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タキオン・リベリオン~歴史に刻まれる王国反乱物語~  作者: いちにょん
王国反乱編 第五章 憧れ
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episode86 釣り合った天秤

誤字脱字報告、ブックマーク、感想、レビュー、文章ストーリー評価等いただけると幸いです。

「【踊れ 舞え 麗しく華麗な姫達よ 血塗れた姫よ 影に潜む姫よ 残虐なる姫よ 彼の者を滅せよ 血影の姫君達の乱舞】」


 闇の中でレオの魔術の詠唱が響く。

 すると、レオの手から零れ落ちる血と、影が歪み、人の形を成していく。

 それは、煌びやかなドレスを着た少女のような姿をしており、その数を二人、三人と増やしていく。

 魔術によって作られた自立型の人形。両手に血と影の刃を持った魔術人形達が、ブローディアに向かって連携を取りながら突っ込む。


「魔術人形かッ!思ったよりも、こいつら早イッ…」


 ブローディアは、レオの魔術で作られた魔術人形のスピードに驚きの声をあげる。


「ナッ!?」


 だが、その魔術人形は、ブローディアに目もくれず、その奥へと走り去る。


「しマッ…後続の男爵連中を潰すのが目的カッ!」

「よく気づいたな。」

「ッ…!」

「だが、他を心配している余裕があるのか?」


 レオが、魔術人形を出した理由は、ブローディア達の後に信号が出された五人の男爵級を相手するため。

 そして、それに気づいたブローディア。魔術人形を潰そうと、後を追いかけようとするが、横からレオの蹴りが飛ぶ。

 ブローディアは、それを槍の柄で受け止めるが、レオは、攻撃の手を止めることは無い。


「本当に厄介な坊主だぜ。お前さん、今年でいくつだ?」

「敵の情報くらい掴んでおくんだな。今年で十五だ。」

「まじかよ、流石の俺も、十五でこれほどの実力は無かったぞ?」

「それは貴様が凡人だっただけの話だろ。俺は天才だ。」


 レオの剣を槍の柄で衝撃をいなし、すかさず反撃をしかけてくるブローディア。

 だが、レオも、それぐらいでやられるほどやわではない。一撃でも食らえば負ける可能性が出てくる。絶対に当たるものかと、魔眼を駆使し、それを避ける。


(可笑しい…こっちは【暗転】で、本来の実力を余すことなく発揮しているというのに、【暗転】を使う前と実力の差が開いていない。)


 レオは、ある違和感を感じていた。

 それは、ブローディアとの実力差。

 戦闘を開始した時、レオはブローディアよりも自分は強いと判断した。

 だが、実際に戦闘を行うと、ブローディアの実力はレオの予想を上回っており、魔槍のこともあって、このままでは勝てないと判断した。

 そしてレオは、【暗転】を使って、本来の吸血鬼としての最高のパフォーマンスが出来るように場所を整えた。

 しかし、再び戦闘を初めて見たらどうだろうか。

 レオが槍を警戒して、一歩踏み込めないこともあるが、そうだとしても、実力の差の開き方が少ない。

 ブローディアも、レオに合わせて実力を上げてきている。そう思うしかないが、槍の攻撃は、一度しか受けていない。ブローディアが何かした素振りも無い。


(段々とギアが上がっていくスロースターターの可能性もある。実力を隠していた場合もあるだろうが、アイツに余裕が無かったのが演技かどうかは直ぐに分かる。あれは、俺の攻撃に余裕があった訳では無い。)


 そして、レオが一番ひっかかっている事。


(力の上げ幅が(・・・・・・)一致しすぎている(・・・・・・・・)…。)


