お気に入りの場所
「さあ、到着を致しましたー! 邪魔者はいなくなりましたので、まずは僕の自慢のお風呂にご案内を致しますねー!」
魔道船の上部に着いたみたいですが、私の前には大きな無機質な艦橋の部分があるだけです。
扉なども見当たりませんので、どうやって入るのでしょうか?
そして、降り立った魔道船の上はとても硬い足場で平たい平地のように広くなっています。
これは、何かを乗せる為の構造なのでしょうか?
もしかして、戦争の時はここに軍隊を乗せて運搬をするなどの……しかし、手すりなどが一切ありませんので、外周に配置されてしまったら、運が悪いと落ちてしまうと思います。
私が不思議がっているとフィスさんから、お声が掛かります。
「エルナ様、そんな何もない所を見ていないで、早く入浴をして体を温めてから、着替えを致しませんか?」
「その申し出は嬉しいのですが、どうやって入るのですか? それに私が知っている魔道船とは全然違いますので、とても気になってしまったのです」
「んー、僕の船は『強襲空母』だからね。他の火力馬鹿達とは違うのですよ」
「それは何なのですか? 魔道船と言うのは私が乗ったことのある非武装の移動用と遠くから見たことしかありませんが、王国などが所有している武装した魔道船のだけと思っていたのですが、そのきょうなんとかくうぼと言うのは何なのでしょうか?」
「きっとエルナ様が見たことがあるのは、量産型の今の技術で作られた船だと思います。僕達が所持している船はあんな量産型とは違います。詳しい事を御知りになりたければ、後で教えて差し上げます」
後ほど説明をしてくれると言うので、私に分かる範囲で聞いてみることにします。
しかし……。
「ですが、この場所には入り口らしきものが見当たりません。目の前の大きな物が艦橋と思いますが、扉も無いように思えます」
私の知っている魔道船には船の中央部に艦橋と呼ばれる魔道船を操作する部屋があると聞いていますが、入る為に扉は当然ありました。
ですが、目の前はただの無機質な壁にしか見えないのです。
ここからしか入れそうな所はないと思うのですが、別にこの広い足場のどこかに階段があって降りられるのでしょうか?
フィスさんは船内に案内をすると言いながらニコニコしながら、笑顔で私を見ています。
もしかしたら、私が入り口を当てれるのか試しているのでしょうか?
それでしたら、聞いてばかりではなく私なりに考えてみましょう。
少し寒いのですが、今のところは耐えられない程ではありません。
ここに男性がいた場合は服装の観点から、恥ずかしいので降参を致します。
ですが……心だけは男性にかなり近いフィスさんがいますが、一応は女性型と言っていましたので気にしないことにしました。
私が悩んでいるとシアが無機質な壁の一部の前に移動して、フィスさんに文句を言い出しました。
「フィス、早くここを開けてエルナを入れて下さい。地上と違ってこの場所は風が強いのでエルナの体調が悪くなってしまいます。これ以上時間を取るのであれば、破壊をして内部に入ります」
「ちょっと止めてくれよ! いま壊されたら直せないから開きっぱなしになってしまうよ!」
「では早くして下さい」
「わかったよもう……せっかくエルナ様が僕の船に興味を持ってくれてるのに……もうちょっと体が冷えたら……あれができるのに……」
フィスさんは何かブツブツと小声で話しながら、シアの所に行くと今までは壁だった場所が人が入れるぐらいの通路になりました!
よく見ると壁の一部が横にスライドしています。
自然に開く扉は地下迷宮でシアが休憩ができる場所を開けた事があるのですが、あれと同じです!
「ささ、中に入って下さい」
「では、失礼を致します……」
中に入ると古代都市『アズラエルガード』と同じような構造をしています。
違いがあるとすれば、あちらはシアが何かしないと完全な無人の空間なのです。
こちらも無機質な通路なのですが、とても明るい通路です。
「僕の側にいて下さいね」
そのまま頷くと歩いてもいないのに前に進んでいます!
これはどうなっているのでしょうか!?
そのまま進んで行くと扉らしき前で止まりましたが、移動する床というのは楽ですね。
「僕はエルナ様を浴室に案内をした後に着替えをさせてまいりますので、レンスリット様はお部屋で待っていて下さい」
「はい、分かっています」
王女様は一緒にお入りにならないのですか!?
