生体兵器と呼ばれた存在
「エルナ、起きてください」
耳元にシアの声が聞こえてきます。
少しだけ目を開けると薄暗い室内のようです。
あの後に私が眠ると宣言すると同時にシアが室内の照度を通路以下の明るさにしたのです。
コレットちゃんは暗くなったことに対して抗議をしていましたが、精神的にも疲れていた私は無視をして眠りに就いたのです。
恐らくは時間的に朝と判断したシアが起こしてくれたのです。
周りを見渡すと私とシア以外はまだ眠っていました。
なので、シアに手伝ってもらい朝食の用意をしてから、皆さんを起こしました。
ゲイルさんとシャーリーさんは、すぐに起きてくれましたが、コレットちゃんは予想通りに起きてくれません。
仕方がありません。
気持ちよく眠っているコレットちゃんの体に悪戯をすることにしました。
以前なら抱擁するだけの私でしたが、いまはレンちゃんとの関係が進んでいるので別のアプローチをしました。
シアは無言で私の行動を見ているだけですが、シャーリーさんは私と一緒になって積極的です。
ゲイルさんだけは、明後日の方向を向いて呆れた感じで朝食を取っています。
結果として目覚めてくれましたが、「朝から、何をするのじゃ!!!」と怒られました。
この手のことには無関心だと思っていたのですが、眠っていながらも意識をしていたことを確認ができました。
シアからは、水を掛ければ良いと言われたのですが、それだと可哀そうに思っての行動でしたが、私には得る物がありました。
それから、準備が調い行動を開始しました。
同じような通路をシアの案内で進みつつ時折襲ってくるガーディアンを倒しながら進みます。
しばらく進むと壊れている魔道船が存在する大きな空間に出ました。
そこでシアが突然足を止めました?
どうしたのか聞いてみると前方に落ちる前に遭遇したドラゴンさんの反応があるとのことです。
シアは警戒をしているのですが、次に出会ったら話をしてもらえるかもしれないと私が説得するとドラゴンさんの反応があるところまで案内をしてくれました。
しばらく進むと瓦礫の山の上に誰かがいます!?
この先にはドラゴンさんがいるとシアは言っていたのに人が居るのです?
そして、疑問に思ったのは、どうしてこんなところに人が居るのかということです。
近づくにつれ姿がはっきりしてくると男性のようです。
見た目はゲイルさんよりも大柄で、とても逞しい感じの人です。
そして、鋭い眼光で私達を見ています。
その目を見た時に感じたのは、私の体が恐怖を感じているのです。
もしも戦ったりしたら、私では絶対に勝てないと感じているのです。
そして、この感覚は上でドラゴンさんと遭遇した時と同じ感覚です。
お互いの姿が確認ができる距離でシアが足を止めたので、私達も立ち止まると目の前の男性が話しかけてきました。
「無事にここまで来るとは、そのドール・ユニットは上位型か」
男性の視線はシアに向いています。
この人は、シアが人ではないことに気付いています。
「エルナが話がしたいと要望していますが、会話をする気はありますか?」
シアが男性に話しかけていますが、私が話をしたいと希望したのはドラゴンさんです。
なのにシアは、目の前の男性に話しかけています。
まさかとは思いますが、この方があのドラゴンさんなのですか!?
「俺は気が向いたらとしか言っていない。何が聞きたいのか知らんが久しぶりの客人だ。お前達の実力次第で答えてやろう」
そう宣言すると瓦礫の山から飛び降りて私達の前に対峙します。
距離が近づいたことで、私は無意識に剣を抜いて構えてしまいました。
他の皆さんも同じです。
ゲイルさんは「俺の勘が告げているんだが……こいつに勝てる気どころか逃げられる気もしないな……」と言いましたが、私も同じ気持ちです。
魔導士のコレットちゃんも相手がとても危険と判断したのか、いつもお気楽なはずの表情に余裕がありません。
「エルナ達に警告をしておきます。あれの姿を人間と思ってはいけません。上で遭遇した魔獣の密度が凝縮された存在です」
「あの方がドラゴンさんで良いのですか?」
「そうです。生体兵器としては完成度がとても高いと判断します」
あの巨体が人型になれるのには驚きました。
そして、私とシアの会話を聞いていた男性が話しかけてきます。
「俺の正体の判断までできるとは、そいつも完成度が高いユニットだな。どのくらいの性能なのか、試してやるか」
その言葉と同時に気が付けばシアに肉薄しています!?
