episode88 自信
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「情けない声を出すな…まだ、負けてないぞ。」
「総督!!」
「バッ!?確実に死んだはずだぞ!!」
ブローディアが、魔槍を使って生命力を削り、倒したはずのレオ。
そのレオが、地面に倒れたままとは言え、声を出したことに驚きを隠せないブローディア。
「槍を掠めた程度で、俺に勝ったつもりか?敵の大将を倒したのなら、首でもはねて持って行くべきだったな。」
地面にネーザを突き刺し、それを支えにゆっくりと立ち上がるレオ。
「貴様らもだ。何を絶望に直面したような顔をしている。特に、ベッルス…そんな腑抜けた態度をとるなら、『デクストラ』のリーダーは、ウムブラにでも変わるか?」
回復魔術を体に施しながら、フラフラと立ち上がるレオ。
「ッ…!!」
「ブローディア殿…。本当に彼を倒したのですか?」
「ああ。だが、これはもう別人だな…。」
ボロボロのレオを見て、ブローディアとミールは、警戒心を最大まで高め、武器を構える。
レオは、普段クールだが、戦闘になると熱くなる性格だ。
肌に突き刺さるような殺気と威圧。頭は冷えているが、心は太陽のように燃え上がる。それがレオの戦闘スタイルであり、スタンスだった。
だが、今のレオは、まるで別人のように冷えきっていた。
頭も、心も冷えきっているレオ。冷静沈着を通り過ぎて、瞳の奥には闘志すら見ることができない。
だが、ミールとブローディアは、警戒を緩めるどころか、より一層強めていた。
二人の背中から溢れ出す汗。説明のつかない圧迫感に押し潰されそうになり、呼吸が早くなっていく。
(なんなんだよッ…今まで感じたことのネェ、この気持ちの悪サッ!前までのやる気も、闘志も感じられネェ、心臓を抉るような殺気も威圧も無くナッた…だけど、なんなんだアイツの発しているオーラは…まるで、どでかい山を相手にしているような感ジッ!!)
まどろみの世界の中、レオが掴んだもの。
【魔眼】のような大きな力を手に入れたわけでもない。
特別、レオの何かが変わったわけじゃない。
レオは、気づいたのだ。
死に物狂いで手に入れた力と経験は、全部自分の血肉となっているのだと。
絶対に負けられないという責任。
戦闘中でも少しでも強くならなくてはという焦り。
強くなれない自分への怒り。
その全てがレオを、レオの実力を押さえ込んでいた。
だが、レオは気づいた。
責任も、焦りも、怒りも、全部杞憂だったと。
ちゃんと強くなっている。自分は強い。
荒れ狂う暴風のようだったレオは、それに気づき、凛と佇む大樹のように落ち着いた。
「そもそも、負けるはずが無い。」
これまでのような慢心では無い。
(そう、負けるはずが無い。勇者だろうが、魔王だろうが、誰にも負けないくらい修行をしてきたのだから。)
自信。
レオは、自らの行いを信じたのだ。
その自信が、押しとどめていたレオの実力を、解き放った。
『不倒』。決して倒れることのない、自信という一本の柱を手に入れたレオは、ブローディアの感じた大山のような、存在感を放っていた。
☆
立ち上がらないでくれ。
僕の憧れを壊さないでくれ。
何故、立ち上がるんだ。
醜いだけじゃないか。
僕の求めた美しさはこんなはずじゃない。
☆
ベッルスがまだ中等部の頃の話だ。
父に連れられてやったきた初めての戦場。
ベッルスはそこで、戦場に咲く美しい一輪の花を見つけた。
圧倒的な速さ。強さ。返り血を浴びることなく、汗をかくことなく、服にシミを付けることなく敵を蹂躙していく姿。
ベッルスは、そんな彼の戦いに美しさを感じた。
そして、ベッルスは、彼に憧れた。強い憧憬を抱いた。
彼の名は、レイオス=フィエルダー。
十歳にしてフィエルダー伯爵家の当主になり、戦場の最前線で戦ってきたベッルスの憧れ。
ベッルスは、レオに憧れを抱いてから、戦いの中に美しさを求めるようになった。
戦いの中で美しくあるためには、強くならなければならない。を信念に、ベッルスは、強くなるために修行を積んだ。
常に美しくあるために。憧れに近づくために。
そして、ベッルスの元に一つの知らせが届いた。
レオが、王国に反旗を翻し、反乱軍を作ったということ。その仲間を募っているということ。
ベッルスは、家のことなどかなぐり捨てて直ぐに、リベリオンに参加した。
レオの元で、レオの近くで戦える。そして、間近であの美しさを見れる。その喜びでベッルスはいっぱいだった。
(なのに、何故君は、そんなに汗まみれ、血にまみれ、泥だらけで、傷だらけなんだ?)
必死に抗い、戦い続けるレオ。
その姿は、かつてベッルスが憧れたレオとは程遠かった。
「だけどッ…」
(何故僕は、そんな彼を美しいと感じるのだろう…!!!)
「そうかッ…そうだったのかッ…」
(そういう美しさもあるんだ。君は、僕の友は、やっぱりいつまでも僕の憧れなんだね…)
過去の憧れに別れを告げ、新しい憧れに挨拶をしよう。
そして、過去の僕に別れを告げ、新しい僕に挨拶をしよう。
「ここは僕に任せろッ。君たちは撤退の準備をッ!」
「ベッルス、もボロボロじゃん!」
「無理良クナイ」
「フッ、僕はあいつらに見せてけないといけないのさッ!」
ベッルスは、真紅の髪を掻き上げ、白い歯を見せて笑う。
「美しい花には、棘と毒があるってことをねッ!」
ベッルスの真紅の髪の半分が、紫色に染まる。
「ベッルス。そっちは任せたぞ。貴様ら!ベッルスの言う通り、負傷者を連れて撤退の準備をしろ!」
「仰せのままに…我が友、レオよッ!」
章タイトルでもある『憧れ』が出てきました!
クライマックス戦闘始まりマース!




