シアの交渉
「あの……アリサさん。そんなにシャーリーさんの事を責めないであげて下さい」
私が話しかけるとシャーリーさんは味方を得たといった感じで嬉しそうです。
「エルナちゃんは優しいわね! ほら、エルナちゃんがいいと言っているんだから、今回はこの辺りで……」
「先程も言いましたが、貴女は、黙っていなさい!」
「はい……」
アリサさんに言われて、シャーリーさんは、また大人しくなってしまいました。
そして、アリサさんが身を乗り出して、私の両手を掴んで真面目な目をして話しかけてきました。
「エルナさん。この酔っ払いを甘やかしてはいけません。酔っていない時は、魔法も使える剣士として使えますが、アルコールが入るとこの通りだらしない女性になってしまいます。事の真偽は分かりませんが、シャーリーの言っていることが本当だとしたら、貴女は大損をしている事になるのですよ?」
「ですが、私達は必要な物を頂いていましたので、問題はありません」
「はぁ……貴女は甘いというのかお人好しとでもいうのか無欲な子ですね。ですが、これからは私が色々と教えてあげますので、この酔っ払いの言う事を聞いてはいけません。その為にも登録カードを作成しておきましょうね」
「宜しくお願いします。ですが、シャーリーさん達とはこれから一緒に活動する予定なので、色々と教えてもらうつもりです」
「何か査定をした時に理解すると思うから、いまはこのぐらいにしておくわ。あれらを倒したのが貴女達だったのなら、本当の成果を教えてあげます。それでは、貴女達を登録するので、このカードに名前を書いてくれる?」
私達の前に2枚の丈夫そうなカードを出してくれました。
空白の部分があるので、そこに名前を書くだけみたいです。
私が名前を書こうとしたのですが、シアだけは見ているだけで動こうとしません。
古代都市で、私に色々と教えてくれた時に字も書いていましたので、名前も書けるはずなのですが、どうしたのでしょうか?
私が書き終えてアリサさんに渡した後も動こうとしません?
「これだけで良いのですか?」
名前を書いた事をアリサさんが確認すると何かの板みたいなものに翳してから、私に渡してくれました。
カードには私の名前以外には良く分らない模様があるだけなのですが、これで身分証明になるのでしょうか?
「アリサさん、このカードには私の名前以外は模様しかないのですが……」
「大丈夫よ。本人が名前を書いた事で魔力を少しだけ吸い出して、後はここに翳すだけで、この大陸のどこでもエルナさんの証明になるわ」
「良く分らないのですが、便利なのですね?」
「そのカードをここに翳すと、こっちの表示板に今までの貢献度が数値として表示されるから、この数値が高いほど熟練者という訳よ。買い取った素材の経歴も記録されるから、上位の魔物を倒した記録が残ると大きい依頼を頼まれる事も増えてくるので、頑張るのよ」
「それが先ほど話していた貢献値というのなのですね? シャーリーさん達の数値は高いのですか?」
「最近はいい物を持って来るから、高評価と言いたいのだけど……今回に限っては事情を聞いたので、減点をしていました。本人達の実力じゃないので。倒したと記録してしまうと、その魔物が倒せると思って依頼が来てしまったりすると面倒なことになるのです。その辺りも記録ができるので、結構便利な物なのよ」
「こんな小さなカードに色々と書き込めるなんてすごいのですね!」
「まあ、古代人の遺産なんだけど、便利だからそのまま使っているのよ」
「こんな物があるなんて、私は知りませんでした」
「王国の軍隊か冒険者組合しか利用していないからね。次は、そこのお嬢さんも名前だけ書いてね」
アリサさんがシアにも名前を書くように言ったのですが……。
「私には不要なので、いりません」
「作らないの? 先程のシャーリーの話が事実なら、貴女に一番有益なカードだと思うのだけど?」
「私の全てはエルナの物です。私に対して何か記録する事があるのでしたら、エルナに記録するのが正しいのです」
ああっ……私に対するシアの言葉を聞くと幸せな気分になります!
これだけで、私は国を捨てて良かったと思っています。
「しかし、そうなると貴女を証明する事ができなくなるので、毎回手続きが必要になってしまいますよ?」
「ここで何か手続きが必要なのでしたら、貴女が毎回すれば済む事です」
「エルナさんの事は私が登録したので、担当は私になりますが……」
「要するに見返りがあれば問題はないと判断します。今回は、これを進呈しますので、私の言い分を通して下さい」
シアがそう言うと町に入る前に事前に肩に掛けていた鞄から、何かを包んだ袋をアリサさんに渡しました。
私も最低限の荷物はシアと同じように鞄に入れて持っています。
シアの便利な荷物入れを見せる訳にはいかないので、ちょっとした物だけ鞄に入れて持っておいたのです。
外から来たのに流石に手ぶら状態では怪しまれてしまいますからね。
それにしてもあれは何なのでしょうか?
