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レベルとかスキルとかを考える


 異世界転移から二ヵ月が経った。


 文明的には大体十八世紀直前。いや、十七世紀くらいだろうか。

 この異世界の文明は歪だった。


 建築物や文化などの文明的には産業革命が起きたような時代の雰囲気だ。だが、中には中世のような技術形態も多くあり、あるところでは近代で、あるところでは中世で、あるところでは中世以下という事もあるほどだ。


 簡単に言えば、スチームパンクと剣と魔法の中世ファンタジーがゴチャ混ぜになってる。


 そんな世界で二ヵ月…………俺は死んだのだった。

 洞窟が崩れて瓦礫に埋もれる――――そんな形で古河春樹は死んだのです。


 今は自動車に揺られて長い道のりを進んだ後、王都から離れた暗い酒場の隅っこでステータス画面を確認していた。


 屋上には蒸気が立ち込めて、若干湿度の高い。

 蒸気を逃がす排気口は明らかに数が足りておらず、厨房辺りからはプシュープシューと蒸気の噴き出す音が絶え間なく聞こえてくる。しかし、気にする人間は誰もいない。


 周辺には甲冑や胸当てを装着し、剣やら斧やらの物騒なものを背負った男女が数知れず。店や町角に密集している蒸気機関に似合わなぬ様相。

 これらがゴチャ混ぜということだ。


「髪色は緑にしてください。ちょっと薄目の奴で。髪は両サイドを刈り上げてもらって、全体的に短めにお願いします」


 俺は美容師さんにそう告げる。


 え? ホントに死んだ訳じゃないよ? 当たり前じゃん?

 まぁ、あれですよ。死を偽装するという事をやってのけた訳ですよ。


 今は偽装の為に念を入れて、髪色を緑に染めて、髪の切ってもらってる。元々切ろうと思っていたので丁度いいけど、ここまで短くしたのは久々だ。


「こんな感じでよろしいですぅかぁ?」


 ちょっとネットリとした喋り方の男性美容師さん。だいぶ腕がいいと思う。触り方と喋り方が気になるけど。


「ありがとうございます。満足です」

「よかったぁ。これ特殊な魔法の染料材でぇ、半年くらいは髪が生えても染まったままだからぁ。しばらく染め直しはいらないですからねぇ」

「はい。助かります。これお代です」

「は~い。またどうぞぉ」


 脱出にはタレント【ギャンブラー】のスキルが役立った。

 結果的に死を偽装して城から逃げ出して当初の目的通り、魔王と戦うなんて馬鹿な事から脱出したわけだ。


 次の目標はこの国を出る事。そして、最終目標は地球への帰還だ。


 美容院を出た後は適当な酒場で飯を食いながら、スキルアップの行う事にした。


 間違いなくメインとなる【シューティングプレイヤー】のスキルを中心に伸ばす。

 この【シューティングプレイヤー】を一言で表せば、【銃撃者(ガンナー)】のようなタレントだ。


 銃器を使用した戦いを主とするものらしいが、なぜ【シューティングプレイヤー】なのかは不明だ。

 その点は考えても分からないし、使っていけば分かるようになるので保留。

 コイツが俺の主力になるので、【シューティングプレイヤー】を中心に鍛えていく。


 まず、この世界では通常レベルがある。これがいわゆる身体能力などの向上数値のようなものだ。筋トレをしてもどれくらい鍛えられたから自分では分からないが、この通常レベルで分かるようになるって訳だ。


「攻撃力や防御力のステータスは存在しないんなら、あんま意味ないけどなぁ」


 RPGは専門外なのでよく分からない。

 この通常レベルが上がるに乗じて、全てのタレントが細やかに伸びていく。

 ただ、残念ながら【シューティングプレイヤー】は伸びが良いとは言いにくい。


 この世界は剣と魔法が中心の世界だ。

 大砲程度の重火器は存在しているが、携帯火器というのは存在していない。なので、そもそもの伸ばすのに苦労する状態だ。


 レア度はともかくとして、この【シューティングプレイヤー】をバレたくなかった俺は狩人という嘘をついて弓を支給してもらい修行に励んだ。だけども、やはり伸びは悪い――その時の騎士の残念そうな顔は忘れてやらねぇ――もちろん、ただ剣を振り回すのに比べれば少しは成長する。


