可愛い助っ人
「ゲイル、どうするの?」
シャーリーが質問してきたが策なんてないぞ。
先ほど考えた案は出し抜いて逃げるか、駄目な時は俺が囮になろうかと考えていただけだからな。
「あいつは通路の中央に陣取っているが隙さえ作ればすり抜けて逃げれそうなんだが……」
「また、私の『ライティング』の魔法で、目くらましをしている間にすり抜ける?」
「あいつらは意外と知恵が回るからな……途中で足止めの為に何回か使ってもらっただろ?」
「最初と合わせて3回ね」
「最後の時はまるで気にしないで追って来た。目があるのか知らんが直視していないんだろう? いろいろと知っていそうなコレットなら、知っているんじゃないか?」
この婆さんは、普段は古代の研究か何だか知らないが、書物を読み漁っているので色々と知識はあるんだよな。
ただ聞かれないと答えないから、困った後にしか役に立たん。
初めから、その知識を披露してくれれば魔物の対処も楽だった時もある。
後で聞くと実はあれが弱点といった感じで教えてくれるんだが……遅いんだよ。
初めて遭遇する魔物といきなり戦闘になったら、細かい事は聞いておれんからな。
「わらわの知識が確かなら、奴らの視力は殆どない。動く物に反応してるだけのはずじゃ。獲物と判断すると匂いを付けて襲ってくるので、目くらましなど無駄じゃな!」
「「「…………」」」
だったら、最初に言えよ!
それだったら、目くらましに使った魔法が最初からあまり意味が無かったことになるんだから、シャーリーが無駄に魔力を消費しただけになるぞ。
シャーリーの奴は、呆れて物が言えんといった感じだが、エリックの奴はこんな状況ではなければ大笑いでもしていそうだ。
それにしても……。
「俺達にいつ匂いなんて付けたんだ? 特に変な匂いはしないんだがな」
「最初の1体目の時に付けれらておるのじゃ。奴らにだけしか分からない匂いなのだが、近くまで接近されないと奴らも気付かんので逃げ切れたら入浴でもすれば落ちるぞ」
「じゃ、どうして逃げている時に距離があったのに追いかけてきたんだ?」
「単に動いている獲物を追いかけてきただけじゃ。殆ど視力は無いとはいえ、わらわ達が通路で動いているから、それが標的と判断をして見失わない限りは動く物を追ってきただけじゃ」
「おい……それだったら、どこかの通路に隠れてやり過ごせば撒けたんじゃないのか? 匂いの範囲とやらを考慮して離れてな」
「うむ。その手もあったな!」
「そうかよ……」
これだよ。
もっと簡単な対処方法があるじゃねぇか……ここに来るまでに幾つかの分岐の道があったんだがな……。
あの嬢ちゃんに倒してもらうしか方法がないと思って真っ直ぐにここに来たんだが、失敗したか。
こうなっては、見張りとあいつ等の距離が離れた所で、こいつに一発お見舞いして逃げるしかないな。
雑魚は倒せるが大型の奴は固くて俺の剣が通らないし、多分だが次でこの剣は確実に折れるだろうな。
シャーリーの細身の剣も俺の物よりは高級な剣だが、弾かれていた。
エリックの弓矢も刺さりもしないから、婆さんの魔法だけが頼りなんだが……。
「それで、コレットの魔力はどのくらい回復しているんだ? 出来ればあいつを倒すとまでは行かなくても怯ませれば隙をついて通路に逃げたいんだが……」
