コレットちゃんのお披露目
「エルナ、起きてください」
「うーん……まだ起きたくないのですが……」
シアが私の体を揺さぶりながら起こそうとしています。
しかし、私はまだ眠いのです。
少しだけ目を開けたのですが、視界は真っ暗です。
確かこの場所は、シアが岩をくりぬいて作った簡易的な横穴です。
視界が真っ暗なままと言うことは……まだ夜ですよね?
そう考えると起きるには早いと思います。
気になる事と言えば、抱き枕代わりにしているコレットちゃんが両手で私の頬を叩いて何かを言っています。
軽く叩かれているだけなので、私の睡眠を妨げる程には達していません。
自慢ではありませんが、私はこの程度では簡単に起きません。
コレットちゃんを大人しくさせる為に強く抱きしめると叫び声をあげて大人しくなりました。
今の私の腕力なら抱きしめるだけでコレットちゃん程度でしたら、無力化は可能です。
とにかくもう少しだけ眠りたいのです。
「エルナが起きないんだが、どうする?」
「困ったわね……エルナちゃんが起きてくれないとシアちゃんが行動してくれないのよね」
私の傍でゲイルさんとシャーリーさんの声が聞こえます。
二人は既に起きているようです。
真っ暗なのですから、まだ夜中と思うのですが……皆さんは起きるのが早すぎると思います。
「エルナを起こすのでしたら、何かに意識を向けるのが最善と判断します」
「その方法をシアちゃんは知っているのかしら?」
「たまにフィスがエルナを起こすのに取る行動です。レンスリットも出来ますが、私はそこまでのレベルに至っていません」
「その方法って……あっ、 わかったわ! それなら、お姉さんも得意だから任せてね!」
シアとシャーリーさんが何か話し合っているみたいですが、シャーリーさんは何か納得したようです。
すると次の瞬間、コレットちゃんを抱いて横向きに眠っていたのですが仰向きにされると誰かが私の口を塞いでいます!?
しかもフィスさん程ではない舌使いをしてくるので、私も応えてしまいました。
しばらくしてから相手が誰なのかを確かめると相手はシャーリーさんです!?
シャーリーさんとするのは初めてですが、年上のお姉さんに攻められるのは初めてです。
年上と言ってもフィスさんがいますが、あちらは論外としています。
私の目がはっきりと見開かれたのを確認するとシャーリーさんの顔が離れていきます。
「やっと目覚めたわね。それで、私のテクニックはどうだったかしら?」
そして、私が起きたことを確認すると感想を聞いてきました。
「……レンちゃん程ではありませんでしたが、気持ち良かったと思います……」
私の中では、トップはフィスさんです。
流石は長い時間を掛けて磨いてきた技術なので、あの舌使いだけで私は敗北してしまいます。
次にレンちゃんと続きますが……シャーリーさんも良いと思いました。
「わらわの目の前でお前達は何をしておるんじゃ……」
私に抱きしめられたままのコレットちゃんが何か言っています。
私とシャーリーさんの情事を間近くで見ていたのですよね?
私としては、コレットちゃんにもこのぐらいの積極性を求めたいと思います。
それよりも目が覚めると、シアが暗めの光球を掌の上に作りだしていますが、そこ以外は真っ暗なままです?
眠る前は、シアが光球を作り出して明かりを灯していましたが、眠る時には消したはずです。
そして、空いている入り口から星の輝き程度の明かりが多少はあったはずです?
入り口があった方を見ると壁が塞がれています?
私が眠る前の記憶が正しければ、シアが入り口に座り込んでいて私のコレットちゃんを抱きしめながら夜空を眺めながら眠りに就いたはずです。
どうして入り口を塞いだのでしょうか?
それと時間的には朝になったのでしょうか?