 まずはタレント以前にレベルアップについて考える必要がある。

 これが非常にめんどくさい。


 タレントの効力を最大限発揮するにはスキルの習得が必須だ。

 これにはスキルポイントとタレントレベルが影響してくる。


 まずはスキルポイント。

 これはスキルポイントとはスキルを覚える為のポイントだ。

 スキルポイントを貯めるにはタレントに適した行動を取ったりスキルを使ったりしていく事で、ほんの少しだけ貯まるようになっている。


 現在のスキルポイントは230ポイント程貯まっている。


 次にタレントレベル。

 これはタレントレベルが上がると獲得可能なスキルの数が増える。


 タレントレベルを上げる方法もとにかくタレントを使い続けることだ。つまり、スキルポイントが貯まっていても、タレントレベルが低いとダメ。タレントレベルが高くてもスキルポイントが無ければダメ。そんな二重苦。


 さらにスキルには熟練度がある。

 この熟練度がスキルレベルに該当する。これが上がるとスキルがパワーアップすることもある。


 まとめると、タレントレベル、スキルレベル、熟練度。

 この三つを上げないと強くなれない。

 ほら、めんどくさいシステム。


「通常レベル7。【シューティングプレイヤー】レベル2。【ギャンブラー】がレベル3。【ジャマー】【ビルド】はレベル1」


 俺のレベルはそんな感じだ。


 通常レベルは戦ったり、身体を鍛えれば上がっていく。


 タレントレベルはタレントを使用する事で上がる。


 それと一緒にスキルポイントがたまり、熟練度を上げればスキルがパワーアップ。

 そんな認識で十分だろう。


 そして、ついに【シューティングプレイヤー】がレベルアップし、スキルを習得できるに至った。

 念願のスキルを獲得したのだが。


「なんだ……ハンドガン?」


 目の前にはハンドガンと表記されたステータス画面。しかも、使用するスキルポイントはゼロだ。


「よし」


 俺は店を出る。

 貴重な【タレント】は相応の価値があるし、現在逃亡生活中だ。だから、万全を期す必要がある。妥協したら死ぬ。ゲームでも同じだ。


「スキル獲得」


 人気のない場所でステータス画面からスキルを獲得する。

 すると目の前にハンドガンが現れた。


「ベレッタM9?」


 その途端、ステータス画面に「名前を付ける」と出現する。


「え? ベレッタだろ?」


 しかし、ステータス画面は動かない。

 これはもしかしてオリジナルネームを付けないといけないのだろうか?


「え~、めんどぉ…………う~ん。じゃスパロウ」


 俺の言葉を認識したのか、ステータス画面は解除完了と表示される。

 余談なんだけど、さっきから表示されるの全部日本語なのはなぜなのだろう?


 さらに留まる事を知らないステータス画面さんは【実績解除】という表示を出す。

 なんだこれ? ギャンブラーの時はなかったぞ?


 その途端、獲得可能のスキルの項目が一気に増える。


「うおっ…………一気に三つ開放?」


 先程まで三つしかなかったのに、合計六つも獲得可能になった。

 これが異例な事かどうかはさておき、スキルポイントは十分にある。

 ステータス画面を凝視して、獲得可能スキルを確認する。


「えっと、〈クイックリロード〉。〈弾丸数増加〉。〈早撃ち〉。これが元々あったヤツで、増えたのが〈グリップ強化〉と……アサルトライフル? サブマシンガン?」


 100ポイントも使用するが、そこにはアサルトライフルとサブマシンガンの表記があった。


「これだろ!」


 即決である。

 俺はアサルトライフルを選択すると、手元にアサルトライフルが出現する。


「HK416?」


 手元に出現したのは各国軍隊御用達の名銃である。

 ステータス画面に「名前を付ける」と出現する。


「また? じゃあ……フォックス?」


 ぶっちゃけ適当であるが、ハンドガンと同様になんとなく言いやすい。

 そこで終わらないのがステータス画面くんだった。


「武器が無い問題。速攻解決! あら?」


 新たに【実績解除】が出る。

 そこで出てきたのは〈高速移動〉とスナイパーライフルとショットガンだった。


「おおぉう!?」


 これは是非欲しい! ……と思ったけど踏みとどまる。

 いや、検証もしてない状態で次々武器を出してていくのは問題じゃないか?