 レオの感覚では、ブローディアの力は、自分が上がった力とほとんど『同じ』だけ上がっていること。


「おい、ネーザ。」

『なんですー?』

「本当にあの槍の能力は、相手の力を奪い、持ち主に譲渡する。それだけなんだな?」

『はいー、私が知っている中ではそうが?まさか疑っているんですか?このネーザちゃんを?今からネーザちゃん、向こうの陣営についてもいいですか?』

「確認だ。……助かった。今日限りは、貴様がいて良かった。」

『むふふ、ご主人もたまにはそういうこと、言えるんですね。人の好意をゴミのようにしか思ってないと思ってました』


 レオは、再びネーザに魔槍の能力に付いて確認をする。

 そして、ある仮定が一つ生まれた。


「確かに、公爵家の嫡男が、槍だけのはずが無いよな。」

「チッ…勘のいい餓鬼だな、お前さんは!!」

「【反魔術】」


 レオは、自ら【暗転】を【反魔術】を使って打ち消す。


「謎解きは済んだ。次は、その答え合わせといこう。」

「お前さん、本当に十五歳かよ」

「ネーザ。短剣に変われ。」

『了解しやした~!』


 レオは、ブローディアから距離を取ると、短剣へと姿を変えたネーザを逆手に持ち、自らの心臓に突き刺す。


「ごふっ…」


 瞬間的に、喉を這い上がり、レオの口から漏れる大量の血。


「お前さん、頭いいけど馬鹿だろ」

「生憎、直ぐに思いついたのが…これだったんでな…。」


 心臓を抑えながら、呆れ果てた様子のブローディアに笑みを向けるレオ。


 レオが結論付けた、ブローディアの力の上げ幅についての答えはこうだ。

 ブローディアは、レオと同じ、『固有結界』を最初から使っていた。それは、一定の場所だけを小さく囲むものではなく、戦場全体を覆うもので、それは先程、魔眼で確認したレオ。あまりにも大きく、魔力の流れも自然に近いものだったので、意識か向かなかったようだ。

 そして、その『固有結界』の能力。それは、『固有結界』の中にいる一番強い人間と、自分の力を『同じ』にする事。

 今回の戦場には、王族は出てきておらず、力だけで言えば、【深淵】を初めとした多くの能力を有しているレオが最も強いだろう。

 ゆえに、レオが実力を発揮すれば、それに合わせてブローディアの実力も上がる。そういう仕組みだったのだ。


(実力が同じならば、純粋な技術的な勝負。そして、あの魔槍で相手に一撃でも与えれば、相手の力が手に入り、差が生まれる。おそらく、あの魔槍で吸収した力の上乗せは、魔術の範囲外なのだろう。そうでなければ、わざわざこの『固有結界』を使う必要がないからな。)


 相手と実力を同じにし、槍によって相手の力を吸収し、自分を強化。

 じりじりと自分と相手の実力差を広げていき、最終的には圧倒する。それがブローディアの必勝パターン。

 【釣り合った天秤(アイクアーリタース)】。ほれが、ブローディアの『固有結界』の名前だ。


「お前さんがこの槍を食らったのは一回。それほどの力は吸収されていない。だから、自分の心臓を刺して、俺の力を大幅に下げた…確かに、血が流れても無いのに、頭がクラクラするぜ…」

「そして、俺は貴様に技術で、負ける気は毛頭…ない。このまま決めるぞ…。」

「ハッ、舌が回ッてネェぞ?」


 そして、【釣り合った天秤】は、完全なものでは無い。

 レオは、魔眼で『固有結界』を見て、分かったことが二つある。

 一つ、この『固有結界』は、かなりの時間をかけて作られた大規模なもので、解除までには時間がかかり、その隙は存在しないこと。

 そしてもう一つ、この魔術は、相手の力と自分の力を一緒にするが、相手の状態まで一緒にすること。

 自分が不調でも、相手が好調ならば、自分も好調になる。だが、これは、かなりのデメリットが存在する。

 相手の、不調…吐き気や目眩、気持ち悪さ、気だるさなどの状態も、一緒にしてしまう。だからレオは、自分の心臓に短剣を突き刺し、自分を極限状態まで追い込んだ。ブローディアが、同じ状態になるように。


「我慢比べ…なら、…負ける気は…しない。」

「お前さん、クールに見えて結構、根性論や、感情論で動くタイプ…だな…はぁ、はぁ…」


 さらに、自分の腕、足に短剣を突きつけるレオ。

 当然、血を流し、本当に傷ついているレオの方が、不利。

 だがレオには、確信があった。自信があった。

 これまでの経験から、これくらいの事で、自分の体は動けなくなることは無いと。

 そして、本当に死にそうになれば、再生能力を使うこともできるという保険もある。

 リスクは高く、博打要素も高い作戦だが、勝算が無ければ、レオがこんなことをやるはずは無い。


「さぁ…続けよう。すぐに終わらせる。」

次も、レオvsブローディアを書きます

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