分からないことはシアに聞くしかありません。
「シア、おはようございます。入り口が塞がっているので朝になったのか分からないのですが、どうなったのですか?」
「エルナ、おはようございます。時間的にはまだ明け方の前になります」
時間的には、起きる時間ではなかったようです。
だとしたら、私が寝坊したわけではないようです。
「それでしたら、どうして入り口を塞いでいるのですか?」
「外に数体の魔獣が現れたからです」
「そうだったのですか!? それでしたら、起こしてくれれば良かったのに……」
「起こそうとしたのですが、エルナが起きたくないと言ったので起こしませんでした。なので発見されないように入り口を塞いで待つことにしたのです」
どうもシアは、私の睡眠を優先したようです。
「それから定期的に起こそうとしたんだけどエルナちゃんが寝ぼけて拒否をするからシアちゃんが動いてくれないのよ」
続いてシャーリーさんが動けない理由を教えてくれました。
何というか……申し訳ありません……。
「それは申し訳ありませんでした……」
「次からは起こし方が分かったので、問題はないわ。それよりもここは外にいる魔獣の住処だったみたいなのか、段々と数が増えてきているのよ」
言われて意識を集中すると……外で何かが動いている気配がします。
耳を済ませれば、なんとなく地面を擦るような音が聞こえても来ます。
「どんな魔獣なのか分かりますか?」
シアに質問をすると答えてくれました。
「大型の蛇のような魔獣です。ただし頭部を複数個持つ個体のようです」
そんな魔獣は見たことがありません。
詳細を聞くと……私が眠ってからしばらくしてから最初の一体が近づいてきたらしいのです。
取り敢えず入り口を封鎖して様子を見ていると数がだんだん増えて来たそうです。
ゲイルさんは最初の一体目の時に起きたそうなのですが、シアが待機の判断をしたので従ったそうです。
それからシアの感知範囲内に数が増えてくることをゲイルさんに伝えていたので、移動した方が良いと意見を言ったことで、私やシャーリーさんを起こしたのですが……私だけが起きることを拒んで今に至るわけです。
説明を聞いてから、次からは無理にでも起こして欲しいとお願いをしました。
手間のかかる娘で申し訳ないです。
それでもシアが平然としているので、問題の無い相手とは思いたいのですが……。
「それで……外にはどのくらいの魔獣がいるのでしょうか?」
シアに質問をすると……。
「現在集まっているのは、大小合わせて十体以上の反応があります」
結構な数がいます。
しかも大きさが違うみたいです。
「大きさはどのくらいなのでしょうか?」
「私が感知した生体反応から予想すると小型のタイプはゲイルの五倍程度になり大型はウォーアントのクィーンよりも大型と予測します」
それは全て大型と言うのではないのでしょうか?
「俺の五倍とか普通なら勝てる気がしない相手だな」
比較されたゲイルさんが呟いています。
小型の比較でも大柄のゲイルさんよりも大きいようです。
どのくらいの強さかは分かりませんが、私が戦える相手なのでしょうか?
今のところは大型の魔獣の相手は基本的にはシアが担当をしていました。
私達が相手をするのは小型もしくは中型の魔獣です。
なのに今回は大型ばかりしかいません。
「私達が戦っても大丈夫なのでしょうか?」
私の質問にシアは……。
「不可能ではありませんが数がいるので時間を要します。しかし、それは私とエルナとシャーリーだけの条件となります。ゲイルとコレットは生命体的に体力が持つかの問題と判断しますが、エルナも魔力消費が激しい場合には危険度が増します。もしもの場合は撤退することを選択肢に入れる必要があります」
シアが逃げる選択をするなんて初めてです。
倒せないことは無いのですが、時間が必要な上に数がいることで私達に対する負担が大きいからと思います。
私が起きなかったことが原因なのですが、気付かれていないのでしたらこのままやり過ごすと言うのはどうなのでしょうか?
「では、このまま隠れていなくなるのを待つというのはどう思いますか?」
「先ほどコレットが大きな声を上げてしまったので、私達の近くにいる個体が警戒をしていると思います」
私にも問題がありましたが、コレットちゃんにも問題があるみたいです。
「コレットちゃん! シアが警戒をしているのに大きな声を上げるなんていけないと思いますよ?」
私がコレットちゃんに注意をすると……なぜかシア以外の私を見る視線が冷たいというか呆れている感じがします?
「コレットを庇う気はないんだけど……原因を作ったのはエルナちゃんなのよ?」
「私がですか?」
シャーリーさんに言われて自分に指を指しているとゲイルさんも頷いています。
更にコレットちゃんからは苦情が来ました。
「お主がわらわを強く抱きしめるから、わらわは死ぬかと思ったぞ。いまのお主に思いっきり抱きしめられたら、わらわの背骨が折れるかもしれんので手加減をして欲しい所じゃ」
詳しく聞くとコレットちゃんも私を起こそうとして、頬を軽く叩いていたそうなのです。
しかし……私がコレットちゃんを大人しくさせる為に強く抱きしめてしまったそうです。
それが原因で声を上げてしまったそうです。
そんなことを聞くと更に申し訳なくなってしまいました。
でも、そもそもどうして音が外に漏れたのかを聞くと、シアが封じた入り口にはいくつかの隙間や穴が空けてあったそうです。
完全に密封してしまうと、私達は呼吸が出来なくなってしまうからです。
そこに密閉された空間の中でコレットちゃんの叫び声が漏れて近くにいた魔獣が他の生物が潜んでいると気付いているようです。
いまも入り口の辺りに何かがぶつかる音が聞こえるのですが……嫌な予感がします。
「先ほどから周りの壁を叩いている行動をしているのですが、ここに空洞があることに気付き始めています。音の反響を確認でもしているようなので、ここに何かあると確信していると判断します。更に情報共有でもしているのか集まってきています」
シアが冷静に現状報告をしてくれました。
このままですと、隠れてやり過ごすのは難しいと思います。
シアが私にどうするかの決断を待っている目で見てくると同時に入り口の方に激しくぶつかる音がします!
