時間稼ぎ
正面のヴァイスさんが私の胸を掴んだ所でライラさんが声を掛けてきました。
私としては、汚らわしい男性の手が胸に触れる前に話しかけて欲しかったです。
「ちょっと、ヴァイス。まさかこのままここでするつもりなの?」
「普段なら動けなくなって泣き叫んでいる奴を目隠しと口封じにしてから連れて帰るんだが、こいつは気が強そうだしここは場所的に町はずれなので、この時間なら誰も来んよ」
「何でもいいけど、早くしてね。取り敢えずその子を逃げ出さないように縛って欲しいんだけど?」
「はぁ? なんでだよ?」
「その子の自由を奪ったら、こっちの子に集中したいの。この子すごい力だから、少しでも拘束力を強めないと危険だわ」
「その個体はそんなに強いのか? 以前に出会った奴はそこまでしなくても押さえられただろ?」
「あの時と違って、貴方との同調率が低いから、私の能力が落ちているのよ」
「またそれか」
「貴方が私の意思にそぐわないことをしているからよ。こんなことをしているから、私の真価が発揮できないと何度も言ったでしょ?」
「仕方ないな。取り敢えずそこの大木の枝にでも吊し上げるか」
そう言うと動けない私を近くの大木の枝に手元の魔法の指輪から出したロープを掛けてから私の両手首を縛って吊るしました。
コレットちゃんの指輪よりも付いている宝石が大きいので、更に容量が大きい物と判断しますが……こんな時にそんな事を観察しているなんて、私の神経はとても太そうです。
そして、ご丁寧に少しだけ足が地面に付かない高さに吊るしてから、両足まで片方づつ地面に杭を打って縛っています。
この体勢は……手首も痛いのですが両足も少しきつめに地面に引っ張られているので、地味に痛いです。
私のような非力な女性にここまでするなんて、過去に足だけ自由にした為に蹴られてしまったのでしょうか?
勿論ですが、足だけでも自由がありましたら、隙を見て反動でも付けて蹴りたいとは思っていました。
「済みませんがこの体勢はとてもつらいので止めて下さい。吊るしてから足の自由まで奪うなんてか弱い少女にすることではありませんよ!」
「か弱い娘がガーディアンの部屋から出て来れる訳がないだろ? まあ、足の自由も奪ったのは以前に気の強い女に大事な所を蹴られたことがあるだけだ。お蔭で戦力にならなくなるまで痛め付けたけどな」
まさかの以前の油断の教訓を生かして慎重になっているようです。
その時に不能になってしまえば女性の被害者は減ったと思うのですが運がいいですね。
もしも立場が逆転でもしたら、私が不能にしてあげたいと思います!
「それじゃ、その子の拘束は解くけど、貴方の魔人形に命じてこっちの子を地面に押さえつけといてくれるかしら。何かあった時にすぐに動かれたら困るでしょ?」
「わかったよ。おい、お前らそいつを地面に押さえ込んでおけ」
ヴァイスさんが背後に控えていた2体の魔人形に命じると動けないシアを地面に押さえ込んでしまいました。
ですが、目だけはより一層きつくなっていますので、もしもシアが動き出したら、相手を殺してしまうかもしれません。
シアには町の人に過剰な攻撃をしないように頼んでありますが……こんな事は初めてなのです。
要件を終えるとヴァイスさんが私の方に来ますが、危機を回避する為にも何か話をして時間を稼がなくてはいけません。
私の帰りが遅くなれば、コレットちゃんが気付いて私の様子を見に来てくれるかもしれないからです。
読書に集中していると駄目なのですが……最近は決まった時間に食事を取っているので、時間を気にしていてくれるはずです。
私の料理にコレットちゃんは満足しているはずなので、そこに賭けたいと思います!
「汚らしい事をされる前に少し聞きたいのですが宜しいですか?」
近づいてきたヴァイスさんが少し驚いています。
私の言葉に何かおかしい所があったのでしょうか?
