探索部隊
「状況はどうだ?」
「ユニットの方は回収ができましたが、船体の調査に向かった部隊からの定時連絡が途絶えたままです」
「様子を見に行かせた部隊もか?」
「そちらも連絡がありません。遺跡の内部の地図が情報通りでしたら、到着しているはずなのですが……」
「ここの防衛機能が生きていて対応に追われているのか、全滅したか……もしくは、先行部隊と行動していた学者共が欲を出したのかだが……」
「前者の方でしたら、場合によってはこちらも撤退すべきかと思います。後者の方は、起動は不可能かと思いますので、何とか連絡をつけて急がせたいところですね」
「同伴させた通信機能を持った魔人形は貴重な存在なのだが、使い手が第三王子派の息が掛かった者だから、こちらに内密に事を進めているのかもしれんな。どうせ動かせないのだからゲートさえ開けてくれれば、こちらが向かって回収に行けるのだが……ところで、ユニットの方はどんな個体なのか分かったのか?」
「現在解析中なのですが、誰も目覚めさせることができないので難航しているとのことです」
「連れてきた者達では誰も反応無しということか……いい気味だな」
「閣下、今の言葉は聞かれると不興を買いますよ?」
「本人と第三王子派の奴らどもに適性がなくて良かったと思っているぐらいだが?」
「また、そのような事を……しかし、私もその考えには賛同致します。無事に国に帰ってから別の御方が目覚めさせて欲しいところです」
「なんだ、お前も同じ考えではないか」
「今回の探索は、王位継承権争いの優位性を得る為なのですよね? 諜報部が新しく発見した浮遊島を見つけた為に学者共が己の探究心を満たす為に第三王子を唆すからです」
「仕方あるまい。上の御二方は所有者の資格を得ているのだから、自分だけ所有していないのは確実に不利だからな」
我が国には公式発表では3体のユニットの存在を認めている。
2体は第一王子と第二王子を認めたが3体目は、我が国の最強の騎士と呼ばれておる者が所持している。
権利を第三王子に譲渡するように言ってもユニットが認めなければ所有者にはなれない。
力ずくで奪おうにも本人の実力もそうだが、ユニット単体でも恐るべき強さを誇る。
奪うとしたら、同じ条件で相手よりも実力が優っていないと話にならん。
今回の探索は、陛下から内密で受けたご命令だ。
末の息子が可愛いのは分るのだが……今回はどうも嫌な予感がする。
諜報部の奴らが偶然にも未確認の浮遊島を発見したまではいいが……場所が問題だった。
現在この大陸には4つの国家が存在している。
東に位置する『ミッドウェール王国』、西に位置する『ガリア共和国』、南に位置する『バートランド王国』、そして北に位置する我らの『アストリア王国』だ。
最も大きな国力を有しているのは南のバートランド王国だが、この国は現在王位継承権争いで、東と西に分断されていると言っても良いだろう。
本来ならばこの好機にバートランド王国に攻め込みたい所なのだが、大陸の中央には『樹海の森』と呼ばれる厄介な森が存在している。
この森には強力な魔物が生息している為に陸路から軍を進める場合は、東に位置する『ミッドウェール王国』か、西に位置する『ガリア共和国』が相手になる。
我らには、祖先から継承されている『魔人形』と『魔道船』がある。
魔人形に関しては適性のある者の指示で動く優秀なゴーレムみたいなものだが、通常型と戦闘型が存在する。
そして、更に強力な魔人形は遺跡か浮遊島で見つけるしかない。
魔道船の方は、魔力適性の高い者がいれば操船は可能だ。
この古代の遺産のお蔭で空路も確保しているが……それは、どの国でも同じなのだ。
魔道船を使って空路から攻め込めば南に位置するバートランド王国にも進軍はできるが、この大陸の上空には複数の浮遊島が存在している為に各国も防衛ラインの浮遊島は要塞化している為にまずはそこから攻め落とす必要がある。