「中を確認する為に行動に移しているようです。このまま戦端を開くか撤退するのかを選んでください」
シアが私に選択肢を出してきました。
いつもなら殲滅しかしないシアが判断を委ねています。
戦うとすれば時間が掛かるみたいですし、撤退と言っても……またあの湿地帯の方に行くのは遠慮がしたいところです。
「撤退と言うのは目的地の方に進むこともありなのですか?」
私の質問にシアは……。
「それでも良いのですが、この先の地形はマッピングされていません。私はともかくエルナ達には不利な地形かもしれません。そこに同じような魔獣がいた場合は挟まれる形になります」
安全策を取るのでしたら戻る方が良いのかもしれませんが、それでは最短ルートを選んだ意味がありません。
ここは強行突破をしたいと思います。
昔の私なら、安全第一でしたが、いまは多少の無理ができるのですから進んでしまいましょう!
「では、外にいる魔獣をなんとか撒いて先に進みたいと思います」
私が意見を言うとシアは頷きゲイルさん達もその方が良いと言っています。
このメンバーなら、コレットちゃんとゲイルさんの体力的な問題さえ解決すれば何とかなるはずです。
そして、シアが作戦を提示します。
「このまま壁を破壊しつつ正面の魔獣を撃破して強行突破致します。進むべき道は私が確保しますので、全力で付いてきてください」
予想はしていましたが、いつも通りのシアの強行突破論になりました。
予想では、入り口の壁を破壊して近くにいる魔獣を殴り飛ばすかして道を切り開くのだと思います。
この体になって思うのですが、実は剣などの武器を使うよりも肉弾戦の方が強いのではないかと思い始めています。
私も右腕限定でしたら、シアほどではありませんが小型の魔獣でしたら殴り飛ばせないことはありません。
体術に関しては練習中なので、生身の体に負担が掛かる行動をすると余計な魔力を消費してしまうので基本的には剣を使うようにしています。
「でも数が多いのなら、最初に減らすか足止めをした方がいいんじゃない? 私の魔法なら可能だと思うわよ?」
シアの意見にシャーリーさんが補足をしています。
先ほど使用をしていた重力魔法を使えば良いのでしょうか?
「安全策を取るのなら重力場で動けなくするのは有効です。あの魔法は味方と認識している者には適用されないという利点がありますが、今回の場合はかなりの範囲の展開が必要となります。私の試算では感知範囲内の生命体の動きを止めるにはシャーリーの魔力四割は必要と判断します」
「計算とか私は指示されないと分からないんだけど、あの魔法の範囲を広げると地味に消費が大きいのよね」
「可能でしたら、シャーリーの魔力は温存すべきと判断します。どうしても必要な時に最小限の範囲にした方が使用回数も増えるので魔力消費を抑えられます」
「要するに本当にその場を回避する時以外は温存する方が良いわけね?」
「この先に遭遇する魔獣の強さも分かりません。例え戦闘能力が高い魔獣が現れても重力魔法を活用すれば、私が効率よく撃破できると判断します」
「シアちゃんのサポート要員として魔力を温存した方が良いのは分かったわ」
シャーリーさんが説得されてしまいましたので、強行突破に決まりそうです。
方針が決まった所で、シアが入り口の壁の前に立ちます。
「壁を破壊して、前方の魔獣を撃破しながら進みます。エルナ達は私に付いてきてください。コレットはエルナが抱いていれば問題はありませんが、ゲイルはシャーリーのサポートを受けてください」
シアが作戦と言うか、どう行動すべきなのかを言いました。
話を聞いて私はコレットちゃんを湿地帯の時と同じく抱き上げると「楽なのは良いのじゃが力の加減だけは頼むのじゃ」と言われました。
まだ寝ぼけていた時のことを気にしているみたいです。
ゲイルさんは昔が懐かしいと呟いています。
昔のゲイルさん達は、魔物から逃亡していることが多かったと何気に思い出しました。
隣にいるシャーリーさんは、「走るのがきつかったら、私が抱えてあげるから安心してねー」と、声を掛けています。
昔と違って、体力的な関係が逆転してしまいましたからね。
「シアよ。逃げるのなら、わらわのあの魔法を試しても良いじゃろ?」
準備が出来たところで、コレットちゃんがシアに話しかけています。
あの魔法と言うのが何かは知りませんが、私の知らない魔法なのでしょうか?