私には一瞬で距離を縮めたことしか分かりませんでした。
シアは対応ができたので、私達の目の前で激しい攻防戦をしています。
しかし、格闘戦闘でシアが防戦一方なのを初めて見ました。
いつもなら、相手を一方的に叩きのめしているシアが受け身に回っているのです。
そんな戦いに私達が入る余地などありません。
「こいつは驚いた。俺と互角に戦えるとは弱体化していない上位型だな。そして、こいつと繋がっているのは……お前か」
シアと戦いながら何かを言ったと思ったら、視線を少しだけ私の方に向けました。
この状況で観察まで出来るなんて、いくらシアでもまずい気がします。
そして、この人は私とシアの繋がりまで当てています。
「なるほどな。大方、最近まで眠っていたこいつをお前が目覚めさせて登録したようだが……お前、完成体の末裔にしては違和感があるな」
シアと戦っているのにこの男性の関心が私に向いています。
私が身構えるとシアが反応したのか私の前に立ち塞がるような立ち位置に移動しています。
シアの動きを読まれたのか、相手が僅かな隙を突いて大きなためを作るとシアに強烈な一撃を与えました!
その威力を受けきれなかったシアが吹き飛ばされて壁に叩きつけられたと思ったら、そのまま壁を突き抜けて姿が見えなくなってしまったのです!?
シアが吹き飛ばされるなんて予想外のことです。
「お前、本当に完成体の末裔なのか?」
そして、いつの間にか驚いていた私の目の前にいます!?
先ほどから、剣を構えている私に話しかけてきましたが、完成体の末裔とは何なのでしょうか?
シアの安否も気になるのですが、無事だと思いつつ素直に聞くことにしました。
「先ほどから、私のことを完成体の末裔と言っていますが、意味が分からないのです。宜しければ教えて下さると助かります」
「確か今の奴らは完成体のことを『イシュトール人』などと名乗っていたな。完成体とは、精密な魔力操作を行い魔力を効率よく運用する制御回路である『コア』に干渉可能で、完成された魔道兵器である『ドール・ユニット』を配下にできる者達のことだ。更には自分達を特別な存在として適応ができなかった者達を下級市民とみなし自分達を天空人などとも言っていたな」
「私達が作られた人間なのですか!?」
「この世界で、まともな人間はそこの奴だけだ。他の者たちは何らかの生体改造をされた自然の摂理に反する存在だ」
まともな人間と言った時に視線はゲイルさんに向いていました。
この中で本来の人としての種はゲイルさんだけのようです。
「すると……わらわはやはり作られし人種で良いのじゃな?」
コレットちゃんが古代の杖を構えながら質問をしました。
杖に魔力を感じますので、いつでも最大の攻撃ができるようにしているのだと思います。
「ふむ……お前は不老不死の研究の成果の失敗作だな」
「わらわが失敗作じゃと!」
「そうだ。空想上のエルフとか言う種族を想定した長命種としての研究の結果だ。だが、残念なことにやつらの最大の成果である魔力制御回路であるコアのシステムに干渉ができないのが致命的な欠点だ。長命という点だけは成功したのだが、個体差はあるが思考が極端に退化してしまう欠点もあるので選ばれなかった理由だ」
「だから、わらわがシアに順序を説明してもらいながら古代の施設に干渉をしようとしても絶対に反応しなかったわけか……」
話を聞いたコレットちゃんが落ち込んでしまいました。
干渉云々はともかく失敗作だなんて言われたら、誰だって落ち込みます。
「そう言う貴方はどうなんですか?」
コレットちゃんを失敗作扱いするこの人は魔獣と言われています。
フィスさんの話通りでしたら、この人は生体兵器ということになりますが……。
「俺か……コアに干渉する能力以外はほぼ完成体の部類だろう。なんせ戦闘能力はいまお前達が見た通り『ドール・ユニット』に匹敵し、長寿の研究成果も反映された存在でもある。見た目が化け物になること以外にもコアに干渉ができていれば俺の方が完成体と言えるだろう。それよりも俺はお前の方が気になるぞ」
私のことが気になると発言したと同時にいつの間にか手の届く範囲まで接近をしています!?
慌てて距離を取ろうとしたのですが、片腕で首を掴まれて持ち上げられてしまいました!
咄嗟に剣を持つ右腕を振ろうとしたのですが、弾かれて剣を落としてしまいました。
抵抗をしようと男性を蹴ろうとしたのですが、直ぐに首が閉まるので掴みあげられている腕を両手で何とかしようとしているのですが、私の力では解くことができません。
右腕に魔力を籠めて腕力の強化をして強引に解こうとしたのですが、それを察知したのか右手首を掴まれて信じられない力でねじ伏せられたのです。
「お前……右腕だけは生物の物ではないな」
そう呟くと掴んでいた私の右手首を握りつぶすと引き千切ってしまったのです!
