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イメージと違う冒険者ギルド


 新しい町は商業の町のようだ。

 これなら情報だけでなく、物資も集まるだろう。



「だが、その為には金がいると――」



 やはりここは冒険者ギルドというファンタジーにありきたりな場所へ向かうべきか?

 だが、若干怖い。


 荒くれ者もイメージもあるが、組織という物には制約や利害が発生する。

 それが冒険者にどう関わってくるかが不透明だ。


 実際、王都にいた際は冒険者ギルドなどをさりげなく質問したが、「貴方方は王国が全面支援しますので無縁な場所です」と一刀両断された。

 その為、冒険者ギルドの情報はほとんど聞けずじまい。



「いや、勝つためには最低限のリスクってのはあるもんだ」



 今後の事を考えれば、冒険者ギルドとの関わりは避けられない。


 俺は意を決して冒険者ギルドへ足を踏み入れる。

 大きな三階建ての石造りの建物だ。とても立派で町の中では有数の大きさを誇る。中を見ると、バーカウンターのようなところがあり、その反対に窓口らしきものがある。


 不思議な事にギルド内は閑古鳥が鳴いている。

 俺は窓口へ行き、そこに座っているムサいおっさんに声をかけた。

 こういうとこって大体受付は女性じゃね?



「冒険者の登録をお願いしたい」

「あいよ。じゃ、これに登録名書いて。登録料一〇〇〇イリス」



 金とんのか。持っててよかったなけなしの必要経費。

 ちなみにイリスは通貨単位。



「どうぞ。お願いします」



 受付さんが金を受け取ると、いきなり説明も無しに羊皮紙を出される。

 そこには名前を書き込む場所とその横になんか丸くてQRコードのようなものがある。


 この国の文字は習って名前くらいは書ける。

 ここで本名を入れるのは少し怖い。


 まぁ、登録名って言われて本名とは言われていないので、さっと偽名を書いた。



「書きました」



 おっさんに羊皮紙を戻す。



「そんじゃ、ここに指置いて」



 おっさんは手のひらサイズの石の箱を俺の前に置く。

 そこには羊皮紙に合ったものと似た、QRコードのようなものがある。


 随分ぶっきらぼうだと思ったが、やけに忙しなく動いている。

 俺の受付以外にも奥の方で制服を着た数名の女性が忙しく動いていた。



「あの、何かあったんですか?」

「なんだ? あんた知らんのか? 昨日、凄い音が森の中で響いていてな。正体不明の怪物が出たかもしれないってんで、ギルド総員で事に当たってんだ」

「音?」

「ああ、ありゃきっと怪物の咆哮だ。最近この辺じゃ魔物が出るようになったからな。きっとその中の一つだ」



 咆哮とは奇怪な。

 少なくとも隣町から森を通ってきた俺はそんなものは聞いていないな。



「冒険者にも相当数出てもらってな。見てみろ。いつも賑わってるギルドもこのありさまだ」



 総員で事に当たっているってのは一大事だな。



「そんじゃ、ここの魔法印に指置いてくれりゃ登録完了だ。あとジョブはみんな最初は冒険者だ。その後、冒険者のステータスを伸ばして好きなジョブをゲットしな。タレントとも併用できるからな。まぁ、兄ちゃんにそんな大層なモノなさそうだけどな。ハハハハハハハ!」