「大して時間も経っていないのに回復など殆どしとらん! せいぜい『ファイヤー・ボール』が撃てるぐらいじゃ。威力を押さえれば牽制程度の威力で、2発ぐらいは撃てるぐらいじゃ」
「なるべく気付かれないギリギリの所まで近づいて最大の一発を奴の頭に撃ってくれ」
「最大でいいのか? 多分じゃが倒せんぞ?」
「雑魚の方なら、それで倒せると思うが、あいつは半端な攻撃は気にもしないで攻撃してくるはずだ。コレットが連発していた時に大型だけは無反応だったからな。頭にまともに当たれば、倒せなくても怯んでくれたら、すり抜ける時間ぐらいは稼げるだろ?」
「ほぅ……剣だけの奴かと思っていたら、意外と周りを見ているんじゃな」
「これでも一応はリーダーらしいんでね。まあ、状況判断ぐらいは少しはできんとお前らに愛想つかされても困るからな」
「大丈夫よ。私は信用をしているわよ」
「私も信用しています。貴方の判断のお蔭で何度も助けられましたからね。今回もあのお嬢さんの力を借りようとした判断は間違っていなかったと思います。ただ残念なことに不在だったことです。前回との日数と計算すると何事もなければ今晩ここで野営をしていれば現れたのでしょう」
2人は俺を信用してくれているらしい。
色々とあったが今までで一番付き合いが長いからな。
後は婆さん次第だが、パーティーを組むのは1年にも満たない間柄だ。
「うむ。リーダーはお主じゃ。ならば、わらわはそれに従うのじゃ!」
「なら、その作戦で行く。これで助かったら、次からは魔法を使う配分を考えてくれ。こういう時にコレットが魔力を温存してくれていると助かるんだよな」
「生き残れたら、考えておこう!」
まあ、ダメだろうな。
例え今回が上手く行っても、この婆さんは忘れたとか言って開き直るに違いない。
そんな事を考えながら、ギリギリの所まで近づいて婆さんに魔法を撃ってもらおうとしたら、身を乗り出し過ぎて婆さんがこけた!
婆さんの癖に短いスカートなんて穿いているから、下着が丸見えだ。
魔導士らしくローブでも着ていれば見えなかったと思うが……容姿とは裏腹にきわどい下着を着けていやがるな。
人生最後に見た婆さんの下着をあの世で死んだ俺の昔の仲間に自慢話でもするか。
当然のように魔物が気が付いて襲って来たので俺は即座に婆さんを守るように応戦するが、大きな顎で弾かれて俺は剣を折られたばかりか壁まで吹き飛ばされたぞ!
なんて、パワーだ……婆さんも慌てて魔法を撃ち込んだがまるで効いていない。
あのままでは、婆さんがやられると判断して2人も動いたが、魔法を使って来た婆さんを標的にしているようだ。
今の短時間の出来事で、魔物の足音が急速に近づい来るが……他の奴らも気付いてこちらに集まってくるが、これは終わったな。
駄目かと思ったが、婆さんがやられそうになった時に大型の奴が吹き飛ばされた!?
そのまま転がって壁に激突したが、別の意味で道が開けたが……それよりもだ!
こんな事ができるのは、あの黒髪の嬢ちゃん以外に考えられん。
どうなったのか婆さんの無事を確認して見ると……婆さんの正面にエルナ嬢ちゃんを抱いた黒髪の嬢ちゃんが立っている。
まさかとは思うが人を1人抱いたまま、あの大型を蹴り飛ばしたのか!?