浮遊島の数が正確に分っていない為に進軍したのはいいが、突然予想もしない方角からの伏兵もありえるので空からの進軍は慎重になっている。
魔道船の技術は継承されているので複数の艦隊を持つことに成功もしているが、今回我らが発見したユニットと対になる母艦の性能は我らの魔道船よりも強力な船なのだ。
こちらが複数の魔道船で戦いを挑んでも、たった1隻に勝てない性能の違いまである。
現在、各国もこの強力なユニットを保有している状況になっているので他の国もまだ遺跡に眠るユニットを血眼になって捜索している。
大抵は今回のように隠されていた浮遊島に眠っているか、大陸の中央に広がる樹海の下にある『樹海の迷宮』に保管されている場合もある。
現在滞在している浮遊島は普段は存在が分らなかったのだが、雲一つない深夜に月の光が照らされている時に幻影として現れる浮遊島なのだ。
そして、月の光が陰ると浮遊島もまた消えてしまうと言う不思議な島だった。
今までは接近してもすり抜けてしまう状態だったのだが、諜報部の者達が偶然にも一ヶ所だけ、色濃く映る場所を見つけて、そこに近付くと浮遊島に潜入ができたのだ。
浮遊島には、強力な魔物が住み着いていたらしく何とか島に辿り着いて内部の地図らしき物を通信機能を持った魔人形がこちらに情報を流してくれた所で、それ以降の通信は途絶えたままだ。
当然、諜報部の奴らも帰ってはこなかったがな……。
そして、問題なのは我が国と隣接する東の敵対国である『ミッドウェール王国』の領域内に存在していたのだ。
現在は休戦中だが、空の上とはいえ発見されれば領域侵犯で外交問題から、また開戦状態になりかねない。
本艦も軍艦と思われないように武装も空の魔物と戦える最小限にして大陸間の商人の船と偽っている為に護衛用の本艦とカモフラージュ用の輸送船のみで行動している。
私自身は眉唾物の情報と思っていたのだが、実際に辿り着けて本当に手付かずでユニット本体や母船まであるとは……魔物との戦闘はあったが、ここの防衛機能が生きていたら、こちらもユニットを連れていないと対処ができん。
既にこの島に接近した時に、島に生息していた魔物との戦闘で多数の犠牲を出し輸送艦の方は大破してしまった。
そこに遺跡に眠っているガーディアンが目覚めたら……遺跡に眠るガーディアンどもの強さは本物だ。
おまけにこちらは限られた戦力で来ている。
既に治癒魔法が使える者達が魔力が回復次第に治療に当たっている状態なので、もしもガーディアンが目覚めたら、そんな化け物に対し生身の者がまともに戦っていては勝ち目が無い。
戦闘用の魔人形を使える者を連れてくれば良かったのだが、確信が得られない調査に貴重な戦闘型を連れて行く許可が出なかったのだ。
もっとも首都の防衛と東と西の国境に多く配備されているので回せないなどと言われたが、実際は操れる人材が不足しているのが本音だろう。
私としては、こんな未開の地に強力な魔人形を連れずに調査に行くのは自殺行為かと思うのだが……第三王子の派閥の奴らが内密に実行する必要があるとかで正式な勅命ではない為に動かせなかったのだ。
疲れを知らない化け物には化け物をぶつける方が正解だ。
「閣下、遺跡の正面に動きがあります!」
連絡ではなく遺跡の方か……嫌な予感しかしないな。
前方の遺跡の一部が開いているが、船がは入れれそうなぐらいの大きさだ。
これだけのリアクションがあるのだから連絡くらいは来てもいいのだが……。
もしくは、通信用の魔人形を破壊されてしまったのかもしれんな。
「見た感じでは港のゲートが開いたようにも見えるが、何か連絡は来たか?」
「ありませんが、如何なさいますか?」
「取り敢えず向かうが……待て! あれはなんだ!?」
開いたゲートから、何か出てくるが……まずいぞ!
