episode80 初陣
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「準備完了シタ」
「ああ。いよいよだな。」
ウムブラからの報告を受け、脇に置いていたネーザを腰に携えるレオ。
「いつも最前線で戦っていたが、大将が見る景色とはこういうものなんだな。」
「あれれー?もしかして総督、ぶるっちゃいました!?」
「いつも以上に馬鹿だな貴様。俺が緊張するように見えるか?」
平原の少し盛り上がった丘に作られたリベリオンの本陣。
そこからレオが見た景色は、想像以上のものだった。
リベリオン七千と少しに対して、王国軍二万。
約三万の人々が一糸乱れぬほど整列し、向き合っている姿は圧巻だ。
「久しぶりのこの空気…フッ…。」
今から三万人が命を掛けて戦う。当然ながら、誰もが望むならば死にたくない。
絶対に生きて帰るという決意と、王国を変える…そして、王国を守るという覚悟、そして殺気が空気に浸透し、戦場には独特の重々しい空気が生まれる。
肌に刺さるような感覚を与えるその空気は、レオが何度も味わってきた感覚で、レオはこれが嫌いだった。この空気があるということは、命が多く失われるから。
だが、今は違う。
レオはあの時、ロゼを、大切なものを守るためならば手段を選ばない。そう決めたから。
「ベッルス、青だ。」
「了解ッ!」
レオの支持で、青色の煙が戦場に立ち昇る。
戦争における世界共通のルールの中に、開戦十分前に、青色の煙をお互いに上げ、準備が整ったことを知らせるというのがあり、その他にも色々な取り決めがある。
「それと、赤だ。」
戦争において、貴族及び王族、大将が参戦できる時間には一日辺りに制限があり、爵位や立場によって上げる煙の色を変える必要がある。
煙を上げてから、了解の合図である黒の煙が上がればその時点から決められた時間内の間、戦場に参加でき、煙を上げてから十分間、相手側から合図が無い場合も参加が可能。
そして、赤色の煙は大将が戦場に参加する証、
レオは、青色の煙と同時に赤色の煙を上げ、何があっても開戦と同時に戦場の最前線に出るつもりだ。
「五、四、三…」
迫り来る開戦の合図。
「二、一…開戦です」
「突撃ー!!!!!」
開戦と共に、相手軍が大将の合図と共に突撃を開始する。
まるで地面の上を走る津波のようにリベリオンに向かって突撃する王国軍の最前線部隊五千人。
激しい地響きと、大音量の鬨。
そして、レオの指示は…
「リベリオン、全軍撤退!!!」
レオの合図と共に、すぐ様踵を返し、後方へと走り始めるリベリオンのメンバー達。
「『デクストラ』…全員出るぞ。」
「「「はい!」」」
撤退を始めるリベリオンの間をすり抜けて、こちらに突撃してくる王国軍七千に対して立ち向かうのは三十人の『デクストラ』のメンバー。
「魔術部隊、詠唱開始!絶対に逃がすな!!」
いきなりの撤退に驚く王国軍だが、すぐ様後方に置いていた魔術部隊に詠唱を開始させる。
「【支配】」
だが、詠唱途中の魔術は、全てレオに支配され、主導権を握られる。
「薙ぎ払え。」
詠唱中の魔術を支配したレオは、その魔術の標的を、リベリオンを追いかける先陣部隊に向かって放つ。
王国が誇る魔術部隊の魔術に、加え、レオの膨大な魔力の上乗せされた魔術は、突撃してきた王国軍を薙ぎ倒していく。
「このまま牽制しつつ、殿で王国軍の数を少しでも減らし、リベリオンまで戻るぞ。」
「「「はい!」」」
初陣で撤退。この作戦は、レオが一年以上前から想定していた作戦だ。
戦争規定の抜け穴を付いた戦争を引き伸ばすための、戦術的撤退。
「よく思いつきましたね、流石兄貴っす!」
「戦争における規定は、全て国力の強い王国に有利になるように作られている。だが、こういった私利私欲に塗れたものには、絶対に落ち度が存在する。」
そもそも戦争規定が作られたのは、この世界が魔王ゼーナに侵略される前、王国がこの世界を掌握していた時代だ。
王国が一見、公平に見える王国有利の規定を作り、それを世界中の国に承諾させる。もし、逆らうのなら、その国ごと潰す。
規定を破ったものは、神の名において裁かれるという項目も、昔の教国を脅して神の力を使ったもので、宣戦布告を受けた側が場所を指定するのも、国力の優れた王国は、いつ宣戦布告されても勝てる自信がある。ならば、少しでも王国に近い場所に場所を置き、出費を下げようという王国有利の規定。