「何が聞きたいのか知らんが、こんな事をされているのに落ち着いているな。普通はもっと抵抗するんだが……お前みたいな女は初めてだぞ」
「こんな事をされれば何をされるかは分かっています。無駄に抵抗するよりも今思った疑問を聞いた方が良いと思っただけです」
「まあ、夜明けまでは時間もあるし何が聞きたいんだ? もっともお前が素直になれば後でいくらでも答えてやるぞ」
「私は素直に貴方に従う気はありません。後ほど自由になったら、後悔させてあげますよ?」
「そうかい。なら、その気になるまでしっかりと教育することになるが……もって10日ぐらいだろう」
ここで連れて行かれると最低でも10日間は監禁されることが確実なようです。
ライラさんはシアと同じ存在なので同じように睡眠などは不要かと思いますので、シアをずっと拘束する事は可能です。
だとしたら、ここで時間を稼がないと自由を完全に失うことになります。
時間稼ぎの間にコレットちゃんが気付いてくれる事が前提ですが……そればかりは祈るだけです。
「先程、ライラさんが貴方との同調率が低いと言っていましたがどういう事なのですか?」
私が質問するとヴァイスさんは黙ったまま嫌な顔をしていますが、それを聞いていたライラさんが答えてくれました。
「こんな事は私の意思に反するからよ」
「それでしたら、何故こんな事に協力しているのですか?」
「こんなのでも私の登録者だからよね。お蔭で私の実力が発揮されないから、少し便利な特殊な魔人形みたいなものよ」
「まるでヴァイスさんを嫌っているように聞こえますが……どうして登録者にしたのですか?」
「私の以前の登録者はヴァイスの祖父だったの。血筋も関係しているけど、あの頃は私の登録者として問題無かったのよね」
ライラさんの以前の登録者はヴァイスさんのお爺様ということは……容姿に関してはシアはこの先も美少女のままだと予想をします!
状況は最悪ですが、私の願望は叶いそうです。
「そうでしたか。それでは、登録者はどうやって変更したのですか?」
私にとっては最大の問題です!
シアがいつか私から離れてしまうのかと思ったこともあるの知っておきたいのです。
「登録者が死なない限りは変更は不可能よ。そして、私達は前回の登録者に近い者か血筋を継ぐ者を次の登録者に選ぶ傾向があるの」
吉報です!
私が生きている間はシアは私だけの恋人なのが確定です!
仮に私が死んでしまっても私の子孫か私と同じ考えの者しか選ばないなんて素晴らしいことだと思います。
私には男性と結婚をする気はないので、後者になると思います。
「とても良いことを知ることができました。それで、私にこんな事をするのはシアに言うことを聞かせる為と思いますが、私が従うと思いますか?」
「普通なら無理ね」
「でしたら、こんな事はもう止めて下さい。今でしたら、服の弁償だけで何もなかったことにします」
「辱められた事よりも、まだ服の弁償に拘っているなんて、変わっている子ね」
「お金に余裕がありませんので、私にとっては大事な事です。ヴァイスさんが服と一緒に破った下着はとても高かったのに……」
「よく見れば上質な物を身に付けているわね。それも庶民が購入しないお偉い貴族の令嬢が身に付けるような無駄に高い物をね」
「女性の身嗜みは最大の武器です。見えない所も手を抜かないのが私の考えなのです」
「本当に面白い子ね。思考を拘束してしまうのが惜しいぐらいだわ」
思考を拘束?
どういう事なのでしょうか?
そう言えば、私達を動けなくするのは能力の1つと言っていましたが……まさか洗脳でもできるのでしょうか!?
そんな事をされてしまったらも私が私ではなくなってしまいます!