 ただのゲーマーがいきなり銃を使用できるか不安だ。

 軍人だってたくさん訓練して銃を使用しているはずだ。

 そもそもリアルとゲームを一緒にするのは間違ってんだよ。


「アサルトライフルも色んな距離に対応できるはずだし……よし。武器は保留。こっちにすっか」



 俺は〈クイックリロード〉と〈早撃ち〉、〈グリップ強化〉を獲得。


「う~ん。スキルは獲得するまでどんなもんか分かんねぇのがネックだよなぁ」


 俺が悩んでいるのは〈高速移動〉のスキルだ。獲得しておきたいのだが。もし自分の予想と違う効果だったらと思うと若干躊躇われる。


「…………選択肢は多いに越したことないか」


 しょうがない。〈高速移動〉も獲得しておこう。


 これでスキルポイントはゼロとなった。


〈クイックリロード〉

 装填速度が強化される。


〈グリップ強化〉

 安定感が増すのだろう。


〈高速移動〉

 早く移動できる。


〈早撃ち〉

 初撃のみ身体速度とエイム精度が上昇して高速撃ちが可能。


 実は銃ってのは近距離になると結構弱くなるのだ。


 俺はサバイバルゲームもやったことがあり、参加していた元自衛官が教えてくれた。

 元自衛官曰く、ホルスターにしまってある銃の場合、大体半径十メートルくらいならナイフの方が強いらしい。ホルスターにしまっていなくても、五メートルくらいはナイフの領域だ。


 それら接近戦用対策として〈早撃ち〉だ。

 これがあれば近距離の対応できるのではないかという期待を込めて選択した。


「まぁ、近づく気はゼロだけどな」


 銃使いが近づいちゃダメ。

 遠くから姑息に狙い撃って終わりにすればいいのだ。


 基本的に近づかず、遠くから観察し、確実にキル。


 最終的に勝てるなら一発で仕留めても、十発で仕留めても、ギリギリで仕留めても、一方的に仕留めても、それは等しく同じ勝利だ。


「てか、これどうしたらいいんだろう?」


 銃を持っていくにしても、それなりに重量はあるし、何より目立つ。

 何故かスチームパンクがあるのに銃が無い世界なのだから余計に目立つ。全く失念してたが邪魔になるな。と思った瞬間、銃が手元から消えた。


「あらぁ、便利ぃ」


 これなら色々な銃を持っても問題ないな。だが、疑問はある。

 この【シューティングプレイヤー】というタレントはそもそもスパロウなんかの重火器がメインなのだろう。ならば、何故レベル2まで上げないと修得できなかったのか意味が分からない。


