2人の生活
「エルナ、大丈夫ですか? やはり私が倒しましょうか?」
「大丈夫です! 私がちゃんと戦えているうちはシアは手を出さないで下さい!」
「分かりました。少しでも危険と判断した時は私が処理します」
「私も少しは強くなりましたので、この魔物は倒してみせます!」
私が対峙している相手の名前は知りませんが、私と同じぐらいの大きさの猪の魔物です。
突進力がとても強いので、まともに相手をすると私など跳ね飛ばされてしまいます。
相手の動きをよく見て、躱した後に剣で斬りつける事を数回繰り返して何とか倒せました。
今回は最後に上手く首の辺りに深い一撃を入れることに成功しましたので、ホッとしています。
失敗したり、剣が浅くしか入らないと、手負いになって苦戦をするかも知れないので、シアに習ってなるべく最初の一撃で倒せるように努力はしています。
実際は、失敗して手負いになると逆に手ごわくなってしまい、シアが見かねて助けてもらっています。
私の頼もしい騎士様のシアは、的確に相手の心臓か急所を貫くか打撃の連打で相手をボコボコにしてしまいます。
打撃の方もシアの小さい体からは想像ができない威力を繰り出すので、小型の魔物などは大抵は吹き飛ばされています。
戦闘に関しては、この辺りでシアに敵う魔物はいないかと思われます。
シアにずっと守ってもらえば問題はないのですが、私も自分の力で戦えるようになりたいと思ったのです。
最初の頃は、シアの助けがなければ魔物が1体でも苦戦をしていました。
私の実力は所詮は学園で少しだけ学んだ程度の剣の腕です。
別に女性が剣を習わないのではなく、私は両親から貴族の女性としての習い事や殿方の補佐ができるように学問を優先するコースに入れられていたのです。
しかし、私は学問よりも体を動かす方が好きなので、口煩い教師の目を盗んでは剣術などの指導の方に入り浸っていたのです。
剣の指導をしていた教師は、騎士を引退されていた方なのですが、私とは家の関係で面識がありましたので、何とか無理を言ってこっそりと教えてもらっていたのです。
基礎は一応はできていると思いますが、実戦レベルには程遠い腕です。
そんな私ですが、シアと2人の生活もかなりの日数が経ちましたので、私もそれなりに魔物の相手ができるようになりました。
最初の頃は剣を振り回している程度でした……危ない時はシアが助けてくれるのもありましたが、私もそこそこは上達したと思います。
ある先生が言っていましたが、実戦の積み重ねは大事です。
私は幸いにして、魔物相手にも怯えたりはしない性格でしたから、シアにも本当に危ない時以外は助けないようにお願いしていた甲斐もあったのか、我流ですが一応は普通に戦えると自負しています。
もしも、お母様が今の私をみたら卒倒するか、厳しくお説教をされて反省の為に監禁されてしまうかも知れません。
姉と違って才能の無かった私を有力な貴族に嫁がせようと計画をしていたのは知っています。
私は、大人しくしていれば見てくれだけは良いと言われていたくらいでしたので、お陰様で容姿の方は男子にも好評でした。
ただし……性格は幼い頃から、お転婆でしたから、少しでも何かあると淑女の嗜みなどの詰まらないお説教をされていたのです。
今はそんな煩わしい事からも解放されましたので、私はむしろ充実した毎日を送っています。
シアが拠点にしている遺跡に着いてから30日ぐらいまでは数えていましたが……段々と記録をするのが面倒になってしまったので、もう数えていません。
きっと今頃は、私は死んでしまったと思われていると思います。
私の死体はありませんが、きっと形式だけは墓地に埋葬されていると予想します。
もしも、自国に戻ることがありましたら、自分の墓標があるのか確認だけはしておきましょう。
それはさておき、今日は美味しいお肉が食べれそうです!
