崩壊
「おいおい真琴さん、朝からやってくれるじゃねぇかよぉ」
保健室で新しい、といっても学校に置いてあるやつだが制服に保健室で着替えさせてもらいその後プールにダイブしたことが生徒指導の先生にバレてしまい生徒指導室で反省文を書かされて突っ伏している俺にクラスメイトが話しかけてきた。
「噂によると西条と学校まで朝からデートしてたそうじゃねぇかぁ、羨ましいねぇ」
「んなわけあるかよ、なんならお前に代わってほしいわ」
「変われるのなら変わりたいなぁ、なんつって」
人が落ち込んでいる時に嬉しそうに痛いところをついてくるこの変人は山下 祐輝山下 祐輝という。幼稚園からの腐れ縁で、自分で言うのもなんだが仲は悪くないと思っている。
「で、今度は何言ったんだ?この前は確か、ブラの色がなんだのこうたら言ってたな」
あーそんなこともあったな。
「ブラジャーが黒なのがシャツ越しに見えてたからお前それ誘ってんの?って教室で聞いて10秒後気づいたらプールに浮いてたやつね」
「そう!それ!お前まじで何やってんだよ!」
腹を抱えて笑う山下を横目にバッグの中を確認した。教科書やら中のものは無事らしくいつものようにそこに収まっていた、1つを除いては。
「でも可愛いとこもあんだよな...」
「ん?なんか言った?」
「いや、なんでもない」
バックの中には ごめんm(_ _)m と顔文字付きのメッセージが書かれた付箋のが貼られている弁当箱が入っていた。
午前中の4教科は数学、物理、化学、古典とだるい教科のオンパレードだったことからか、はたまた昨日の事や朝の出来事で頭がいっぱいだったためか授業の内容はほぼ覚えていない。そんな浮ついた気分のまま昼休みを迎えた。
山下が食堂に誘ってくれたが今日はパスし屋上前の踊り場へ向かった。うちの高校は屋上への出入りが生徒は基本禁止のため屋上へ出ることはできない、それ故に昼休みにわざわざこんな所に来る物好きもいない。なので1人になりたい時や考え事をしている時などはよく来る場所だ。
俺は使われなくなった椅子に腰掛け綾乃の作ってくれていた弁当を開いた。そこには不恰好な卵焼きやおそらくはタコさんウインナー?のような物が入っていた。綾乃はあまり料理が得意な方ではない、裁縫や編み物も、細々した作業は苦手なのだ、長い付き合いだからわかる。朝迎えに来た時に隠していたつもりだったのだろうが左手に絆創膏を貼っていたのも知っている。だから俺はこの弁当がどれだけ黒かろうがボロボロであろうが食べる義務があるのだ。
「いただきます!っ」
パン!ッと両手を合わせて合掌したのと同時にポケットに入れていた携帯が鳴った。だが携帯の電源は落としているはず...
「あ、これ...」
そこには昨日手に入れた端末、<J>があった。
「範囲内に敵性反応あり、、、高エネルギー反応。衝撃に注意してください。」
「お前、めっちゃ話し方自然になってんじゃん、てか衝撃って...」
なんだよ、そう言いかけた途端学校が大きく揺れた。
「!?っ...おい!何だよこれ!」
「敵のタイプはノーマル、危険度は下位、主にエネルギーを体内に蓄積、放出する攻撃型。」
「それどこじゃねぇだろ!校庭でなんか黒いの暴れまくってんぞ!」
5秒間に1回程度の速度でエネルギー弾を放出している黒くてなんかドロドロしてる人型のような物体が校庭の真ん中に現れていた。
「てか、お前、あれ...!!ッ」
次の言葉を発する前に俺は走り出していた。黒い物体、その真ん中にちらっと確かな人間が見えた。茶髪のロングで右手にシュシュをつけている何よりその女子は見覚えがあった、無いはずがないのだ。
「綾乃...!ッ」
そう、その女子は綾乃だった。
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俺が校庭に向かうと能力値のある生徒達が端末を起動し、次々に黒い物体に炎や雷などの攻撃を始めていた。しかしその攻撃たちは全て着弾前に跳ね飛ばされてしまう、教員が隙を見て背後から炎を打ち込んだ時だった。
「キャァァァァア!」
上がったのは黒い物体の悲鳴では無かったそれは確かに綾乃の声だ。
教師は気づかないのかここぞとばかりに炎を打ち込んでいく。このままでは綾乃が...
「やめろ!っ」
「どけ!お前がやられるぞ!」
「先生!今の声聞いたんだろ!あれは生徒の声だ!あんたは生徒を殺すのか!っ」
「ぐっ...」
その時だった。
「ま、こと、にげ...」
「!?」
確かに綾乃の声がし、黒い物体の方へ振り返ると上半身のみ体が乗り出した状態で綾乃がいた。
「綾乃!!」
「いい、わ、たしは、イイカら、早ク」
そういうと綾乃は笑った、そしてまた黒い物体の中に引き戻された。
何がいいんだよ、何が逃げろだよ、いつだってそうだ、俺はいつも迷惑をかけてる、朝の遅刻もそう、弁当も、勉強も、いつも綾乃に頼りっぱなしだった。今だってそうだ、私はいいからお前は逃げろって笑顔で...。でもそんなの笑顔なんかじゃねぇ。涙が出てる笑顔なんて、笑顔なんかじゃねぇ!
「綾乃を、返せぇぇぇぇ!ッ」
俺は何の考えもなく突進していた。だが端末の攻撃を防いでいるこの黒い物体に突進は届くことはなく、エネルギー弾で吹き飛ばされた。
強い衝撃が背中に走る、背中が熱い、体から温かいものが抜けていく感覚がある。
「けっきょ、く、お、れは、あ、やの」
「<コネクト>発動可能域に達しました、発動者の心拍数低下、<コネクト>停止、緊急プログラム<J>発動。発動者のエネルギーから逆算、行動可能時間30秒です。」
そこで俺の意識は途絶えた。