私としては、外で待っていた王女様も体を温めると思っていたので、ご一緒ができるのかと思っていました。
こんな機会がなければ王女様と一緒に入浴などできないので、チャンスだと思っていたのですが……レンスリット様は私の好みなので期待をしていたのですが、流石に王女様と同じ湯に入るのは無理でしたね。
それに王女様は分っていますと言いましたので、最初からフィスさんの行動を理解をしていたことになります。
「レンスリット様、どうもエルナ様はご一緒に入浴をされたかったみたいですが、御一緒致しますか?」
私が少し残念な表情でもしていたのか、それに気付いたフィスさんが王女様を誘っています!
心の中でフィスさんを少しだけ応援をしたいと思います!
ですが……。
「僕も御一緒がしたいのですが、今回はご遠慮をさせて頂きます」
「そうですか。それは残念ですねー。それでは済みませんが、お部屋でお待ちください」
残念ですが、振られてしまいました。
もう少し粘って欲しいとフィスさんに言う訳にもいきません。
それに王女様は『今回は』と言いましたので、今後の行動次第では親しくなれば機会が訪れると思います。
なので、今回は大人しく我慢をすることにします。
王女様が室内に入り扉が閉まるのを確認するとまた先に進んで行きます。
途中で行き止まりの扉に入ると中は狭い個室になっていました?
扉が閉まって、再び扉が開くと同じ通路なのですが、進んで行くと微妙に違います。
その違いというのは、扉と思える場所の上に私には読めない文字のプレートらしき物があるからです。
その1つの扉の前に止り、フィスさんが扉を開けて中に入り付いて行くと手前の仕切りの向う側は脱衣場のような感じで、奥に透き通った大きな扉の奥は湯気が漂っているように見えます。
フィスさんの後を付いて脱衣場らしき場所に案内されるとフィスさんが話しかけてきます。
「エルナ様、ここで衣服を脱いでもらって、向うの扉の奥が浴室になります」
やはり、あの奥がお風呂場のようです。
「中には色々な施設がありますので、僕も御一緒をして説明をしたいと思います!」
「フィスさんも入るのですか?」
「当然です! 僕が説明をしないと分からない物もあると思いますし、エルナ様と距離を縮めたいなーと思ったのです」
フィスさんは女性型と言っていましたが、中身は男性に近いので一緒に入るのは少し気が進みません。
未遂に終わりましたが、もう少しの所で私は乙女の大事な物を失う所でした。
今も私の上半身を見ている目は、エリックさんのお店に来るお尻を触ったりする酔っ払いのおじ様達と似ています。
申し訳ありませんが、フィスさんには辞退をしてもらいましょう。
「フィスさん、申し訳ありませんが……私はシアと2人で入りたいのです」
「なぜですか!?」
「申し上げにくいのですが、フィスさんと御一緒すると危険な予感がするのです……」
「嫌な予感ですか? 先程は僕の欲求を優先してしまいましたが、もう二度とあのような事は致しません。なので安心をして下さい!」
そう言いながらも手を見ると先ほどと同じように怪しい動きをしています……とても信用ができません。
フィスさんは水を操るのですから、今度はシアを氷の塊の中に閉じ込めたりすれば流石のシアも脱出は容易ではないと思われます。
結論から言えば、水場でフィスさんといるのは危険と判断します。
「済みません。先程の事がありますので、どうしてもフィスさんを信じることができないのです」
「僕を信じて下さい!」
「その手です。いまも怪しげな動きをしているフィスさんの手が信用できません」
「こ、これは……そうです! 最近ご無沙汰の若い乙女の柔肌を堪能したいという僕の意思とは無関係の行動なのです!」
「フィスさんは自分の意思とは関係なく体が動くのですか? そんな話をお聞きしましたら余計に信用ができませんので、もう少し親しくなってからの方が良いかと思います」
「そんな! せっかく僕がしっかりとエルナ様の体を隅々まで洗って差し上げようと思っていたのに……こうなったら、実力で……」
やはりそんな事を考えていたようです。
私がフィスさんを危険と感じると突然私達との間に水の壁が出来上がると凍り付いて私達とフィスさんの間を隔ててしまいました!?
