episode98 ただいま
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「リベリオンを出発して三日…そろそろ集中が切れてくる頃か。シムル、大丈夫か?」
「は、はい!こう見えても、奴隷だった頃にこういうことは何度もあったので慣れてます!」
「そうか。辛かったら遠慮なく言え。別に、無理をするような場面でもない。好きに甘えろ。」
修行の期間はあっという間に過ぎ、『ゾーウモス』討伐へ向けて出発してから早三日。
今回は、荷物を馬車の方に回しているため、殆どのものが歩きで、シムルも例外ではない。
最初は、レオも馬車に乗るように進めたのだが、シムルが拒否したので、疲れが見えたら強制的に乗せるという約束で、レオの隣で歩いている。
『ゾーウモス』が生息するのは、王国と獣人国の間。どちらかと言えば獣人国よりの、森の中だ。
ゾーウモスが生息することで、木々以外の生物は存在せず、【死の森】と呼ばれるこの森の真ん中に違和感を発する山のような巨体をした神獣こそ『ゾーウモス』。目に入る動くものを、無差別に殺す超攻撃的な習性がある。
「丁度昼時か。ウムブラ、全員にこの先の平原で昼食。昼食の準備中に、もう一度『ゾーウモス』についての確認を行う。」
「了解シタ」
ヴィデレから譲り受けた懐中時計を見ながら、レオは、ウムブラに伝達を頼む。
明日の夜には、『ゾーウモス』が生息する【死の森】に到着する。
事も事なので、念には念をと、もう一度全体で『ゾーウモス』について確認を行うようだ。
「シムル。分かっているとは思うが、貴様は明日の昼で一度、【ナナルの街】で、荷物持ちと雑務の連中と共に残ってもらう。【ナナルの街】は、『ゾーウモス』の生息地から一番近い街で、賑わっている訳では無いが、貴金属の類が有名だ。少し金を渡しておくから、好きに見てくるといい。」
「やっぱり、待たないとダメですか…?」
「当たり前だ。それとも何だ、貴様は俺達が死んで帰るとでも言うのか?」
「い、いえそんな事は…そんな事はないんですけど…」
懐から、お金の入った小さなポーチを取り出すと、それを横のシムルに手渡すレオ。
だが、それを受け取ろうとはしないシムル。レオの顔を見つめ、今にも泣きそうな程悲しそうな顔で、レオの服を掴み、やり場のない気持ちに戸惑った様子を見せる。
シムルは、レオを信じている。それは確かな事だ。
だが、シムルだって不安だ。
もし…。
そんな事を考えたら、夜も眠れない程、不安なのだ。
シムルにとってレオは、物語の王子様のような人。
両親の経営難による借金により、両親共々奴隷になったシムル。
最初はまだ三人一緒だから何とかなる。そんな事をまだ小さかったシムルは思っていた。だが、奴隷になって一ヶ月経った時、シムルと両親は引き裂かれ、別々の奴隷商へと連れていかれた。
両親と別れ、貧しくも幸せだった生活ともかけ離れた孤独な小さな檻の中で過ごす。それは、小さかったシムルにとって、どれだけ苦しく、辛い経験だったのかは、計り知れない。
そして、グランに購入され、慰みものにされて自分の人生は幕を閉じるのだと悟ったシムル。
だが、そんなシムルを人生のドン底から救ったのはレオだった。自分を、奴隷として解放するだけでなく、職を与え、自分の居場所を作ってくれた恩人。
腐った国を変えるために立ち上がり、シムル達、元奴隷が不遇にならないように。多くの者が幸せになるように。
レオにとってロゼを救うのが一番なのだろう。だが、シムルには、それだけには思えなかった。
「私は…レオ様に感謝をしています…一生かせても返せないような恩があります…」
先日、レオが一つの鉱山へシムルを連れていった。
最初は訳がわからなかったシムルだが、ある人を見た瞬間、シムルは、涙と笑顔で顔がぐちゃぐちゃになった。
「今では、鉱山の方に雇われていてな。厄介なことに正式雇用されている。お陰で、無理矢理連れて帰る訳にもいかなくてな。悪いが、遠目で見るだけで許してくれ。全てが終わったら、きちんと会わせてやる。」
レオが、シムルに見せたのは、鉱夫として働く父の姿。そして、その近くで鉱夫達の料理を作っている母の姿だった。
ウムブラや、様々な人に合間を見て協力して貰い、少ない情報から、シムルの父母を見つけ出したレオ。
シムルは、三年以上振りに見る父母の姿に涙が止まらなかった。
「今は、貴様を奴隷から解放するために少ない金を貯金しているそうだぞ?」と、ますますシムルを泣かせるレオ。
生き別れた父母に会わせてくれ、本当にレオへの感謝の気持ちが限界を超えたシムル。
そして、感謝と同時に、今まで自分はレオの役に立つだけの小間使いだと我慢していた『恋心』が溢れ出した。
「レオ様に死んで欲しくない…もう、戦場には行かないでほしい。戦わないでほしいそんな事を思ってしまう自分がいるんです!」
「…。」
「私は、レオ様をお慕いしています!どうしようもなく、レオ様が好きです!だからっ…レオ様には戦った欲しくない。傷ついて欲しくない…初陣の時も、レオ様が帰ってくるまで、まともに眠ることができませんでした、食事も喉を通らなくて…我儘なのは分かっいるんです…戦わないことができないことも…!だからせめて、私を連れていってください!レオ様と同じ場所へ!」
まだまだ子供だと思っていたシムルも、今年で十三歳。
レオの気づかない間に、随分と身長も伸び、痩せこけていた体は、女の子らしくなっている。
(俺は、シムルに感謝の気持ちを示していても、シムルのことは何も考えていなかったんだな。)
身の回りの事をシムルが支えてくれた事で、レオがどれだけ修行に打ち込むことができたことか。
シムルの行動に感謝をしていても、シムル自身のレオをどんな風に思い、支えてくれていたなんて考えもしなかったレオ。
レックスが、レオにいった「子供の成長は早い」。そんな言葉が、レオの頭の中で思い返される。
「貴様と俺は、いつでも繋がっている。いや、俺達をアイツが繋いでくれている。」
その場で膝をつき、シムルと目線を合わせ、シムルの藍色の瞳から零れる涙を人差し指でそっと拭うレオ。胸元から、【R】の文字が刻まれたペンダントを取り出すと、シムルに見せる。
「誰かが俺の帰りを待ってくれている。そう思うだけで、俺は、いつも以上の力を発揮できる。貴様が、俺のところに来ては、誰も俺を待ってくれる奴がいなくなる。いつも心配させて悪かった。これから、何度も辛い思いをさせるだろう。だが、俺の帰りを待ってくれないか?約束しよう…必ず帰って貴様に言う。『ただいま』と。」
泣きじゃくるシムルの頭を撫でるレオ。
「ずるいです…そんな言い方されたら、断れません…」
「あと言っておくが、貴様も俺にとって守りたい大事な一人だ。その事を忘れるなよ。」
最後には笑顔を浮かべ、自分もペンダントを取り出してレオをに見せるシムル。
そんなシムルを見て、レオを少し口元に笑みを浮かべると、一言そう行って、皆の待つ平原へ歩き出す。
「…本当にずるいです」
シムル、十三歳。
レオの小間使いとして、レオの生活を支え、レオに恋する女の子。
シムルは、また一つ、成長する。
明日で祝100話!