受け取ったアリサさんが中身を見て驚いています?
「これは……大型の魔物の魔核です! しかも見ただけで純度がとても高いのが分るほどに……このサイズになると大型のウォーアント以上から取れる大きさですが、これはどうしたのですか!?」
シアが渡した物は魔核だったみたいです。
いつもでしたら、魔核の力を吸収してしまうのですが……ゲイルさん達と話していた時に魔核がもっとも手軽に換金ができると話していたので、いくつか残しておいたみたいですね。
「私が倒した魔物から手にいれた物です。先ほどの話から、十分に価値があると判断しましたので、交渉の材料として使えるはずです」
しかも、その使い道が受付の職員さんの買収です。
私よりもシアの方が交渉などをするのに向いているのかもしれません。
「貴女が倒したのですか……するとシャーリーの話は本当のようですが……私が素直に貰うわけにはいきません」
「足りないのでしたら、もう1つ出します」
断られたら、更に追加の話をしています。
それ以前に買収しょうとする事自体が通じないみたいです。
「まだあるのですか!? 魅力的な話ですが、職員の私がこのような物を貰う訳にはいかないのです」
「でしたら、エルナの記録として査定をした後にその買い取った金額を今後のエルナに対する指導料として受け取れば良いのです。エルナは、この国のルールに詳しくないので、その情報を得る為の対価とします」
「エルナさんの記録として買い取るのは良いのですが……」
「では、これも差し上げます。今までの話が正しければ、相当な価値があるはずです」
シアの鞄から、更に大きい包みを出してアリサさんに渡しています。
先ほどの包みが大型の魔核だったはずですが、今度の物は倍の大きさなのですが、あれも魔核なのでしょうか?
アリサさんは、受け取る気はないみたいですが、中身が気になったのか、少しだけ開いて覗きました……慌てて包みを閉じてシアに包みを返しています。
どうしたのでしょうか?
実は魔核ではなくて、何か貴重な物だったのでしょうか?
とても気になります。
「シアさんでしたね? 流石にこれは貰えません。ですが、そこまで仰るのでしたら、貴女の成果はエルナさんの記録として私が処理します。その時に私の仕事が増えた分だけ少しだけ手数料を頂く形にしますので、それで宜しいでしょうか?」
「了解致しました。それではそのようにして下さい。先に渡した物は、エルナの数値に加算した後に最初の初期手数料として処理して下さい」
シアの話が終わると私の背後に移動して、もう話すことはないといった感じで、無口になってしまいました。
アリサさんは、最初に受け取った魔核を返したかったみたいですが、シアがもう目も合わせてくれないので、諦めたみたいです。
「今後の事を考えると私がエルナさんの担当であることは、誰かさんの所為で失った出世コースに戻れるみたいなので、悪くない提案だしね」
アリサさんも、どうやら納得したみたいです。
話がまとまった所で、シャーリーさんがアリサさんに話しかけています。
どうも、私と同じく先ほどの包みの中身が気になるようです。
「ねぇねぇ、アリサ。さっきの包みの中身は何だったの?」
「貴女には一生無縁な物よ。だけど、エルナさん達と一緒に行動するのでしたら、手に入るかも知れませんね」
「すごく気になるんだけど、それで何だったの?」
「回りに誰も居ないから、話すけど、特大の魔物の魔核よ」
「それ、ホント!?」
「ちょっと、大きな声を出さないでよ」
「だって、特大って言ったら、この辺りで手に入らないはずよ?」
「貴女、シアさんが大型のウォーアントを倒したので、素材を貰っていたと話していましたよね?」
「実際はそうなんだけど?」
「あの大きさから想像すると、恐らく女王の護衛の魔物の魔核クラスになるんだけど……個人で倒せる相手じゃないわよ」
「初期の巣なら、軍隊で倒せるかもってレベルよね?」
「大所帯の巣になるとその戦闘型の護衛が多すぎて討伐なんて不可能よ。それに女王自体がとんでもなく強いから、王国の英雄クラスか戦闘用の魔人形が何体もいないと被害が甚大で倒すなんて無理よ」
「出会ったことがないから、実感が湧かないけど遭遇したら死ぬと言われてるけど……本人に聞くのが早そうね?」
シャーリーさんがシアの方を見ながら、話すと無口になっていたシアが答えてくれました。
ゲイルさん達とはちゃんと話をして欲しいとお願いしてありますので、反応してくれたみたいです。
「先程の魔核は女王の周りにいた個体の魔核です」
「みたいよ?」
シャーリーさんは、すごいと思いつつも軽く納得しています。