どれもこれも公平という名前を使った不平等だ。
だが、その中には、あれもこれもと欲を出した王国の抜け穴だらけのものも存在する。
『戦争における相手からの採取は、被害状況に比例して増す。』
これは、反逆を起こした国を徹底的に潰すためのもので、相手の軍に莫大な被害が出れば、それだけ多くの金や物資を巻き上げることができる。
だが、戦死者がおらず、無傷ならどうだろうか。
当然、相手の被害状況に比例するのなら、ほとんど無に等しい採取で済む。
レオは、被害を出さずにリベリオンまで撤退し、降伏。
そしてすぐ様宣戦布告をし、更に三年の猶予を得る。
そのため、今、王国には、ラティスに人理掌握術の基礎を叩き込まれたチーラ…スラム街で受付の役割をしていた少年と、ヒカルが向かっている。
「それにしても、わざわざ何で全員を駆り出したんです?」
「相手もこっちの情報はある程度握っているだろう。今回の大将は、あの『軍神』だ。少しでも人数が揃っていなければ、疑われる。それに、戦場の空気にも慣れせたかったからな。」
リベリオン全員を駆り出したのは、万が一の保険。後は、ただの経験のためだ。
現在、リベリオンの防衛はヴィデレ一人がが務めている。「戦争には参加できないが、ここを守るくらいなら問題ない」と本人の申し出があったため、安心して全員を出陣できた訳だ。
「このまま、【アーカルムの森】を抜けて一気に突き放すぞ。」
【ライアス海峡】の近くには、【アーカルムの森】と呼ばれる、大きな森がある。
そこには、エルフや、獣人族の仲間の知恵を借り、多くのトラップを配置、そこからリベリオンまで逃げ切るために転々と罠を何週間も前から設置している。
つまり、平原を抜け、【アーカルムの森】まで逃げ切れば、逃げ切ったも同然。体力をほとんど気にせず、リベリオンのメンバーは、全員が鎧よりも軽い軍服を身につけ、走っている。
「総督、カーリ様達『ファトゥウス』の先頭が、【アーカルムの森】に入りました。」
「そうか。ご苦労だった。」
「はっ!」
未だ後から追いかけてくる王国軍を牽制しているレオの元に、一人の【諜報科】の男が報告に来る。
「全員が森に入り、トラップを発動させる準備ができるまで小鐘一つといったところか…。全員、ここで食い止めるぞ!」
「総督、黄色の煙が二つ上がっています!」
「何だと…いや、そのまま返事をせず、十分間稼げ。」
黄色の煙が二つ。すなわち、公爵、もしくは公爵と同等の実力を持ったものが二人、戦場に出ると言うことだ。
「血迷ったか…いや、違う。読まれていた…?」
険しい顔つきで、独り言を呟くレオ。
急なリベリオンの撤退で、足並みが乱れている軍の状況での、公爵二人の投入。これは、愚策とも呼べるもので、相手もこちらが公爵二人程度なら倒せる戦力が待ち構えていることも重々承知のはず。
だが、それでも公爵二人を戦場に出そうとしている。
常勝無敗の『軍神』にミスなどありえない。ならば、レオのこの作戦が事前に読まれていたことになる。
「やられた…相手の方が一枚上手だったということか……。」
現在、レオを含めた『デクストラ』は三十人。レオの実力は、公爵一人とならタメが張れるほどだが、二人となると厳しい。
『デクストラ』のメンバー全員で当たっても、公爵二人は、ギリギリと言える。
余計な犠牲を出すほどリベリオンには余裕が無い。たとえ、公爵二人を相手できる実力が有ろうとも、それは、『デクストラ』三十人という少人数しか使えない、今ではない。
「カーリを呼び寄せるか…だが…。」
もし、カーリがいたとしても、『デクストラ』のメンバーと連携が取れるとは思えない。
完全に、こちらが三十人という少人数で足止めをしなければならない状況だということを読み切ったからこその、作戦だ。
「総督、更に緑色の煙が五つ!」
「男爵級が五人…こちらが合図をしなかったのが相手の確信に繋がったか…。」
そして、追い打ちをかけるように立ち昇る緑色の煙。
「チッ…全員、ここは絶対に通すな!己の限界を越えてでも生きて防ぐぞ!」
焦りの見られるレオの態度に、さらなる緊張感が走る『デクストラ』。
公爵が出陣するまで残り、三分。
最近、【野生解放】を使わないレオ。ちゃんと理由があるんです。
魔眼を手に入れたとこで、その情報を処理するのは、野性を解放した状態だとまだ無理なので、ずっと理性100%でやっていたのですが、…レオくんも成長するので、この一年半できっと…