明らかにこちらの船を標的として多数の物体が飛来している。
「閣下! 接近してくるのは、遺跡のガーディアンと思われます!」
「船を直ぐに離陸させろ! 回頭後に全力で脱出する!」
「調査隊の方は、どうしますか?」
「見捨てさせてもらう。恐らくだが、侵入者用の罠が発動したか、何か余計な物に触れて遺跡を目覚めさしたのであろう。それに生きているとは思えんしな……」
本来ならユニットの方が厳重に保管されているのだが、こちらは簡単に回収ができたのだ。
母船の探索に向かった学者共が好奇心から余計な物に触れて遺跡が目覚めたに違いない。
ここに来るまでの上空の魔物は倒しているので追い付かれなければ何とか逃げ切れると思うのだが……あいつらがこちらが回収したユニットを目指してきているのであれば、例え浮遊島から逃げ切れても本国まで引っ張っていく可能性もある。
そうなれば本国の部隊が対処する事になるが……生きて帰っても死刑もしくは投獄が確定だ。
その時は部下だけでも助ける為にこの命を使うつもりだ。
奴らが浮遊島から離れられないガーディアンであることを祈るか。
追ってきているのは小型の飛行型のようだが、何とか近づく前に撃ち落とせている。
こちらの戦力もギリギリなので確実に狙える位置まで引き付けてから、攻撃をするように命じたが、私の部下は優秀だったらしくきっちりと仕事をこなしている。
ただ……魔力弾を籠めている魔導士達の魔力が持つだろうか……。
それにこの船の速度は決して遅くはないが、徐々に近づいてくる数が増えてきた。
攻撃の隙間を抜けて船体に取り付くとガーディアンは自爆した!?
小型で特に攻撃をしてこないと思ったら、取り付いて自爆する型とはな。
調査隊の者達も取りつかれて爆死したと思うが……自爆型では我らにまともに相手はできんな。
「閣下! 奴らの追跡が振り切れません!」
「まさか自爆型のガーティアンが眠っていたとはな……どちらにしても数が多いので、こちらには奴らを倒せきる戦力はないので全力で逃げるしかない」
「しかし、振り切れるのでしょうか?」
「さあな。多分だが、学者どもが余計なことをしなければ防衛システムが目覚めなかったと思うが……いまさら言っても始まらん」
先程から、船の揺れが激しい。
対処ができないガーディアンが船体に取り付いて自爆しているようだが、浮遊島の空域を脱出するまでこの船が持つかだ。
自爆せずに船内に侵入してくる奴らに比べたらましな方なのだが……その場合だと乗組員を全て殺されてこの船の墜落が確実だからな。
我が国の領域内であれば完全な装備と精鋭の部隊を連れて行けるので、そのような事態にはならない。
今回は最小の部隊のみなので現在この船に残っている者は船を動かせる者達と第三王子派の偉い様しかいない。
先に落とされた輸送艦に乗っていた者達が本来ならばまともな部隊だったのだが、墜落で船と共に死亡してしまった。
この船に残っていた部隊は調査に全て出してしまったので船の護衛ができる最小限の人員のみだ。
緊急時とはいえ生死も確認せずに調査隊の者達は見捨ててしまったが……生きている者達だけでも本国に帰したい。
本音を言ってしまえば元凶の奴らも調査に出向いてくれれば、ついでに見捨てれたのだが……こういう奴らは一番安全な所で我らに命令をするだけだからな。
陛下のご命令とはいえ損な役を引き受けてしまったものだ。
「ユニットの回収が出来た時点でほぼ任務完了と思っていましたが、最後にこちらも全滅になりそうですね」
「問題は浮遊島の空域から離れた時点で追いかけてくるかだ。奴らに警戒空域が設定されていて、それを越えて来なければユニットは回収しているので、次はそのユニットと同伴して訪れれば船も手に入るだろう」
「閣下は、あのユニットが目覚めればガーディアンが攻撃して来ないと考えているのですか?」