フィスさんがそんなことをする筈はないので、隣のシアを見ると手を突き出して指は内側に握りしめています。
「こんな所で壁なんて作るなよ! 僕の大事な場所が壊れたらどうするんだよ!」
「なので、『アクア・ウォール』を発動させた後に凍らせました。これならば溶けた後は水になるだけなので、艦内に被害は出ません」
「その判断は正しいとして、僕がそっちにいけません! 早く解除をして下さい!」
「エルナが出てくるまで着替えを用意でもして待機していて下さい」
「僕は侍女じゃなくて、この船の主なんだぞ!」
「私の情報が正しければフィスの姿は侍女の服装をしていると判断します」
「確かにそうなんだけど……」
「これで、邪魔者は排除しましたので、エルナは安心をして入浴をして下さい」
シアは大丈夫だと言いましたが、フィスさんだったら、この氷の壁を消せるのではないのですか?
見た感じでは分厚そうで透明度も無いのでこちらからもフィスさんの姿は輪郭ぐらいしか分かりません。
なので、脱いでいる所もはっきりとは見えないと思いますが……。
「シアに聞きたいのですが、フィスさんに氷の壁は無意味ではないのですか?」
「問題有りません。私の魔力の支配力で作り出しているので、水しか操れないフィスには解除ができません」
「それはシアが作り出した水だから、フィスさんには関渉ができないということなのですか?」
「その通りです。元から存在する水を凍らせた場合は私の支配力を上回れば解除されてしまう可能性がありますが、今回の水自体が私の支配下にありますので、私よりも上位の権限を有していないといけません。それができるのでしたら、最初の時点で解除されていますので、できないのは私と同じかそれ以下の権限しかない証拠です」
シアの答えを聞いて壁の向うのフィスさんが地団駄を踏んでいます。
「あー、そうだよ! とっくに試したけど、僕には解除ができませんでした! 悔しいことに同じ一桁だから、魔力の支配力が同じと考えられるから、上回れないんだよ! 」
「どうしてもこちらに来たければ、周りを破壊して来ることです。扉の向こうに移動したら、ガラスにも同じ事をしますので、例えこちらに来ても同じことの繰り返しです。その場合はガラスの扉も破壊する事になります」
「くそー……僕のお気に入りの浴室を盾にするとは恐ろしい子です! 君を船内に入れたのは失敗です!」
「邪魔者は来れませんので、行きましょう」
シアに言われるままに奥にある浴室の方に行かせてもらいました。
中に入るととても綺麗な場所です!
大きな浴槽に他にもいくつかの違った色の小さめの浴槽もあるのです。
景色の方はどのような仕組みかは分かりませんが、外の景色らしき風景が動いています。
片隅には地下迷宮の休憩部屋でしか使えなかったシャワーという物まであります!
ここは、古代文明が全て使える状態なのだと思います。
シアが私に湯船に入るようと催促をしてきましたので、フィスさんには申し訳ありませんが湯船に浸からさせてもらいました。
入ってみると普通のお湯と違って気持ちがいいです!
よく見ればお湯の色が微妙に違うように見えます。
こんな素晴らしい場所なのですから、フィスさんが強硬手段に訴えずに我慢をしているのにも頷けます。
私が湯船を堪能しているとシアが入り口を自分が作り出して水で少しづつ凍らせていくと、入り口が先ほどの氷の壁の拡張版の状態になってしまいました。
仮に脱衣室の氷の壁を何かとされても大丈夫なようにしたのかと思ったのですが、シアが外に向かって声を掛けています。
「最初の壁は解除しました。エルナの衣服の洗濯と着替えを用意をしておいて下さい」
「いきなり解除するなよ!!! お蔭で僕はびしょ濡れじゃないか! それに着替えは用意するけど洗濯って、なんだよ!!! 僕は君の手下じゃないぞ!」
「フィスも汚れていたので、ついでに体が洗えたはずです」
「冷えた、ただの水じゃないか! それよりも僕のお気に入りの場所が水浸しだ!」
「エリックの店で酔っぱらって悪ふざけをした者に頭から水を掛けていたので、適切な対応です」
「僕は酔っ払いか! てか、あんなの飲んでも僕は酔えないよ!」
「私には、同じに見えました。ですが、エルナを持て成してくれた代わりにエルナの着ていた物の洗濯をさせてあげます。フィスにはそれで十分です」
「僕を酔っ払いと同じに扱うとは……しかも報酬が洗濯とか意味が……んー……これはこれでありか。仕方がありません。僕が精魂込めて洗っておきますので、僕の自慢の浴室を堪能していて下さい。それでは失礼を致します」
よく分かりませんが、フィスさんはシアに説得されてどこかに行ってしまったようです。
私に着替えを用意してくれて、衣服の洗濯までしてくれるのは助かります。
それでは、お言葉に甘えてシアと一緒に湯船を堪能したいと思います!