「ハハハ」



 乾いた笑いをする俺は何も言わずに指を置く。


 魔法印と呼ばれたものが淡く光り、一瞬だけ強く光る。

 光が消えるとおっさんは石の箱を開ける。中には二枚式のドッグタグがあった。


 ドッグタグは鉄のようだが、色は異常にくすんでいて正直汚く思える。



「これで登録完了だ。デルタ・アヴェンジさん」



 偽名でも問題なかったな。ラッキー。

 バレないように頑張ろう。



「片方には名前と登録した冒険者ギルドと烙印が押されている」



 おっさんは指で示しながら説明してくれる。

 一枚目には冒険者ギルドの紋章。その裏に名前が書いてある。



「もう一枚は冒険者ランクと実績だ。実績が最新のもの。もしくは冒険者ギルドが知る限りの最大級の物が乗るんだ」



 もう一前には実績。ランクが書いてあり、その裏に実績らしい。

 俺はまだ実績が無いので思いっきり「実績無し」と書いてある。


 容赦ねぇな。空白でいいじゃんよ。



「君は今日から冒険者だ。さて、ギルドにはランクがあるんだが、その説明をするぞ」



 重要な話だ。

 できる限り簡素に答えてくれたようだが、それでも長々とした説明が終わった。


 オリハルコン=全体の1%。全冒険者の顔にして数多の偉業を成し遂げた英雄。

 ミスリル=全体の5%以下。高い実力と偉業達成を果たした英傑。

 ダイヤモンド=単純な実力のみで登れる一つの区切り。立身出世の象徴。

 プラチナ=超一級冒険者。国家レベルで優遇を得られる程の階級。


 ここまでが上位20%程らしい。


 (ゴールド)=一国の精鋭並の力がある一級冒険者。億万長者も十分可能なエリート。

 (シルバー)=第一線冒険者。生活にはほぼ困らない為、多くの冒険者の目標の一つ。

 (ブロンズ)=一人前冒険者。村や町で重宝される冒険者。全体の40%を占める。

 (アイアン)=半人前冒険者。ここからが真の始まりとも言われている。

 (ストーン)=全ての冒険者の始まりで駆け出し。



「お前さんは当然だけど(ストーン)だ。そんじゃ頑張んな。そのドッグタグは冒険者の証明だからなくすなよ」

「紛失のペナルティは?」

「ないぞ。再発行に金がかかるのと、登録やり直しになるからさっきの書類を書き直すくらいだ。実績は俺らの手元にあるから心配すんな」



 俺は頷く。余計な出費は嫌いだから無くさないようにしよう。



「首から掛けたいな」

「革とチェーンがあるぞ? 別料金だ。キーホルダーもあるぞ?」



 そう言って、ネックレスを革とチェーンを目に前に出してくる。



「ちゃっかりしてるぜ!」



 俺は笑いながらチェーンの方を買う。500イリス。意外とするな。


 ドッグタグは首から掛けて服の中に入れておく。

 あんまり見せびらかす必要もあるとは思えないしな。



「あ、そうだ。報酬なんかここで受け取るんでしょうけど、ドロップアイテム? みたいなものはどうすればいいんでしょうか?」

「ドロップアイテム? あ~素材とかか? そういうのはギルドに常設されてる換金所か直接店に持って行きな。その辺はこっちは関与しねぇよ。ギルドにとって重要なのは依頼達成だからな。まぁ、素材を売るのは既定額のあるギルドの方が安心だとは思うぞ? 店なら買い叩かれるかどうかは交渉力次第の自己責任だからな」

「……なるほど。わかりました。ありがとうございます。ちなみになんですが、なんか見た目が牛なんだけど明らかに小さい動物ってなんだかわかります?」

「あん? そりゃカカブーだろ? ロースが上手いんだロースが」

「……そっすか。ありがとうございます」



 食えるんだアレ。

 別にレアな奴とかじゃなかったか。

 まぁ、期待していたわけじゃないので別にいいだろ。



「それとな。冒険者は信用第一の世界だ。素行が悪いとそれだけで受注できる依頼とか、昇格に響くからな」

「昇格にもですか?」

「昇格は実績と三ヵ月ごとの昇格審査面接で決まる。受けるかどうかは受付で希望しな。んでだ。不正とかは言語道断だが、実力と実績があっても素行不良なら面接で落とされんだ。場合によっちゃペナルティだ。降格や免停、下手すりゃ資格剥奪とかブタ箱送りなんて事もあり得る。まぁ一番重要なのは実力と実績だがな。そんな訳で実力あるんだが(ブロンズ)止まりなんて奴は珍しくない。気を付けな」



 つまり、(ブロンズ)くらいまでは素行が悪くても留意されるってことか。


 (ブロンズ)が冒険者の中で一番多い理由には闇がありそうだな。

 俺は【シューティングプレイヤー】の特性上ソロが専門になるだろうから、その辺の信用と信頼は同業者の評価よりも顧客への態度で示すしかない。


 …………いやまぁ、偽名を使ってる時点で何言ってんだって感じだけどな。



「そうだそうだ。最後に冒険者は基本的にランクに合わない仕事は請けられないぞ。需要と供給の問題でな。だから、貯金ができて簡単な依頼で生活したかったら昇格辞退や自主降格もできるから頭に入れておきな」

「わかりました。ありがとうございます」



 意外としっかりとした制度だ。



「それではデルタ・アヴェンジ。冒険者ギルドはお前を歓迎する。簡単にくたばるなよ」



 受付は終了!


 俺は晴れて冒険者となった。

 すんなり行き過ぎて拍子抜けだが、無事に終わってよかった。



「なんだかんだで良い人だったなぁ」



 俺はそんな事を呟いて依頼を張ってあるボードの前に行く。

 手始めになんか依頼受けてみようかなぁ?



