落ちた先には……
「絶対に助からないと思ったのじゃ……」
私の隣でコレットちゃんが安堵しています。
それもそのはずです。
地面の崩壊からずっと落ち続けていたのですが、私とコレットちゃんは慌ててシアに抱き着いていたのです。
シアは何事も無かったかのようにそのまま直立不動の体勢で立っているだけです。
大丈夫かと考えていたシャーリーさんもゲイルさんと一緒にシアの傍に来ていました。
そして、落ちていく時間の感覚が分からなかったのですが、段々と私達がいる地面が崩れていくので、地面の面積が減っていきます。
流石に怖くなってしまい、シアに何とかして欲しいとお願いをすると私を抱えて地面を蹴って私達がいた場所から離れてしまったのです!?
コレットちゃんは私にしがみ付いていたのですが、手を離したら助からないと判断したのか、私の腰に回していた両手をいつもよりきつく抱き着いています。
その時に下を見てしまったのですが……下がまったく見えないのでシアと出会った時の割れ目に落ちた時は背中から落ちたことは意外にも幸運だったと思い出してしまいました。
あれが頭から落ちていたら、恐怖のあまりに無駄な動きをして途中に生えていた樹木に引っかからなかったかもしれません。
その時は、あの時点で私の命は終了しています。
そんなことを思い出していると、シアが片手を斜め下に向けると壁から地面が擦り出てきてそこに着地しました。
いつもは敵との間に作る壁なのですが、横に出すこともできたのですね……そう考えれば、これを作りながら降りていけば下に行くことは可能です。
シャーリーさんもゲイルさんを抱えて着地をすると二人とも安堵をしています。
「そう言えば、シアちゃんにはこれがあったわね……」
シャーリーさんも私と同じことを考えたのか言葉にしています。
ですが、地面崩壊から底の見えない下に落ちていくなんて普通なら恐怖以外ないと思います。
「現在の地点から先ほどの落下の体感時間の二倍ほどの時間で目的地に到着します」
シアが現在の進行度を教えてくれました。
どのくらいの時間を落ちていたのか知りませんが、いまの二倍の時間を我慢すれば目的地とのことです。
ですが、私は精神的にとても疲れています。
いまは体が丈夫になったので精神的な疲労だけですが、本来でしたらそれどころではないと思います。
「シアに聞きたいのですが、この作り出した地面はしばらく休憩していても大丈夫なのですか?」
魔法で作り出した壁なのですが……不自然に壁から生えています。
シアを信用していない訳ではないのですが、いつ折れてしまってもおかしくないと感じるからです。
作り出した地面の面積はそれほど大きくありません。
仮に眠ってしまい寝ぼけて落ちてしまえばお終いです。
「戦闘などの激しい行為をしない限りは問題はありません」
普通に休息する分には大丈夫みたいです。
少し小腹が空いていますので、私の魔力は完全に回復していません。
コレットちゃんにも聞いたのですが、魔力の回復はどのくらいなのかと聞くと半分ほどは回復しているそうです。
今までは魔力の回復に時間が掛かったのですが、いまはあの杖の恩恵で魔力の回復力が上がっているそうです。
なので、先ほどみたいな強力な魔法でなければ以前ほどは魔力の枯渇などは無くなったそうなのです。
下にどれくらいの強さの魔獣がいるのか不明なので、可能な限りの魔力回復はしたいと思います。
ですが、先ほど出会ったドラゴンさんと遭遇した場合は、完全な状態でも私には厳しいと思います。
先ほどは、私の体が戦闘をすることを拒んでいる感じがしたからです。
多分ですが、私では勝てる相手ではないと思います。
シアは、勝てると思いたいのですが……なんとなく良くない気もするのです。
なので、できれば会話で事を進めるのが正しいのかと思っています。
しばし休憩の後に進むことにしたのですが……平気な顔をして進んでいるのはシアだけです。
真っすぐに落下する案は、精神的に良くないので他の方法をお願いすると……同じ足場を順番に作り出して徐々に降りていくことになりました。
それでも一歩でも踏み間違えると落ちるのは確実です。
私が躊躇っていると、シアが私を抱き上げて進むことになったのです。
作られた足場はそこそこの大きさの足場なので、下を見なければ十分に移動可能と判断したゲイルさんは自力で飛び移りながら移動しています。
コレットちゃんは、「落ちたら終わりの状況で、飛び移りながら移動など無理なのじゃ!」と叫んでいたので、シャーリーさんに抱えられています。
今度はゲイルさんの代わりに荷物扱いです。
このままシアの腕に抱かれながら最下層に辿り着ければ良かったのですが、シアが立ち止まってある方向を見ているので、そちらに視線を移すと……何かがこちらに向かって飛んできます!