ですが、アリサさんの反応は違いました。
「みたいよじゃないわよ! どうやって単独で、あんな化け物を倒すのよ! そうだとして、エルナさんも一緒だったのなら、エルナさんは凄腕の剣士になります!」
シアは、アリサさんに対しては、もう我関せずで静かにしていましたので、私が代わりに答えることにします。
どちらにしても、私にも無理ですし、そんなすごい剣士ではありません。
「私は、小型しか倒せませんので、そんなすごい実力はありません。シアがすごく大きい虫さんを倒していたのは見たことがあります」
「すごく大きいって……」
「シャーリーさんが言っていた大型よりも更に大きな虫さんでした」
「大型の上は女王を護衛をしている強力の戦闘型か女王しか居ないはずなのですが……あれを倒せるなんて……一体どうやって倒したのか……」
アリサさんが倒し方を知りたいみたいなのですが、シアの戦い方はいつも通りですが信じてくれるかです。
ただ、周りにいた小型を相手にせずに珍しく魔法も使用して倒していたぐらいです。
基本的にシアは、殴る蹴るですからね。
シャーリーさんは、何となく察してくれましたので、頷きながら1人で納得しています。
なので、私の答えはこれしかありません。
「殴るか飛び蹴りで倒していました。シアに本気で殴られたら、大きな虫さんは頭部を一撃で叩き割られてしまうのです」
私の説明をあり得ないと思いながら、シアを見ています。
シャーリーさんが、「シアちゃんに蹴られたら、吹き飛ばされるし、まともにお腹でも殴られたら、お腹が破裂でもすると思うから絶対に助からないと思うわ……」と、呟いていたのを聞いていたので、表情が少しだけ信じている感じがします。
「酔っ払いの言う事を信用はできませんが、状況証拠としては信じるしかありません」
「幼馴染の私の言う事が信用できないだなんて酷い……」
「シラフの時だったら、信用するわ。昔はあんなに真面目だったのにどうしてこんなだらしない女性になってしまったのかしら……飲んでいなければ、まともな状態なのに……」
「それは、こんな素晴らしい飲み物を知ってしまったからです! 気分が良くなるから、止められないのよねー」
「酔い潰れてしまえばいいのに、どうしてこんなに強いのかしら……それはいいとして、早速だけど、エルナさんのカードを貸して下さい」
「はい、どうぞ」
アリサさんに言われてカードを渡しました。
何か忘れでもあったのでしょうか?
アリサさんの手元にある綺麗な板のような物に何か書き込んでから、私のカードを翳しています。
そして、渡されたのですが、何も変化があるように見えません?
私が不思議に思っていると、アリサさんが答えてくれました。
「最初に貰った魔核をエルナさんの功績として記録しておきました。後は、これを受け取って下さい」
「ありがとうございます?」
机の下で何かをしていると思ったら、何やら袋を出して私に渡してくれました。
受け取った袋の中身を見るとお金が入っています!
私の手持ちの資金よりも多いです!
「それが、あの魔核の買い取り金額です。エルナさんはお金に関しては疎そうなので、金貨だけにすると使いにくいと思って銀貨や銅貨も混ぜておきました。主に使うのは銅貨や銀貨になると思いますので、この後にお店を回った時に値札を見るとシャーリー達がどれだけ私腹を肥やしたのかが分かります」
「あっははは……」
隣にいたシャーリーさんが誤魔化し笑いのような声を出しています。
お金の価値観に関しては、お恥ずかしいことにアリサさんの指摘通りなのです。
仮にも私は貴族の御令嬢だったので、実際の買い物をしたことがありません。
ちょっとした料理やお菓子作りなどができるのは、家のメイド達と交流があった為です。
姉と比べられた頃に年代の近いお姉さん的な方に励ましてもらってからは、家で一緒に過ごす時間が増えたので、色々と学んだのです。
なので、私が買い物をしやすいようにしてくれた配慮は嬉しく思います。
確かゲイルさんは、素材を持ち帰るよりも沢山の魔核を持ち帰った方が効率的と言っていました。
あの虫さんの素材がいくらになったのかは知りません。
ですが、あの虫さんの魔核がこの金額なのですから、その素材も同じかそれ以上の価値があるのかもしれません。
シャーリーさんは、アリサさんに睨まれて別方向を向いています。
私としては、あの時に必要な物が手に入れば良かったのですから、問題はありません。
ですが、当面の資金は確保できたと思いますので、後はこれで何日の生活ができるかが知りたいです。
まずは、この後に初めてのお買い物もしてみたいと思います。