いま相手をしていた猪さんのお肉は焼くと美味しいので、なるべく損傷が激しくない状態で倒したかったのです。
この猪さんをシアが倒すと強力な打撃か魔法で攻撃して倒してしまうので、状態としてはズタズタになってしまうのです。
攻撃する魔法が切り裂くような風の魔法などでしたら良いのですが、シアは砲撃系の魔法を好んで使うのです。
近接戦闘は一撃で急所を貫く攻撃をしてくれれば良いのですが……大抵は打撃で吹き飛ばす方が多いのです。
打撃の方も叩きのめすというよりも破壊すると言った方が正しいので、拳に魔法を籠めているのか本気で攻撃すると大抵の魔物はぐちゃぐちゃになってしまいます。
相手の攻撃に対してはどんな攻撃をもらっても無傷なので体の方はとても丈夫です。
なので、私はシアが怪我をした所を見たことはありません。
私が危険になると間に入って私を守ってくれるので、とても頼もしいのですが……その度に衣服だけはボロボロになっていきます。
体は丈夫なのですが着ている物は普通の服です。
身を挺して私を守ってくれるのはとても嬉しいのですが、最初の頃は着る物がどんどん破れて行きました。
そう言う私も現在では、自分の服ではなくシアの拠点に集めてあった物の中から着れそうな物を直して使っています。
自分の衣装は動きにくい物が多いのですが、売れば少しはお金になると思いましたので、後々にここを出る時まで残しておこうと思ったからです。
ここにいる間は誰にも会いませんので、身嗜みは最低限で良いと判断しました。
一応は、修繕な可能な物は私が直しています。
これでも手先は器用な方なので、両親と姉が不在の時はメイド長に許可を貰って内緒で色々と家事に関する事も覚えました。
料理やお菓子などがどうやってできるのかも気になったし、綺麗な刺繍なども自分でやってみたいと思っていたら、可愛い服を作ってみたいとも考えるようになったので、裁縫関係も色々と教えてもらったのです。
これがお母様や煩い姉に見つかると「そんな暇があるのでしたら、淑女としての嗜みを身に付けなさい」と煩いのです。
家庭的な事ができた方が男性に好まれるのではと私は思うのですが……それはともかく。
趣味でやっていた刺繍などの針を使うことが、こんな所で役に立つとはメイドの子達の仕事を色々と手伝っておいて正解でしたね!
そして、調理の方はというと……そのまま焼いただけですと味気がありません。
少し前に洞窟の南のゲートの向うを探索した時にあちらの国の冒険者の方と遭遇したのです。
強い魔物が何体もいて危機に陥っていましたが、シアがあっさりと倒してしまったのです
その時にお礼をと言われたので、私が調味料の類を分けて欲しいとお願いして、いくつか譲ってもらったのです。
偶然にも沢山携帯していたので、かなり沢山貰えたのです!
代わりにあちらの方達はシアが倒した魔物の素材を全て進呈すると喜んでいましたので、あの魔物はきっと価値がある魔物だったと思います。
ただ……シアが恒例の魔核の回収をしていたので、魔核に関しては価値が無いに等しくなっていました。
私は気にしていなかったのですが、シアが魔核に触れると魔核に蓄積されている力が失われて、ただの石ころ同然になってしまうのです。
あちらの冒険者の方達も魔核の輝きがまったくなかったので不思議がっていました。
シアが触れたから、ただの石ころになってしまったとは言えませんでしたので、私も不思議がっておきました。
当人のシアは私が質問しないと疑問に答えたりはしないので、他の方に対してはだんまり状態です。
なので、相手の方達には他の国の名のある冒険者かと思われていますが、話しかけても無反応なうえに倒した魔物の魔核の力の回収の為に死体に手を突き刺していますから、用心の為にとどめを刺していると思われていたようで、危ない子と思われているのかも知れません。
普通に若い娘が、そんなことをして何事もなかったかのように魔法で水を出して手を洗ってから、私の話が終わるのを待っているだけですから仕方がありません。
私に対しては最初に出会った時も普通に話してくれたのに、他の冒険者の方達には無反応なのです。
そのままでは気まずいと思い、シアのことは人見知りなので口数が少ないから……と説明してから紹介をしていました。
どうして私以外とは話をしたりしないのかを聞くと、私のことはいつもの「エルナは『登録者』だからです」と答えてくれるのですが、出会った時は違いますよね?
そのことを質問すると「エルナには、イシュトゥール人の反応があったからです」と教えてくれたのです。
イシュトゥール人……私にはその種族の血を引いているのですか?
私も一応は貴族の家系なのですが……もしかして、天空人のことなのでしょうか?
私の家が唯一誇れるのは、天空人の血を受け継いでいることです。
ですから、姉のようにコアに干渉する適性があると王国に召し抱えられて、男女問わずに出世がしやすいのです。
逆にシアにその種族の事を天空人を指すのかを聞いたのですが……「イシュトゥール人はイシュトゥール人です」と、しか答えてくれません。
こんな事でしたら、歴史の授業をちゃんと聞いていれば良かったですね……私は歴史の授業の時は、どうしても眠くなってしまうので、起きていても半分は頭に入っていません。
教える教師もただ延々と歴史の流れしか話さないし、生徒が聞いていなくても見て見ぬふりをする方でしたので、私以外にもお休みになっている方がいたぐらいなのです。
しかし、そのお蔭でシアと仲良く出来ているので、問題はありません。
そのうちに知っている方がいましたら、聞いてみれば良いのです。