「我らを襲ってきている物がその船から出された物ならばな。遺跡自体の防衛機能ならば、また対処をする事になるので遠慮をしたいところだ。以前にバートランド王国が無理をして回収をした為に手酷い目に遭った話を聞いたことがあるが……被害は甚大だったと聞いている」
「一部の強き者達を除けば我ら一般の兵士よりも優れた戦力ですから採算が取れるのでしょう」
「古代人達も厄介な物を残してくれた物だ。現在継承されている技術だけならばその恩恵は素晴らしいものだが、あんな規格外まで残してくれなければ良かったのだ」
「閣下、古代人達はなぜ滅びたのでしょうか? これほどの文明があるのでしたら、滅亡するとは思えないのですが?」
「その答えは王族の始祖達が知っているだろう。現在の国家がその末裔なのだから、古代人達も4つの派閥争いで現在の状況になったと予測している。なんせ公表もされていないし、過去の記録はどの国でも抹消されている。深く調べようとすれば王族の秘密を知ろうとした事で消される可能性が高い」
「結局は、古代人達も派閥争いで国を分けたということですね」
「恐らくな。それよりも浮遊島の空域から出られそうだが、追っては来ているか?」
「追手は浮遊島から離れた時点で停止したようです。奴らは浮遊島の範囲内のみの防衛機能のようです。先程から、船内の状況報告はきていますが、辛うじて航行は可能ですが……」
「それならば、よしとするが何か気になる点でもあるのか?」
「それが……ユニットを保管していた部分に激しく攻撃された為に逃げている途中で船から落としてしまったようなのです」
「欲を掻いた罰で回収が出来た物まで失うとはな。ついでに奴らも落ちたのか?」
「第三王子と取り巻きは無事です。ユニットを調査をしていた学者共はそのまま落ちたようです。そのことですぐに船を樹海に降ろして探索せよとの命令がきています。もうしばらくすればここに怒鳴り込んで来るかと思いますが如何なさいますか?」
「この状況では不可能だ。せっかく助かったのだから、命があるだけでもましと思って欲しい」
現在いる空域はミッドウェール王国の空域内でもある。
樹海の中心部に近い位置なのでこんなところに降りたら、強力な魔物との戦闘は免れない。
船の状況も芳しくない上にまともに戦える者がいないのでは、そのまま全滅する確率の方が遥かに高い。
しかもこんな暗闇の中をどこに落ちたのかもわからない物を探し出すなど不可能だ。
なんとか説得して後日に地上から部隊を派遣するしかない。
樹海の森については各国が領土と言い合っているが明確な線引きは無い。
どこから湧いてくるのか知らないが、魔物の数が多いので開拓も不可能なのだ。
それに森には何か知らない力が働いているのか、進出して建物などを作ろうものなら、しばらくすると森の木々に覆われていつの間にか破壊される始末だ。
恐らくだが、樹海の森には古代人が作った何かが存在していて森自体が異物を排除する仕組みなのかも知れん。
なにせ樹海の下に眠る迷宮にもユニットは保管されていたのだからな。
他人事だが、後日に探索を命令される者には申し訳ないが頑張ってもらおう。
ただ、森の探索を大規模にやると隣国に勘ぐられて奪われる可能性もあるので、少数精鋭で挑むことになると思う。
差し当たっては、怒鳴り込んで来るであろう者達の相手をする事になるが……夜は長そうだ。
このお話は私が最初に投稿したお話の元にしたお話です。
なので登場人物の名前が重複しているのですが気にしないで貰えると助かります。
内容的には当時に読んでいた漫画や小説などの影響を受けていますが……なんだったかな……。
少し前に何となく読み直したら、つい続きを書き始めたのでついでに投稿もしてみようかと思ったのです。
最初に投稿をしていたお話を完結させましたので、こちらも読み直してから書いていこうと思います。