意識改革
「舞い上がれ灼熱の炎よ! 我が敵を焼き尽くせ! フレイム・ストーム!」
シアの奴が壁を解除すると同時にわらわが魔力を最大にまで高めた魔法を撃ち出してやったのじゃ!
どんな魔物か知らぬがシアに言われて使える魔法をそれぞれ意識改革を行った結果、わらわの魔導士としての能力は他の魔導士よりも強力な魔法が撃てるようになったのじゃ。
今までは、魔法を教えてくれた師や書物に記載されている通りに魔法を使っていたのじゃが、それでは標準的な威力しか出せぬ。
魔法の威力の差は人によって違う事もあるので、それは個人の素質だとばかり思っていた。
恐らく個人の差というものは、最初に見た魔法か教えてくれた師の威力を頭に叩きこんでしまうから、それが本当の威力だと自ら認識してしまうのだ。
シアがわらわの前で実践してくれなかったら、わらわは恐らく気付くことは無かったと思う。
いま、わらわが使った『フレイム・ストーム』にしても今回初めて可能な限り意識を集中して放ったが、その威力にはわらわも驚きじゃ。
今までは、雑魚を数体倒すか大型に手傷を負わせて足止めぐらいにしか思っていなかったが、今回放った威力は比較にならん。
目の前に現れたのは、『ファイヤー・スコーピオン』と言う小型の甲殻類の蠍の魔物じゃ。
やつらは火に対する耐性もあるので、従来の『フレイム・ストーム』では、倒し切るどころか耐えてしまう奴がいるのじゃ。
それが、今回の魔法では、奴らの耐性を無視するかのように焼き尽くしておる。
わらわがイメージする炎の認識が変わったので、他の者よりも高温の炎を出す事ができたのじゃ。
自宅で、シアがお湯を沸かすのに火の魔法を使っておった時に「その初級の火魔法はどのくらいまで強化できるのか?」と質問をした時にシアは手の平に簡単な炎を出すと段々と色が変わっていったのじゃ。
そして、薪を割るのに置いてあった手斧の刃に近付けると驚くことに斧の刃の部分が溶けてしまったのじゃ!
安物の手斧とはいえ、駆け出しの魔法使いが覚える初級の魔法で、この威力には驚いたぞ。
シアが言うには金属を溶かす為の融点を超えれば良いと言っておったが、わらわは魔道船の造船師と違って、魔道化学は専攻しておらんので、細かいことは分らん。
ただ、あの者達は造船に特化した手元で使える魔法を得意としておるとしか知らぬが、造船技術に関しては外部に漏らさないので、恐らく最初から高出力の魔法を見せられて無意識にそれを認識しておると予測する。
あの者達は、戦いに向いていない者が多いと聞いているが、その中から、才能のある者を魔導士として育成しなおせば、強力な魔導士が増えるかも知れんな。
シアの作り出した炎を理解する為に魔道化学の書物も何冊も調べて、何とかシアの言っている意味を理解した所で、わらわにも高温の炎を出す事に成功したのじゃ。
最初は、ただ威力のある炎をイメージすれば良いのかと思っていたのだが、それだと少しばかり威力が上がる程度だったので、炎の温度について自分の頭に叩き込んだのだが、これが正解だったのじゃ。
最初の頃は、シアに気圧とか摂氏がどうたらなどと説明をされたが、さっぱりじゃったわ。
仕方ないので、武器や造船技術者の奴らは硬い金属を扱っているのだから、そちらから調べることにしたのじゃが、造船技術の書物に関しては知り合いに頼んで何とか手にいれたが、かなりぼったくられたわ。
書物の知識でシアの言葉を理解さえすれば、後はそれに従ってイメージする事でわらわにもシアと同じ炎を出す事に成功したのじゃ!
後は、わらわが使える範囲魔法を誰にも見られないようにして尚且つ迷惑も掛からない地下迷宮で試すだけの状態じゃったが、シアからは使用禁止命令が出されておったから、まったく使えなかったのじゃ!
