episode87 敗北。そして。
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「はぁぁぁぁぁ!」
「シャらくセェ!」
互いに獲物を握り、ぶつかり合うレオとブローディア。
予測不可能な角度から繰り出されるブローディアの槍を、ネーザで叩くレオ。
その隙に、ブローディアとの距離を詰め、自らの間合いに飛び込んだレオは、その小さな体を活かして、ブローディアの懐で一回転。遠心力を使った鋭い一撃が、ブローディアの横腹に放たれる。
伸ばしきった左腕と、槍を叩き落とされたことで離れたブローディアの右腕。
伸ばした左腕を戻したとしても、体を使わずに腕だけで戻し、レオの背中を石突きで突いたとしても止まらない。
そして、ブローディアが取った行動は…
「フッ!!」
「チッ…!」
ブローディアは、左肘を曲げ、左手を肩の後ろに回して、横腹に放たれたレオの剣と、自分の体のあいだに槍を挟み込む。
敢えて大きく外に回すことで、遠心力がつき、加速。ギリギリのところでレオの剣を柄で受け止めたブローディア。
「ハッ!お前さん、体術までいける口か!」
「貴様も槍以外に何か出来たとは驚きだな。」
レオの剣を受け止めたブローディアは、右膝を、レオの右肩へ放つ。
レオは、ネーザをもっていない右腕で受け止めると、自分の背中と、ブローディアの正面に存在する少しの間に、体を捻って右足を素早く上げてブローディアの顎を蹴りあげる。
ブローディアは、レオの蹴りを上体を逸らして避けると、後ろに下がって距離をとる。
(くっ、視界が眩む…回復するか?いや、ここで回復したら駄目だ。)
表情には出さないが、自分でもかなり無茶なことをしたと思うレオ。
ブローディアも、気丈に振る舞っているが、よく見ると、足元がたどたどしく、フラついている。ブローディアも、かなり効いているようだ。
「お前さんが持ってるその剣、この魔槍と同種のやつだろ?なんでその剣をきちんと使わネェんだ?」
「時間稼ぎで、俺が力尽きるのを待つつもりか…?」
「そんなわけネェだろ…ハァ、ハァ…単純に思っただけだ」
「貴様に答える筋合いは…ないな…!」
距離を取り、レオに話しかけるブローディア。
余裕がない状態での事なので、レオは無理矢理話を終わらせ、ブローディアに突っ込む。
(分かっている。俺が、ネーザを扱うほどの実力が無いことを…。)
そんな中、レオは、ブローディアに言われた一言を気にしていた。
ネーザの能力を何故使わないのか。
否、レオは、能力を使わないのではなく、使えないのである。
魔王シリーズと呼ばれる武具は、一つ一つが、『最強』を争う程の能力を持っている。
ブローディアの持っている魔槍も当然そうで、力の吸収及び譲渡は、破格の力だ。
そして、ネーザにも、それに負けないくらいの能力が秘められている。
だが、その能力をレオは使うことができない。魔眼を手に入れ、深淵を支配し、修行を積み、幾度と無く壁を乗り越えたレオですら、扱うことすら許されないネーザの能力。
自分の実力不足に、レオは歯がゆい思いをしていた。
『ご主人!死にますよ!!』
「っ…!!?」
「直撃は避けたけど、掠ッたな」
ネーザの事で集中が別の方に向いていたレオ。ネーザの声にハッと集中を取り戻し、ブローディアの槍を回避しようとするも、穂先が頬を掠める。
(血を流しすぎて、集中が散漫になっている。俺らしくもない…。)
レオは、再度集中しなおし、ブローディアの追撃をネーザを使って逸らし、ブローディアの肩にネーザを突き刺す。
「「ガバッ…」」
二つの声が重なる。喉から込み上げてくる血を思い切り吐いた両者。
そして、そのまま地面へと倒れるレオ。
「掠ッたのが、生命力を根こそぎ持ッて言ったか…運に救われた感が凄いが、勝ちは勝ちだ」
動かなくなったレオを見て、勝利を確信したブローディアは、ミールの方へ歩き出す。
「オッ、旦那の方も終わった?」
レオらしくも無い集中力の欠如というミスを犯し、ブローディアに敗北したレオ。
「総督…!」
『デクストラ』のメンバーのレオを呼ぶ悲痛の叫びが戦場に響く。
☆
この一年半、修行を積み重ね、確実に強くなった。
『自信と慢心を履き違えましたねー』
新しい魔術を開発し、剣術も、体術も、何もかもを極めた。
『手を出しすぎですね~、それじゃあダメです』
俺は間違っていたのか。
『自分の強みを忘れていませんか?』
俺の強み…?
『確かにご主人は、何でも出来ます。けど、全部使うから負けるんです』
相手に手を読ませない。多くの手を使うのも大切だろ?
『そうですね。でも、ご主人のは中途半端なんですよ。使うならちゃんと出し切ってください』
全力は出している。それは、俺の実力が足りないから…。
『違います。ご主人は逃げているんです。【魔眼】や【深淵】という大きなものに頼って、今まで積み上げてきたものから逃げている』
俺が逃げる…だと…?
『悔しいですか?ぷぷぷ、ご主人のへっぴりごしー!…早く、ネーザちゃんを使いこなしてください。待ってますから。』
…。
☆
「情けない声を出すな…まだ、負けて無いぞ。」
もう少しでくらいまっす!!




