近道を選んだ結果
「この辺りまで来れば良いと判断します」
朝日が昇った所で、シアが足を止めました。
同じ岩場なのですが、先ほどの場所よりは開けています。
シアに降ろしてもらうとコレットちゃんも私の腕から離れて降りてしまいました。
魔力は尽きてしまっても歩くのには支障がないみたいです。
私のように魔力切れで動けなくなることはないようです。
自分がそうなのですから、精神的に疲れ切って同じ状態になると思い込んでいたのですが、普通は違うみたいです。
ゲイルさん達の方を見れば、シャーリーさんが苦情を受けています。
私達の方は、シアが両手で抱き抱えてくれたのですが、シャーリーさんはゲイルさんを片手で荷物でも持つように抱えていたのです。
そして、シアの言葉でそのまま放してその場に落としたからです。
「お前な……物みたいに落とすなよな……」
「私が抱えなければ、コレットの魔法の範囲に巻き込まれて死んでいたんだから感謝して欲しい所よ?」
「それはそうなんだが……」
「私の善意を抱えられている状態でブツブツ文句を言っているからよ」
「悪いとは思ったが俺にも男としてのな……」
「体力的な力関係が逆転してしまったのだから仕方ないわよ。それでもゲイルのことは好いているんだからいいでしょ?」
「まあ……その逆転とやらになっても俺はお前に頭が上がらんんな」
「昔から私の面倒を黙って最後まで見てくれるんだから、今度は私が面倒を見てあげるわ。それにちょっと容姿は若返ったから私と並んでいると羨ましがられているのも悪くないでしょ?」
「俺はお陰で、屋敷の奴らにどうやってあんな若い娘と友好的な関係を持っているのか質問されて困っているぞ」
「ちゃんと恋人宣言をしてあげているのに素直に答えないからよ。私の見た目ってもう変化しないらしいから、もう少しゲイルが老けたらおじさまと呼んであげるわね」
「勘弁してくれよ……」
二人ののろけ話が始まったので、私達は気を利かせて朝食の用意をしています。
なんだかんだであのお二人は仲良しさんですからね。
聞こえていたのですが、シャーリーさんの容姿は変わらないと言っていました。
見た目が少し若くなった以外は意識したことはなかったのですが、いまのシャーリーさんはシア達と同じ存在です。
歳を取らなくなったので、いずれはゲイルさんとの差がはっきりしてきます。
私の体も半分は似たようなものです。
シアにそれとなく聞いたのですが、私はこの先どうなるのかが分からないそうです。
体が成長しているのは、私の中にあるコアが体の中に散らばっている流体金属が循環している影響とのことです。
現在の状態が最適化されているらしく老化現象をしないかもしれないと言われました。
ただし、肉体的な限界がくるとある日亡くなっている可能性があるそうです。
まだ先のことなので考えていませんが、その時が来たら考えることにしました。
その後は朝食を取りながら、コレットちゃんの魔法について聞くことにしました。
あの杖は古代人が人体の強化実験の武器の一つらしいのです。
普通の人が強大な威力の魔法が使えるように開発されたらしいです。
問題があるとすれば、適性と登録する為に頭に直接情報を刻み込むことです。
あの杖は火属性です。
コレットちゃんは風と火の適性持ちでしたので、登録をしたらしいのですが頭に情報を刻んだ時は恐ろしい激痛が襲ってきて大変だったそうです。
登録が完了するとあの杖と頭の中で会話が出来るようになって行使できる魔法とそれを使う為の魔力量を教えてくれるそうです。
コレットちゃんがブツブツと独り言を言っていたのは杖と会話をしていたみたいです。
それにしても先ほどの魔法の威力はすごかったです。
あの魔法を古代の魔道船に使用しても十分な威力を発揮するそうです。
私達が来た道の遠くを眺めると大きな岩が密集していた地域だったのですが、魔法の発動した地帯の景色の見通しが良くなっています。
シアに聞いたところ、あそこに密集していた魔獣は全て消滅したらしいです。
そんな話を聞いたコレットちゃんは誇らしげに自分の成果をアピールしています。
ただ、話を聞いていたゲイルさんに「1日一回とか使ったら終わりだな」と言われています。
更にシャーリーさんからは「誰かがいなかったら、その場に他の敵がいたらお終いねー」とも言われています。
二人に言われて私の隣に移動すると「わらわにはエルナとシアがいるので、そんな問題はないのじゃ!」と言い返しています。
それは、この先もずっと私と一緒に居る宣言ですよね?
