので、「これ、俺達の成果にしてもいいのか……」とちょっと悩んでいます。
シアが力を吸収せずに回収している魔核は大型ばかりです。
きっと、アリサさんも疑いの目を向けながらも喜んでくれると思います。
事情はともかくアリサさんの成績も上がるのですからね!
「皆様、お飲み物を用意しましたので、お休みになってください」
そう言ってレンスリット様が、みんなに飲み物を配っています。
王女様にこのようなことをさせてよいのか悩みましたが、本人は戦えないのでこのぐらいはしたいと申し出ているのです。
フィスさんも好きにさせれば良いなどと言っているのですが……レンスリット様の正体を知っている私としては複雑な気分です。
レンスリット様は無口な方なのですが、意外にもこの手のことに何故か手馴れています?
火はシアかコレットちゃんに起こして貰えば美味しい飲み物から、簡単な食事も作れてしまいます。
なので、食事の時は私と一緒に用意をしているぐらいなのです。
気になったので、どうして王女様がこんなに手際が良いのかを聞いたのですが、フィスさんの船で暮らしていたので、自分のことは極力自分でできるようにと教えられたそうです。
確か……フィスさんは、自分の登録者に指名する代わりに教育の全てを任せてもらうと先代の王様と約束したそうですが……私が思っている王女様と違いますよね?
本人は特に気にしていないので、私も気にしないことにしています。
それにレンスリット様は、とても可愛い方です!
いまは可愛らしいケモ耳フードなる物を被っているので、更に可愛さが増しているのです!
王女様でなければお持ち帰りがしたいと言うのが私の本音です。
こんなに可愛いのにシアやコレットちゃんに感じる胸の高鳴りまで行かないのがとても不思議なのです?
後輩の子にもそれなりに私の心の高まりが有ったのですが、レンスリット様には何故か可愛い子という所までしか私の趣旨が高まらないのです?
これはやはりレンスリット様が王女様なので、私の心が無意識に遠慮をしているのだと思います。
ですが、私の要望としては一度くらいは一緒にお風呂に入りたいです……コレットちゃんのお家に滞在している時も一度として御一緒はしていないのです。
私が声を掛けると反応するのはフィスさんだけです。
フィスさんの場合は怪しい手の動きと血走ったような目が身の危険を感じるので遠慮をしてもらっていました。
代わりにお風呂に入っている間に私達の着ている衣服の洗濯を勝手にやってしまいます。
とても肌触りの良い仕上げをしてくれるので、その技術力だけはすごいと思いましたが、私の着ていた物で何をしているのか分からないのが怖いです。
シアが魔核の力の吸収を終えて戻ってきたところで改めて小部屋ぐらいの範囲に壁を起こして他の壁は解除しました。
いつまでも広い通路を全て塞いでいると他の方が通った場合に迷惑ですからね。
ただし、虫さんの死体がすごく転がったままなので、それはそれで迷惑かと思います。
いつもは通路の破壊をするシアですが、破壊せずに解除もできたことは初めて知りました。
「それにしてもウォーアントのクィーンを見たのは初めてだが、あんなのと単独で遭遇していたら死ぬな」
ゲイルさんがコレットちゃんの指輪に入れてあった特大の魔核を見ながら思い出しているようです。
「これを全部売ったら、当分は一番いい物が飲めるわ!」
シャーリーさんは、上物が毎日飲める予定を立てています。
あれ一つがどのくらいになるのか分かりませんが、全て飲むことに使うつもりなのですか?
「頼むから、ストレージリングを買ってからにしてくれよ? これだけあれば余裕なんだが、いくらなんでも全部は売れんな」
「どうしてなのよ?」
「いきなりこんなのを複数提出したら怪しすぎるだろ?」
「それはそうなんだけど……アリサは喜ぶかもしれないわよ?」
「シア嬢ちゃんと今回参加してくれているフィス嬢ちゃんがいなかったら、俺達の実力では不可能だ。分不相応の評価を得ても後が困るだけだ」
「じゃ、どうするのよ?」
「特大と大型を二つづつにしてギルドと武器屋のおやじに一つづつ売るのが無難だな。後は程度の良い甲殻の素材を持てるだけ持って帰るぐらいだな」
「それでいいの?」
「ああ、あまり目立つのは宜しくない。それで大きな仕事が回ってきても困るしな」
「仕方ないわね」
「なので、残す分以外はシア嬢ちゃんが回収してくれ。後は、外に転がっているのでいい物を見繕ってもらって持てるだけにする」
ゲイルさんとシャーリーさんの話が終わるとシアが返事をしました。
「分かりました。この後は私が全て吸収します。後ほどクィーンか大型の戦闘型の質の高い部分を切り出すことにします」
「悪いが頼むな」
シアとゲイルさんの話し合いは完了したみたいです。
ここから先はシアが全て回収することになります。
後はいつ戻るかです。
以前の時はコレットちゃんの魔法の実験に付き合っていました。
今回は、三階層のゴーレムさんと違ってサクサク倒せません。
単発の風魔法で関節部分を切り裂くのに集中していました。
大型までは甲殻を貫けたのですが、クィーンと戦った時に弾かれてしまったのです。
それどころか魔法の盾のような物まで発生させてコレットちゃんの遠距離攻撃を防いだのです。
シアはいつも通りに殴る蹴るの応酬で倒しきっていましたし、フィスさんは相手がクィーンだろうと接近戦で切り裂いていくのです。
こうして見るとシアは打撃系でフィスさんは切り裂く攻撃を主としています。
打撃の方は見ていて迫力があるのですが、相手の懐に近づいてなんでも切り裂いてしまうフィスさんも驚異的です。
あんな固い物が当たり前のように切り裂かれるなんて、フィスさんの手は恐ろしい刃物と変わりがありません。
シアが言うには水を高速で纏わせて切断していると教えてくれました。
今回の事でフィスさんの戦い方を見たので自分にも可能と言っていましたが、シアの打撃力にあの恐ろしい切れ味まで追加ができるようになるようです。
しばらく休息を取っていたのですが、シアが突然立ち上がり何かに反応をしています?
「集団の反応がこちらに近づいてきます」
「それは虫さんの団体さんですか?」
「違います。この反応は集団の人間と魔人形と呼ばれる量産型が複数です。更に私とフィスに匹敵する存在も複数混じっています」
「シアとフィスさんと同じ方が何人かいるのですか!?」
そんな集団が現れるなんてとても嫌な予感がします。
シアの言葉を聞いてフィスさんが思い出したように話し出しました。
「そう言えば、五階層は魔道船の材料を集める軍部の奴らが定期的に降りているのを忘れていたよ」
「国の軍隊なのですか!?」
王国の軍隊と遭遇するのは流石にまずいと思います。
ここは早めに逃げたいと思いますが、シアが気付いているのですから相手も気付いているのかと思います。
なので逃げるように移動するのはかえって怪しまれると思うのですがどうすれば良いのでしょうか?