「構いません。追撃されるはずなので、足止めを兼ねて全力で使用してください」
「ふっふふふ……シアの許可が出たのじゃから、わらわの全力をお披露目するのじゃ!」
すると私に抱えられている状態で、右手に見たことのない杖が現れました。
その形状は普段コレットちゃんや他の魔導士の方が使っている杖とは形状とは異なり角っぽい形状です。
「見たことのない杖ですね?」
私がコレットちゃんに訊ねると自慢気に語ってくれました。
「これはのう、古代都市で見つけた古代人の遺産とも呼べる魔導士の力を増幅させる杖なのじゃ」
「それはすごい杖ですね。でも普段はいつもの杖を使っていますよね? どうしてなのですか?」
「増幅の機能は追加要素らしく本命はこの杖を使うことで使える魔法があるのじゃが残念なことにわらわの魔力ではちと足りぬのじゃ。この杖は使用者を登録すると普段は指輪になって魔力を蓄積してくれるのじゃが杖に蓄える魔力が完全になるには一日かかるのので、普段は使えないのじゃ」
そう言うと杖をいったん消すとコレットちゃんの右手の中指には赤い文字のような物が刻まれている指輪になりました。
そしてまだ杖を出現させましたが、よく見れば赤い複数の細い線が刻まれている杖です。
「ちと、わらわは蓄積された魔力とわらわの魔力を掛け合わせて更に魔力を高めるのでしばし集中するので、後は頼むぞ」
するとコレットちゃんは両手で杖を握ると目を閉じて何かブツブツ言い出しました。
ちょっと隙だらけのコレットちゃんの口を塞ぎたい気分になってきたのですが、いまは我慢します。
「それでは、いきます」
シアが告げると入り口の壁を消さずに破壊すると複数の目がこちらに向きました。
星空の明かりで魔獣が確認が出来ましたが、その姿は巨大な蛇の胴体に複数の頭部を持つ大蛇です。
突如現れた私達を確認すると一斉に襲ってきましたが、シアの拳で正面の魔獣が吹き飛ばされて転がっていきます。
特に巨大の大きさの魔獣にはシアが手の平を向けると空中で爆発が起きて動きをけん制することで行動を妨げています。
あの魔法は確かフィスさんから学習した「スチーム・ボム」と言う水蒸気爆発の魔法だったと覚えています。
水が爆発すると言うのが私には理解ができないのですが、一時期シアに説明を聞いたことがあるのですが……途中で眠ってしまった記憶があります。
そのままシアの後を付いて走り出すとシアが魔獣を蹴散らしながら、後方に同じ魔法を使い動きを鈍らせています。
いつものシアなら足止めと言えば、地面から壁を出現させる魔法を大抵は使います。
なのに使わないので魔獣はそのまま一斉に追いかけてきます。
そして、囲まれている魔獣の範囲を抜けたところで、コレットちゃんの目が見開いて私に抱えられている状態で身を乗り出して背後に顔を向けると何かの魔法名の言葉を言い放ちます。
「わらわの新たなる力を見るがよい! インフェルノ・ストライク!」
コレットちゃんの言葉と共に背後に強い魔力の流れが私にも感じられます。
気になる背後を見ると魔獣の群れに赤い光が集まってくると炎を帯びて一つの塊になると激しく爆発しました!
その威力は背後の魔獣を全て焼き払うような威力なのですが、背後からの爆風がこちらにも届きそうです。
シアが私の手を掴むとそのまま引き寄せて抱き抱えると更に加速してその場を離れます。
隣を見ればシャーリーさんにゲイルさんが抱えられています。
抱えられているゲイルさんは片手を額に当てて「俺がシャーリーに抱えられるなんてな……」と呟いています。
ゲイルさんとシャーリーさんにも私とレンちゃんのように男女の逆転状態になっているようです。
それは良しとして、これ程の威力の魔法を見るのは初めてです。
まだ夜明け前なのに周りが燃え盛る炎で明るくなっています。
私が驚いているとコレットちゃんが杖を消して私の胸元に顔を寄せると「魔力が枯渇したので、わらわはしばらく何もできん。後は頼むのじゃ」と言うと大人しく私に抱かれています。
状況が許すのであれば、いまのコレットちゃんは抵抗が出来ないはずなので何でもできそうなのです。
それにしてもコレットちゃんにこれ程強力な魔法が使えるようになっていたのには驚きました。
一日に一回しか撃てないとはいえ、頼もしいと思います。
シアの足が止まった時にコレットちゃんがまだぐったりしていたら、私が介抱をしてあげますので少し待っていてくださいね!