要するに完全に私の恋人になった宣言と取らせてもらいます。
私としては、その対価として夜のお付き合いは要求することにしたいと思います。
これは帰ったら、早速いただきたいと思いました。
シアに拘束させてレンちゃんと2人で攻めるのも悪くない気がしてきました。
私が妄想に期待を膨らませているのに気付いたのか、コレットちゃんが危ない人を見るような目で見ています。
シアは気を利かせてハンカチで私の口元を拭ってくれているのですから、真似て欲しい所です。
ついでに私にも古代の遺産の杖があれば、コレットちゃんと同じように魔法が使えるのかを質問してみました。
答えとしては駄目とのことです……理由は2つあるそうです。
1つは私には特定の属性の素質がないとのことです。
残念なことなのですが……これは生まれ持った性質なので諦めるしかありません。
ただ、魔力だけはあることが判明して強化をしたお陰で、身体強化の役には立っています。
魔法が使えないのは残念ですが、身体能力の向上も悪いことではありません。
もう一つが、私がイシュトール人の血を持っていることです。
古代人の遺産の武器は、通常の人の強化の為の物なのです。
私達イシュトール人の血を引く者たちは、普通の人達よりも魔力容量が向上しやすく、シア達の登録者になれるように調整されていると言われました。
その話を聞いて、シアに調整されているとはどういうことなのか聞いてみたのですが……情報不足で分からないと言われてしまいました。
考えたくはないのですが……私達こそが遥か昔に改造された人種なのではないのでしょうか?
そう考えると、この中で普通の人と言う定義に当てはまるのはゲイルさんだけになると思います。
フィスさんは、私に話しかけながら視線はコレットちゃんに向けて行かない方が良いと言っていました。
あれはもしかしたら、私に対しても言っていたのかもしれません。
もしかしたら、目的地に過去の遺産の情報が残っていた場合に知らなくても良いことまで知ってしまう気がしてきました。
コレットちゃんは古代都市で調べ物をずっとしていましたので、ある程度は気付いているらしいのですが、それでも真実が知りたいみたいです。
そんなことを考えながら、再び歩き出すと目的地の近くまで到着したのですが……ここは……。
「シアに聞きたいのですが、ここは行き止まりですよね?」
どう見ても前方には道がありません。
目の前には大きな穴と言うよりは完全な絶壁の崖です。
ちょっと下を見たのですが、下から風が吹いているだけで底なんて全く見えません。
ここから落ちたら確実に死んでしまうと思います。
更にここは見渡す限りの平地です。
魔獣に襲われたら隠れるところもありません。
気になることと言えば、地面に大きな穴が埋まったような跡がいくつもありますが……これは何なのでしょうか?
そして、大きな開口部の向こうをよく見ればこちらと同じ平地があるのですが……まさかとは思いますが、これを飛び越えるのでしょうか?
いくらなんでも羽根でも生やして飛べないと無理かと思います。
上空で待機しているフィスさんの船に移動する水の塊は、フィスさんの船の機能の一つとのことで、あれで空を移動することはできません。
もしかするとシアなら飛び越えられるのでしょうか?
シアが突進しながら魔物相手に飛び蹴りをしているところなら見たことがあるのですが……。
「目的地の渓谷はこの下です」
「この下なのですか!?」
目的地は目の前らしいようです。
ですが、どこを見渡しても降りられそうな所なんてありません。
「シアに聞きたいのですが……どこかに降りられる場所があるのですか?」
「ありません」
「……では、どうやって進むのですか?」
「ここを落ちれば目的地の座標になります」
「……」
確かにシアに近道をお願いをしたのですが、これは無理です。
シアは単純に地図の座標を目指して真っすぐに進んだみたいです。
それを聞いていた皆さんも「間違ってはいないが……」「流石はシアじゃ。エルナの要望通りにしただけじゃな!」「これ、いまの私なら降りられるのかしら?」と言葉にしています。
「聞いておきたいのですが、本来の地図では下の渓谷に辿り着いているのですよね?」
「到着しています。ただしかなり遠回りになります。距離を計算するとかなりの日数を使って迂回しながらになると判断します」
「そうですか……」
これは困りました。
最短ルートをお願いしたのは私です。
しかし、いくらなんでもこの先を進むなんて不可能です。
それこれ魔道船でもあれは降りられるかも知れませんが、徒歩で来た私達に魔道船などありません。
私が悩んでいるとシアが進み方を教えてくれました。
「エルナがどうして悩んでいるのかが分からないのですが、このまま降りるだけと判断します」
「これを降りるのですか!?」
シアの答えに他の皆さんも唖然としています。
シャーリーさんだけは今の言葉で、自分は降りることが可能だと確信したようです。
ただし、ゲイルさんとコレットちゃんは顔の表情が無理と言っています。
もう一度下を覗き込んだのですが……はい、私には絶対に無理です。
私が諦めかけていると、シアが私の肩を掴むと即座に引き寄せて抱き抱えると開口部から遠ざかるように移動します!?
