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夜盗さん、こんばんは


 俺は馬を使わない。

 何故なら乗れないから! ではなく、単純にスキル上達の為だ。


 一応、この世界の常套移動手段は馬関係。自動車もあるが、蒸気機関である為、二十一世紀で生きてきた人間には質が悪くて乗りづらい。その上、高価でとてもじゃないが上流階級や豪商でもなければ手が出ない。ちなみにバスとかは無いの文明レベルです。


 そんな文明レベルなので馬術は必須なので城で習ったのだ。だが、俺のタレントの特性上、ムーブは非常に重要だ。


 ゲーム用語でムーブとは動き全般を指す。

 ムーブは色々な役割や状況によって細かく分かれていくのだが、重要なのはリアルでゲームのように無限に動ける訳がないって事だ。


 その為には運動量がもの凄く重要だ。

 高い運動量を鍛える為には基礎レベルの底上げが大事だ。基礎レベルを上げれば運動できる総量も上がる。


 ゲームと一緒だ。

 地道な練習。これが上達において一番大事なのだ。


 アサルトライフルのフォックス抱えて走り続ける。

 そこそこの重量をリュックを背負って、銃を抱えて持続的な走行。


 それなりの距離を走ったら息を整えずに銃を構えて狙撃。

 狙い撃つのは岩や木だ。こうしてエイム力を鍛えていく。


 次の町までは歩けば三日はかかるそうだが、これをできる限り短縮する事が目標だ。

 道中で狩れそうな獲物がいたら躊躇いなく仕留め、毛皮などは売り払い、肉も食べきれる量以外は売ってしまう。

 荷物が増えて重量は増すが、これも良いトレーニングになる。


 一刻も早く強くなりたいし、弱いままでいるのも我慢ならない。

 負けるなんて考えたくもない。


 身体が悲鳴を上げる寸前までは追い込んで、限界が来たら休んで次へ進む。

 頭を使って、考えて、試して、追い込んでいく。


 こうして強くなれれば【シューティングプレイヤー】の特性上、正面からの喧嘩以外はそう簡単には負けることなどない。



「はぁ、きゅうけ~い」



 流石に腕と足が辛い。

 日もそろそろ傾いてくるので、野営の準備をしよう。

 日が傾いてから夜になるのは意外と早い。なので、日が傾くより前から準備するのが大事だ。


 〈ビルダー式自営術〉を発動する。


 そこら辺にある物でベッドとかまどを作って風よけも作る。ものの三十分程度でこれだけ作れれば上等なスキルだ。


 夕暮れの前に火をつけて、飯盒に水を入れて野草と市場で買った根野菜に加えて、香り付けのハーブとメインの切り分けた肉を投入してコトコト煮込む。


 水分と塩分、タンパク質とビタミンもとれるスープの完成。



「食事は別にこだわってないからいいんだけど、久々に米食いたいなぁ」



 日本人としてやはり米が食べたい。

 こだわりがある訳じゃないんだが、食べれないと無性に食べたくなる。機会があったら食べたいものだ。



「おし」



 腹も膨れたところでステータスを確認しておく。

 基礎レベルのアップもしかり、タレントのレベルアップが非常に早く感じていたが、ここにきて逆転した。

 基礎レベルの方が伸びが良く、逆にタレントレベルの伸びはスキルが増えるごとに遅くなっている。


 今使っている〈ビルダー式自営術〉もその一つだろう。


 もちろん使わない選択肢もできるのだが、使った方が圧倒的に効率がいい。

 こうなると自然とスキルの熟練度が上がっていき、スキルの熟練度が上がればタレントのレベルが上がるという循環が生まれる。


 つまり、スキルを使う事でタレントは自然とレベルアップしてしまうのだ。

 しかも、スキルを使わなくても【シューティングプレイヤー】は練習しているだけでも経験値が入っている。


 俺のやっている練習は銃を抱えて走り、息が切れたり、限界が来たら銃を構えて、適当な目標に向けて発砲するというものだ。

 これをやるだけでもレベルが上がっていく、すでに【シューティングプレイヤー】はレベル7と断トツである。




 基礎レベル13。