「なんでこんなところにワイバーンの群れがおるのじゃ!」
大きな鳥と思っていたのですが、よく見れば別の魔獣です。
先ほど遭遇したドラゴンさんよりは小型なのですが、なんとなく似ています。
目視できるだけで、十数体もいるのですが、こんな足場で戦えるとは思えません。
シアは、次に作り出した足場を大きく作り出して私を降ろすと両手を魔獣に向けています。
魔獣との距離が近づくとシアの周りに風が密集して槍状になると魔獣めがけて撃ち出しています。
確か、あの魔法は「エアリアル・ニードル」と言う魔法です。
数と密度を調整すれば魔道船の装甲も貫けると言っていました。
シアが使うのですから、その威力は確実に魔獣を貫いています。
主に翼を狙い撃っているのか、近づく前に次々と撃ち落されていきます。
最初はどうなるかと思いましたが、気が付けば物の数分で魔獣は全て撃ち落されて全滅してしまったようです。
剣を構えていたゲイルさんも「こんな場所で戦わずに済んで本当に良かったぜ……」と呟いています。
この中で、魔法による遠距離攻撃ができるのはシアとシャーリーさんとコレットちゃんだけです。
シャーリーさんはシアに魔法は温存するように言われているので、基本的には使いません。
コレットちゃんに関しては、ある程度は魔力が回復している筈でしたが、足場の問題で役に立っていません。
そう言う私もこんな所で戦うなんて無理だと思っていました。
「少し離れた範囲に別の反応がありますので、先に足場の確保を優先したいと思います」
どうも同じような群れが他にもいるらしいみたいです。
足場を出すペースを速めて降りるのかと思ったのですが、シアの考えは違いました。
シアが私にコレットちゃんを抱くように指示をして、その私を抱き抱えると次の足場を出さずにそのまま足元から落ちてしまいました!
抱きかかえられているとはいえ、真下に向かって落ちていきます!
この中で最年長のコレットちゃんも流石に恐怖のあまりに叫んでいます。
私も同じ気持ちでしたが、シアを信じて目を閉じて身を任せることにしました。
「エルナ、着きましたが立てますか?」
どのくらいの時間が経過したのか分からないのですが、無事に目的地に到着したようです。
気が付けば私は気絶していたらしく地面に寝かされていました。
起き上がると穴の底なのに意外と明るいのです。
壁の方を見ると地下迷宮のような材質なのかうっすらと光が反射しているような雰囲気なのです。
「ここがあの穴の底なのですか?」
「そうです」
「何となくなのですが、地下迷宮のような感じがするのですが……もしかするとここは繋がっているのですか?」
そうだとすれば、距離はありますがこの大陸の地下全体にあの迷宮が広がっていることになりますよね?