何事かと思って、シアの視線の先を見ると上空から何かがこちらに向かってきます。
ゲイルさんとシャーリーさんもシアの後に続いていますが、コレットちゃんはシャーリーさんの荷物扱いで抱えられています。
距離を取るとその場に飛来した魔獣が降り立ちましたが……とても大きいです!
その姿を見るとおとぎ話に出てくるドラゴンみたいなのですが……本物なのでしょうか?
シアが正面に立ってゲイルさんとシャーリーさんが身構えていますので、私も剣を抜いて戦闘態勢を取ります。
コレットちゃんは魔力が回復しきっていないので、私の背後にいますが、小声で私達に「頑張って対処するのじゃぞ」と応援の言葉だけしてくれました。
「こんなところに何用だ」
シアが動き出そうとする前に目の前のドラゴンさんが私達に語り掛けてきました!?
相手に会話の意志があると判断したシアがわたしの方に視線を向けています。
私が会話が可能なら話がしてみたいと言っていたことから、シアは私の判断待ちのようです。
ちょっと怖いのですが、声を掛けてみることにしました。
「私達はこの下に行きたいのですが……」
「ならば帰れ」
「……」
恐る恐る声を掛けたのですが、即答で帰れと言われてしまいました。
もしかしたら、友好的な関係になれたら下まで送ってくれると嬉しいと思ったのですが……。
「其方は会話ができると言うことは、調整体の部類になるのか?」
私の背後から、コレットちゃんが話しかけています。
ですが、姿を見せずに私の背後からなので質問をしているのは私に見えないことはありません。
「お前達はくだらないことを知っているな。よく見れば、お前達は俺と同じ調整体と完成体の末裔に人形型兵器が二体にまともな人類は一人だけか」
目の前のドラゴン?が私達を見て素性を当てています!?
その指摘は少し前に私が考えていたのと同じです。
ひょっとして私の考えは正しかったのでしょうか?
「私達は、そのことに関して調べるつもりで来たのですが、知っているのでしたら教えてもらえますか?」
ちょっと怖かったのですが勇気を出して質問をしました。
正直に言いますと目が怖いと感じていました。
そして何となくなのですが、私の体自体が戦闘を拒否している気がするのです。
恐らくですが、私に埋め込まれているコアが勝てない相手と判断しているのかもしれません。
「知りたければ、俺の所に辿り着けたら話してやるかもしれんが気が向いたらだ」
そう告げると再び上空に舞い上がったと思うと雄たけびを上げると再び帰って行ってしまいました……これはどうやっても下に降りるしかありません。
どうやって下に降りるかを改めてシアに相談をしようと思った瞬間に地面が大きく揺れて見たことのない魔獣らしき物がが何体も地面から現れました!?
ですが、見た目は大きな口を開けた蛇のような姿で、角ばった鱗に覆われている感じなのですが、生物とは違う気がします。
「地中潜伏型の古代の兵器のようです。機能停止をしていたはずですが、先ほどの発生音の中に再起動のキーがあったと判断します」
シアの説明が終わると私達に一斉に襲い掛かってきました。
かなりの速度でしたが、躱せないことはありません。
シアは私に近づく兵器から倒すことに専念をしています。
「見えていない個体反応が地中に何体か反応がありますので、足を止めないように戦うことを推奨します」
シアの言葉を聞いて足元の地面が揺れたと感じたら、即座に移動するようにしています。
すると高確率で魔獣が地面から現れます。
コレットちゃんは危険なので私が抱えて戦うことになっています。
右手は剣を持っていますので左手で抱えています。
少し戦いにくいのですが、地面からの攻撃にさえ気を付けていればそれ程強敵とは思えません。
普通に斬ろうとすると弾かれてしまうのですが、剣に魔力を多めに籠めれば切ることは可能です。
切断面を見ると中身は生身の生物ではなく、魔道船の部品みたいなものが詰まっています。
もしかすると、先ほどのドラゴンが使役する魔道人形のような物なのでしょうか?