「お聞きしますが、ライラさんは洗脳でもできるのでしょうか?」
「できないわよ。だけど貴女の精神が弱った所で、本来の思考を拘束して操り人形にする事は可能よ。これをしてしまうと本人の能力が落ちてしまうので、お勧めはできないのだけど、貴女の場合はその子に命令ができればいいのよね」
「それでは……10日間というのは……」
「きっと貴女が精神的に追い詰められる為の時間ね。私には感心はないのだけど、方法は色々あるけど大抵は落ちるわね。地下迷宮で連れていた女性が2人居たと思うけど、魔導士の子は4日ぐらいで素直になったかしら? もう1人神官の娘は自分が信仰する神様を信じていたのか13日も掛かったわ」
「……」
「だけど思考を消す訳ではないから、貴女は体の自由はないけど見たことは全て覚えているの。なので私の拘束が解けたら責任は取れないわ」
「操られている間の記憶は残るなんて……意に沿わない事していたらと思うとあんまりな仕打ちですね……」
「もう1人拘束していたんだけど、貴女が誘いに乗らなかった時の為に気の毒だけど前回の探索で置いてきたの」
「それは、見殺しにしたのですか!?」
「私は反対したんだけど、思考の拘束までができるのは3人までなの。見殺しというか拘束を解いたら当然のように襲ってきたので、彼が重度の怪我を負わせて置いてきたのよね」
「酷いことをしますね……自由にしたら直ぐに襲ってくるほどなのですから、それまでも酷い仕打ちをしていたのですね」
「彼の恋人も同じ運命を辿っているから、当然よね……」
そこまで話すとライラさんは後悔でもしているような表情をしています。
そんな顔をするのでしたら、従わなければ良いと思いますが、登録者の命令は絶対なのですね。
私はシアにお願いをしているつもりですが、命令をしているのと同意義なのかもしれません。
ですが、私はシアが嫌がることなんて命令をしたくないです。
そして、以前に聞いたヴァイスさん達のパーティーの噂の理由が納得ができました。
メンバーが入れ替わる理由も他のパーティーから、強い人を引き抜く方法まで……。
恐らく今までも仲間に引き入れたい人物を見つけると仲間を見捨てたりして地下迷宮に置き去りにしていたのでしょう。
もしくは、誰かが命を落としたりすると戦力の補充の為に……ですが、ライラさんは3人までしか思考の拘束ができないと言っていました。
あの時にいた人数はヴァイスさんとライラさんを除けば6人いたはずです。
そうなると……残りの3人はヴァイスさんのことを理解しつつ仲間として組んでいたことになります。
この後に連れて行かれるとその3人も加わって酷いことをされる可能性まで出てきました。
私が黙ってしまうとヴァイスさんが話しかけてきました。
「質問は終わりか? 納得ができたのなら、俺からも聞くが男性経験はあるのか?」
突然にそんな事を聞かれたので、思わず声を荒げてしまいました。
「そんな経験はありません! 私は男性とそのような関係になる予定もありません!」
「そうか、それは下手に癖が付いていないから調教が楽しみだ。それにお前にはいずれ俺の子を産んでもらいたいから、死なせたりしないから安心しろ」
「どうして私が貴方の子供を産まなくてはいけないのですか! どうしても子供を身籠るのでしたら、お相手は貴方では無く美少年を希望します!」
「まだそんな事を言いだすとは呆れた奴だな。そこで這いつくばっている奴を完全に手にいれるなら、お前の血筋を受け継ぐ子を作るしかないだろう? まあ、俺に似ずにお前に似て可愛い子供が生まれれば良いだけだから神にでも祈るんだな」
そう言うと私の体に触れてきました!
嫌らしい手つきで、体をあちこちを触られて気持ち悪いです!
このままですと本当にこの人の子供を身籠ることになってしまいます。
シアの様子を見るとライラさんの拘束が強まっているのか完全に動けないようです。
更に2体の魔人形に地面に押さえ込まれていますので、例え拘束が解けても直ぐに動けないと思います。
長く話していたような感じもしますので、時間的にコレットちゃんが気付いてくれれば良いのですが……駄目なようです。
ゲイルさんにも警告されていたのにまさか出会った当日にこんな事になるなんて……。