 弓で鍛えてレベルが上がれば銃が出る。

 RPGはあまり詳しくない俺でも、そういうもんかと飲みこめない位におかしい事が分かる。だけど、考えても答えは出てこない。


 謎が多いタレントって言うのも若干怖いが、俺にとって大切な才能。大事に使わせてもらうじゃないか。


「よし。次の町に行くついでに色々やってみるか」


 とにかく王都から離れていく方が正体がバレずに安全だ。


 それに銃は発砲音がある。

 スチームと剣と魔法の世界で、火薬の爆音なんぞしたらパニックになるのは察しがつく。


 王城で支給された金や軽装備一式があるので、装備品はとりあえず事足りる。地図はないが、次の町までは道なりに行けばいい事が分かっているので問題ないだろう。


 町からある程度離れた場所で、銃の練習をしよう。


「それじゃあ、出発ぅ」


 そう言って町から歩いて次の町へ向かう。

 そんなに遠くないので二日もあれば到着するだろう。


「はぁ、【ビルダー】めぇ」


 思わず苦渋な声が出てくる。

 できれば俺も歩きたかねぇ。だが、【ビルダー】のタレントには物を作ったり建築したりする以外、キャンプなどをすることによって身につくスキルもあるらしい。


 物作り全般の才能を示す【ビルダー】は結構ポピュラーなタレントなので、情報はそこら中から手に入った。

 ただ、【ビルダー】は物作り全般ができるタレント。つまり、【ビルダー】は良く言えば万能の物作り、悪く言えば貧乏起用の物作り職人なのだ。


 世の中では【ビルダー】よりも【鍛冶職人】や【建築士】という特化型タレントの方が需要があるらしい。


「まぁ、使い方次第だしなぁ」


 この国から出る。それが現状での最重要事項だ。

 国を出る以上、【ビルダー】も最低限の自営スキルと装備やアイテムの〈修繕〉くらいが身に付けなければならない。


 身に着ける為には、とにかくガンガン使いまくるしかない。


「さて」


 こう見えても俺はキャンプには一日の長がある。

 プロゲーマーだからインドアという訳じゃないのだ。

 恐らく【ビルダー】のタレントもこの辺から来ていると推測している。


「薪、集めとくか」


 日本のように街灯がある訳ではない。

 ともかくすぐに野営ができるようにしておくべきだろう。


 道中で薪を集め、革袋に入れて置き、火種もあれば集めておく。

 そして、歩けばあっという間に夕暮れになった。


「ここをこうして、テント完成!」


 すでにある程度のキャンプポイントを決めて、テントを作っておく。

 季節は春らしいが、日中よりグッと気温の下がるので、弾を取るために火を焚き、飯盒のようなもので、道中で手に入れて山菜と肉を入れてスープを作る。


「日本と同じ山菜が生えてんだな」


 知識は力なり!

 そんなにたくさんの知識がある訳ではないが、腹を満たすには十分だ。

 出来上がったスープを一口。干し肉の程よい塩分が体に染み渡る。


「うん。美味い!」


 食事を終えた頃、その瞬間は訪れた。


 ――――【ビルダー】のレベルが上がった。


 と頭の中に文字が浮かび上がる。

 レベルアップはこんな感じである。しょぼいのである。


「ステータス画面は……おお、〈ビルダー式自営術〉か! これいいな。ん? 待てよ。〈浄化〉?」


 これはなんだろう?

 残念ながらスキルはその説明までは出ない。

 手に入れるまではスキルの内容が分からないのだ。不便である。

 名前がもっと分かりやすけりゃいいのだが、そんなに甘くない。というより親切じゃない。


「浄化? 浄化……ジョウカ?」


 分からん。だけど、このスキル、意外とスキルポイントを持っていく。

 それはつまり、結構重要なものなのではないかと予測。


「よし」


 俺は〈浄化〉のスキルを取ることにした。

 ステータス画面にその説明が出現する。


「〈浄化〉は……ああ! 水を綺麗にできるのか!?」


 試しにほんの少し残っている冷めたスープで試してみる。

 すると先ほどまで味のついていたスープが、ただの水になっていく。


「あ~、こりゃ便利だ。良いもんゲットした。残りのスキルポイントは……う~ん」


 スキルポイントから言って、〈自営術〉と〈修繕〉のどちらか一方しか取れない。

 正直、キャンプは今のところ問題ない。

 焦って〈自営術〉を取る必要があるかと言われれば疑問だ。

 〈修繕〉は装備やらそう言ったものを簡単に修理できるものだろう。だが、問題は〈自営術〉だ。


 キャンプと自営術は若干違うのではないだろうか?

 もしかしたら、俺の思っているブッシュクラフト的な能力とは違って、もっと大規模なものだったら?


 大規模であると自営を行うにしても時間が取られる。

 あくまで必要なのは先に進むことであり、その場に留まる事ではない。ならば、別に急ぐ必要はないのでは?


「…………〈修繕〉にしよう」


 悩むがこっちだ。

 手持ちの金なんかにも限りがあるし、これで簡単な修理ができるなら節約できる有用なスキルだ。


 〈修繕〉のスキルを獲得し、これでスキルポイントは使い切った。


「意外とスキルポイントは早く貯まるな」


 とにかくタレントを使いまくる事が重要なのだ。

 ただタレントを使うというより、それに関連している行動で貯まっていくのかもしれない。


 いずれにしろ慎重に選ぶのも一つの手だが、大胆に使い事も時には必要だ。

 スキルポイントを貯めるのは良いけど、余してしまうのも意味はない。


「さて、寝るか」


 少しづつ進んでいる。だが、目的は戻る事だ。

 元々リアルが充実していなかったなら、戻ろうなんて思わなかったのだろう。きっと、家族程度なら未練の内に入らないのかもしれない。


 少なくともプロゲーマーとしても学生としても不満はなかったし、趣味もあったので楽しかった。

 プロゲーマーとしての大会賞金の貯蓄もあったし、大学だって決まっていたのだ。

 なのにこんな事になって、実に不愉快だ。


「絶対、地球に戻ってやるからな」


 改めた決意の元に、寝袋で一夜を明かすのだった。








この本に奇跡的に辿り着いた読者の皆様。

よろしくお願いいたします。

誤字脱字や色々なミスがあるかもしれませんが、一生懸命書かせていただきます。

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