「違います」
「では、ここは一体……」
「ここは落ちた浮遊島の施設の内部です」
「浮遊島の中なのですか!?」
「そうです。落下の衝撃で地表の脆い部分を突き抜けたことで、内部の施設に入ったのです」
シアが説明をしつつ頭上に視線を向けたので、私も上を見ると大きな穴が空いています。
穴の向こうは何も見えないので外は真っ暗なのだと思います。
「そう言えば、コレットちゃん達はどこに行ったのですか?」
ここにいるのは私とシアだけです。
ゲイルさんとシャーリーさんもいません。
まさかとは思うのですが、コレットちゃんは私から離れてしまった為に地面に叩きつけられてしまったり、シャーリーさん達も……。
私が悪い考えをしているとシアが説明をしてくれました。
「コレット達は探索に行ってしまいました。現在は近くを探索しています」
「そうなのですか」
私の悪い考えは杞憂でした。
恐らくは私が気絶してしまった為に先に探索に行ってしまったのだと思います。
大昔に落ちた浮遊島の施設なのですから、現時点では手つかずの状態かと思います。
ましてやこんな場所なのですから、探索などされていないと思います。
ワグナー家の探索隊の人達も施設の中にまで入ってはいないはずです。
公爵夫人に見せてもらった地図にはそのようなことまでは記載されていませんでしたし、記録した書類の方にはそんなことは書いてなかったはずです。
「ここがうっすらと明るいのは地下迷宮と同じ原理なのですか?」
確か以前に聞いた時は、地下迷宮の施設が現在も稼働しているからと聞いています。
その影響で地下なのに壁が微かに光を帯びているので完全な真っ暗ではなかったと言っていました。
古代人の人達の技術力のお陰で明かりが不要なのは助かります。
「そうです。エルナが目覚める前に端末にアクセスしたところ最低限の動力だけは生きたままでした。ここは浮遊島第二十九研究施設だった場所です」
「二十九番と言うと……ここはライラさんの施設なのですか?」
「そうなります。しかし、この施設では他の研究もされていたようです」
「何を研究していたのですか?」
「生体兵器関連の研究の継続も続けられていたようです。詳しいことは別のブロックの施設を直接調べるしかありません。ここの端末ではそれ以上の情報が引き出せなかったのです」
そう告げるシアの視線の先には地下迷宮で見たことのある移動に使っていた宝玉のような物があります。
僅かに光っていますが、いまにも消えそうな感じです。
状況把握ができたところで、話し声がこちらに近づいてきますが、この声はコレットちゃんです。
姿が見えると私とシアの方に三人が戻ってきました。
「やっと目覚めたのか。エルナが起きぬから、シアが動いてくれんので探索がはかどらんのじゃ」
コレットちゃんの最初の言葉は私の所為で探索ができないというものです。
恋人の私をほかっておいて、探索をしていることの方が問題と思います。
「そんなに探索がしたければ、私が起きるまで膝枕でもして待っているのが当然かと思います」
「お主はわらわに膝枕をさせる気なのか?」
ちょっと小さめですが、幼い子の膝枕と言うものも魅力的かと思います。
コレットちゃんは何となく甘い匂いがするので、密着するのは好きなのです。
「幼女の膝枕は貴重かと思いますよ?」
「……仮にそうだとしても幼子に膝枕をさせるのは問題があると思うのはわらわだけなのか?」
「コレットちゃんは実年齢が最年長なので問題はありません」
「……納得はしたくないのじゃが、そうなるの……まあ、なんでもよいのじゃが、お主が目覚めたのなら別の区画に移動するのじゃ。近くを探索したのじゃがここには何も無いのじゃ。それどころか行き止まりばかりでシアが干渉しないと道が開けぬみたいなのじゃ」
地下迷宮の時もそうでしたが、シアがいれば施設の扉が開けるはずです。
壊れているか死んでいる場合は駄目らしいのですが、僅かでも施設が生きていればシアが何とかしてくれます。
私が立ち上がるとシアも立ち上がって私の隣にいます。
シアが警戒をしていないので、魔獣の類はいないみたいなので取り敢えずは探索をしてみたいと思います。
それにこのどこかに上で遭遇したドラゴンさんがいるかもしれません。
その時は、会話が可能なのでお話ができるといいのですが……。
それよりもここが施設なのでしたら、どこかにシャワールームがあるかと思います。
しばらくまともに体も洗えていないので、あれで体を洗ってさっぱりしたいと思います。
コレットちゃんの目的よりも私はそちらの探索と思って行動したいと思います。