「……………………いや、止めよう」



 まだ王都との距離は近い。

 辺に噂が広まったら王都まで侵食して止めようがない。持ってる素材を適当に売って、適当に次の町を目指そう。

 そうして俺は電光石火で次の町を目指すのだった。



一方、その頃――――



「委員長。そろそろ復活してよ」



 委員長と呼ばれた少女。三鷹悠莉(みたかゆうり)は王都の城の園庭で一人でいた。

 そこに副委員長が現れて声をかける。



「だって……春樹くんが」



 どちらもまだ高校卒業前の十八歳の少女。

 同級生の死を受け入れるのは簡単な事ではなかった――まぁ嘘なんだが。

 だが、その中でも委員長の落ち込みは人よりもずっと大きかった。


 春樹とは幼馴染の関係で、中学以降は疎遠になっていたのは事実だ。だが、彼女にとっては最も親しい異性であったし、同時に数少ない心を許している男子だった。


 クラスでもあまり目立たない春樹だったが、一部の人間からは熱狂的な人気があった。その理由は不明だったが、一部から崇拝ともいえる感情を当てられていた。ほとんど男子だったけど。



「カンナ様! これから訓練なのですから逃げないでください!」

「はぁ? なんでアタシがそんなことすんの? めっちゃ疲れるし、汚れるからイヤなんだけど。汗かくしぃ」

「訓練なんだから当たり前です!」



 染めた金色のロングヘアーを振りながら、女性騎士から早歩きで逃げる少女。



「深谷さん。またサボってるんだ」

「……うん」



 春樹を失った悲しみもあるが、それに加えてなんとなくクラスがまとまっていないのも気分を落とさせる原因だ。


 王国ではビップ待遇だから忘れている人間が多いが、召喚された人間はみな戦う為の訓練している。

 ところが現実は訓練をサボる人間が多い。


 元々戦う意思が弱い。というより目先に吊るされたエサに食いついただけで、戦う事を真剣に捉えておらず、それに加えて強い力を持ってしまったのが原因で、全体的にどこか浮ついているのだ。


 先の春樹の死によって引き締まったところはある。

 きっかけがそれだけとは言わない。でも、とにもかくにも少しだけ真面目に訓練している。


 このようにクラスメイトの死が起爆剤になったのだが、それでも態度を改めない人間もいる。


 真面目に訓練しているグループは三鷹悠莉を筆頭とした委員長グループと呼ばれている少女たち。

 本田健太(ほんだけんいち)を筆頭としたオタクグループ。

 王様の期待を強く受けている瀬戸口龍一(せとぐちりゅういち)が率いる王国英雄候補グループ。

 そして、部活動グループ。


 一方、一部からはビッチ組と呼ばれている先ほどの深谷カンナが筆頭のグループと榎本敦史(えのもとあつし)筆頭の不良グループは訓練にいそしむ様子はない。


 元々、学校でも素行が良い方ではなかったので、その辺りは読めていたのも事実。


 重要なのは、サボり組の持つタレントだ。

 真面目な人達ほど期待をかけられるだけのタレントを持つか、パッとしないタレントを持つかで二極化している。


 特にオタク組はその傾向が強いが、気にした様子はなく、かなり熱心に訓練と研究を繰り返している。

 一方、サボり組に関してはほとんどが素晴らしいタレントを持っている。


 特に榎本敦史に関しては【猛将】【凶戦士】のタレント持ちだ。


 これが比類なきとてつもない力を持ったタレントであり、これのせいで訓練すら必要しないほどの実力を発揮してしまった。結果として、彼は好き勝手振舞う暴君となっており、国から渡される金銭。

 そして、色々な思惑を抱えた貴族令嬢と遊び惚けている。


 その抑止力となっているが、【勇者】【竜騎士】のタレントを持っている瀬戸口龍一だ。こちらもかなり強いタレントを持つ。


 火力という点では榎本に一歩劣るが、総合力なら上回っている。

 そして、瀬戸口は見た目からして異性から色眼鏡で見られる。これもまた榎本などの不良グループから嫌厭される原因と言えた。


 とにかく、今のクラスはバラバラだ。

 この世界に事実上誘拐されている事を考えれば強く責められたものではないが、それでも限度があるだろう。



「あ。いたいた。委員長」



 そこに現れたのはオタクグループの筆頭である本田だ。

 本田はかわいそうな立場の人で、真面目に訓練しているが不良グループやビッチグループからいいように使われている。

 当人たちは何とも言わないが、少なくとも悠莉にはそのように見えた。



「あのさ。これからまた色々外に出て訓練するんだけど、一緒にどう?」

「いいね。行こうよ委員長? 気分転換になるよ? みんなのまとめ役なんだしさ」



 副委員長からも勧められるが、悠莉は気分ではなかった。

 それでも誘ってくれた事と、このままではダメだという思いから承諾する。だが、同時にもう一つの感情が渦巻く。


 統括という役割に何故自分は自然と収まっているのかという疑問だ。

 やさぐれている状態の悠莉の心は今まで疑問に思わなかったような事にすら、疑念や不信感を抱かせる。


 悠莉は首を振って、邪念を追い払う。



「うん。分かった」



 一度だけ春樹へ声をかけた時の返答を思い出す。


 ――――他人に合わせてたらダメ。決別したっていいから行動しねーと。


 その言葉を思い出し、悠莉は装備をするため自室に戻るのだった。

 だが、確かにそこに軋みは生まれ始めていた。







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