【シューティングプレイヤー】レベル7。

【ジャマー】レベル2。

【ビルダー】レベル2。

【ギャンブラー】レベル2。

【斥候】ジョブレベル3。

 合計でレベル29。



 スキル

【シューティングプレイヤー】

 〈高速移動〉

 〈クイックリロード〉熟練度MAX

 〈グリップ強化〉熟練度MAX

 〈スコープ→スコープ強〉

 〈大量弾数〉

 〈グレネード〉

 〈スモークグレネード)〉


【ジャマー】

 〈ブラックアウトバレッド〉


【ビルダー】

 〈浄化〉

 〈修繕〉

 〈ビルダー式自営術〉


【斥候】

 〈潜伏〉

 〈ラビットイヤー〉

 〈気配探知〉

 〈マッピング〉

 〈罠探知〉


【ギャンブラー】

 〈ダイス〉

 〈ラックドレイン〉


 その他、新スキル多数獲得済み。



 俺は【タレント】四種類とジョブ一種類があるからスキルも豊富だ。

 その中でも実は一番困っているのが【ギャンブラー】だ。

 というのも【ギャンブラー】のスキルは非常にピーキーなものが多く、おいそれとは使う事はできない。

 つまり、カジノのヘビーユーザーにでもならない限り、レベルアップができないのだ。だが、俺は【ギャンブラー】のスキルによって王都を脱出できた。


 流石レア度5というだけあって、それだけのポテンシャルがあると断言できるタレントでもある。

 贅沢な話だが、多すぎるタレントってのも悩みものだ。


 そして問題はまだある。


 レベルの問題だ。

 最大レベルは100で、タレントやジョブ、基礎レベルの合計で決まる。

 俺の基礎レベルは13。タレントとジョブのレベルは23。合計がレベル29。

 レベル100で単純に換算する。


 レベル1以降が序盤で、おおよそレベル33以降が中盤、レベル66以降が終盤となる。

 つまり、俺は異世界にきて二ヵ月足らずで中盤が見えてきている。


 俺はRPGなどは専門外だが、レベルを上げるというのはあまり単純ではマズイと思うのだ。

 レベルを上げるコツなども騎士などから教わったが彼らは国仕えだ。


 そして、剣や魔法の世界で戦う人間である以上、俺の思想とは相容れない存在だ。

 こっちは騎士道などクソッタレな人間だ。知識を集め、賢知を広げる必要がある。


 その方法として一番いいのは書籍など独力で調べる事だが、この世界では本も中々に高価であり、そう言ったことを教育してくる施設もない。

 となれば、俺が行うべきは同じような思想をもった人間にアドバイスをもらうことだ。


 これは最低限必要な事であり、最低限のリスクでもある。だが、リスク承知で行う以上、カバーリングは絶対に行うべきだ。


 そこで出した結論は王国から出ることだ。


 元々、王都から出た後はとにかく遠くへ逃げる事だったが、予定を変更して国外。最悪大陸からも出るべきだろう。

 大陸を出たら追手が来るリスクは格段に下がり、追われるリスクだけはクリアできる。


 次の町は港町であり、王国では二番目に大きな港町だ。

 王都に近くて王族と貴族のお膝元にある港でなく、より庶民に近くて大陸の西側を支える貿易港町ジュダンクレース。


 きっと治安も良くはないだろう。

 日本でも貿易港周辺は多国籍の人間をお迎えする為、歓楽街が増える傾向になり、治安が悪くなるものだ。


 日本レベルの治安と比べるのは酷だが。

 そういうところには物も知識も揃う……はずだ。


 さらに貿易港町ジュダンクレースを拠点とするダイヤモンド冒険者がいるらしい。

 女性らしいのだが、その辺と接触すれば有力な情報がもらえるかもしれない。

 駄目なら離れりゃいいだけだ。



「そろそろ寝るか」



 日も暮れて、辺りには街灯一つない完全な暗闇。俺は火を焚いたまま眠りにつく。








 そんな俺の眠りを妨げる馬鹿野郎が現れたようだ。


 人数は三人。〈ラビットイヤー〉が大活躍。

 かなりハッキリと足跡や動く音が聞こえてくる。


 俺の寝床を遮蔽物に隠れて囲んでいるようだが甘い。


 残念! 俺はそこにはいない!