しかし、魔道人形とは違い中身が違います。
疑問は残りますが、分かっていることは頭部らしき部分を破壊すると動きが止まります。
シアは、すぐに気付いたようで地中から出てくる相手の頭を片っ端から殴るか蹴るかで破壊しています。
それに倣ってみんなでかなりの数を倒すとようやく尽きたのか静かになりました。
シアが警戒を解いたので、その場に座り込んで周りを見渡せば破壊された謎の古代兵器と地面の穴の跡が増えています。
そして、いまの私はとてもお腹が空いています。
剣に多くの魔力を常に乗せていたので、魔力をかなり消耗してしまいました。
その様子を見たシアが私に近寄るとお約束の飲み物を差し出してきます。
慣れたくはなかったのですが、あの不味い飲み物です。
可能な限り避けたいのですが、大きく魔力回復をさせるにはこれが一番良いので我慢をして飲みました。
そして、シアからのお言葉を頂きます。
「エルナに警告をします。剣に魔力を乗せる量が多すぎます。本来ならば、ここまでの消耗はしないはずです。見た目と最初の攻撃で剣を弾かれたことが理由かと思いますが、落ち着いて少しづつ魔力を乗せることを推奨します」
先ほどの戦いの注意点を指摘されてしまいました。
確かに言われていることは理解が出来ます。
見た目と最初に切ることが出来なかったことで、無意識に魔力を多く乗せてしまったようです。
魔力が枯渇することは自信の行動が不可能になるので気を付けているのですが、まだまだ魔力調整が不十分です。
同じように戦っていたシャーリーさんは、私を見て「修行が足りないわねー」と言われてしまいました。
私は以前に本人に聞いています。
あちらはコアが勝手に調整してくれるらしく、無駄な魔力消費をしないそうです。
しかも現在のスタイルは二刀流です。
古代都市で、双剣の使い手の人がいたらしく、面白そうという理由で、それを真似て取り込んでいるのです。
知識などは無くても、相手を観察することで近い動きをマスターしたそうです。
私も似たようなことをしていますが、自分から覚えようと頑張って動きを真似ないと簡単には覚えれません。
普通の人よりは早く覚えられるのですが……一応は努力が必要です。
そして、普通の人であるゲイルさんは少し疲れているだけで、まだ体力がありそうです。
魔力の方も初めから剣に纏わせる程度で戦っています。
以前の大剣は破壊されてしまったのですが、いま使っている大剣はワグナー家の武器庫から貰ったものです。
かなり丈夫でいい剣らしいのですが、普通に使うには重量があるので放置されていたそうです。
ゲイルさんには、シャーリーさんの付与の加護があるので重さは軽減されていることもありますが、ゲイルさんが使っていた大剣も近い重さだったので、丁度良いそうです。
こうしてみると強くなっても私だけが経験不足に思えます。
次回からは、こうならない為にも帰ったら、公爵夫人に剣の稽古を付けてもらいましょう。
聞くだけの授業と違って真面目に受けられるはずです。
私が落ち着いたところでシアにどうやってここから下に降りるかを改めて尋ねようとすると景色が急に動きます!?
慌ててシアに質問をすると「先ほどの戦闘で、この辺りの地中に空洞が出来て脆くなっているのです」と教えてくれました。
その言葉を聞いた時には、辺りの地面が崩れて渓谷の方に地面ごと落ちていきます!
そんな状況ですが、シアは至って平然としています。
むしろ地面ごと落ちているので余裕がありそうです。
慌てているのは私とコレットちゃんだけです。
コレットちゃんは素早く私にしがみ付いてきました。
私にくっついていればシアが何とかしてくれると知っているからです。
意外なのはゲイルさんです。
落ちたら確実な死が待っているのに頭をかきながらシャーリーさんに「なんとか頼むわ」と話しかけています。
シャーリーさんも頼られて気分よくしています。
このまま落ちていくだけで済むとは思わないのですが、大丈夫なのでしょうか!?