戦い方は無茶苦茶力押しとは思っていたが、あの小柄な体のどこにあんな力があるんだろうな。
何にしても助かったぜ。
背中が痛むが、婆さんの所に行くとエルナ嬢ちゃんも下ろしてもらって婆さんに手を差し伸べていた。
お嬢ちゃんにとっては、あの婆さんはお気に入りだからな。
「コレットちゃん、大丈夫でしたか?」
「わらわをコレットちゃんなどど言うでない! わらわはそなたよりも年上なのだから、コレットさんと呼ぶのじゃ!」
「そう言われましても、シアよりも背が低いし姿は可愛らしいのですから、私の妹にしか見えませんよ?」
「わらわは、こう見えても齢200年以上も生きているのだから、もっと年上を敬うのじゃ!」
「はいはい、コレットちゃんは10歳なんですよね? 髪も私と同じ金髪なので特別に妹にしてあげます!」
「誰が妹じゃ!」
「私の妹になったら、まずはその派手なパンツは止めて、もっと可愛いのにしましょうね? おませさんなのは分かりましたが、コレットちゃんには似合いませんよ?」
「わらわの下着に文句をつけるでない!」
こんな状況なのに下着の話かよ……余裕だな。
他の2人も呆れているがこれなら、なんとかなるな。
「取り込み中で済まんが、こいつらをなんとかできるか? 雑魚はともかく大型は俺達の手におえなくて困っているんだ」
黒髪の嬢ちゃんに話しかけても無駄なので、エルナお嬢ちゃんに話すと。
「シア、この虫さん達を何とかできますか?」
「この魔物は『ウォーアント』と認識しました。このまま全滅させずに仲間を呼ばせて根こそぎ狩りたいと判断しますがどうしますか?」
「シアはこう言っていますが、どうしますか?」
俺達とは逆に仲間を呼ばせて全滅させたいとは……恐ろしい嬢ちゃんだな。
だが、こいつは何度も仲間を呼ばせているとその内に強力な個体か女王がやってくるので、とんでもないことになるんだ。
ここまでの通路の広さでは女王は来れないと思うが、普通の冒険者は女王と戦うのは自殺行為だ。
あれは、完全に別格の魔物だから、俺は遭遇なんてしたら確実に死ぬな。
こんなことを言っているんだから、あの嬢ちゃんなら女王も狩れるんだろう。
今はひとまず安全が確保したいので、今回は遠慮をしてもらおう。
「済まんが、今はここにいる奴らだけにしてくれ。正直、俺達は走り疲れていて疲労困憊なんだ」
「そう言うことらしいので、ここにいる虫さんだけを倒すことにします。シア、宜しいですか?」
「分かりました。それでは入り口を塞いで追加を止めます」
入り口を塞ぐなんてどうやって?
黒髪の嬢ちゃんが入り口の方に手を向けて動かすと地面から壁が現れて入口を塞いだぞ!?
あの嬢ちゃんは魔法まで使えたのか……しかも無詠唱とはな。
「シア、剣をもう一本下さい。そして、大型の虫さんから優先的に倒して下さい。 小型の虫さんでしたら、私達でも倒せるはずでしたよね?」
「予備の剣です。小型のタイプは通常の剣でも斬れるはずなので、エルナにも倒せます」
「それでは、私も頑張って倒しますので、シアも頑張って下さい!」
「わかりました。先に大型を処理をして小型も殲滅いたします」
エルナ嬢ちゃんとの会話が終わると蹴り飛ばされていた大型の頭部をついでに叩き割ってから、集団の中に突撃して行ったが……相変わらず恐ろしい嬢ちゃんだな。
俺達と初めて出会った時も『ワイルドベア』と呼ばれている大型の魔物の集団をあっさりと倒していたが、殆ど一撃だったしな。
「ゲイルさん、この剣を使って下さい。私の予備の剣ですが、その折れた物よりはましかと思います」
「助かるぜ、エルナ嬢ちゃん」
「大きい虫さんはシアが倒してくれますので、小型のだけでも私達で少しは倒したいと思います!」
「そうだな、全部任せてしまうのも気が引けるしな」
「私も少しは強くなりましたので余裕がありましたら、見ていて下さいね! その後で動きに気になるところがあれば教えてもらえると助かります! では、私もシアに負けないように倒します!」
エルナ嬢ちゃんも魔物に立ち向かっていったが、黒髪の嬢ちゃんに感化でもされたのか好戦的になったな。
俺も参加して、近くで動きを見ているが中々いい剣捌きだ。
かなり粗削りな所があるが基本だけはしっかりと出来ていると見た。
俺達も負けじと小型の相手をしていると途中から、黒髪の嬢ちゃんが参戦してきて当然のように一撃で葬っていく。
婆さんだけは、頑張れとか応援をしているだけでなにもしていないがな。
嬢ちゃん達が現れたお蔭で物の数分で終わってしまったので、今回も助かったぜ。
何とか死なずに済んだので、嬢ちゃん達に感謝しないとな。