 野営地を目視できる木の上に屋根付きの寝床を作って、そこで寝ていたのだ。


 どうだ? この病的な用心深さ。


 荷物は貴重品だけ抜き取ってそこに放置し、寝床を盛り上げてカモフラージュ。

 こんな事をするようになったのは盗賊を仕留めて以降だ。


 盗賊退治で村から町に戻る際、老齢の御者が元冒険者だったので色々な話を聞き、盗賊の件について色々聞いた。

 最も多いのは商人の馬車などを狙うだ。理由としては大金が手に入るからだ。

 その他にも夜の闇に紛れ、少数の旅人に奇襲してくるみみっちい輩もいるらしい。

 儲けは少ないがローリスクでお手軽なんだろう。しかも、盗賊の被害は夜襲パターンの方が多いとも言われているらしい。


 その話を聞いてから用心を重ねるようにした。

 妥協したらゲームオーバー。

 当たり前だな。用心深さと勝率は比例するのだ。


 特に【シューティングプレイヤー】で接近戦は避けたいってのもある。

 俺には〈早撃ち〉という近距離対応スキルがあるが、それでも避けたい。


 残念ながら俺の接近戦はミジンコだ。

 これほど深刻に捉えるのも、サバイバルゲームの時の元自衛官さんから受け取った教訓があってこそだ。


 実際に使う日が来るとは思わなかったけども。

 だが、暗闇となると視界が悪い。


 そこで俺は新しいスキルを発動する。

 これこそ【シューティングプレイヤー】のスキルで見つけた瞬間、速攻で手に入れたスキルだ。


 まず一つが〈スキャニング〉だ。


 短い時間、周辺の敵対象を発見して透視する。トラップなどにも有効で索敵範囲は三十メートル。有効時間は一分。インターバルは二分。


 はいチート。くそチート。

 実際ゲームでこういうチートは実在する。

 まぁ、チートの場合はずっと見えてるんだけどな。


 速攻で垢バンされますこんなモノ。ちなみに垢バンとはアカウントBANの事で、管理会社にアカウント剥奪、停止される事です。


 というわけで、【シューティングプレイヤー】の俺からしたらスーパーチートスキルを発動する。


 まずは〈スキャニング〉発動。

 敵の位置を把握。


 お~いますねぇ。


 一人は草陰、もう一人は木の後ろ、最後の一人は背の高い草に身を伏せている。

 それぞれしっかりと武器を持っていらっしゃるその姿、俺の目には人型の像がハッキリとサーモグラフィーのごとく赤く映っている。



「最高じゃん。これ」



 もう色々計画経てたけど、必要ないんじゃねぇかと思うほどの強烈スキル。


 バランスブレイカーですよ。

 なにより一分間見え続けるというのがヤバイ。ゲームなら修正入るね。

 ただ残念。ゲームじゃなくてリアルだから、これが卑怯なんてことはないのである。

 さて、どの武器を使おうか?


