episode86 釣り合った天秤
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「【踊れ 舞え 麗しく華麗な姫達よ 血塗れた姫よ 影に潜む姫よ 残虐なる姫よ 彼の者を滅せよ 血影の姫君達の乱舞】」
闇の中でレオの魔術の詠唱が響く。
すると、レオの手から零れ落ちる血と、影が歪み、人の形を成していく。
それは、煌びやかなドレスを着た少女のような姿をしており、その数を二人、三人と増やしていく。
魔術によって作られた自立型の人形。両手に血と影の刃を持った魔術人形達が、ブローディアに向かって連携を取りながら突っ込む。
「魔術人形かッ!思ったよりも、こいつら早イッ…」
ブローディアは、レオの魔術で作られた魔術人形のスピードに驚きの声をあげる。
「ナッ!?」
だが、その魔術人形は、ブローディアに目もくれず、その奥へと走り去る。
「しマッ…後続の男爵連中を潰すのが目的カッ!」
「よく気づいたな。」
「ッ…!」
「だが、他を心配している余裕があるのか?」
レオが、魔術人形を出した理由は、ブローディア達の後に信号が出された五人の男爵級を相手するため。
そして、それに気づいたブローディア。魔術人形を潰そうと、後を追いかけようとするが、横からレオの蹴りが飛ぶ。
ブローディアは、それを槍の柄で受け止めるが、レオは、攻撃の手を止めることは無い。
「本当に厄介な坊主だぜ。お前さん、今年でいくつだ?」
「敵の情報くらい掴んでおくんだな。今年で十五だ。」
「まじかよ、流石の俺も、十五でこれほどの実力は無かったぞ?」
「それは貴様が凡人だっただけの話だろ。俺は天才だ。」
レオの剣を槍の柄で衝撃をいなし、すかさず反撃をしかけてくるブローディア。
だが、レオも、それぐらいでやられるほどやわではない。一撃でも食らえば負ける可能性が出てくる。絶対に当たるものかと、魔眼を駆使し、それを避ける。
(可笑しい…こっちは【暗転】で、本来の実力を余すことなく発揮しているというのに、【暗転】を使う前と実力の差が開いていない。)
レオは、ある違和感を感じていた。
それは、ブローディアとの実力差。
戦闘を開始した時、レオはブローディアよりも自分は強いと判断した。
だが、実際に戦闘を行うと、ブローディアの実力はレオの予想を上回っており、魔槍のこともあって、このままでは勝てないと判断した。
そしてレオは、【暗転】を使って、本来の吸血鬼としての最高のパフォーマンスが出来るように場所を整えた。
しかし、再び戦闘を初めて見たらどうだろうか。
レオが槍を警戒して、一歩踏み込めないこともあるが、そうだとしても、実力の差の開き方が少ない。
ブローディアも、レオに合わせて実力を上げてきている。そう思うしかないが、槍の攻撃は、一度しか受けていない。ブローディアが何かした素振りも無い。
(段々とギアが上がっていくスロースターターの可能性もある。実力を隠していた場合もあるだろうが、アイツに余裕が無かったのが演技かどうかは直ぐに分かる。あれは、俺の攻撃に余裕があった訳では無い。)
そして、レオが一番ひっかかっている事。
(力の上げ幅が一致しすぎている…。)
レオの感覚では、ブローディアの力は、自分が上がった力とほとんど『同じ』だけ上がっていること。
「おい、ネーザ。」
『なんですー?』
「本当にあの槍の能力は、相手の力を奪い、持ち主に譲渡する。それだけなんだな?」
『はいー、私が知っている中ではそうが?まさか疑っているんですか?このネーザちゃんを?今からネーザちゃん、向こうの陣営についてもいいですか?』
「確認だ。……助かった。今日限りは、貴様がいて良かった。」
『むふふ、ご主人もたまにはそういうこと、言えるんですね。人の好意をゴミのようにしか思ってないと思ってました』
レオは、再びネーザに魔槍の能力に付いて確認をする。