あまりの早さの出来事に他の皆さんは黙って見ているだけです。
手を出そうにも私が人質も同然なこともありますが、シアが敵わない相手にどうすればいいのか判断しかねているのです。
そして、その場に私の右手を捨てると引き千切った場分を掴み直して観察をしています。
「ふむ……体は生身のままだが、ここだけは流体金属か。俺が知らないうちに新しい生体強化の研究でもされたのか? 娘よ答えろ」
少しだけ首の拘束が緩まったので話すぐらいは可能ですが、私がそんなことを知っている訳がありません。
私が答えないので、右手を離して手の平を私の体に翳しながら体を調べているみたいなのですが、動きがお腹の辺りで止まりました。
「ここも生物にしては違和感があるな」
そう告げて翳していた手を私の腹部に指を突き刺してきたのです。
首を絞められている状態で、シアに助けて欲しいと辛うじて声を出した瞬間、激しい衝撃と共に掴まれていた首が自由になるとシアが私を抱き抱えています。
「エルナ! 大丈夫ですか!」
いつもクールなシアが感情的な表情で私の安否を確認してくれています。
その姿は以前に私が死にかけた時と同じ表情です。
「大丈夫です。お腹に指が刺さった時はもう駄目かと思いましたが、シアが間に合ってくれました」
腹部には指が刺さりかけたので衣服に穴が空いています。
無事な左手で腹部に触れるとへこんでいた五つの穴が元に戻っていき何もなかったようになりました。
「右手は後で直しますので、まずはあいつを仕留めます」
私を降ろすと駆け寄ってきた皆さんに預けて相手に向き直ります。
男性は瓦礫の山に叩きつけられだのですが、何事も無かったかのように立ち上がりシアの方を向いています。
「俺が反応できない速度とは、お前は速度重視のユニットか? いや、速度が上がったというのが正解か」
相手が立ち上がると即座にシアが攻撃を仕掛けています。
ですが、先ほどは防戦一方のシアが勝てるとは思えません。
「お前は、エルナに対して生命を脅かす行動をした! もはや生かしておく必要は無い!」
シアが感情的な言葉を発すると先ほどとは違ってシアが僅かに押しています。
僅かですが、シアの打撃が相手に届いているのです。
「こいつは驚いたぞ。先ほどよりも戦闘能力が上昇している。弱体化していない上位ユニットよりも上だな」
そう言いながらもシアの相手をしているなんて、この人は強すぎます。
するとシアがシャーリーさんに指示を出しています。
「シャーリー! こいつと私の範囲に絞って全力で抑え込んでください!」
その言葉に即座にシャーリーさんが両手を向けて言葉を紡ぎます。
「全力だと、次が無いから決めて頂戴ね! グラビィティ・フィールド!」
魔法が効力を発揮すると男性の足元が床にめり込んで動きが鈍くなるとシアの猛攻で相手は打撃を受け続けている状態になりました。
しかし、相手の体が頑丈なのかシアの拳を受けているのにただ殴られているだけなのです。
固い甲殻類の魔物でさえシアの攻撃を受ければ打ち抜かれて穴が空いてしまう威力なのです。
それをこの男性は耐えているのです。
「あれは重力属性のユニットだったのか。そして、お前は打撃重視の近接戦闘型なのか、恐ろしい威力だな。だが、俺を殺すまでには至らないな」
「お前の魔力容量が今の私を超えていることは認めます。だから、削るだけです。コレット! 全魔力をこいつに放て下さい!」
シアの言葉に待機をしていたコレットちゃんが応えます。
「主がわらわの力を認める日が来るとは、頭痛に耐えて力を得た甲斐があったのじゃ! インフェルノ・ストライク!」
コレットちゃんの言葉と同時にシアが相手の頭上に強力な一撃を叩きこむのと同時に離れると私達の前に着地します。
相手は、シャーリーさんの重力負荷で押しつぶされた状態にシアの一撃を耐えたまでは良いのですが、そこにコレットちゃんの魔法の赤い光が炎となって纏わりつくと爆発をします。
前回の時と違って逃げて距離を取れない状態なのですが、密集する炎の塊と爆風が私達を襲います。
即座にシアが前方に壁を作り出して耐えているのですが、塞ぎきれていない両側を見ると高温と思われる炎が舞っています。
「全員私の傍に寄ってください! 壁の範囲から出たら生命の保証はできません!」
シアが真剣な表情で前方の壁の維持に努めています。
作り出している壁は地下迷宮と同じ感じのする固そうな壁です。
シアとシャーリーさん以外はあまりの熱さに汗が止まらない程です。
何気に範囲外の床を見ると頑丈そうに見えた床が熱で溶解しています!?
シアが作り出した壁の範囲外に出てしまえば、確実に死んでしまうことが容易に想像ができます。
それをまともに受けている相手が無事でいるとは想像ができません。
しばらく耐えていると爆風が収まり周りの温度が下がっていきます。
正面の壁はそのままなので、上を見上げると天井が無くなっって外が見えるのですが僅かな光が差すだけで殆どが暗闇状態です。
シアが手を下げると同時に正面の壁が下がるのですが、あの人はどうなったのでしょうか?