 俺は地球で銃を撃ったことはない。だから威力云々の事に関してはド素人なのでなんとも言えないのだが、スナイパーライフルのファルコンによる30メートル程での狙撃時、大の男の腕が無くなってしまった。


 そう、最初の盗賊退治でのことだ。


 〈スキャニング〉の索敵に全員が引っかかった以上、距離は30メートル以内にいる。

 あの威力がリアルと同じなのかは分からないけど、ここでファルコンを使えばどうなるかは察するに余る。


 頭に当たったて首がはじけ飛ぶなんて事があったら流石に気分が悪い。

 いや、復讐がイヤなのでここでキルするつもりだが、流石に気持ち悪い。なので、俺はここでアサルトライフルのフォックスを使用する。



「……まず一人」



 スキル〈ブラックアウトバレッド〉を発動。


 背の高い草に伏せている男をヘッドショットで昏倒させる。

 地面に伏せているという事は転倒時の音がでないという事だ。


 こういった現状把握はとても大事で時として、それだけで戦いの流れが変わったりする。

 残り二人は音で当然気付いている……いや、パニックになってるぞ。

 仲間が失神したことに気が付いた訳じゃない。


 再度〈スキャニング〉を行う。


 赤い人影がキョロキョロと索敵するように体を動かしている。

 草陰で腰を落としている奴に狙いを定める。


 ブッシュ程度ならば、弾丸に影響はほぼ無い。

 スキル〈スキャニング〉の影響が消える前にヘッドショット。



「ビューティフォー」



 〈スキャニング〉が切れる前に最後の一人を確認。

 武器は長い棒、恐らく槍か打撃武器。接近される前に仕留めるか、あえて焚き火で完全目視できるところまで待ちを決めるか……あ? 動いてる?

 確認した瞬間、〈スキャニング〉が切れる。持続時間は十秒もないか。十分だけど。


 それより敵だ。


 二度も不審な音を聞いて動揺して、仲間と合流でもしようとしているのか? それとも賢く逃げるか?


 いや、音的には焚火に迫って来てるな。

 相手は攻撃を続行するつもりらしい。



「それは、ダメだろ」



 危ないと思ったすぐに引く。これは鉄則だ。

 無理に突出しても何も良い事はない。

 それじゃ、ただ自分の命をプレゼントしているだけだ。

 しかも、周囲にいる仲間がいる場所を把握してるなら、その方向から一切の音がしない事も不審に思わなきゃダメだ。


 出てくる。


 焚き火の光に当てられて、姿が見えた瞬間に仕留めてやる。

 ゆっくりとでも確実に〈マーキング〉は近づいてくる。

 そろそろと思った瞬間、俺はトリガーから手を放す。



「女の子?」



 しかもかなり幼い。

 東洋人の俺は西洋人の顔立ちで年齢を把握するのには疎いけど、スコープ越しに見える女の子は十代後半いかないくらいじゃないか?

 俺の妹よりも小さいな。


 そして何より、その恰好だ。

 薄汚いのだ。


 赤髪は伸び散らかして汚れでくすみ、整えられた様子はない。

 というか赤髪ってファンタジーだな。今更だけど。


 褐色の肌にも所々痣ができている。

 そしてなにより着ている服だ。

 なんと表現していいのか……あれは完全な汚れた布切れだ。


 見たまんまを表現するなら、袋に手と首が出るところの穴を空けているだけ。

 地球なら虐待で確実に警察沙汰になる。



「これは……なんかあんな」



 そして、もう一つは……震えている。目に見えて震えている。


 俺は木から降りる。

 ゆっくりと近づき、フォックスをフルオートの状態にする。



「おい」

「ひっ!」

「動くな」



 震えが大きくなった。確実に怖がっている。



「お前以外の仲間は二人いたな。二人とも始末したぞ。抵抗するな。ゆっくりこっちに振り向け」



 だが、少女は仲間を始末したという言葉にピクリと反応し、持っている棒の武器を落としてまで首に触れる。

 忙しなくペタペタと首を確認するとそのまま座り込んでしまう。



「おい?」

「ううぅ」

「は?」

「ひっ、ひっ、ひぐぅ、うぅぅぅぅぅ!」

「……えぇ~?」



 なんか泣いてしまった。

 歯を食いしばって泣く少女に俺は困惑するばかりだった。







ご感想を送って頂いた読者の方。直接の返信ではなくこちらの方でお礼申し上げます。

ありがとうございました。

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