そして、ある仮定が一つ生まれた。
「確かに、公爵家の嫡男が、槍だけのはずが無いよな。」
「チッ…勘のいい餓鬼だな、お前さんは!!」
「【反魔術】」
レオは、自ら【暗転】を【反魔術】を使って打ち消す。
「謎解きは済んだ。次は、その答え合わせといこう。」
「お前さん、本当に十五歳かよ」
「ネーザ。短剣に変われ。」
『了解しやした~!』
レオは、ブローディアから距離を取ると、短剣へと姿を変えたネーザを逆手に持ち、自らの心臓に突き刺す。
「ごふっ…」
瞬間的に、喉を這い上がり、レオの口から漏れる大量の血。
「お前さん、頭いいけど馬鹿だろ」
「生憎、直ぐに思いついたのが…これだったんでな…。」
心臓を抑えながら、呆れ果てた様子のブローディアに笑みを向けるレオ。
レオが結論付けた、ブローディアの力の上げ幅についての答えはこうだ。
ブローディアは、レオと同じ、『固有結界』を最初から使っていた。それは、一定の場所だけを小さく囲むものではなく、戦場全体を覆うもので、それは先程、魔眼で確認したレオ。あまりにも大きく、魔力の流れも自然に近いものだったので、意識か向かなかったようだ。
そして、その『固有結界』の能力。それは、『固有結界』の中にいる一番強い人間と、自分の力を『同じ』にする事。
今回の戦場には、王族は出てきておらず、力だけで言えば、【深淵】を初めとした多くの能力を有しているレオが最も強いだろう。
ゆえに、レオが実力を発揮すれば、それに合わせてブローディアの実力も上がる。そういう仕組みだったのだ。
(実力が同じならば、純粋な技術的な勝負。そして、あの魔槍で相手に一撃でも与えれば、相手の力が手に入り、差が生まれる。おそらく、あの魔槍で吸収した力の上乗せは、魔術の範囲外なのだろう。そうでなければ、わざわざこの『固有結界』を使う必要がないからな。)
相手と実力を同じにし、槍によって相手の力を吸収し、自分を強化。
じりじりと自分と相手の実力差を広げていき、最終的には圧倒する。それがブローディアの必勝パターン。
【釣り合った天秤】。ほれが、ブローディアの『固有結界』の名前だ。
「お前さんがこの槍を食らったのは一回。それほどの力は吸収されていない。だから、自分の心臓を刺して、俺の力を大幅に下げた…確かに、血が流れても無いのに、頭がクラクラするぜ…」
「そして、俺は貴様に技術で、負ける気は毛頭…ない。このまま決めるぞ…。」
「ハッ、舌が回ッてネェぞ?」
そして、【釣り合った天秤】は、完全なものでは無い。
レオは、魔眼で『固有結界』を見て、分かったことが二つある。
一つ、この『固有結界』は、かなりの時間をかけて作られた大規模なもので、解除までには時間がかかり、その隙は存在しないこと。
そしてもう一つ、この魔術は、相手の力と自分の力を一緒にするが、相手の状態まで一緒にすること。
自分が不調でも、相手が好調ならば、自分も好調になる。だが、これは、かなりのデメリットが存在する。
相手の、不調…吐き気や目眩、気持ち悪さ、気だるさなどの状態も、一緒にしてしまう。だからレオは、自分の心臓に短剣を突き刺し、自分を極限状態まで追い込んだ。ブローディアが、同じ状態になるように。
「我慢比べ…なら、…負ける気は…しない。」
「お前さん、クールに見えて結構、根性論や、感情論で動くタイプ…だな…はぁ、はぁ…」
さらに、自分の腕、足に短剣を突きつけるレオ。
当然、血を流し、本当に傷ついているレオの方が、不利。
だがレオには、確信があった。自信があった。
これまでの経験から、これくらいの事で、自分の体は動けなくなることは無いと。
そして、本当に死にそうになれば、再生能力を使うこともできるという保険もある。
リスクは高く、博打要素も高い作戦だが、勝算が無ければ、レオがこんなことをやるはずは無い。
「さぁ…続けよう。すぐに終わらせる。」
次も、レオvsブローディアを書きます