もしも、シアの指示を無視して魔力消費の大きい魔法を使ったら、わらわの質問には二度と答えないと脅されていたから、流石に破るわけにはいかん。
独断で使う時は、エルナが危機に陥っている時だけと限定されておったのだが、シアの奴が大抵の脅威を取り払ってしまうので、後方にいるエルナが危険に晒されることがほぼ無いのじゃ。
ゲイルやシャーリーもエルナの護衛に徹しておるから、わらわも3人を援護する形で単発の魔法しか使えぬ。
わらわもエルナを守らなければいけない事は十分に承知しておる。
エルナを死なせてしまった場合は、わらわ達がシアの助力を得られないことに繋がる。
それはシアを除くわらわ達の全滅を意味する。
シアは護衛対象であるエルナの言う事しか聞かないのだから、そのような事態になってしまったら、わらわ達を捨ててどこかに行ってしまう可能性がとても高い。
これはゲイルとシャーリーとも話し合ったことなのじゃが、わらわ達の生死はエルナの存在に掛かっておる。
なので、どんな事があってもエルナの安全だけは確保しなければいかぬ。
お蔭で、今の所は無事に探索を進められておるが、油断は禁物じゃ。
そう考えれば、わらわの魔力消費を抑えて、エルナの危機に備えることは、判断として間違っておらぬ。
ただ……魔法を撃ちまくりたい、わらわとしては欲求不満が溜まっていくのじゃが……ここは最年長者として我慢じゃ。
そして、今回は好きなだけ魔力を使っても良いとのシアからの指示もきたので、今までの鬱憤を晴らすべく気合を入れ過ぎたのか頭痛と目眩と急激に魔力を消費した為に息も苦しいのじゃ……。
魔法を放った後は、その場に座り込んでしまったが、その威力だけは確認ができたので内心では大いに満足しておる。
バートランド王国の宮廷魔導士の奴らもこれ程の威力は出せておらんのは知っておるから、わらわはこの時点で、あ奴らに勝ったのじゃ!
わらわの実力が長命なエルフだから、当然みたいな事を言っておった奴もいたが、これなら文句も言えまい。
次に出会うことがあったら、同じ魔法で撃ちあって比べてみたいものじゃ。
今後の課題は、魔力の調整になる。
毎回のようにこのような姿を晒しておっては、威厳もへったくれもないからの。
わらわの魔力残量で、この魔法はあと2発は撃てるはずなのだが、一度に放出した感覚に慣れておらぬから、どうしてもこの様じゃ。
シアが小難しいことを言っておったのじゃが、わらわの頭をもっと柔らかくするとか、演算処理に無駄があるとか抜かしておったが……意味がわからんのじゃ。
詳しく聞くと生物には無理があるから、実戦の中で体に覚えさせるしかないとも言っていたが……これを何度すれば体が覚えてくれるのかも重要な課題じゃな……。
わらわが座り込んでいるとエルナが話掛けてきた。
「今回のコレットちゃんの魔法はすごいです! サソリさんが殆どいなくなってしまいました!」
「と、当然じゃ! わらわが本気を出せば……こんなものじゃ!」
呼吸が乱れておるのもあるが、頭が痛い……。
エルナがわらわを絶賛してくれているのは嬉しいのだが、大きな声は頭に響くのじゃ……精神的な疲労は大きいが、これ以上の疲労している姿は見せたくないので、我慢じゃ。
「それにしても、魔法の最初に台詞を言っていましたが、あれは何なのですか?」
そんなものは決まっておる!
「普通の魔法名だけよりもカッコいいじゃろ?」
「なるほど……如何にも強い魔法の感じがしますから、私はいいと思います!」
「うむうむ、エルナの理解力が早くて、わらわも安心じゃ」
カッコいいのもあるが、イメージを高める為に言っておるだけじゃ。
初歩の魔法でも何かそれらしい言葉を前置きにして発動した方がイメージが作りやすいだけなのじゃ。
「残りは私達が倒しますので、コレットちゃんは体調が戻るまで休んでいて下さいね!」
「うむ、任せたぞ」
炎が晴れたので、遠くを見つめるとシアがガーディアンと思われる魔物を相手に戦っておる。
確か、『エアリアル・ニードル』の魔法を使用して、突撃したと思うがあれで片方でも倒し切っていると思ったが、2体とも動いているように見える。
シアが一撃で仕留めれんとは、意外と強敵なのかもしれん。
どちらにしても今のわらわは足手まといに過ぎんので、体調を整えるのが先じゃ。
ゲイル達が雑魚の取り巻きを片付けて、わらわの体調が回復してシアの援護ができるようになれば、もう一発ぐらいは撃ちこめる可能性が出てくるはずじゃ。
その時こそ、わらわが圧縮に成功した魔法を片方に叩き込めれば、わらわの魔法で、強敵が倒せれたと証明もできるのじゃ!
そう思うとやる気が満ちてきたのか、頭痛も治まってきた感じがするのじゃ。
ゲイル達は、わらわが活躍しても反応がいまいちだが、エルナは毎回のようにすごいと褒めてくれるので、言われていると中々気分が良いからの。
無口なシアも案外とエルナに頼りにされている事で、満足しているのかもしれぬな。
普段は滅多に感情らしき反応はせんが、欠損した情報とやらが戻れば、フィスのように人に近い対応ができるようになるのかもしれぬ。
少し休んだお蔭で、精神的な疲労感は少し残るがわらわも戦闘に参加できそうじゃ。
状況は、ゲイル達が雑魚を全て始末して、ガーディアンのみになっておる。
ふふふ……これなら、わらわにもう一度出番があるとみたので、早く合流せねばならぬの。
この状況なら、シアがわらわに魔法を使わせるのは間違いないはずなので片方は倒してみせるのじゃ!




